そもそも気絶するまで飯食うって訳わからないですね
「おっ? 祐亜、このチャーハンめっちゃ美味しい!」
「はぅ!! めっちゃまいうー!」
「味付けがお上手ですね」
来夢の泣き顔を拭っていると、結衣たちが俺お手製のチャーハンをスプーン片手に囲んでいます。
「ご好評で何よ……」
「あぅ!! それは祐亜が来夢のために汗水鼻水死に水流して作ってくれたチャーハンなのです!! やらせはしません!!」
俺の言葉を遮り、来夢はスプーン片手にチャーハンへと猪突猛進して行きました。てか、チャーハン作るのにそんなに色々垂れ流さないっての……。
俺の作った料理を美味しそうに食べている美少女たちを少し眺めた後、俺は自分の部屋へと向かいました。柳の様子が気になる所なんでね。
エプロンを脱いで、近くの椅子にかけてから俺は部屋へと向かいました。
部屋へ向かいながら俺はふと、先ほどの事を思い出しておりました。
『ゆうあ……好き……』
今、冷静に考えてみると『好き』じゃなかったかもです。
『ゆうあ……鍬……』
多分俺と農作業する夢でも見てたのでしょう。好きよりはこっちの方がなんとなく有力ですかね。
まさに燃える柳の赤いトラクター。
こんな最近の若い子達には伝わらないネタを頭に思い浮かべながら階段を登り終え、自室の部屋をゆっくりと開けました。
部屋の中では寝ぼけた顔した柳が手の甲で目を擦りながら、ベッドの上にちょこんと座っていました。
「起きましたか?」
柳はその目が開き切らない無防備な表情を俺へと向けてきます。
「ここは?」
「俺の部屋です。柳、あの後気絶しちゃって。あっ、今結衣たちが来てるんでまだ寝てていいっすよ。帰る時に起こすんで」
「私も下に行く」
「そうっすか。じゃあ行きますか」
すると柳は寝ぼけ顔のまま、その細い両手を俺に向けて差し出し、少し甘えるような声を出しました。
「祐亜、おんぶして」
……はっ?
「ど、どうしてっすか? 足腰にガタがきたんですか?」
慌てふためきながら質問する俺に対して、柳は目を閉じたまま首を横に振りました。
「祐亜におんぶして欲しい」
おぅおぅ……結衣からその台詞が聞きたいもんですね。まぁ、しかしこんな可愛らしい女の子の可愛いらしい申し出を断る理由なんざどこにもあーりません。
「どうぞ?」
俺はベッドの前まで移動すると屈んで、柳に背中を向けました。すると程なくして背中に少しばかりの重みと、柔らかくて温かい感触が加わりました。
「おじゃまします」
相変わらず抑揚のない喋り方ですね。まぁ、柳らしいっちゃ柳らしい。
柳を背中におぶったまま立ち上がり、俺は部屋を後にしました。相変わらず柳は羽のように軽いです。この質量で一体どうやって爆発的な破壊力を生み出すのでしょうか……S2機関でも取り込んでるんですかね?
「ねぇ、祐亜?」
「何でしょう?」
クレイジーアップルとしての柳の戦闘力について思惑を巡らせていると、柳が俺の耳元で名前を呼びました。そして続けてこんな事を言いました。
「結衣の事……好き?」
どっかで聞いたことのあるような質問っすね。俺としても最近自分で答えを出せていない懸案事項なんですが……。なので俺はあいまい3cmに返しておきました。
「ちょびっと……ですかね?」
「……そう」
心なしか柳のその声は沈んでいるような感じがしたような気がしました。まぁ、ちょっとした変化なんですが。
「……結衣のこと、ずっと好き?」
階段を下り終え一階の廊下に足を下ろした時、柳はそんなことを口にしました。
ずっと、ですか。俺は一方的且つ報われない片思いはできないんですよね。万が一、いや億が一、いや京が一、いや不可思議が一、いや、無量大数が一という天文学的確率で結衣が俺に好意を持ってくれるというなら俺は……結衣の事が一番好きなんだと思います。けど届かないと分かってしまったなら、俺は結衣の事をずっと好きでいるなんて不可能でしょう、恐らく。
「ケースバイケースって奴です。というよりずっとは……今の段階ではないですかね」
俺はやはり大事な所ははぐらかしてそう言いました。
「そう」
柳の声は相変わらず感情が読み取りづらかったですが、さっきよりはなんだか嬉しそうな雰囲気がしました。しかしそれに続けた言葉は、万人が聞いて分かるほどに嬉々とした感情がこもっていました。
「じゃあ、私頑張る。……負けないよ」
「何をっすか?」
俺の問いかけに返答する柳は顔は見えなかったけど多分笑っているんじゃないかというような感じの、少し茶目っ気じみたいじわるな声を出しました。
「ないしょ」
「なんですかそれ?秘密は良くな……」
「あぁー!! ユウっちが柳たんをおんぶしてる!! なんで!? てかなんで柳たんがユウっちの家にいるの!? できちゃってる系!? ユウっちと柳たんできちゃってる系!?」
振り向けば俺のことを指差し、逆の手では口を押さえ、家中に響き渡るような馬鹿でかいキーキー声で騒ぎ立てる高宮さんがいました。
「いや、高宮さん。これにはグーテンベルク面より深い訳が……」
「うぅ……柳たん。あれだけ男の子のこと毛嫌いしていたのに、ついに男の味を覚えたのね……ユウっち、あたし達の可愛い柳たんをよろしく頼みます」
この人には耳という器官が備わっていないのでしょうか?
