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片道純愛ロマネスク

「じぃー! 」




「……今日もいい天気ですね」




食事をした柳は泣いた反動か知りませんが、いつもよりハイペースでパーク内の飯をかっくらてやがりました。

それで満足されたのか、その後は二人でぶらぶらとパーク内を歩き、結局俺とはアトラクションに何一つ乗ることなく去って行ってしまいました。お前ここに何しにきたんじゃ!!!! 俺はお前の噛ませ犬じゃねぇぞ!!




さてさて、その後に待ちかまえますのはわたくしの大本命の結衣様なのですが、先ほどから隣でジト目で俺のことを睨みつけてきます。

わざとらしく口で効果音まで発して。

口を尖らせて、不満を隠そうとしない結衣はそれはそれは、美人で美しくて可憐で可愛くて愛おしくて愛くるしいのですが……。




『私は祐亜が好き、とっても』




柳の見たことのない顔から繰り出される聞いたことのない縋るような甘い声を、突き放せなかった自分が……。そこから来るこの、罪悪感といいますか。顔も見れませんといいますか。




「可愛い女の子とまわれて良かったですねー!! もてますねー!! あー祐亜くんはもててすごいなー!! あーあ!! 」




ずっと視線を逸らして歩いていたら不満がマックスまで溜まったのか、結衣は俺の背へと周り後ろから両肩を掴んでがくがくと揺らし始めました。

まるで駄々をこねる子供のようで、それからブレザー越しに柔らかい何かががんがんぶつかってきて、そうですね、控え目に言ってムラムラしちゃう!!




「ごめんなさいごめんなさい! でもほら!? あれじゃん!?あの人らが邪魔しようと思ったらもう本当全力で邪魔してくると思うんですよ!? そうなったらもう目も当てられなくなってたんじゃないかなーって!! ぼくらの思い出関係!」




「そうだけど! けど納得いかんのー!! デレデレ鼻の下伸ばして!! むかー!!」 




結衣は相変わらず俺の後ろでガシガシやってて、このままヘッドロックでもかましてきそうな勢いですが正直後ろにいてくれて良かったです。




……ニヤニヤが止まらんとです。左手で顔を必死に抑えてますけど何か気持ち悪い表情になってしまいまして。

これは流石に嫉妬、嫉妬と呼んで差支えないでしょう!!構いませんね!?

顔が熱いっす、嬉し恥ずかしでまともに顔を見れない見れない!!

そうかそうかここまで来たかと……。もう今までと全然違う! 家入レオとLEO今井ぐらい違う。




「何? 照れてんの?」




結衣がそのまま手を回して、俺に抱き着く形で密着してきます。頬と頬と触れそうな距離、結衣のさらさらな髪が俺の頬を撫でちゃってます。

当然心臓が強く跳ね上がります。

結衣のくらくらする甘い匂いとか痺れるような柔らかい感触とかが一気にグッと近づいて頭がどうにかなっちゃいそう!!




「ち、ちちちちち近いし……! みんな見てるしはははは離れてもらっていいすか!!」




「はー!? 他の子とは手繋いだり膝枕したりしてるのに、私はくっついちゃダメなんですか!? はー!?」




酔っぱらってんのかこいつ!?

とりあえず妙なテンションで執拗に絡みついてくる結衣を引きはがして、彼女の正面に向き直ります。何故かくっついてきた結衣も顔が少し赤くなってるように見えました。お前も照れとるんかい!!





「まぁ……いいや。それでどうする? 祐亜はどうエスコートしてくれるの?」




結衣が首元に巻いた赤と黒のチェックのマフラーを巻きなおしながら、俺の目をじっと覗き込んできます。ジト目で、不満タラタラなんですがそれがまたこうなんだろう……イイネ! ゾクゾクしちゃう!


周囲の視線をまた集めていますが、今回は今までに比べ圧倒的に男共が多いです。他校と思われる男子生徒の集団やらチャラそうなヤンキーのお兄ちゃんからバラエティ豊か。南高校の残虐姫の名は伊達じゃないですわね。

そんな殿方たちの下心に塗れた視線を一身に受ける結衣は、流石といいますか全く歯牙にもかける様子もなく俺のことを見つめています。

あぁ……いいね。なんだろう、この優越感。

おい、お前ら!! お前らな!? 決して顔は悪くねぇよ!? でもなんでこんな可愛い子をゲットできてないかわかるか!? 

