家庭用コンロでおいしいチャーハンを作ろうとなると、ご飯の量が大事になってきますね。多すぎるとダメなんですよ
全身フリフリレースであしらったピンクのワンピース姿の彼女はまるでフランス人形を彷彿とさせる容姿でした。ピンクがかったちょいと派手目な髪に、整った目鼻立ちは少し幼さを感じさせて男の子の心をぐっと掴むのには充分過ぎます。
そんな結衣クラスの美少女がなんでこんな所で行き倒れてて、俺の足を掴んでいるのか。そしてさらに引っかかることがありました。
「ベヌ……ジェクト星人?」
すると謎の電波少女は俺の足首を掴みながらキラキラと目を輝かせながら話しかけてきました。
「そうなんです!! 昨日から寝ずに交信を図っていたんですがさっぱりなんですぅ……それで急にお腹が空いちゃってもうダメなんですぅ。あなた、そこの美味しそうな匂いのするお店から出てきました。なので来夢を助けて下さい!」
「来夢?」
「来夢の名前です! 姫神来夢って言うんです。地球人で唯一、大いなる神々の意志を継ぐ者なのです!」
「ははは、超ウケる。さよなら」
こんな電波厨二病少女に構ってる暇はありません。足首から彼女の腕を外し、また歩き始めます。すると今度は両足掴んできやがりました。
「薄情です! あまりにも薄情です! 来夢が死んだら国益を大きく損なうことになります! そしたら全部徳永さんのせいです!!」
「うん? なんで俺の名前知ってるんですか?」
すると、姫神とかいう少女は急にあわて始めました。
「あぅ! いや……来夢は常にその……とにかくなんでもまるっとお見通しなんです!!」
「あはは。あの角曲がった所に精神科があるから。じゃあね」
すると、今度は下半身にガシッとまとわりついて来ました。そして押し殺した声でボソッと言いました。
「叫びますよ? レイプされるって」
この女……。
「来夢は可愛いですから徳永さん一発で捕まりますよ? それが嫌だったら大人しく来夢にご飯を献上するがいいです」
姫神はニヤニヤと黒い笑みを浮かべてます。当然俺に逆らう術はありませんでした。
「姫神さんだっけ?」
「来夢でいいです。いや、ライちゃんと呼ばしてやらないこともないです」
「あの姫神さん。飯の事なんだけど」
「あぅ! スルーしないでください!!」
なんと面倒くさい電波厨二女、姫神来夢。
名前まで厨二くさいです。死にかけの柳を背負って歩く俺の横を歩く姫神来夢は俺の肩ぐらいの身長ですから沢木なんとかさんや結衣と同じぐらいですか。
「飯、俺の手作りでいい? 彼女……いや友達……いや、相方を家で待たせてるもんで」
すると姫神来夢は驚いたような声をあげて俺の左手にまとわりついて来ました。
「徳永さん料理作れるんですか!? 驚きです!! 瓢箪から第14使徒ゼルエルです!!」
瓢箪から最強の使徒を出されても困りますぜ。
「大したもんは作れないけどね。てか、姫神さん飯食わなくてもだいぶ元気そうに見えるんだけど」
「あぅ! これは強がりです! 耐えられない空腹だと知っていたのに堪えきれずに我慢し続けたってやつです! それぐらいわからないとは、徳永さん全然ダメです!」
横を歩く姫神来夢は松岡修造もびっくりするぐらい生き生きしてます。黙ってりゃ、もの凄く可愛いんですが……。
それから姫神来夢はずっと宇宙人や宇宙怪獣がどうたらこうたらと電波チックな事を垂れ流して、ただでさえ先刻のキリノスペシャルでHPを削られていた俺をげっそりさせるにはもう十分で。
我が家の玄関に辿り着いた時はもう軽く意識が朦朧としかけてきました。時間は2:50となんとかセーフですが、これからのメニューをこなす体力は……あえて言おう、ないと。
「ちょっとこの子を上に休ませてきますから、ソファにでも座って待ってて下さい」
「了解しました。大人しく待っててやります」
そう行って姫神来夢は居間のソファにやや緊張したような動作で座りました。
俺はそれを確認すると、未だに瀕死状態の柳を自分の部屋へと運ぶために二階へと向かいました。
しかし、柳はものすごく軽いです。羽です、フェザーです、まさにフェザー級です。ランドセルみたい!
