清純派AV女優と英国紳士って似たようなニュアンスだと思いませんか?
「執事喫茶だ? 昨日のHRで何があったん?」
「うへへ……お前も着るんだよぉ……」
生徒たちでごった返す昼の学食でございます。
昨日のホームルームをバックレていた祐一にあの場で起きた目を覆いたくなるような惨劇を説明しながら特筆することもない一般的な味の学食カレーを食べているところです。
これなら俺が作った方が美味いですわね。
「めんどくさっ! 男子は全員か!?」
「さぁね? でも俺は着ることが確定してるくさいからお前も着ろ!! なめてんじゃねーぞこら!! こうなったら執事とメイドの全面戦争だっての!!」
「なんで越中……。はぁー面倒くさい。てかあれだな、お前めちゃめちゃ大変だなぁー。祐亜くんの執事姿を見たいと集まるバイオレンスでクレイジーなヒロインたち……」
祐一が実に気の毒そうな口調で言った後、カレーを口に頬張りました。
そんな事言われなくても分かってるんだよなぁ……冴えないどころか『キレっキレな彼女たちのいなし方ff』って作品が組めそうな名前を呼んではいけないあの方々。
いち早く来夢に知られた所、バンドに協力する交換条件として来夢にファストパス的なものを用意することとお遊びではなく来夢が満足するようなクオリティのサービスを提供することを確約させられてしまいました。
この事が知れたら同様の要求をしてきそうな方に何名か心当たりがあるので、この情報は内密にしていく必要があるのです。
「そんなどこのクラスが何かやるかなんてすぐ知れ渡るって。ましてや執事喫茶なんて色物イベント」
「だまりゃっ!! 大きな問題は先送りにしてあやふやにするべきなんだよ! 歴代の政治家たちがそう教えてくれただろうが!! とにかく恋さんに、ましてやそのお友達たちに君の口からこの事実を伝えることは控えてもらおうか」
「わざわざ言わねぇよ」
俺が掴みかかるような勢いでそう話すと、祐一は実にどうでもよさそうにそう言ってまたカレーをパクパクしだしました。不安だ……。
決して俺は退屈な日常を愛してるとか平凡な日々が好きだとかは言いません。ただ祐亜さんは胃が痛くなる日常は嫌なのだ!!(新井さん並感)
「あ、祐亜だ! 今日は学食でご飯なんだ、珍しいねー」
周囲のざわつきがどよめきに変わってきたなと感じまして振り返ると、後ろにはおなじみの結衣さんを中心に据えた美人さんの集団が居られました。
いいタイミングじゃないの……っ!!
声をかけてきた結衣に、横に高宮さん、樋口さん。柳は素早く俺の背後に回ると、後ろから俺の両頬を軽くつまんで無言でムニムニしだしました。
そこから気持ち少しだけ距離を置いてる所に亜弥さんがいて。
俺と視線が一瞬だけあうと慌てて目線をどこか別の場所へとやって目を合わせてくれませんでした。
俺自身亜弥さんの事を見た瞬間、先日のことが思い出されて体がビクっとなって気にするなっていう方が無理……。うわ、顔熱っ俺。
「どうしたの祐亜? 風邪でもひいた?」
亜弥さんとの邂逅に動揺していると、その様子を不信に思ったのか結衣が俺の顔をかなり近くから覗き込んできました。
あまりの結衣の近さに心臓が跳ね上がり、そして周囲からは悲鳴や怒声が聞こえてきます。
「い、いいいい…いえなんでもござりませんわ」
「なんでもござりそうな顔だけど……あ! そう言えばさっきも話題になってたんだけど、祐亜と祐一くんのクラスの文化祭の出し物決まった?」
!!
