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夏に誓う小さな思い



徹夜ですわ。





眠れないっす。

そりゃあもう、プレッシャーですわ。

真っ青な空をバックにいやがらせのごとくギラギラと熱を地球に注ぎ込む太陽さんを軽く睨みつけながら、結衣と一緒に海辺の特設会場に向かいます。

他のみなさんは本番前になったら来ると今は別荘にいらっしゃいます。朝は松岡な修造さんよろしく情熱的に送り出されたのですが、正直大変うぞうございました。




「祐亜も眠れなかったみたいだね、ははは」




乾いた笑みを浮かべながら、隣を歩く結衣も疲れた表情です。やっぱり緊張してる感じですね。




「しかし……あれっすね。海でやるからって、出場者はみんな水着ってのは安直ですよね」




「まぁ、仕方ないんじゃないかな? その方がお客さんが集まるだろうし」




いやしかしそのおかげで、結衣のはちきれんばかりのないすばでぇが拝めたのでよしとしましょう。

黒色のビキニになんていうんでしたかね、この洒落た腰に巻く布切れ? パレオ? ロメオ? ロデオ? 可変式400型プラズマライフル? まぁ、なんでもいいっす。こんな結衣の姿を見れてぼかぁ、もう満足です。




別荘から少し離れた所にある会場に向かうと特設ステージみたいのが見えてきたのですが、それが意外としっかりものであったのとそれ以上に人のあまりの多さに驚きました。こんな田舎である対して知名度のなさそうなイベントなのに水着姿の若い兄ちゃん姉ちゃんやらから家族連れのおっさんおばさんまで、老若男女ですよ、老若男女!!




驚いた俺を見てか、結衣が衝撃の事実を発表してくれやがりました。




「いやぁ、昨日発表されたんだけどね、なんでも今回のサプライズゲストとしてこの間の漫才グランプリで三位だった期待の超新星若手コンビ『死霊とごくつぶし』が来てるみたいなんだよね!! これはすっごい楽しみ!! サインもらいたいなぁー!!」



OH……俺でも知ってるあの可愛いらしいロリな女の子と、よく見たらイケメン風な男のコンビだ……というか昔高宮さんとかと見に行ったような。そんなプロの前でするのかよ……。




「大丈夫……だよね?」




いつものいたずらな笑みを浮かべて彼女は太陽も引っ込むような眩しい笑みを浮かべています。でもどこか不安を隠し切れていないような、そんな感じ。




えぇ……勿論地獄だろうがどこにだってお供しますよっと。









喧騒がどこか遠くに聞こえます。

次出番ですよ! 係員に目の前で言われてるのにまるで他人ごとのようで。




こんな緊張生まれて感じたことないです。

体が自分のものじゃないみたいな、心臓がぶっ壊れそうな程のオーバワークを起こしてます。てか人多すぎだろ、あぁ、前のコンビ面白すぎ、観客の笑い声が耳に痛いぐらい突き刺さってる。なのにステージ脇のプロ連中全然笑ってないし、無理無理死ぬ死にます許して僕たちアマチュアなんでお笑いのことなんて全然でございましてそもそもこれに出ようといったのも相方の女の子と仲良くなりたいだけでなんもわかんないですネタも一生懸命考えましたけどきっとみなさんのお目にかかるものではないだろうと思う訳でしてという訳なので本日はこれにて解散拙者ドロンするでござ……




「祐亜!!」




結衣の聞いたことのないような大きな声に我に帰ります。

俺をまっすぐ見据えたその瞳はとても強くて、てか顔近い!! キスできるぞこれ!! 

こんな近づかれるまで全く分からなかったです。




「支えてくれるんでしょう? 私の横に立ってくれるんでしょ!?」




は!? 俺大事な事を忘れてました!!