柳を背負ったまま俺は体を捻って部屋の扉を開けました。部屋の匂いは……大丈夫みたいです。
「結衣達が来るまで寝てて下さいよ」
俺は一旦柳をベッドに置いてから柳をお姫様抱っこの要領で抱きかかえました。
「うぅん……」
抱きかかえた柳は驚く程華奢でその流れるような紅い髪からはシャンプーやら香水やらの女の子らしい匂いがして、おまけにうっすらと見える首筋の鎖骨はもうなんだかいやらしくて……。あぁ、なんだこの抱きかかえた柔らかい感じは!?
祐亜、色を知る年かッッッッッッ!!
いや、あかんあかん!! あかんって! いくら同年代とはいえこんな幼くて可愛らしい子の寝込みを襲う訳には!!てか俺が殺されるか、柳に。
「……ゆう……あ?」
抱きかかえていた柳がうっすらと目を開き、俺の名前を呼びました。でもまだ寝ぼけているような様子です。
「今から結衣達が来るから、それまで寝てていいですよ」
俺は今まで抱きかかえて思った後ろめたい気持ちを払拭するために笑みを浮かべて、柳をベッドに下ろし、その体にタオルケットをかけてあげました。
「ゆうあ……」
「はいはい、祐亜ですよ」
柳は譫言のように俺の名前を呼んでいます。寝ぼけてるんですかね?
俺は一回柳の髪を軽く撫でた後、部屋を後にしようとしました。
その時柳の寝言の中に、可愛らしい声で何かチラッと聞こえました。
「ゆうあ……好き……」
あれ? これ柳ルート?
すき?
【好き】①物事や人が気に入って心が強く惹かれる思いのさま。
柳が俺の事を? いつの間に?
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!
ないでしょう!? 190cmの大男を一撃で沈める、ヒットマッスルエクササイズを極めたと思われる(俺の勝手な予想)クレイジーアップルの彼女が俺の事を!?
有り得な……いや、待てよ。
……そうだ。俺ってば大事な事忘れてました。
俺……。
主人公ぅぅうううううううううううううううう!!!! ヒャッハァアアアアアアアアアアア!!!!
それなら納得できる。このリア充ぶりにも納得がいくッッッ!!
やべぇ、テンションが上がってきました。俺は拳を握り一人呟きます。
「私の嫁、諸君らが愛してくれた上杉柳は俺に惚れた……なぜだ!」
「坊やだからだと思います」
「おぅ!?」
一人でスパーノリノリギレンごっこしてたら気づけば目の前には、下にいるはずの姫神来夢が立っています。
「な、なぜここに!?」
ちょっと調子に乗ってる恥ずかしい所を見られて死にかけていると姫神来夢は腰に手をあて、呆れた顔で立っています。
「徳永さんいつまでたってもこないから来てみたら……何ザビさん家のお兄ちゃんの演説ごっこしてるんですか……」
「えっ? 姫神さん、ガンダム知ってるの?」
「あぅ!いずれ違う星に向かうためにロボット系のアニメを研究してるのです。来夢は向上心の塊です!」
「ちなみに一番好きなのは?」
すると姫神来夢は目をキラキラさせて、人差し指を俺に向かって指してこう言いました。
「装甲騎兵ボトムズです!!」
「あなたの事は来夢と呼ばせてもらおう」
俺はすぐさま来夢と固い握手をかわしました。
「いやぁ、まさか来夢みたいな違いのわかる女の子がこの平成の時代に生きていたとは」
「あぅ……そんな事よりお腹が空いてもうダメですぅ……早く、早くお願いします」
「ふぅ……じゃあそこのテーブルに座って待ってて」
来夢は本当に腹が減ってたらしく、目に見えて衰弱してきました。
本当は今、飯なんて見ただけで吐いちゃいそうな勢いなんですが……致し方ありますまい! 一度した約束を反故にするのは気分も悪いですし。
そう思って姉貴のエプロンを身に付けた所で家のインターホンが一回鳴りました。
「来夢、もうちっと辛抱っす」
「あぅ……」
テーブルに突っ伏して死にかけの来夢をキッチンに残し、俺は玄関に向かいました。そう言えばまだ今日は約束が目白押しでした。
「こんにちわ」
「あはは! ユウっち元気?」
「徳永さん、お邪魔します」
玄関を開けるとタイプの大分違った三人の美少女が立っていました。
まず一人目に現れましたのはあんたファッション雑誌の撮影帰り? みたいな私服姿で現れました神村結衣。
ざわ……ざわ……ざわ……なんという……この圧倒的私服……!
