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クレイジーアップル、僕は枢ちゃんの方が好きでした



「それはそれは大変だったねー」



全くそんな事思ってない風に言うのは、田中祐一君です。

今日は月曜日、今は昼休みで俺は今昨日あった事の顛末を必死に話している次第な訳ですが彼は心底興味がなさそうですか。




「お前さ!! 俺らよりちっちゃい女の子がさ!!アイアンクローして男沈めた所見たことないでしょ!?」




いや、本当に凄かったんですよ。みなさんの中で生のジャーマンスプレックスとか見たことある人います? あんな綺麗なジャーマンなかなか見れないっすよ。




しかし、祐一はなんか不機嫌な顔をしています。なんでかって俺が尋ねたら、




「いろいろ痛い目にあってるかも知れないけど、女っ気も何もない俺よりはるかにマシだろ!」




祐一はそう言って頬杖ついてそっぽを向いてしまいました。

ああね、なるほどね。そういう感じね。

そんな可愛い可愛い祐一に俺は優しく言い聞かせるのです。




「まぁまぁ、そう嘆くなよ。いいか、この世界をFFⅩに例えてみようか。俺がティーダだったらお前は……キマリだな。ぷっ……キマリで決まりだな……ぷっ……フッ……お前さ……自爆しか使い道ねぇの!!!!フハハハハハハ!!!! しかも後半になってきたらその自爆も使えない技認定されてもうどうしようもねぇの!! フハハハハハハハ!! 盗むコマンドで、ひたすら敵からアイテム盗ませてたよ!! リュックがいるにもかかわらず!! 可哀想だったから! ハハハハハハハハ!!」




俺がそう言って高笑いを決め込んでいると、教室の前のドアが開かれました。そこに居たのはマイスゥイートエンジェールこと神村結衣と、その赤髪からクレイジーアップルとの異名を持つ(今俺がつけたんですが)暴走堕天使、上杉柳さんです。




そしてそれとほぼ同タイミングに後ろから怒声を響かせながら数名の屈強な先輩と思われる男子生徒が3名入ってきました。




「徳永祐亜ってのはどいつだ!!」




俺を潰す気で威勢よく入ってきてますが、悪いことは言わないです!! 早く、早く逃げて!!

あんたたちじゃ、上杉さんには手も足もでないから!! 早く殺される前に!!




俺はチラッと神村結衣の方を振り返ります。



神村結衣は少しかがみ込んで上杉さんに何か耳打ちをして、それを聞いた上杉さんは無表情に頷いています。




ああ、終わった。バスターコールがかかったぞ……。




死の4番テーブル、三名様ご指名でーす。




「てめぇか? 最近調子ぶっこいてる2年ってのは?」




そう言いながら、3人の内で一番ゴツそうな先輩がズカズカとわざとらしく机を蹴散らし、肩で風をきりながら近づいてきました。




そして、俺を睨みながら見下ろしています。170ちょいの僕が見上げるぐらいですから190ぐらいあるかも……。すごく、大きいです。




190センチ先輩はおもむろに俺の襟を掴み、自分の方に引き寄せると地の底から湧き出るようなしぶーい声を出します。




「先輩がしっかり指導してやるから、少し面貸せよ」



2008年現在(※当時は若くこれを(ry)にあなたのような希少種が生き残っていたとは……。今時面貸せ、なんてね。顔はレンタルできませんがな!! がはははははは!!




普通だったら絶賛ガクブルの状態なんですが、こんな冷静でいられるのはやっぱりあの方のおかげなのです。




「忠告する。5秒以内にその汚い手を徳永祐亜から離せ。でなければ貴様の身の安全は保証しない」




気がつけば、上杉さんは俺の首根っこ掴んでる190センチ先輩の横に音もなく立っていました。その冷たいガラス細工のような目を190センチ先輩に向けています。




感情を読み取れないような抑揚のない声です。まるで機械みたいな。




「あっ? なんだって?」




「5……4……3」




190センチ先輩は俺を掴んでキョトンとしています。しかし、上杉さんは一切無視してカウントを始めます。




「これ喧嘩売られてんの?」




「2……1」




190センチ先輩は首を動かしてお仲間に意見を伺っています。お仲間の方は馬鹿みたいに笑ってます。つられて僕も笑った。

そりゃ、そうです。誰だって150あるかないかわかんないような女の子が190以上の大男に喧嘩売ってたら笑っちゃいます。




でも、君たちは知らない。奴の暴君(タイラント)としての姿を……。




「……0。排除する」




そう言い終わった刹那です。

上杉さんは目にも止まらぬスピードで190センチ先輩の手をはたいて俺を引き離した後、それはそれは綺麗な型の正拳突きを彼の腹に叩き込みました。




俺が後ろに軽く吹っ飛んで尻餅をついた瞬間ですか、190の大男が泡をふきながら地面に崩れ落ちました。




そして倒れた大男の髪の毛を掴んで上杉さんはお仲間の元まで引きずって行きます。そしてお仲間にこう言いました。




「それ、いらない」





正直チビるかと思いました。




空気が凍てついています。誰一人喋りだすことができない、最初に喋った奴が上杉さんに殺される……そんな空気です。




ブリザガです。




彼女は俺達の教室に容赦なくブリザガを唱えたのでした。




しかし当の上杉さんは素知らぬ顔をしてスタスタとまた神村結衣の横に戻って行きました。神村結衣は嬉しそうに笑いながら、上杉さんの髪をなでなでしてます。




「やっぱ柳は強いね! かっわいい!」




「……言われたことをしたまで」




男子生徒を一撃で沈める女の子の何が可愛いのか俺にはさっぱりわかりませんが、神村結衣に撫でられて無表情のまま耳を赤くしていた上杉さんは年相応の感じで可愛いかったです。




