人を好きになるだけだったら割と簡単で、けどやっぱり大変だったりしますかね
「あーぐったり。炎燃やしすぎちゃったっす」
「……祐亜、何言ってんの? というか顔がなんか疲れてるよ、大丈夫?」
メラメラと復讐の炎を燃やしてたら、なんか応援テントに着くまでにドッと疲れてしまいました。
「バリバリっす。というか今競技何やってんすか?」
心配して声をかけてくれた結衣に精一杯の笑顔を作って対応すると、結衣はグラウンドを指差しました。
「今はね1500mだよ。確か恋の彼氏の……えっーと……島崎藤村くんだっけ? その子が走ってるよ?」
祐一がいつ破戒を書いたのでしょうか……てか確実に名前覚える気がないっすね。
まぁ、突っ込んだら負けかなと思いましたので俺はグラウンドの方に視線を送ってみました。
おぉ、走ってる走ってる。このくそ暑い炎天下の中、顔を苦悶の表情に歪ませ汗臭い男共が声援の嵐を受けながら駆け抜けています。馬鹿じゃねぇの!? 超ウケるんですけど!!
俺は目だけを動かし祐一を探します。
するとすぐに見つけちゃいました。どうやら陸上部が率いるトップ集団に必死に食いついているようで。
まぁ、普通に死ねばいいのにって思いました。
しかし俺の気持ちとは裏腹に祐一は自慢の脚力を十二分に発揮し、ついには祐一と陸上部現キャプテンのデッドヒートが始まりました。
会場のテンションも一気に盛り上がります。
しかし俺は全然面白くないっす。
あれです、スマブラで言うと自分だけ早々に死んでしまい友達同士の戦いを指くわえて見てるあの感じですね。どっちでもいいから早く死ねと、そんな心境っす。
結局どちらも一歩も譲らぬまま、ラスト100mを迎えました。引いちゃうぐらい早いですね、二人とも。
二人とも四肢を引きちぎらんばかりの勢いで疾走してきています。
コンマ数秒、ほんの僅かの差で早くゴールしたのは……。
なんと藤村くんでした。
会場が大歓声で湧き上がる中、俺は祐一に向かって小さく中指を立てていました。
(脇役のくせに……! このジャンクが!!)
つくづく感じます、俺の器の小ささを……。
「祐一さん……すごく」
「うん? 何、恋?」
イライライライライライライラ
「やっ! えっと……その」
「もう何なんだよー? 気になるじゃん?」
呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪呪
「あのですね……さっきの祐一さんは……と、とてもカッコ良かったです」
「あっ……!! えっと……へへへ」
怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨怨
殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺
「貴様らぁあああああ!! ラブラブフィールドを俺の半径5万km以内で展開すんじゃねぇぇええええええええ!!!!」
先程の1500mの激走を制した祐一が樋口さんと一緒に応援テントに戻ってきて、あろうことか俺の後ろの席に座り、一瞬にして全身の鳥肌が総立ちするような寒い寒いラブラブフィールドを展開しだしたのです。
当然の如く俺は怒りのままに立ち上がる訳です。樋口さんは鳩がイデオンガン(MAP)を喰らったような顔をしています。
隣に座っている祐一は俺の顔を一瞥した後、まるで捨てられた子犬を見たかのような表情を浮かべて、樋口さんの肩にそっと手を置いて小馬鹿にしたような口調で話し始めました。
「恋、場所を変えようか。ここにいたら新種のインフルエンザをうつされるよ? 質の悪いインフルエンザでね……かかると、フラグはたつことはたつんだけど本命からは見向きもされなくなっちゃうんだよ。まぁ俺らには関係ないけど? ハハハ……哀れな……ククク……実に、実に哀れな!! 悲哀!! 圧倒的悲哀!! クハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
「祐一さん?」
祐一は恋さんを携え、不愉快な高笑いをしながら応援テントからフェードアウトしていきました。
祐一め……。許さんぞぉぉぉ……。
脇役の分際で、俺に勝った気など……。
……くっ!?
17年となかったぞ……この屈辱はッッッッ!!!!
「あの二人ラブラブだよねぇー羨ましいなぁ」
「違う……祐一じゃない……!! 俺なんだ……!! 俺……!! いつだって重要な場面は……俺自身なんだ……!!」
「あのぉー? 祐亜くん聞いてます?」
ちょっくら自分の世界に閉じこもっていますと、隣の結衣が俺の脇を少し怒ったような口調をしながら指でつついてきました。
「はうん!? どうしましたか!?」
「いやぁーだからね、島崎くんと恋が羨ましいって」
まだ島崎くんを続けるか……うん? 羨ましい?
「どうしてですか?」
俺がそう聞き返すと、彼女は無垢な、世間に売り出されているアイドルたちとは比にならない超絶的な笑みを浮かべました。
「私も本気で好きになれる人とめぐり逢いたいなぁーなんて思うんだ。まぁ、今は全然考えられないんだけどね?」
グッサグッサグッサ!!
「でも私がこんなんだから、恋愛は無理かも? それに今は漫才が一番大事だし」
グッサグッサグッサグッサグッサグッサグッサグッサグッサ!!
