結衣が初めて認識してくれたとです
「クッククク……」
祐一が不気味な笑いを浮かべながら教室に帰って来ました。その表情から俺は全てを悟り、そして絶望しました。
「ククク……フハハハハハハハ!!……フハ! フハハハハハハハハハ!!!!皆の者勝ち鬨をあげよ!! この我らが憎むべきイケ男の未完成なネタを神村結衣にそのまま提出してやったわ!!フハハハハハハハハハ!!」
祐一に続くようにクラス中の男子が鬨の声をあげています。声で大気が震えていましてクラス中の女子は言わずもがなドン引きであります。
「こうして一人の猛者は消え、我らが血となり骨となった。喜べ、徳永祐亜!! 貴様は我々他の戦士達の糧になったのだ!!」
俺に近づき唾を飛ばしながら、喋る目の前のこの男は本当に俺の友達だったんでしょうか……? どうみても頭をおかしくしてしまっていますね。
しかしやはり、ていうか当然ムカつく事はムカつくわけでございまして怒りで体が震えてきました。アルコール中毒のそれの比ではありません。
「なんでも今日すぐに目を通して明日の放課後にはもう結果を発表するみたいだぞ」
祐一は俺に背を向けると他の男子と情報を共有しあっています。
ここらで俺はもうプッチン来ました。プッチンプリンの比ではないです。
俺は近くの机をおもいっきり蹴飛ばしました。机が騒がしい音をたて床に転がると、教室がシーンと一気に静まり返り当然俺に視線が集まるのです。
「おい……兄達はなにか一つ忘れていないか」
皆キョトンな顔をしています。なんでこいつ白哉兄様なんだみたいな。
「俺は……この物語の主人公だぞ? その主人公を蹴落とし、貴様等名も無き脇役共が俺の上に行こう……その発想が、驕りが過ぎると言うのだ!!」
俺はそう言って教室を飛び出しました。これで学校をサボるのは二日目です。明日祐一にノート見してもらおう。
時刻は17時、当然放課後。場所は夕暮れの講堂。
普段は校長先生がくっそどうでもいい話を垂れ流して、それを俺たち生徒が意識半分に聞くだけの葬式会場みたいな場所なのですが、現在ここには殺気溢れた二年の男子生徒全員が集まっており、さながらサバンナのジャングルのようなデンジャラス感を醸し出しております。
いよいよ今日は待ちに待った天上界の女神こと神村結衣とお近づきになるチャンス。その審判の日。
これだけの人がいるのに言葉を交わす者はほとんどありません。いつジハード(聖戦)が始まってもおかしくない、やはりそんな空気が漂っているわけです。
それは勿論俺も同じで、今ならなんかきっかけさえあったらバイオなハザードのミラでジョボなビィッチばりのアクションが出来るんじゃないかと思います。
しかしそんないつでもアクションスイッチ入れられるぞっていうスタンスの俺には、一抹の不安がありました。
それは言わずもがな昨日の家臣、明智光秀の無謀の事でありまする。
いわゆる本能寺の変~2008遺言~であります(※これを書いた時は若く2008年でした)
しかし気持ちで負けちゃいかんと! そう思い立ち、俺は適当に祐一を威嚇しに行くことにしました。
「おい、祐一」
祐一は体育館の隅で一人ブツブツ呟いて、廃人になっていました。俺が呼びかけると顔を上げ、焦点の合っていない目線を俺に向けました。おまわりさん!! こいつ絶対法に触れる何かを服用していると思います!!