早速結衣の口から飛び出してきた今俺の中で話題沸騰であるこのワード!! 俺は祐一に一度目くばせをした後、できるだけいつも通りを心掛けて平常心を保ちながら結衣と話しだします。
「い、いやぁ~!! あははーこれが、ままままままままままだ決まってないんですよー。あ、そうだ!! 結衣たちは!! 結衣たちはどうなんですか? 気になる、私気になります!!」
「えっと……恋と杏華と来夢ちゃんの6組が確かメイド喫茶、私と柳と有希の5組が演劇、亜弥と葵ちゃんがいる3組も演劇だよね! 演目はまだ内緒」
ほうほうなるほど……今の発言。特に注目するのはぼくちんのお姉さんもメイドをやらされるはめになっている点ですね。これがあれか、血ってやつか。
てか来夢もやるんじゃねぇか、絶対行こう。屈服させてやるんだぁ。
「うわー。みんなすごい楽しそうですねー。頑張ってください。それじゃあ祐一、行こうか! 次の授業に備えて! あはは! あははは!」
「お、おう。じゃあね恋さん」
残っていたカレーを一気に平らげて、向かいに座っていた祐一をせっつかせて俺たちは足早にその場を去ろうとします。
悲しき逃亡、問題の先延ばし、意味のないことかも知れませんがいいんです!
いいじゃない! 今気持ちが楽になれば!!
「はい、祐一さん。私祐一さんの執事姿、大変楽しみにしております!」
恋さんがぺこりと丁寧に頭を下げた後、目をトローンとさせて両頬に手をあて夢見ごこちでそんなことを仰られたのです。
……。
なんとなしに結衣の方に視線をやると、天界の女神たちが裸足で逃げ出すような眩しい笑みを俺に向けながら手を振っています。
なるほど、彼女たちは最初から全てを知っていた上で俺の反応を楽しんでいたということですか、ほう……やるじゃない。
あぁ逃れられない!!
言葉にされないプレッシャーというのもなかなか来るものがあり、別に俺が執事をすることによって重大な何かが起こるというわけではないでしょうが、それでも俺にプラスに働くことはまず何もないんだよなぁ……。
陰鬱な気持ちを抱えながら今日も一日を終え、さぁ帰ろうかと教室を後にしようかとすると俺が出ていこうとした教室の出口を複数の女子たちが急に塞いできました。
怪訝に思い女子たちの顔を見ると、彼女たちの表情に邪悪な何かを感じてしまったので俺はすぐさま前の出口に小走りで向かいますとそこの出口も、邪悪な女子たちによって塞がれてしまいます。
おっと、何だこれは……良くないぞ。今から何か良くないことが起ころうとしている!!
いよいよ窓から突破するしかないと考えていると、クラスの女子たちが無言のまま俺の方へと周囲を囲むようにじわりじわりと寄ってきます。
そしてその隙に教室にいた他の男子たちはこの異様な空気を察知してか蜘蛛の子を散らすように退散していきました。
男子!! だぁああああああああああんんんんんんんしぃぃぃいい!!!!!!!!!!!!!!!
あっという間にクラスの女の子たちに囲まれてとんだクソハーレムを形成してしまい、俺は観念して自分の席につきました。
横には申し訳なさそうに梨乃ちゃんが座っていて、その周りを野尻さんをはじめとした今回の執事喫茶を扇動したフィクサーたちが取り囲んでいて帰ることもできないそんな状況です。
まるで一週間ぶりに生肉を投入されたライオンの群れがいる檻にぶち込まれた気分。そう言えばライオンってメスが狩りをするんでしたっけ……。
「ごめんね、祐亜くん。呼び止めちゃって。大丈夫だったかな?」
「ううん、大丈夫じゃないの。父方の親戚が5秒後に死ぬから早く帰らなきゃ!」
「今日はね、祐亜くんに見てもらいたいものがあって。優子! 持ってきて!」
飢えた牝ライオンのボスである野尻さんは実に優しい口調で語りかけてきてくれたので、涙目になりながら訴えたのですが暖簾に腕押し。暖簾に竜巻旋風脚。
そう言って彼女は確か手芸部の小林さんを呼びつけます。
そしてその呼びかけに応じて群れの中から小林さんがぬっと現れました。
ライオンのくせに目元には大きなクマを携えており、まるでヒロポンでも打ったのかと思うような狂った笑みを浮かべています。
うわぁ……。
そしてその両手には真っ黒なスーツのようなものが……。
「ふふふ……できた。できたの、最高傑作。わたしの……あはは、最高傑作!」
ガンギマリじゃねぇか!! お前ら小林さんに何しただぁー!!
