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見知らぬ誰かの不幸を願ったり、煽ったり、誘発したりする体力も気力も年々失われていくんですね意外と

体調が完全に復調し学校へ行くと祐一がおずおずと近づいてきて、神妙な顔をして俺に自分のスマホを差し出してきました。




「ん? なんすか?」




「いや……まぁ……ほら……何も言わずに見てみればいいんじゃない? うん……」




祐一は俺と決して目を合わせず、教室の天井を見上げてまるでここ一番のPKを外したストライカーのような表情を浮かべています。

病明けとなるとクラスメイトが心配して声をかけてくるようなもんですが、何故かみんな遠巻きに俺と祐一の様子を見守っており、心なしかその表情はある者は色物を見るような、またある者は侮蔑の、まるある者は蔑みの眼差しで。




完全にあ……となった俺はもう見るまでもなくそれが何かを理解したのですが、とりあえず見てみることに。




『梨乃お嬢様……梨乃お嬢様……っっっ!!! ぁああっっ!! あないみじ!!』


『ゆ、祐亜くん……!? あの、何を言っているのかよく?』


『梨乃お嬢様、愛しています』


『は、はひぃいい!!??』


『使用人の一人としてこの想いは隠し続けようと思っていましたが、この胸の高鳴り抑えられません!! 愛していますお嬢様!!』


『は、はぁあ!!?? あ、あの私も……その』


『……っていう』


『っていう!!??』




はぇ……なにこれ、すごくない?(遠い目)




バトラーの守護霊を憑依させてからは全く記憶がなかったのですがスマホの画面には一昨日の放課後、執事服姿を着た俺に似た何かがひたすら赤面してあたふたしている梨乃ちゃんの前で跪き、手を取って愛の言葉を囁きながら暴走している姿が克明に映し出されていました。



前半は普通に執事してたような記憶が薄っすらあったと思うんですが、一体何が起きたんですかね? トリップしてんな、トリップ(他人事)


確かあの時クラスメイト以外にもたくさんのギャラリーがいたから、その中の誰かがどうやら不正に盗撮していたようです。うーん、この現代っ子のメディアリテラシー。




「お前……くふっ!! け、結構話題にな……ぷっふっ!! っちゃってるっていうか。校内でバズってるっていうかぷひぃいいいいいいい!!!!!!! 」




祐一はついに笑いを堪えきれなくなったのか、顔面を抑えて、空いた方の手で机をバンバンと、さながらドンキーの下Bの如く叩き始めました。




俺はそんな祐一の肩を、ポンと軽く叩きました。満面の笑みを携えて。




「どうして笑うんだい?」




「は?」




俺に対して完全にマウントを取っていたと錯覚していた祐一は完全に意表を突かれた様子で、涼し気な表情を浮かべている俺の顔をまじまじと覗き込んできます。




「俺はただ与えられた役割ロールを全うしただけだ。このクラスの執事としての道筋を。お前らが通りやすいようにわざわざ道を切り開き、慣らし、魅せてやった。ほら、見ろよ。女子たち、いや……お嬢様たちを」



俺に促され、祐一は女子たちの方に視線を向けます。

女子達は皆満足げな表情をしており、ある者は目を瞑り深く頷き、まるある者は女神のような表情を浮かべ、またある者は俺に対してスタンディングオベーションを送ってくる者もおりました。




「はぁ!?」




遠巻きにこちらの様子を見守っていた男子の有象無象共も、一様に祐一のように動揺を隠せていない様子。ざわつく、ざわついております。




「俺はお嬢様に無償の愛を囁き、愛を捧ぐ執事。”俺たち”は、”お嬢様たち”に無償の愛を囁き、愛を捧ぐ執事。やがてお前たちも……俺になる」




祐一に顔を近づけ瞳孔を開ききった絶対零度のやべぇ奴の眼差しを送りながら、俺は同時にクラスの男子たちにもサイコホラーサスペンスでも始まりそうな台詞を聞かせます。



おかげで祐一に便乗して俺のことをバカにしようとしていた男子たちも明日は我が身と悟ったのか、押し黙り、そしてどいつもこいつも自分たちが悪魔と安易に契約してしまったことにようやく気づき後悔しはじめた表情を作っています。




ふん……雑魚どもめ。俺はお前たちが生み出したモンスターなんだよ。恨むなら生まれの不幸を呪うがいい。着床からやり直せ。




そして、祐亜くんどこまでもクールな表情で着席。何事も無かったかのように学校指定の鞄から教科書を取り出し、いつもと変わらない日常を演出。どこか物憂げな表情を浮かべた病み上がりのイケメン男子高校生としてクラスの風景を彩る。

祐亜くん、周囲の予想を裏切るまさかのノーダメージ……!! ヤズマットばりの地獄耐久……!! 天下御免の傾奇者……!!




