文化祭の仲良くない連中のしょっぱいバンド演奏を見せられる時のあの感じですよねぇ
「はいはい! それでは皆さんご静粛に! 今からうちのクラス2年4組の文化祭の出し物を決めたいと思います!」
修学旅行あけての月曜日。
あとは帰るだけってのホームルームの時間ですね。
それなのにうちのクラスの文化祭実行委員のバレー部の元気いっぱいの女の子、石田さんがめんどくさそうな議題を提示してクラスがにわかにざわついております。
俺としては今日一日、誰とも遭遇することなく今日を無事に終えられた奇跡を噛みしめながら家に帰ってさっさとコログの実を集めて回りたいところなんですがそうもいかなさそうです。
文化祭におけるクラスの出し物は2パターン、自分たちの教室を使って展示をやったり出店をやったりするパターンと体育館のステージでなんらかの出し物をするパターン。
最悪なのが、ステージで演劇とかするパターン。最高なのは教室で展示とかやってお茶を濁すパターン。最強は休憩室として教室をそのまま提供して思考とクラスの団結を放棄するパターン。
特に漫才とバンドと修羅場と重度の心労を抱えているゆうぴょんにこれ以上の面倒ごとはごめんなのです、絶対に。本当に。
「梨乃ちゃん、展示って良いって思わない? それから休憩室としてこの場所を綺麗なまま提供するのも結構喜ばれたりすると思うんだけど、どうだい?」
「あはは……、祐亜くんやる気ないねー」
修学旅行で仲良くなった隣の席の文学少女の梨乃ちゃんに声をかけると、彼女は呆れたような苦笑いを浮かべました。おや、なんか印象がすごい変わってる。
「すごいバッサリいったね」
「え、あぁー。うん、心機一転って感じかな」
前までは綺麗な長い髪を三つ編みにしていたのに、それがバッサリ切られれて正統派美少女ショートカットに。前のは前で味があったけど、こっちの方が可愛いかもしれません。
「似合ってますねー、可愛い」
思ったことをそのまま口に出すと梨乃ちゃんは顔を真っ赤にして、机の上にあった分厚い文庫本で顔を隠してしまいました。
なんといじらしいことだよ……。このいじらさがあの肉食系女子たちには足りないのだ。是非参考にして頂きたいものだ。
「それじゃ、皆さんやりたいものの意見をバンバン出してください!」
俺が梨乃ちゃんと話していると、石田さんが教室中に響き渡るいい声でそう言いますと、ちらほらと手が挙がりはじめました。主に女子、男子たちは全員漏れなく死んだ魚の目をして帰りたそうにしています。
ここで下手に意見を言わずに女子たちのいいようにされては愚の骨頂!! 漢、祐亜。誰よりも早く手を挙げて自分の意思をしっかりと表明!!
「文化祭では変に偽らずに普段の私たちを見てもらおうではありませんか!! よって素材の味をそのまま活かしてこの教室を休憩所として提供しましょう!!」
「さいてー!!」
「センス0!!」
「ひっこめー!!」
「「「「か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ! か・え・れ!」」」
直後、ゲリラ豪雨のような女子たちの容赦ない罵詈雑言を浴びせられて、祐亜くんは涙目敗走を余儀なくされるのでした。
帰りてぇんだよこっちは!! ぐすん!
「ぅくっ……意見の一つを述べただけですのにぃ」
「まぁ、流石に休憩室はないかな……」
横の梨乃ちゃんは少々呆れた感じですがそれでも柔和な笑顔を浮かべて傷ついた俺の心を癒してくれます。
生粋のヒーラー、治癒の力、うちのバイオレンスヒロインたちにはいないタイプ……。素敵ですわ。最終的に結婚して欲しい。
「はいはーい!!」
梨乃ちゃんの邪気のない笑顔に癒されていると、うちの委員長でこの間修学旅行で彼氏とバックレて大目玉喰らった野尻さんが自身満々で手を挙げておりました。
「執事喫茶はどうですか!!」
途端示し合わせたかのような女子たちからの黄色い歓声、そして今度は男子サイドから野次が。
「何とんちんかんな事言ってんだー!!」
「共謀罪で逮捕するぞー!!」
「「「「わっははははははは!!」」」
なんてタイムリーな野次なんだ……。
そしてここでサッカー部の高橋くんが立ち上がり、すぐさま反撃に打ってでます。
「ならメイド喫茶でいいやん!!」
そして男子からおー!! や ええどー! などの賛同の声、そして女子からのキーキーやかましい反対の声!!
真っ二つ、モーゼに割られた大海の如く意見が真っ二つ。祐亜くんは雰囲気に瞬時に察しました。この議題、長くなる!! お家帰りたいのに!!
ここで祐亜くんもすかさず反撃に出ます!!
「休憩室がダメなら展示はどうかな!? この学校の歴史をB3ぐらいの紙にまとめてみんなに見てもらおうではありませんか!!」
「「「「か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!か・え・れ!」」」
今度は男女混声の罵倒のオーケストラ!! だから帰りたいつってんだろ!! ゼルダ姫がガノン抑えてられるのも限界に近いんだよこの野郎!!
「祐亜くん、今は静観してた方がいいよ……」
梨乃ちゃんが窘めるように俺にそう言ってきます。でも発信していかなきゃ! やる気がないよってことをさ!