レェェェェェェェエエエエエヴェェェエルルルルルが違うんだよぉぉおお!!!! この野郎!!




そして、この外面は可愛いが何を考えているか分からない、男の子のぴゅあぴゅあハートを平然と踏みにじる外道スタイルなこの結衣さんの倒し方を私は知ってるんですよ、ククク。

俺は肩にかけていた小さめなショルダーバッグからノートを一冊、シュバっと取り出してみせました。結衣はきょとんとした顔をして、首をかしげています。

そんな結衣に対して俺は大胆不敵に笑って見せました。




「ネタ帳ですよ、結衣さん!」




「はー?」




結衣は鳩が魔力全振りのソウルの結晶槍を喰らったみたいな顔をしています。




「ふ、ふ、ふ! こんなこともあろうかと旅行明けにある大会のために新作を何本か書き溜めてたんですよ!? 今回は中々自信ありですよ、これにさらに二人で手を加えればY2史上傑作のネタになること間違いなしですのよ!! おほほほほほほ!!」




そうまさに結衣を知り尽くした俺だから打てるこの奇跡の一手!! 

どうせ結衣は俺と普通に楽しもうとなんか思ってないでしょうし、今までの経験を踏まえてデートっぽいことを期待する方がどうかしている!!

ならば最初からこっちが結衣の得意テリトリーに踏み込み、そのテリトリー内で起きる小さな触れ合いからこの最近自他とも変化ありと有名な、結衣に生じた気持ちの変化を少しづつ促進させる方が有効!! 

祐亜、長年の経験から来る圧倒的発想力……!! 鬼才……!! ここに来てラブコメの本質を白日の本に晒した……!!




さぁ、とくとご覧じろ!!このめんどくさい女はな!! こうやって攻略するんや!! どや!!




「もうなんでこう……いや、これは私も悪いのか……な?」




ん……結衣の反応が鈍い? 何故か左手で額を抑えて、下を向きながら大きなため息を漏らしています。なんでや!? あんた俺のこと漫才をするための装置ぐらいにしか思ってなかったじゃん!!




結衣は下を向いたまま俺の手を握って、強引に引っ張って歩き始めました。

人混みの中をぷんすかしながら歩く彼女の表情はこちらからはよくわかりませんが、耳は寒さか何かのせいで真っ赤に染まっていました。




「今日はその……そういうのはいいから!! 大事だけど……ごにょごにょ」




勢いよく言葉が口をついて、それからごにょごにょとフェードアウトしていた結衣のその言葉に、俺は改めて頭をガツンとやられました。

思わず声が漏れそうになります、少女漫画だったらきっと俺の背景にはキラキラとした効果がふんだんに散らされていることと思われます。




あの漫才しか興味ない、男には1ピコメートルも興味がない結衣からまさかの……!! そんなまさかお笑いより俺の方を選んでくれたような、そんなことニュアンスのことを言ってくれるなんて!! 祐亜泣いちゃう!! 今日はお赤飯ね!!




それからはまるで普通のカップルみたいにパーク内のアトラクションを楽しむ俺と結衣でして。




「あはははは!! すごいすごい!! 落ちる落ちる!! きゃー!!!!」




「……おぇっ(3D酔い)」







さっきまでの不機嫌はどこへやら、アトラクションを楽しむ結衣はそれはそれは最高に可愛い普通の女子高生でして。









「うわはははー!! 来るよ!! 祐亜祐亜!? このウォータースライダー落ちる時写真撮ってるんでしょ!? ちゃんとキメ顔で写ってね? あはははは!!」




「……おうぇっ(水が予想以上に汚くてひく)」










なんで結衣と手を繋ぐとこんなにドキドキするのか、笑顔を向けられるとこんなに胸が苦しくなるのか。彼女の隣にいられるとこんなに嬉しいのか、俺はまじまじとまたそのことを考えておりました。