嘘……だろ……? 147P……だぞ?(※モバゲー換算です)
フフフ……分かっていたけど、まさかこんなストレートに言わ……れ……るとは……ね……。
祐亜は死んだ。
フラグバッキバーッキ(笑)
「ねぇ、祐亜?」
「……は……い……?」
既に生きたままその儚い命の灯火が消えかかっていた俺に、結衣はどこかそっぽを向いて話しかけて来ました。
これ以上私に何を言うというのですか……。
「その、まだ……私のこと好きなのかな?」
へ?
いつの間にか隣から俺の顔を覗き込んでいる結衣の表情は、もう一切の情報を読み取ることができない無表情で。そのことがさらに俺を混乱させました。
「私ね、あんまり男の子に興味ないんだよ。寧ろ嫌い! けど、ある種の好意を持ってる男の子は二人いるんだ。一人はお兄ちゃん。もう一人は」
「祐亜、キミなんだ」
その好意が恋愛感情に基づくものでないことぐらいは流石に理解してます。友人としての好意だってことぐらい。
けど、それでも、俺ってば全身に衝撃が走ってしまってどうしようもありませんでした。
「だっていつも一緒にいてくれるし、相方だ……」
「結衣!!」
俺は思わず椅子から立ち上がりながら、結衣の喋るのを遮りながら、その名前を強く呼びました。
「ど、どしたの?」
強く握った拳が小刻みに震えています。
俺は確かめたかったんです、微かでも光が見えたこの瞬間に。突然のことに困惑する結衣の瞳を見つめながら、俺は噛み締めるように言葉を紡いでいきます。
「いつの日か……いつの日か!!」
──いつの日か、あなたの横に恋人として立てる日は来るんでしょうか?
そう言おうとした刹那でした。
腰の辺りに何かがポスっとぶつかる感触がしました。
振り返ってみますと、俺の腰辺りに幼児体系の子が抱きついています。顔は腰に埋めているために見えないんですが、髪色で誰かは一発でわかります。
「あの柳さん……どうしました?」
「……ジュース」
「はい?」
「喉かわいた……ジュース買いに行こ」
あぁ……なんという間の悪さ。えっ……待とうよ、俺が言い切るの待とうよ?
「行ってらっしゃいまし……」
「祐亜も行くの!!」
柳は俺に抱きついたまま口調を荒くしながらそう言って、俺の体に回した手にさらに力を込めます。
語気がいつもに比べかなり荒いです。普段決して見せない感情の吐露をしている柳に俺はただただたじろぐだけでした。もうすでに「た」を7回使いました。
なんで柳が泣きそうな顔しながら、俺に抱きついてるのかよくわかりませんでした。
それから、椅子に座る沢木なんとかさんがまるで通夜のような顔してる理由も。
わずかに見えた……メインヒロインへのフラグが……。
フラグ「折れても……いいよね?」
俺「あかん!! 折れたらあかん!! やっとメインヒロインへの光が見えた所やないか!!」
フラグ「えへへ、バキッ」
あのうみぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいどこまでもぉぉぉおおおおおおおおお青かったぁあああああああああああああああああ遠くまでぇぇぇぇええええええええええええ
気分は某夏にやりたくなる泣きゲーのラストシーンも真っ青な鬱具合です。
「あはは……あはは……あはは……教えてくれ、五飛。俺は後何回フラグを折ればいい?」
半ば廃人と化した俺の腕を構わず掴んで引きずる柳の力はちょっと痛くて、いろんな意味で泣きたかったです。
あぁ……なんでこの子はこんなに必死なんだろう。どうしてフラグを叩き折るのでしょう? 教えて、おじいさん。
「結衣は……」
不意に俺の手を引いて、前を歩く柳が何かを口にしました。
「結衣がどうしたんっすか?」
すると柳は急に誰もいない校舎内の購買前の廊下で立ち止まり、俺の手を強く振り放して体をこちらに向けて来ました。
そして聞いたこともないような大声を出しました。
「結衣は祐亜のこと……絶対好きじゃない!!」
ティウンティウンティウン……。
死にました、ストレート過ぎですわ。
「結衣は祐亜のことちゃんと見てない!! だから好きな訳ない!!」
祐亜、完全に沈黙!! 予備電源も動きません!!
目の前の柳は、俺に現実と言う名の言葉のロンギヌスの槍を無数に投げつけてきます。泣きそうです。もうやめてよ!!
けど、それ以上に目の前の柳の方が泣きそうな顔をしていて。強く握りしめた小さな両手の拳がプルプル震えていて、そのつぶらな瞳は軽く潤っております。
「だから結衣より……私の方が祐亜のこと」
えっ、何この空気……。
「ぜったい!! 私の方が祐亜のこと好」
『おっぺけぺー♪ おっぺけぺー♪ 雄しべと雌しべがおっぺけぺー♪』
「……ごめんなさい、ちょっと電話が」
柳が必死な様子で俺に何かを伝えようとした瞬間、体操服のズボンのポッケから高らかに携帯の着信が鳴り響きました。画面には姉貴の名前。
タイミング良すぎだろ……。