「信長を裏切った明智光秀の成りの果てを知ってるよな?」
「………」
「……三日天下だ。たったの三日。三日で殺された。要するに明智光秀は上に立つべき器の人間じゃなかったんだな……。なぁ? 哀れだと思わないか? 絶対的存在である自分の主君を裏切ったにも関わらず時流にも人にも恵まれなかったあの様はよ!?」
「何が言いたい?」
祐一は今にも俺を殺しそうな視線を送って来ます。
「お前も所詮明智光秀なんだよ、祐一……。三日天下の哀れな光秀なんだよ!! 上に行く資格もない人間が馬鹿騒ぎしてジタバタと足掻こうが滑稽でしかないんだ!!フハハハハハハハ!!」
俺は高笑いを炸裂させてやりました、ええやりましたとも。祐一の目の殺意は一層強まっていきます。
「だが、言葉をそのままとるようなら……お前は俺に殺された更に哀れな織田信長なんだぜ?」
俺は祐一に背を向け、その場を離れながら呟くように言いました。
「何度でも蘇るさ……」
注意
これはラブコメです。
俺と祐一のいざこざもあったせいか、そっからなんか飛び火しちゃったみたいで体育館内では各所で小競り合いが見られるようになって来ました。
いつセカンドインパクトが起きてもおかしくない、そんな空気が漂ってます。
そんな時でした。
我らがクイーン神村結衣がステージの上に友達と思わしき女生徒4名を引き連れ、颯爽と現れたのです。
場の雰囲気が一瞬でガラリと変化しました。皆、神村結衣の突然の登場に息を飲んでいます。
遠くから眺める彼女もやはり格別で、この荒廃した世に舞い降りた大天使ガブリエルであることに間違いない訳であります。
もう俺はとろけてやばいです。なんか見れただけで満足になってきた自分がいます。
「みなさんこんにちわ」
神村結衣が壇上に設置されているマイクを通してその透き通るようなか細い声で喋り始めました。
なんというか脳に直接響いてくるっていうの? 脳が犯されているっていうの? その彼女の声、すごく……すごくとろけるシチューです……。
「えっと、たくさんの参加ありがとうございます。とても嬉しかったです。皆さんのを見させて頂いて、正直面白くないのばっかりだったんだけど一人だけ笑っちゃった人がいました! おほん! 早速結果を発表したいと思います」
場の緊張感が更に高まります。誰が選ばれたんだろうか? なんだか今にも腹が爆発しそうな変な感覚に襲われております。
「それでは発表します」
来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い来い……!!
ここにいる誰もが万馬券を片手にしたおっさんのようなことを考えていると……そう確信できるような表情と身の乗り出しっぷりでございます!!
神村結衣は一呼吸起きました。
そして、運命のその名を言いました。
「2年4組………」
「徳永祐亜くん!!」
ヴぃ……。
これってVICTORY……?
「すごい独特なセンスで笑ってしまいました! 徳永君はステージに上がって来て下さい」
周りの空気が凍りついているのが分かります。俺を含め全員が何が起こったのか理解できていません。
マヒャドです。
彼女はこの体育館に無慈悲にもマヒャドを唱えたのであります。
ズルズル…………。
俺はゾンビの如くだらしなく歩きながらステージに向かいました。周りの男子が生気のない視線を送っております。この壮絶な光景をなんと言葉にすれば良いか……俺の語彙力では到底表現できません。ただ誰もまだ脳が付いてきていない、彼女の言葉を噛み砕いて理解することを脳が拒否しているような、そんな表情をしているとです。
ステージへのたった4、5段の階段をやたらめったら時間をかけながら登っていきます。
ここいらでやっと状況を飲み込めた奴が出てきたようで、数名の嗚咽としゃくりあげる声が聞こえてきました。
「おめでとうございます」
そこには、信じられない程の超絶的な男子殺傷力を誇る笑顔と言う名の、
『アルティメットウェポン(究極の兵器)』
を装備した神村結衣が立っていました。いや、『私などの前に降臨なされた』方がこの場合適切なのかも知れません。
俺は確かにそこに美の女神ミューズの姿を見たのです。
「ヘロー、マイネームイズユウア・トクナガ」
俺は勇気出して彼女に声を掛けました。しかし彼女はなんのこっちゃ分かっていないのか困惑の表情を浮かべています。俺もなんのこっちゃ分かりかねます。