「やれるよ……だって私たち」

「あぁ……、だって俺たち」





      「「コンビだもんげ!!」」




そして結衣に手を引かれ、俺はあの青空の下の眩しすぎるステージに向かいました。











「どうも!! みなさんお初にお目にかかります!! 私たち……」


「「y2です!!」」


「私が結衣で、彼が祐亜。お互いの名前のイニシャルをとってy2ですね、安直ながら大器晩成を窺わせるいい名前じゃないでしょうかね、祐亜くん?」


「喫煙と出来婚のアイドルを彷彿させるいい名前だと思います」


「やめなさい!!」


「いやぁ、しかしこんだけ人がいるとテンションがあがりますね!! ぽぅ!! あっおー! あっおー!!」


「SOUL’D OUTか!」


「ちぇーいす!ちぇーいす(裏声)」


「SOUL’D OUTか!」


「そんなマジな顔してほんとバカじゃん……」


「SOUL’D OUTか!」


「塩がたんねぇよ!」


「SOUL’D OUTか!」


「売りきれ」


「ソールドアウトか! しつこい!!」


「そんなことより結衣さんや聞いてよ」


「自分で作った流れぶん投げないで!? まぁ聞くけど」


「実は将来、彼女の実家にあいさつにいくことを想像しただけでもう不安で夜も眠れなくて眠れなくて、夜中目が覚めると血だらけの女の人が僕の首を絞めていて」


「それ不安関係ないから!? ただちに引っ越して!」


「ねぇ、イメトレ手伝ってよー、あれ? 結衣さん今殺すって言った?」


「手伝うけどこれ終わったら一緒にお寺に行こう! そうしましょう!」


「じゃあ、結衣さんが僕の彼女のお父さん役ね、俺が彼女の家の玄関のドアやるから」


「え?」


「スターツ!!」


「あれ……はじまるの?」


「……」


「ちょ……黙られても……」


「……」


「……か、彼氏くん遅いな」


「……」


「あ、か、彼氏くん来たみたい!!」


「ウィーン!!」


「自動かよ!!」


「突っ込む所そこですか……」


「多々ありすぎて手近な所突っ込んだのよ!!」


「そんなつ、突っ込むだなんて////」


「おい、下ネタやめろ」


「じゃあ、俺が彼氏やるからお父さん役で……」


「その配役にも疑問はあるけどまぁこの際いいわ」


「お義父さん!! 娘さんを僕に下さい!!」


「いきなりすぎるわよ……クッションを挟みなさいよ。ふん、君にお義父さんと呼ばれる筋合いはないね!!」


「パパ!!」


「超絶フランクか!!」


「おい、てめぇ」


「ゆとりコラ!!」


「波平さん!!」


「サザエは人妻ですぅ!!!!もっと真面目にやりなさいよ!!」


「難しいですね……あ、じゃあ彼女がどれくらい好きか、その気持ちをアピールします」


「ふーん、やってみて」


「キリンさんが好きです、でも娘さんの方がわりと好きです」


「1/3も伝わってこないよー! シャムシェイドの方がもっと伝えられると思うなー!!」


「でも娘さんは ぼくの象さんがもっと好きって!!」


「し・も・ね・た!! 私現役女子高生!!」


「そんなはかたの塩見たいに言われても……ねぇ、結衣さん」


「なによ!?」


「そんなマジな顔してほんとバカじゃん……」


「SOUL’D OUTか!」


「「どうも、ありがとうございました」」
























「ねぇ、聞こえる?」



あぁ、盛大に聞こえてますとも。



割れんばかりの拍手と、こっちまでつられてしまいそうな楽しそうな大きな笑い声。

俺たちがさっきまで居た気持ちのいい青空が広がる下のステージにそれらが爆発してしまいそうなほどに溢れています。




はけたステージの脇で俺たちは呆然自失な感じで立ち尽くしています。

夢見心地のような、足元がふらふらするような、そんな不思議な感覚が全身を麻痺させています。

ふと横を見ると、すぐそばで結衣が流れ出る汗を拭おうともせずじっと前を見つめています。

その姿は、単純に美人だからだとか、普段あんまり見られない水着姿だからとか、流れ出る汗で張り付いた髪がセクシーだからとか、そんなものじゃなくて結衣の根源的魅力があふれ出ているようなそんな姿で、俺は一瞬呼吸をするのも忘れて見とれてしまいました。




「祐亜」




「はい」




消えてしまいそうな微かな声に、俺ははっきりと明確に返事を返しました。




「お客さん、笑ってくれたよね」




「はい」




「私たちやれたんだよね」




「はい」




「ゆう……あ……」




その声が微かに震えて、結衣の目に大粒の涙がたまり始めた時、




俺は結衣を強く抱きしめていました。柔らかな感触を持った華奢な体からは火照った熱と震えが伝わってきます。

結衣が大きな泣き声をあげて、痛いくらいに抱きしめ返してくるのに差ほど時間はかかりませんでした。




そして、俺は今までにないくらいに強く、そして確かに自分の気持ちに気付きました。




いつかの勢いだけの思いだけじゃなくて、容姿だけじゃなくて、雰囲気だけじゃなくて。




ただ純粋に神村結衣という女の子のことが好きだ。




俺の胸の中で泣きじゃくるこの子のそばにいたい。力になりたい。そうできる存在になりたい。




観客の歓声がどこか遠くに聞こえる、胸が苦しくなるような深い青に染まる空の下で俺はただただ強くそう思ったのでした。

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