楽器やってる女の子って超可愛いと思います
「お、祐亜?」
「姉貴……なんかいろいろタイミング悪すぎ」
俺は柳に背を向け少しばかり気落ちしたような、呆れるような声で姉貴に応対しますが、向こうは相変わらずのサディストの姿勢を崩しません。
「あ、お前の都合なんざ知るかボケ。それよりもう昼休みだぞ? お前の分の弁当は俺が持ってんだからさっさと来い、こっちは腹が空きすぎてひと暴れしちまいそうな勢いなんだよ、あん? だから光速を超える勢いで来い、ハッブル定数なんざくそくれぇだ。じゃあな」
「な……!?」
姉貴は一方的に喋りまくると、プチリと電話を切りやがりました。まさか、たかだか弁当如きで宇宙の絶対的真理を超越することを要求するとは……流石我が姉です。
まぁ、そんなことより俺には今、ものすごーい懸案事項を抱えているわけでして、しかもその対象はすぐ後ろにいるわけでして、なので俺はゆっくりと振り返る訳でして……。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
Wao……スゴォク負ノオーラガデテルヨ?
柳は無表情ながらその小さな体から、とんでもない気を放出しています。その量はもう凄い!! 完全に背中からなんかのスタンドが出てきそうな勢いです。
「もしかして……オラオラですか?」
「……?」
念のため確認をとってみたんですが、柳はなんのこっちゃわかんないって顔をしてます。よし……最悪の事態は免れた!
「あの……宜しければ先ほどの続きを言って頂ければ……」
俺がそう言うと柳は、今までの負のオーラマックスモードから徐々に顔を赤らめて、終いにはなんだか泣きそうな感じになっちゃいまして。
他の人から見たらただの無表情にしか見えないんですが、もう俺には充分過ぎる変化でして。
「なんでもない」
「いや、なんでもあるって顔してま……」
「なんでもないったらなんでもない!!」
「はい! なんでもありません!!」
柳は口調を普段よりかなり荒げて言うものですからびっくりしてしまいました。そして彼女はいきなり俺の後ろに回り込み、またしても腰の辺りに抱きついてきました。
「へ?」
「……オレンジジュースだからね?」
俺の奢りですか。
というか、いつからこんな小動物系の子になったんですか、この破壊神は?
結局、おっぺっけぺーにかき消された柳の気持ちを俺は知ることはできませんでした。
購買の自販機で適当に紙パックのオレンジジュースを買って柳に渡しますと、なんとも言い難いとても複雑な表情を浮かべて少し俺を見つめた後に、
「ありがと」
とボソッと言ってからトコトコ走って行ってしまいました。相変わらずなんとも奇妙な方だ……。
メインヒロインよりやたら見せ場がありやたら破壊力のある彼女に懸念をしながらしばらくその場に立っておりますと、後ろから可愛いらしい声が聞こえてきました。
「あ!! 祐亜をついに発見しました!! これから捕縛します、オーバー!!」
振り向けば桃色の髪の体操服姿がエロスな来夢が、やたら飛び跳ねながら誰かと交信しています。
「やれやれです……杏華に頼まれてあちこち探し回って、やっと見つけましたよ。フフフ、しかし来夢に見つかったからにはもう逃げられませんよ!?」
「さて、飯食いに行こうかな」
「あう!! 無視しないで下さいぃ!!」
一人でベラベラ喋る来夢の横を完全スルーを決め込んで通り過ぎようとした所、後ろからいきなりしがみついて来やがりました。
「ふぅ……姉貴にパシられたんすか?」