知らない……俺は……! こんな美女を……! それほどまでの……圧倒的美少女……!!
続きまして、バストレボリューション高宮有希さんはもう激しくギャルっぽい格好で登場です。
全てのヒップが名勝負ッッッ!! 全てのボディが名試合ッッッ!!
そして……。
全てのバストがッッッ……イカしてたッッッ!!!!
デカいことは素晴らしいッッッ!! ビッグイズビューティフルッッッ!!
さて、最後に現れましたのは樋口恋さん。名門女子大生の麗らかな休日がテーマみたいな清楚な私服です。
そんなにヒューヒュー祐一にベタ惚れするぐらいならッ!! この俺のためにファンファーレでも吹いてるのがお似合いだぜッ!!
こんな感じで一人一人の自己紹介をしておりますと、誰かが俺の服の裾をか細い力で引っ張ってきました。
「徳永さ……ん……ご……はん……」
バタッと、振り向けば後ろで来夢が事切れています。
……完全に忘れてた。
「姫神さんって言ったら南高校でもトップクラスの女の子……祐亜、いつの間に手込めにしたの?」
吐き気と戦いながら調理をする俺の耳元で結衣は、テーブルに突っ伏す来夢を見ながらニヤニヤな表情で俺に耳打ちしてきます。
「手込めなんかじゃないっすよ。向こうから俺に電波な事言いながら絡んで来たんです!」
「あぅ……ニンニクの匂いが来夢の胃袋をダイレクトに刺激してきますです……こんなのなぶり殺しです!」
「あぁ、もう! もうちっと待ってなさいって」
この図々しい飢えたロボットオタク電波美女こと、来夢に食わせるために只今祐亜特製チャーハンを調理中です。
ハムがなかったんで細かく切ったウインナーで代用、他にはネギ、スクランブル状にした卵、細かく刻んだニンニク、味付けには塩コショウ、それから少量の醤油を加えて完成です。大変シンプルです……だが、それがいい!!
「へぇー祐亜って意外と料理できるんだ?」
ジャージャーとフライパンで炒めていると横から結衣が物珍しそうに覗き込んできます。
「ユウっちって家庭的ぃー! てか、あたしも食べたいなぁ!」
後ろからは高宮さんが俺の肩を掴んでヒョコヒョコと飛び跳ねて、調理の様子を見ようとしてます。shit!! さっきからビッグなpineがチラチラ当たってやがる!! hory shit!!
「ちょっと多めに作ったんで、皆さんも良ければ。味は保証できませんが」
俺はできたてホヤホヤのチャーハンを大皿に盛り付けて、一応人数分のスプーンを出しました。
「あぅ!? 味なんざこの際モーマンタイです!! 来夢の胃袋を満たしてくれりゃあ、それでいいのです!!」
と言いながら、来夢はスプーン片手にがっつき態勢を整えました。そして一口目を口に運ぶと来夢は途端に驚愕の表情を浮かべ、無言で立ち上がり俺の元にやって来やがりました。
「く、口に合わなかったっすか?」
すると来夢は大粒の涙をポロポロこぼしながら、俺に握手を求めてきました。
「謝謝です……ぼかぁ……ぼかぁ……感激したです。こんなに美味しいチャーハンなんて食べたことないです。徳永さんの事は祐亜と呼んでやるです。ついでにベヌジェクト星に養子縁組みの申請をしてやるです」
「丁重にお断りします、です」
俺は笑いながらそう言って、服の裾で来夢の涙を拭ってやりました。




