一難去ってまた一難、ぶっちゃけありえないんですよねぇ
波乱を呼びそうな執事喫茶が決定しました次の日のお昼休み。
ブレザー着てても大分寒くなってきましたがそれでも柔らかな午後の日差しと微睡に包まれてついついうとうとしちゃいそうな今日この頃ですが、俺はといいますと結衣と二人で今週末に迫った全国大会出場を懸けた漫才大会へ向けての練習を誰もいない屋上で執り行っているところです。
「そこのボケのあとさ、もう少し間をあけてからツッコミいれた方がわかりやすいと思うんだけど?」
「結構持ち時間ギリギリですから、1秒増えるだけでもカツカツじゃないっすか?」
「うーん……もうちょいタイムラインを見直してみないとだね」
クッソ嫌々やってた頃に比べると信じられないぐらいに積極的になり、その結果今までよりはるかに漫才師っぽくなってきたかなと思います。
そしてテレビで漫才やコントを今まで通り普通に見れなくなるという弊害も。
プロはすげぇなぁーって。
くしゃくしゃで書き込みまくってボロボロになった台本を二人で眺めながらあーでもないこーでもないって言ってる時間は結構好きです。
万年帰宅部の俺が一生味わうことのできない感覚、きっとそれがこれなのかと。
結衣のことはもともと好きだったけど、お笑いのことはやっと好きになれた感じがします。
「うん? 私の顔に何かついてる?」
真剣な表情をした結衣が俺のぼーっとした視線に気づいたのか、不思議そうな顔をしています。
ガラス玉みたいに綺麗で大きな目には今俺だけが映っていて……なんだか興奮してきたな(サンドウィッチマン並感)
「楽しいな、って思ってました。結衣と一緒に居れて」
同性が聞いたらうげぇと思うような俺が出せる全力の優しさ溢れるイケボでそう言い放つと、途端結衣の顔が赤くなって持っていた台本を丸めて俺の頭をポカポカと叩き始めました。
「いたた……あはは!!」
あはは……。
あっははははははははははははははは!!!!!!!!!!!!!!
くわっくかかかかかかかかかかかかか!!!!!!!!!!!! いやぁーたまらんのぅ!!!! この意中の相手が自分に気があるかも知れないというこの状況!! 満足満足!! 一本満足ぅううう!!!!!!
「その顔、むかつく!」
顔を真っ赤にしてむくれる結衣の顔は、普通に関係を築こうとしてたら絶対引き出せなかったであろうこの表情……尊い。
しかしここまで来たら俺の周りの色んなことを整理して、それからもう一度告白しようかと思います。じっくりと、じっくりとですね。
そうです、こんな幸せいっぱいな僕ちゃんですが、そこの過程に辿り着くまでに目下解決しないことがたくさんありましてですね……。とても面倒なことが。
時間は経ちまして放課後の生徒会室です。
「はぁ……それで徳永くん。来夢にどのようなお話ですか?」
「え……その文化祭のぉ……姉貴とぉ……ゅぃがぁ……ライブに出たいって言ってまして……それでぇ……ドラムをぉ……叩いてぇ……欲しいなぁ……って言えって……姉貴がぁ……言えってぇ……」
「はぁああああーーーーーー!? すいませんが全然何言ってるかわからないんですけどぉ!? 来夢忙しいんですけどぉーーー!? 多忙なんですけどぉーーーーー!?」
夕暮れが差し込む生徒会室です。色んな書類の山やらプリントやらが乱雑に机の上に置かれて忙しい感を演出しています。
そんな中、来夢は綺麗に片付かれている奥にある恐らく姉貴の席にふんぞり返って座って、俺に威圧的な態度を向けてきます。
生徒会室には他に真面目そうな名も無き書記の男の子と眼鏡の会計の子がいますが、こっちは本当に大変忙しそうにしております。
多分、姉貴がいないのをいいことに後輩に全ての仕事を押し付けているであろうことが容易に想像できました。けど祐亜くん指摘しない!! 下手にいかなきゃ!!