「あっそうそう。祐亜、今日放課後開いてる?」




神村結衣は思い出したかのように俺の元に近づいてきました。夏にも関わらず、ふんわーりとシャンプーやら香水やらの甘い香りが俺を包みます。あはは……とろけるぅ。




「もちのろんです!!」




俺が息巻いてそう言うと神村結衣は一枚のチケットを俺に渡してきました。俺がそれを貰って不思議そうに眺めていると、神村結衣が俺の肩をそっと掴みました。




「漫才研究だよ? まずは見ることから始めるの。まだそんな有名じゃないお笑い芸人なんだけど、『メリー&正』って知らない?」




なんだかB級くさい名前ですな……俺は横に首を振りました。神村結衣は少し苦笑いした後、




「そりゃ普通そうだよね……ちょっと特徴ありすぎだけど多分勉強になるはずだからさ! じゃあまた放課後ね?」




神村結衣は俺に笑顔で手を振った後、黒く長い髪をなびかせながら教室を出て行きました。そしてその後ろを背後霊のように上杉さんも出て行きました。




あれ、気のせいかな?



男のジェラシーという名の無形のナイフが俺の背中に百万本ぐらい刺さってる……ふむ、心地よい!!







かくして放課後になったわけです。




ええ、急です。突飛ですね。さっき昼休みだったのに。




……展開早くね? 大雑把じゃね?とか思いました?




じゃあさ! じゃあだよ? 逆に聞いてみるんだけども!




つまらない、ほ~んとさ、ど~でもいい俺の学校生活をさ! わざわざ活字にして伝えてどうするよってなる訳じゃん?




ねぇ? 知りたい? 本当に知りたいの? 今日現国の時間でノート2枚分板書したとかさ! 5限と6限の間の中休みにトイレ行ったとかさ! 君たちはわざわざ活字にしてまでこの俺の些細な日常生活の情報を知りたいのかいと! 問い詰めたい、小一時間程問い詰めたい。




それよりさ、ある程度は要所要所掻い摘んでお届けした方がお互いに好都合だと思わないかい?




面白そうだと思って買った小説が、主人公の独りよがり日記だったら泣くでしょ? 女子高生のブログぐらいどうでも言い内容だったら思わず本投げつけるっしょ?




だからさ、やっぱある程度の編集は大事なんだよ!




的なことを思ってましたら、神村結衣が教室にやってきました。その後ろにいたのは上杉さん……ではなく、おっぱ……じゃなくて高宮さんでした。




人懐っこい笑顔浮かべて笑っていまして、神村結衣と一緒に俺に向けて手を振っています。




ふふ……そうだ。それでいい。フヒヒ……やはり主人公とはこうあるべきなのだよ!!




「祐亜! 早く行くよ?」




ええ、あなたに言われたなら光速もはるかに上回るスピードでイッてみせましょう。




俺はおぼつかない足取りで神村結衣の後ろについて行くのでした。ここから目的地までどれぐらい歩くのかなーなんて漠然と思いながら校舎を出ましたら。




いや、ね。目の前にリムジンが止まってまして。




そしたら、高宮さんがニコニコしながら言うわけです。




「あたしん家の自家用車です! いつもは男の子とか乗せないんだけど、結衣様の頼みなのでユウっちも乗せてあげる!」




ユウっち……とは俺のことなんですかね?




高宮さんはリムジンの後部座席を執事っぽい運転手さんに開けさせて神村結衣を乗せてから、俺に手招きをしてきました。




フフフ……いいぞ!! これはまさに主人公である俺に相応しい待遇ではないかッッ!! フハハハハハハハハハハハ!!!!




リムジンで揺られること20分、駅前の方で俺達は降りることに相成りました。




「新川ありがとぉ! 帰りもお願いね?」




高宮さんがリムジンに向けて非常に爛々とした声で言いますと、新川と呼ばれた執事のとっつあんは何も言わず笑顔で軽く会釈して車を走らせていきました。




高宮さんってお嬢様ですよね……? なんでそんな人がボディガードみたいなことやってるんだろう?




その旨を神村結衣に耳打ちしてこっそり聞いてみました所、




「最初は亜弥だけが私のボディガードみたいなことしてくれてたんだけど、有希と恋が私も! って言って参加してくれたの。柳だけは私が勧誘したんだけどね」



とのお返事が帰ってきました。神村結衣には異性だけでなく同姓も惹きつける魅力があるんでしょうね。じゃなかったら、こんな危なかっしいこと進んでしないですもんね。




それか、暴力狂いのただの度S集団の集まりか……。




「こっちですよ? 早くしないと始まりますぅ!」




俺の疑惑の視線を知らない高宮さんは俺と神村結衣に声をかけながら、走っていきます。




チケットを受付に出して入ったそこは、所謂小劇場と言うんですかね? ライブハウス?




しかし、割とこじんまりしてる所なのに俺の予想していた三倍くらいの人が入っていました。




「コアなファンに人気があるのよね? まぁ今日はいつもより多いなぁ」



とは、神村結衣談で。あなたも十分コアなファンなのねとは思いましたが、あえて口には出しませんでした。




「前の方に座りましょ!!」



以前として高宮さんはハイテンションをキープしております。俺と神村結衣の手を引いて前の方の席へガツガツと移動していきます。正直周りの視線が痛かったです。



なんとか、奇跡的に開いていた空席を神村結衣が発見して座れました。



そして、しばらくしてステージの幕がブザーと共に開きまして舞台袖から男女のコンビが現れて、ステージからは絶叫に近い歓声が起きました。



そんなに人気あんの? 横を見ますと、高宮さんも神村結衣もかなり興奮していました。……可愛い。



さて、この黒髪のロリっぽい美少女と、ヒョロい優男がどんな漫才をするんですかね?


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