「あぅ! なんですか、このコントローラー!? ぜ、全然ダメです!! トップスピンが出来ないです!! 64の時は……64の時は強かったんです!!」
「ふふん、ライちゃん。コントローラーに文句を言ってるうちはあたしには勝てないよ……くらえ!! 有希式ブーメランスネーク!!」
高宮さんがギャーギャー騒いでくれたおかげで、祐亜×柳という異色のカップル説が家中に広がり、一時はえらい事になりそうでしたが、なんとか俺は説得を試みて。誤解をとく事に成功しました。
キャーキャー言ってた女の子の方々は只今居間のTVで好色イギリス人達と異形の者たちが、公式ルール、相対性理論、物理法則すらも超越したテニスをするゲームに洒落込んでいます。
俺と結衣はその4人をテーブルの椅子に腰掛けて、微笑ましく見つめている次第です。いや、俺の場合はもう精魂尽き果てている状況ですね。胃がおかしな事になっちょります。
「ねぇ、祐亜?」
「あぅ、なんでしょう?」
ヒットポイントが少なすぎて来夢みたいな返事になってしまいました。しかし結衣はそこには触れず、居間にいる柳たちを眺めながら言いました。
「どうやって柳の心をキャッチしたの?」
トゥギャザーはしてないんですがね……そうですね、思い当たる節があるとすれば……。
「古田パンのカツサンドをプレゼントしたことですかね?」
机に突っ伏しながらそう言った俺を見て、結衣はニヤニヤしてます。
「柳は私達以外の人とは干渉したがらないんだけどねぇ……パンをあげたぐらいであんなになっちゃうもんなのかな? 祐亜って意外とやり手だね」
「んなぁ訳ないっす」
結衣は向かいからマジマジと俺の顔を覗き込んできました。その顔は少し恥じらうような笑みを浮かべていて、もはやその殺傷力につきましては言及する必要はないでしょう。
「私、嫉妬しちゃうな」
「……はい?」
世界が止まったかのように思われました。
「ボレー」
「くっ!? 柳さん、意外と小癪な戦法を使うのですね……」
ゲームにいそしむ恋さん達の声が遠くに聞こえる程、俺は動揺しておりました。
嫉妬……? 結衣が俺にtake a 嫉妬?
嫉妬①自分が愛している人や心惹かれている人の愛情が他の人に向けられることを恨み、憎むこと。やきもち。悋気。
長かった……長かったよ。
あまりにも結衣の恋のベクトルが俺に向かなかったもんだから、この間の人気投票なんて柳、沢木なんとかさん、あまつさえ葵までトップ10入りしてたのに結衣だけランキング圏外(恐らく2009年に行われた人気キャラ投票の話をしているのだと思います)。メインヒロインにあるまじき失態。けど大丈夫だよ、デレ始めたら人気でるアルよ!! なぁ、そうだろう!?
「だって祐亜は……私にとって」
真向かいに座った結衣は頬を赤らめて、一旦下を向き、それから俺のことを上目遣いで見つめました。
な、なんという破壊力……そんな顔して甘い言葉を言われたらぼかぁ……ぼかぁ……。
「大切な相方だもん」
ドンガラガッシャァァアアアアアアアアアンンンン!!!!
ピカドンじゃあああああああ!! くやしいのう!! くやしいのう!!
リアルに椅子からずっこけました。いや、なんかを期待してた俺が馬鹿だったというべきか……。この人の脳内においては俺なんて相方以上恋人未満な存在。
「あ! 祐亜、今日は結衣'sセレクションお笑いDVDを持ってきたんだ! 全部目を通しておいてね?」
椅子からずっこけた俺をスルーして、結衣は子供のような無邪気な笑みを浮かべながら、話しております。
難攻不落の鉄壁要塞、神村結衣……一体どうやったらこの人の心を陥落させることができるのか。
あぁ……頭痛くなってきた。