「あぅ……その通りです。杏華は鬼畜過ぎます、ギアスをかけられたユフィばりの鬼畜っぷりです」
「血染めの杏華ってところか……」
そしてまた俺たちは二人歩きながら、熱いトークを繰り広げる次第となった訳です。
来夢とそれはそれは濃厚で白熱したラブラブ(サイド7的な意味で)なトークを繰り広げながら校庭に向かいますと、姉貴が木陰でブルーシートをでかでかと広げながらその上にあぐらをかきながら陣取っていました。
「おいコラ、祐亜……光速超えろって言ったろうが? 光だったらもう軽く数千億回以上は往復してんぞ? あ?」
姉貴は立ち上がって俺の胸倉を掴みながら、なんかようわからんことを言いながら凄んできます。
「いや……宇宙の真理を超越するのは流石にできま」
「できないって言うんじゃねぇ!!」
姉貴は急に修造みたいなことを口にして、俺を怒鳴りつけてきました。
「あぅあぅ……杏華。会長が父兄の方の前でそんなバイオレンスな姿を見せたらまずいです」
胸倉を掴まれている俺の後ろから来夢がひょっこり顔を出して姉貴をなだめました。すると姉貴は軽く舌打ちをしてブルーシートに座り直し、弁当の包みを広げ始めます。
流石、我が姉……相変わらずの鬼畜っぷりだ……。
「さて、どっかのバカも戻ってきた所で飯でも食うか。今日は母さんが朝早く仕事に行く前に起きて作ってくれた特製弁当だ!! ありがたがれ!! そして死ね!!」
もうなぜそんなに俺は死なないといけないのかという行き場のないもどかしさを抱えたりもしたんですが、それは重箱に入っていた友梨華さん特製弁当を見た瞬間に銀河の果てまで吹っ飛んで行ってしまいました。
「杏華たちのママ上は何者ですか……? こんな神々しい……なんですか!! このウイングガンダムゼロの大気圏突入モード時のような神々しさは!? こんなお弁当見たことありません!! これは来夢も大胆、且つ慎重に頂くしかありません!!」
来夢が俺の横でキャキャわめていますが、それも無理もありません。流石に徳永家の周富徳の異名をもつ我が母上……俺や姉貴が作るそれとは比べものにならないです。というか来夢も一緒に食うんですかい。
それから杏華が全員に箸と紙コップに注がれた冷たい麦茶を手際よく配りました。
「さぁーそれではてめぇら、手を合わせていただ」
「あのー!」
姉貴が元気よくいただきますの音頭を絶叫しようとしたその瞬間でした。それを遮るように聞き慣れた麗しい声が後ろから聞こえてきたのです。
振り返ると、悩ましげな体操服姿で立っている、マイスゥーイトリトルフラグクラッシャーエンジェールこと結衣が困った顔をして立っていました。その手には可愛らしい包みにくるまれた弁当箱が握られています。
「ど、どないしたとですか?」
あまりにも予想外の人物の登場で、謎の口調になってしまいました。
俺があからさまに驚いたという体裁を展開しておりますと、結衣は少し首を傾げて、きまりの悪そうな笑顔を浮かべます。
……可愛い過ぎる。
「あのね、みんなご両親が来てて一緒に食べるみたいでさ、私一人ぼっちになっちゃったんだ? だから……祐亜、杏華、ええと来夢ちゃんだよね? 一緒にご飯食べてもいい?」
「はい!! 喜んでぇぇええええええええええええ!!!!」
かなりいじらしい姿を見せた結衣がとんでもなく可愛いかったので、俺は居酒屋の店員も真っ青な勢いで返事をしていました。
そして、お約束のように姉貴に後頭部をかなりの力で殴打されました。
「こら、父兄の連中の前で奇声あげてんじゃねぇよ、カスが。しばき倒すぞ? あん?」
あんた……口調、口調。あんたしゃん、生徒会長なんだよ?