「それじゃあ、ここにいる誰よりも面白い徳永くん。何か一言お願いします」
神村結衣はそう言って自分の使っていたマイクを俺に手渡しました。
このマイクに……神村結衣殿の吐息が……。
はっきり言って俺は今ならマイクを食えるんじゃないかと思いましたよ、ええ。
しかしなんとかその刹那的且つ変態的な衝動を抑えつけ、マイクを口元付近に持ってきてステージ下の敗者達に視線を送ります。皆、放心状態です。急に俺の中の悪魔が目覚めました。
「どうも、ただ今ご紹介に与りましたここにいる誰よりも面白い徳永くんです…………ぷっ……フ、フフ……フフフフハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!! 僕の勝ちだぁっ!!!! ざまぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」
このあと、高校の存亡の危機に関わるレベルの歴史的暴動が起きたのは言うまでもありません。
結局暴動は教師だけの手では治まらず、我が南校が誇る全国トップクラスの1、3年の空手、柔道、レスリング、ボクシング、ラグビー部が総動員されなんとか終着を迎えました。
いやー怖かったな。
しかしこのいざこざのせいで神村結衣とははぐれてしまい、肝心の連絡先とかこれ突破した際にはどんなムフフな事があるのかとか聞くことができなかったのでした。
しかし、
本当に信じられませんな。俺が神村結衣に選ばれたなんて……。
しかし同時にこれはこの学校の男子、いやこの街の男子全てを敵にまわしたことを意味しています。いつ、刺されてもおかしくない。俺は今そんな島がドンパチ賑やかな世界に投げ込まれたことを意味しているのです。
だってね? ほら……ふふふ、あの天下の? 難航不落っていうの? まぁそういう感じの神村結衣さんに選ばれた俺? みたいなね? へっ!
とにかく割とマジで体を鍛えねばなりませんな……。
只今、俺は来る敵襲に備えながら恐る恐る帰路についている次第であります。あのレンガの二階建ての家の窓から射殺されてもおかしくない、俺は今そんな状況に置かれてしまった訳なのですな。
そう言えば、俺どんなネタ書いたんだっけな……?
見慣れた商店街を何気なく眺めながらふと俺は思いました。確か家に念のため書いたやつのコピーを置いてたような。
俺はなんだか気になって仕方なくなって、少し気をつけながら歩調を早めました。あの散歩している老人の犬がいつケルベロスになってもおかしくない、今そんな状況です。それぐらいハイパー疑心暗鬼モード突入している訳です! かも知れない運転レベル99な訳なのです!!
家につくと俺は一目散に自分の部屋に向かいました。そして自分の机の上にあったネタのコピーを片手にベッドに仰向けになるようにし倒れ込みまして、それに目を通すことにしてみたのです。
ふむふむ。最初の俳句は……。
『鳴かぬなら ククク…絶やせ ホトトギス』
なんだこれ……まぁ確かに信長だけれども。
どれどれ肝心の壁ドンの方はと……。
A「アーどうもどうも!!いやぁー壁ドンしたいな!! もう壁ドンしたいな!! どうしよう……壁ドンを試みるかな? もうそういう体かな? うん?」
A「やるかな? どうせ、俺一人だしね!」
A「よーし!! ショベルカー持ってきたぞ! やるれぇ!」
A「ドガガガガガガガ!!」
A「そうだ!! 俺たちを遮るものなんてなかったんだ!!この世界にも最初は壁なんてなかった……いつだって壁を、境を、国境を作ってきたのは……他者との隔絶を、距離を求めて勝手に孤独になっていたのは俺たちなんだ!!」
A「今一つになろう!! リユニオン!! 」
A「うわぁあああああああああああああああああああああ!!!!! ぶっ壊れろぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
A「俺と君を遮る!! このクソみてぇな壁を!! ぶっ殺す!!」
A「ああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
どっかーん
A「ふぅ……どうだよ、長年偉そうにそびえてた、お前が縋ってた壁が無くなった気分はよ?」
A「ふん」
A「そんなに……悪くねぇだろ?」
完
なんというか……漫才とは少し違うかな?。
神村さんちょっと頭弱いのかもね!
今日も世界が平和で良かったです。