が、しかしこの時……。




(映像が残っているということはあれか、学年中どころか学校中全体にさっきの映像が出回っている可能性が高いってことかふーんつまりつまりそういうことなんだなはぇーあぁそうふーんなるほどなるほどがってんがってん把握しました把握しましたよー祐亜くんたった今ずばっとまるっと把握しちゃいましたよーほげぇーはいはいそうねそうねほげぇー)




(ほげぇ………………)




(………………………)



















(ほげぇええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 消してェええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!! リライトしてェえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!くだらげっちょんばっちょんgなんがろhれあhごいえあrんjなえいrgなjんがんgじぇあrん;!!!!!!!!!!!!!!!!)





実は大ダメージ……!! 実質致命傷……!! ご乱心……!! 誰もいなかった叫びたい……!! 心が叫びたがっているんだ……!!




ノーダメのはずがないです。

あんな動画が晒されまくって学校中から笑いものにされ、そしてきっとどこぞの考えなしのアホが不用意にそれをSNSにアップして拡散されてまとめられてクソコラにされイラストを描かれて動画を作られて住所を特定されて電子の海に俺のありとあらゆつ個人情報が拡散されて二度とお天道様の下を笑って歩くことはできないんだうわぁああああああああああ……!!




と、一昨日までの俺でしたら自暴自棄になって動画撮影者にぶち当たるまでひらすら校内で殺戮ゲームを展開するところでした。

そんなエブ〇スタで人気でそうな展開にならなかったのは、たった一つの約束。それの存在があったからでした。







『今週末、泊まりに来ていい?』







なんと、明日の夜に結衣が我が家に泊まりにくる……泊まりにくるんですぅううううううううううううう!!




あの感じ、今までと違ってソロ!! 周りのヒットマンたちは来ないご様子!!

愛しているの響きだけで強くなれるぐらいですよ!? あの結衣が泊まりにくるの響きだけで……僕は……ぼかぁもう……!!




生きていけるよ、生きていける。それだけで生きる意味になるんです。どれだけ現実が苦しくたって悲しくたって、明日もう一日頑張って生きようって、そう思えるんです。

例え、SNSで一生おもちゃにされようがゆうぴょんもう泣かないよ!!




そうです、人間は一つの想いを胸にしただけで強くなれる。だから俺はこの絶望的な現実を前にしても毅然とした態度でいられるんだ。

誰に笑われたって構わない。結衣とチョメチョメできるならそれでいいので!!(大言壮語も吐いてやろうの精神)




実際本日は教室を移動する際にかなりの数の名も知らぬ生徒たちから奇異の視線を向けられましたが気にしない気にしない。

むしろあれや!! お前ら命拾いしたな!!?? あぁん!_? 結衣が泊まりに来たいって言わなかったらお前ら全員漏れなく死んどるぞ!!?? 今後結衣の方角に足向けて寝たら許さんぞ!!







そうやって強い気持ちで一日を過ごしました。

が、流石に昼休みは結衣及び俺周りの女の子たちからの接触が嫌すぎて颯爽と教室をエスケープし、校舎裏でひっそりと昼飯を食べ人知れず時間を潰しました。

うーん、孤独。

そう言えばそんな名前のフリーゲームがあったなんて思いながら、昼休みは過ぎていきました。




そうしてなんやかんや喋ったことのない女の子から動画に関しての問い合わせを受けたり、モブ男子からいじられたりして今日という一日は過ぎていきました。

ある程度陽キャとして今まで頑張って来てよかった。そうじゃなかったら大泣きしてる所だったですわ。




今日帰り、速攻で眠り、次の朝を迎えたら結衣が泊まりにくる。

そう思うと俺はもう居ても立っても居られなくなりまして、帰りのHRが終わると韋駄天の勢いで荷物をまとめてそのスピードに乗ったまま教室を後にしようとしました。

そのスピード、後にステルスと呼ばれる帰宅部生の誕生した瞬間でした。




あぁードキがムネムネしてきた!! この胸の高鳴り、まさしく愛!!




「おい、こら、ですぅ」




年相応のドキドキに全身を支配されて競歩世界記録ばりの早歩きで廊下を踏破していく俺の前に、不意にピンクの髪のふわふわ愛されガールが立ちはだかりました。髪を横で一つでくくり、眼鏡をかけて真面目副会長スタイルの来夢です。

その手にはドラムスティックが握られていて、それで肩を軽く叩きどこか気だるげな顔で少し背の高い俺を見上げています。




「はい、こんにちわ来夢ちゃん。ご機嫌麗しゅう。アディオス」




「お姉様からの呼び出しですよ。あぅ……来夢も気は乗りませんが約束は約束ですので。バン練しますよ、バン練」




バン練……バンド練習……は!! そう言えばそんなことも請け負っていた……!!

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