後頭部を抑えて悶えているのに、来夢は俺を全く意に介さず、ブルーシートをパンパン叩いていつもの馬鹿っぽいけど可愛らしい声を上げています。
「まぁ、そんなに恐縮しなくても大丈夫ですぅ! あぅあぅ!! 堅苦しいところですがどうぞどうぞ!」
おのれが言うな。
「へへへ。じゃあお邪魔します」
結衣は小さくはにかむと、ちょうど空いていた俺の横に座りました。
あぁ……いつもの結衣の殺人的な程のかぐわしい香気が隣からします。
うぅ……やはり結衣が横にいるとポカポカします。ポカポカポカポカ……PKPK、ですね。いつの日か俺だけじゃなく結衣にもPKPKして欲しいものですね。
「PKサンダァアアアアアアアアアアア!!!!」
もうなんだかたまらなくなった俺は、いきようのない興奮ともどかしさと恋心を絶叫で表してしまいました。
姉貴にメッタ打ちにされました。
「さて、馬鹿も静まった所で飯にするか」
「……グギギギギギギギギ」
「あぅー!! もうお腹ペコペコです!!」
「祐亜……生きてる?」
姉貴にフルボッコにされてる間、BGMで「今日の日はさようなら」が聞こえてきました。俺……本当に生きてますよね、これ幽体離脱とかしてませんよね?
「かぁっー!! 流石母さんの飯は超一流じゃねぇか!! 」
「はぅぅんん!! 天上天下唯我独尊的徳永母絶品料理!! 美味しすぎて漢字いっぱい使っちゃいました!!」
「一口貰いまーす。はむっ………………こ、これはお、美味しすぎるよ!?」
女性陣は瀕死の俺をスルーし、マイマザーの料理に舌鼓を打ちまくっております。軽く心配してくれてた結衣さえも……、
俺は肉体的にも、そして精神的にも多大なダメージを負ったため、しばらくブルーシートに突っ伏しておりました。
どれくらいそうしていたでしょう、急に姉貴が俺の頭をポンポンと叩いてきました。
「おう、祐亜。体育祭終わったら、そろそろバンドの方も本格的に始動すんぞ?」
姉貴はそう言って、俺の髪をクシャクシャにしてます。
「へ? でもベースもいなけりゃ、ドラムもいないじゃん?」
すると姉貴はあっけらかんとした表情を作りました。
「ベースはあたしがやる。ドラムはそこの、ほれ、来夢が叩けるから」
………。
……what's?
俺はゆっくりと来夢へと視線を向けました。
「へへん、です」
来夢と目が合うと、なんだか勝ち誇った顔をしてやがります。
「………」
「な、なんですか?」
「嘘ツク、ヨクナイネ」
「な、なんで片言なんですかぁっ!?」
来夢にほっぺをつままれてしまいました。
「いやぁ、俺も最近まで知らなかったんだがよ。こいつめちゃめちゃ叩けるぜ? 今度セッションしてみろよ」
「ぅ……ん?」
「あう!? 祐亜疑いすぎです!! ふん!!今度来夢の超絶ドラムテクを魅せてやりますから首すじとか洗ってまってやがれです!!」
えらいピンポイントですな。
可愛くて……電波系で……ドラム叩ける……これはもしや。
「お前、本当は風紀委員のエースか?」
「……? 何の話ですか?」
あ、そっか。お前さんこういうネタは専門外なんですね。コア過ぎましたか……。
まぁ、俺は気にせず姉貴にまた話を振りました。
「まぁ、来夢が叩けるとしてどんな曲やるんっすか? てか3ピース?」
すると姉貴は箸を口の端に(駄洒落的な意味じゃなくて)くわえたまま、しゃべり始めました。
「ドリームシアター?」
「……無茶言わないで下さいって」
「まぁ、そういう詳しい話はボチボチやってこうぜ? 俺的にはオリジナルとかもやりてぇんだが……てか、3ピースっての少し寂しいな。もう一本ギターが……」
姉貴が箸をくわえたままうーんと唸っていますと、急に横にいた結衣がピーンと右手をハーマイオニーばりに天高らかに突き上げました。
「はいはい!! それなら私もギターやってみたい!! 」
な、なんだって!?
姉貴は物珍しそうな顔で結衣を見つめています。
「……うん。結衣、歌とか得意か?」
「まぁーそれなりかな?」
すると、姉貴はニヤリと笑ってから俺の横まで移動してきて、肩に手を回してきました。
「よし、結衣をギターボーカルに採用!!祐亜、お前手取り足取りナニ取り教えてやれよ」
「え? ナニ取っちゃっていいんすか?」
ベキャッ
そこから意識が途絶えました。