「えぇー!! はい、来夢さん私たちのバンドのドラムを引き受けていただけないでしょうか!? 今日はその件で姫神様のお忙しい時間を頂戴している次第です」
「あぁーーーーーーーう!! あう!! なるほどね!? つまりこういう話ですか!? こっぴどく振った女の子を、一世一代の覚悟で告白した女の子を玉砕させたあなたが!! 何事もなく自分のバンドに誘おうと!! 自分の本命がいるバンドに!! つまりつまり君はそういう話をしにきたんですね!! 」
まるで世界中全ての正義を味方につけたような話し方をする来夢。作業に勤しんでいる後輩くんたちの手の動きが一瞬止まったのを祐亜くんを見逃しませんでしたわ。
そして祐亜くんに9999のダメージ!!
でも倒れない!! だって男の子だもん!!
「いやー杏華さんがですね、えぇこの杏華さんって言うのがですねぇわたくしの姉にあたるんですけども。姫神様のドラムテクニックを絶賛しておりましてですね!! もうまさに南高校のチャド・スミス!! 南高校の神保彰!! 南高校のサイモン・フィリップスだとおしゃっておりまして!! なのでぜひうちのバンドにと!!」
「あう、来夢の尊敬するドラマーはポートノイです」
そっちか……。
来夢はつんとした表情をしてそっぽを向いてしましました。そして回る椅子でくるくる回り始めて、あぁこいつやっぱり全然忙しくねぇんだなってそう確信したのです。
ダメだな、これは。小細工なしでストレートにいかなきゃ。全力で頼んでみましょう、なにより今の来夢すげぇ面倒くさいし。
「ドラム叩いて下さいお願いします!!」
「あう? それでその何ですか? ドラムを叩く?っていうそれ? それをすると私に何かメリットがあるんですか?」
頭をポリポリとかきながら、口元を歪めながらゲスい笑みを浮かべております。なるほど顔全体に見返りを寄こせと書いてありますわ。
はぁ、やっぱ舐められてんなぁ俺……。
「叩いてください……何でもしますから……」
「ほう!? なんでも? なんでもと申され申したか? 鑑定団かな!? 」
ベロリンガ来夢は強気な表情を浮かべて椅子から勢いよく立ち上がってきました。
「できるだけ頑張りますけど……やれるだけ」
「じゃあ赤ちゃん作りましょうか。今日、この後すぐに」
「ぶほっ!?」
「ぶふっ!!」
聞き耳をたてながら作業していた後輩くんたちが急に吹き出しました。無理もないです。
だが長年の修羅場をくぐり抜けてきた俺はこんな事でいちいち動揺したりはしないんだー!!
「コウノトリさんへの発注はちょっと今からじゃ間に合わないかなぁ……(震え声)」
「ふん。冗談ですよ、冗談。そんな下衆なお願いなんかしませんよ。そう言えば祐亜のクラスって文化祭何をするんですか?」
明後日の方向を見て狼狽える俺を見て、ひとつため息をついた後やっといつもの表情に戻った来夢は座りなおして。机に両肘をついて自身の柔らかそうなほっぺをムニムニしながら俺にとっての地雷ワードをぶっこんできました。
「えっと、何だったけ? なんか出店だったかな? 美味しいたこ焼きを作りまっしょい的なコンセプトだったかな?」
「会計の高野くーん。2年4組は何で届出きてますかー?」
「執事喫茶ですね」
うーん、高野くんこの……。
来夢は両手で頬杖をつきながら、俺に暗黒微笑を向けてきます。
「あーう、嘘をつくとは感心しませんな。せっかく条件次第でドラムを叩いてあげてもいいという気になっていますのに?」
問題を解決しようとするとこう、なんだろうな。新しく問題が降りかかってくるというか。なんかこういう状況を指し示す言葉があったようあ……。
来夢が机から身を乗り出して、俺の方へと顔を近づけてきます。その目にはどこまでもどす黒く渦巻く暗黒が広がっているのでした。
「実は来夢、執事というものに大変興味がありまして……」
この現象は借金を借金で返す……あれか。
火車だ、宮部みゆきですね。