「きゃーーーーーーー!! すごいGがすごい!! あはははは!! ねぇねぇ凄い景色だよ!! 亜弥たちどこかにいるかな!? イエーーーーイ!!」




「……(放心状態、この世に神はいないと悟る)」











やばい……正直しんどい。

自分が結構インドア派ってことを忘れてました。

3Ⅾ眼鏡かけて、乗ってる箱グラグラ揺らされて熱風やら水ぶっかけられたり。

恐竜のおもちゃががちゃがちゃやってる汚い水のウォータースライダー。

このパーク内に入るまでウキウキし過ぎて忘れてたけどジェットコースターとかもそんな好きじゃなかったです、そう言えば。あの登っていく時に思い出しましたわ。

いや本当意味わからん、ジェットコースター。そういえば2B と9Sも意味わからんって言ってましたしね。




「うわー!! 楽しかった!! 人少なかったらまた並ぶのに!!」




日が傾いてだんだんと空にはオレンジ色がさしてきて、心なしかパーク内の人の数も少し減ったような感じがします。それでもまだまだ多いですけどね。

1か月はフライングしてる特大のクリスマスツリーを眺めながら、結衣は興奮冷めやらぬといった様子でベンチに座りながら大きく伸びをしています。

いやしかし、人が多くてよかったです。次ジェットコースター乗るのは来来来世でいいっす。




「それにしても今日は少し意外でした」




「うん? 何が?」




ベンチに腰掛けて、自販機で買ってきたホットレモンを啜りながらほとんど呟くみたいにそんな事を言うと、結衣が不思議そうに聞き返してきました。


茜色に染まった季節外れのクリスマスツリーの前をたくさんの人が通り過ぎていきます。

カップルにお友達グループに、子供の手を繋いで幸せそうに歩く家族やら。どれもこれも違っていて、どれもこれもとても幸せそうな風景でした。




「結衣がお笑いの事以外で俺を必要としてくれて、へへへ」




結衣の方を向きながらそう言うと、結衣は一瞬フリーズした後すぐに顔を真っ赤に染め上げてそっぽを向いてしまいました。すぐ隣に座っていたベンチの距離も一気に空けられてしまいました。

あいやー、ちょっとストレート過ぎましたね。





「そ……そういう恥ずかしい事!! ……急に言うな!」




「ごめんなさい」




尻すぼみになっていくその言葉の調子がとても可愛くて、思わず笑みが零れてしまいます。

それからは会話もなくなり、俺はまた知らない誰かの幸せな景色をぼーっと眺めることにしました。

結衣と過ごせる時間は後10分ぐらいか。

あの人たちから見たら、俺たちはどんな風に見えるんっすかねぇー。




なんとなしにそんな事を思っていると、結衣がおずおずと口を開きました。




「私が昔、いじめられてた……って言ったことあったけ?」




あぁー、なんか大分前に聞いたことありますね。しかし急にどうしたんでしょうか?




「小学校の時は普通に上履き隠されたり、持ち物いたずらされたり。男女一緒になっていじめられてたよ。勿論嫌だったけどその時はまだ庇ってくれる子なんかもいたから。まだ良かったかな」





「中学校の時もいじめられたんだけど、ここで小学校の時と比べて大きな変化があったの? なんだと思う?」




それはちょっと分かるかも知れないっす。




「女の子だけが積極的にいじめて、男の子が庇ってくれるようになりました。あちゃーってね」




「最初はなんだったけ? 確かクラスのリーダー格みたいな子が好きだったサッカー部のエースの先輩を振っちゃったんだっけ。恋愛なんて興味ないし、何にも知らない人からいきなり好きって言われても困るし。そしたらね、すごかったなー次の日から」




「その子とだってそれまで仲良かったのに、もう次の日から急に別人になっちゃって。それで他の子たちも右にならえで……それはそれは。普通にしてくれてた子が、仲良かった子が次の日から別人になっちゃうのって本当怖かったし、辛かったな」




「それで男の子たちは庇ってくれるの。そんな事するな!って。それで私がありがとうって言うとみんな決まっていうの。『好きです、付き合ってください』どの人もみんな同じ台詞、頭がおかしくなりそうだった」