「優子はね、執事喫茶に決まった日から寝ずに……!! 昨日は学校を休んでまでこれを仕上げてきてくれたの!!ありがとう……ありがとう!! 優子に暖かな、暖かな拍手を!!」
野尻さんは涙ぐみながらクラスの女子たちに拍手を求め、牝ライオンの群れは前足を器用に使って割れんばかりの拍手を小林さんに送っています。
はーん、さてはうちのクラスの女子全員バカなんだな?
「見せて、見せて……祐亜くんの……し、し、執事姿を……!! はぁ!! はぁああ!!」
「やばいやばいやばい……誰かこの子病院に連れて行ってあげて!!少し頭も打ってるみたいだよ!?」
小林さんがはぁはぁ言いながら、自作した執事服を俺に押し付けてきます。一応彼女の身を案じて女子たちに訴えますが、どいつもこいつも返事を返さずさっさと着替えろと目で脅迫してきて、横の梨乃ちゃんはさっきからずっと目を伏せていて俺と視線を合わせてくれません。
あぁ、そっか。牝ライオンだから言葉が通じないんだなぁー。ははーん。
「き、着替えてきますね……」
結局威圧されるまま俺はその執事服を手に、ついでに自分の鞄を手に教室を後にしようとしました。
が、いきなり腕をガッっと掴まれました。
振り向くと野尻さんが暗黒微笑を浮かべているところです。
「別に鞄は持ってく必要ないよね? どこで着替えるつもりなのかな?」
「あはは……一旦家に帰ってから着替えてこようかなーとか。あのーね。 ゆうぴょんったら恥ずかしがりやだからトイレで着替えるのは恥ずかしいんだぴょんっつって! がはは!っていう……」
マジでクスリともしやがらねぇこの女……。
このまま鞄を持つ手を離さないと腕の一本持っていかれそうな感じがしたので仕方なく執事服だけを手に俺はトイレへと向かいました。
あぁもうなんで俺ばっかいつもこんな目に……。
トイレの個室に入り、渡されたスーツを広げて見せます。
しかしようできてるなこれ。
渡された執事服を見て俺は思わず関心してしまいます。生地は流石にあれだけど細かい所までちゃんと手が加わってるし、これを二日でって……。
何、これ……燕尾服なの? 妖精とかの服のケツ付近にありそうなてらてらがついてるんですけど……。
もうやだ!! 何これ恥ずかしい!! いやだいやだ!! 着たくない!!
けど着ないときっと酷い目に……。
俺は羞恥心を必死に抑えこみ、決死の覚悟でその執事服に袖を通しました。
おうおう……ご丁寧に黒のネクタイと白い手袋までついてらぁ……。
着替え終わってトイレの鏡で自分の姿を見てみます。なんか小野Dボイスでも出しそうな自分の姿に深い溜息が零れてしまいました。
「はぁ……お待たせしました、お嬢さま……」
廊下で誰にもすれ違わないためにタイミングを見計らないようにスニーキングしながら教室へ戻ると、悲鳴にも似た大きな黄色い歓声に出迎えられました。
「きゃぁあああああああああ!!! やったー!!」
「写メ!! 写メ!!」
「柊さんたちに売りつけよう!」
「優子すごすぎ!!」
「うふ……うふふ……素材の味を生かしたまでよ。はぁ……はぁ……!!」
なるほど、メイドさんなんかにキャッキャッしてる男共を見ている女の子はこんな感情なんだろうなって……。
「えっと今日は執事服のテスト試着的な感じでよかったんですか? 忙しいですか? じゃあもう帰っていいですか?」
シャツのボタンに手をかけながら、みんなに背を向けて教室を後にしようとするとまたまた腕をがっと掴まれてしまいます。
うーん……野尻さん。
瞳に熱い炎を灯した野尻さんが俺の顔を真っ直ぐに見つめながら、俺の手をとり語りかけてきます。
「メイド服を着ただけでメイドにはなれない、執事もまた然り。祐亜くんには完璧な執事になって欲しい……英国紳士の嗜みを! 傅く心を! 心からの紳士!!」
はぁああ!!?? 英国紳士ですかー!? あの畜生国家に何の紳士性を感じるんですか!?
「私たちに任せて。残り一か月で祐亜くんを立派な執事にしてみせるから!」
「あ、明日でよろしくない?」
「たった今から行動を起こしてやるからな! 嵐のような風がこの高校に吹くって!!」
越中……っ!!