適当にやろうぜ!! アホ大学の文系の卒論ぐらいのテンションで行こうぜ!
俺を置いてクラスの討論は問責決議かなんかの如くヒートアップしていきます。知らなかった、みんなこんな文化祭にやる気があったなんて……。
だが私はあなたたちに問いたい!!
執事喫茶にしろ、メイド喫茶をやるにしろだな例え軽食だろうが食べ物を扱う以上は保健所に検便を提出する必要があることを!! お前らが着飾ってわいわいやるために見知らぬ誰かにうんこを提出するその覚悟があるのか、私は問いたい!!
そしてやる気がない俺までうんこを提出させられる、この理不尽がわかるのかと!!
しかし今は完全に分が悪いので俺は沈黙を選択します。
仕方ない……これはどちらが選ばれたとしても裏方に回れるようにしなければならない。矢面に立つことになってしまえば、これはもうめんどくさいことになる。
この異様なテンション……最悪メイド服を着せられる可能性だってある。
絶……気配を消す。そしてどちらかに決まった瞬間に速攻で裏方に立候補する。完璧だ……これしかない。
帰れって言われましたから帰りました作戦も考えましたが、これは間違いなく悪手。一番面倒なことを押し付けられるフラグ。なればこそ、俺は帰りません。
平行線を辿る話し合いを息を殺して観察します。話し合いは相も変わらず平行線、互いが互いに恥ずかしい格好をさせようと必死です。
ただの高校生の話し合いですが、そんな彼らを見てあぁ、なるほど人と人は決して分かり合うことのできない悲しい生き物なんだねとそう思わずにはいられないのです。
どうりで戦争がなくならない訳だ。
そんな悲しき世界、そんな中で俺はスイスを気取っていると事の発端である野尻さんが再び立ち上がり、みんなの注目を一身に集めております。あぁーなんかめんどくせぇこと言い始めるぞこの女感が半端じゃないです。
「男子のみんな聞いて……。確かに執事服を着るのに抵抗があるかも知れない。見世物にしやがってと思もうかも知れない……けど、聞いて! このクラスの男子みんな普通にかっこいいよ! それが執事服を着たらさらに二割増しでカッコよくなる! それに……」
そこで彼女は台詞を溜めると、急にこちらを見てコナンくんよろしく俺のことをびしっと指を指してきました。
「祐亜くんが執事服を着たら!! 神村結衣と!!!! その友達の美女ももれなくやってくるぞ!!!! チャンスだと思いませんか男子諸君!! 」
あれだけぶーぶー不満を垂れていた男子たちがはっと気づかされたように一斉に息を吞むのが伝わってきました。
は!? 何言ってんのこいつ!? 頭にサナダムシでも沸いてんの!?
「アピールできるんだよ!? いつもの2割増しの君で!! 拒否する理由があるの!? 機会損失だと思いませんか!? 私たちの目の保養にもなるし!! 私たちが全力でサポートするから全力の君で挑んできなよ!!」
「だぁああああああああああんんんんんんんし!!!!!!!!!!!!!!! 騙されるな!! 建前の間にこっそりと挟まれた本音を見逃してはいけないよ!!」
野尻さんの言葉尻に合わせるようにすぐさま立ち上がり、男子たちに必死に訴えかけますが男子たちは完全に洗脳された目をしています。
「あいつばっか……柊さん」
「沢木さんに近づけるチャンス……」
「俺は高宮さん……」
「僕は上杉さん……」
ダメだ!! そんな症状による風邪薬の選び方的なテンションでどうにかできる女の子たちじゃないぞ!! やめるんだ! 考え直せ!
色欲に囚われた表情をした男子たちを見て、限りなく邪悪な笑みを浮かべた野尻さんはパンっとわざとらしく大きく手を叩きました。
一瞬、辺りを見まわして他の女子たちと目配せして男子ちょれー!的な顔をしたのを俺は見逃しませんでした。
「さてそれでは、採決を取りましょうか。それでは執事喫茶に賛成の方は手を挙げて?」
彼女の自信たっぷりの声に続いて女子たちが一斉に手を挙げて、それからおずおずとまるで操り人形のように男子たちがまた一人、また一人手を挙げだしました。
「みんないいのか!? 女子たちに言いようにされ……おい高橋!! 目を覚ませ!! 野村!? お前が執事って顔か!? 山田ぁあああああ!!!!(張遼並感)くそ、民主主義の崩壊だ!! 男子生徒を全員潜在的執事にするつもりか!! 恥を知れ!!」
俺のあくなき自由への発言は普段からの行動と実績が伴っていないせいか全く響いていません。
「梨乃ちゃんは……!! り、りのちゃん?」
藁にも縋るような思いで隣の席の梨乃ちゃんを見ると、彼女は夕焼け雲が浮かぶ窓の外の景色を眺めながらそっと、そっと手を挙げていました。
「ごめん。私ははじめから……祐亜くんの執事姿見たかったから」
なるほど、君の前世は明智光秀だ。
それから結局俺の意思など無視されて執事喫茶が強行採決されて、自分の裁縫能力と調理能力を必死にプレゼンし、それが却下され、もう買い出しも雑務も全部俺がやるから矢面に立ちたくないと涙ながらに訴えましたが俺の声は虚しく響き、どこにも届くことはありませんでした。
全部安部政権が悪いんだよなぁ……。