かつてその男子たちと同じことをやらかした俺としては身が詰まる思いで結衣の独白を聞いている次第です。




「男の子が告白してきて、それを私が振ると女の子たちが怒る。それを男の子が庇って……あと繰り返し。無責任だよね、男の子って。ちやほやされてる女の子って、同性から嫌われやすいって分かりそうなものなのに。それでも自分の気持ちをぶつけるのをやめてくれないの。自分だけすっきりして、後はおしまい。人間不信だったよ。男の人、本当嫌いだった。一時期お父さんが話しかけてくるだけでも吐きそうな時期があったくらい。みんな私の表面しか見てない、中身なんてどうでもいい。付き合って周りに自慢してエッチなことができればそれで満足なんでしょ、みたいな」





「そんな時に亜弥に会ったの」




「亜弥は美人で強くて、かっこよくて、それから誰にも媚びてなくて、私の事を守ってくれた。それからすぐに柳とも友達になって、恋に有希に……心の底から友達って呼べる人たちに出会えた。私をどん底から引きずりあげてくれた大切な友達。きっとこの人たちは変わらずにいてくれるってそう思える大切な……」




「それからね……」




今まで下を向いて決して視線を合わそうとしなかった結衣がこちらを見て、ベンチの上に置いていた俺の右手にそっと自分の左手を乗せてきました。

その表情は今まで見たことのない、泣きそうで潤んだ、それからすごく辛そうな。





「祐亜に会っちゃった」




「最初に会った時はただの面白い人ってしか思わなかったけど」




「一緒に過ごしてくうちにどんどん……なんかわかんないけど」




「もやもやする。難しい……知らない感情が胸をぐるぐるして」




「今は祐亜が他の子と喋ったり、仲良くしてるだけでむかむかする」




「私はね……私は……そんな……わた……しが」









「だいきらいなの……」





結衣の目から宝石みたいな大粒の涙がポロポロと零れ落ちていきます。

今まで俺、結衣のことよく分からなかったけどその理由が少し分かった気がします。

多分、分かって欲しくなかったんだ。踏み込むのが怖かったんだ。




「亜弥も柳も……来夢ちゃんに葵ちゃんだって祐亜のことが好き」




「亜弥たちは違うって分かるけど……ひぐっ……あの子たちとは違うって分かってるけど……」




結衣は特別でも異端でもない、ただのどこにでもいる友達想いの。




「怖いよぉ……もうひとりぼっちは嫌だよ……亜弥たちに嫌われたらって考えたら……」




臆病で優しい女の子なんです。

今やっと本当の意味で俺は神村結衣という女の子に会えたような、そんな気がしています。

胸がチクりとして、それからとても嬉しくなりました。




「だから私は自分のこの気持ちに……名前はつけられない。ごめん……ごめんなさい。私も結局自分勝手で……」




袖で涙を拭いながら泣きじゃくる結衣を、俺は気づいたらごく自然に抱き寄せていました。

結衣の柔らかな匂いに包まれて、俺の胸にすっぽりと収まった結衣の頭に頬を寄せると結衣の体は途端に石みたく固まってしまいました。




「わ、わわ私の話きき聞いてたの!?」




俺たちはよく似ています、結衣の気持ちはよくわかります。俺だって、嫌われたくないし、好きでいて欲しい。

でも、俺はやっぱり改めて思ってしまったのでした。




「待ってもいいですか?」




「ふぇ?」




「結衣のその気持ちに名前がつくまで、待っててもいいですか?」




俺はやっぱり結衣が好きです。間違いないです。




「……いつになるやら、分かりませんけど?」




「その時は……うん、あはは……! うん!!」




「はぁ!? 何それ!! カッコいいこと言ったんだから最後までカッコつけてよ!!」





いつの間にか結衣は泣き止んで、俺の胸を両手でポカポカと叩いてきました。その顔にはいつか夏の海で見たような、いつまでも見ていたくなるそんな素敵な笑みが浮かんでて。




それから時間まで特に言葉もなく、ただずっと幸せな気持ちでいました。




ずっと好きでいるなんて、何の保証も無くて無責任な言葉だけど、それでもこの子だったらずっと好きでいれるんじゃないかって俺は思ってしまいます。

オレンジ色に染まる大好きな女の子の横顔を見つめながら、この子のことを今の気持ちのままずっと好きでいられたならこんなに素敵なことは他にないんじゃないかって、そう思わずにはいられないのです。





何が起こるかなんてわからないのに。

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