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伸びた冷やし中華は本当にしんどいと思いますよ

トリプル……ですか?




待て待て……なんか急激に怪しげな匂いがプンプンしてきましたよ、これ。




いや待て、冷静に対処するんだ俺!! この3つのイベントを完璧にこなさなければさっきのが正夢になる可能性がある!!

まだ俺は死にたくない……首を鞄に積められたくない!!




ここは着実に行きましょう。




大丈夫、できるできる絶対できる!!




よし、ということで一つ一つのイベントを最小限の時間且つ労力で切り抜けなければなりますまい。

なので俺は神速で近くにあった私服に着替え、柳の元へと向かいました。




「待ちましたか!?」




「待ってない」




柳は俺の方へと視線を向けると、頭のてっぺんから足下までそのガラス細工のような瞳で見つめた後、すっと立ち上がりました。




「祐亜、かっこいい」




「そりゃどうも。ところで柳は今日の昼何食べたいですか?」




すると柳は俺の右手を、非常にか弱い力で掴むと窓の方へと歩いて行きました。




「私のよく行くお店。早くいかないと今から人がいっぱい来る」




ハハハ……柳ちゃん。君は不法侵入だったから窓際に靴があるんだろうけど、僕のお靴はね、玄関にあるんだよ? 知ってたかな?




とりあえず俺はその旨を柳さんに伝えて玄関に向かいました。ちらっと時間を確認します。



10:15分……OKっすね。時間的にはまだまだ余裕があります。




「さぁ、柳!! 俺のバイスィーコーに乗っちゃって下さい!! んでもってナビゲートよろっす」




俺は玄関先にある、徳永家仕様のカスタムママチャリ・『ママチャリ試作2号機』にまたがり、その後ろに柳さんを乗せようとしてる所です。ちなみにこの試作2号機には凶悪なMAP兵器はついていません。ちなみにソロモンにも帰ってきません。




おっと、主に女性の読者にはなんのこっちゃさっぱりわからない話題をしている間に柳が後ろにちょこんとまたがりました。




「お邪魔します」




あら、自転車に乗る時にはちゃんと言えるんですか柳? それはできればお家に来る時に言ってほしかったですね。




そんな脳内ツッコミを入れてると、柳が俺のおなか辺りに手をギュッとまわしてきました。凄く華奢で細くて可愛らしい腕です。




これのどこにあんな強者たちを粉砕する力が……。




まぁ、いいです。今は時間が惜しい!! 俺はママチャリ試作2号機のペダルを漕ぎ始めました。




ちなみに道路交通法によって、自転車の二人乗りは禁止されてます。




でも大丈夫!! この自転車はただの自転車じゃない!! カスタム仕様だから大丈夫!! それにいざとなったらここら一体徳永家の私有地だからぁーとか言っちゃえばいいんです!!




そんなこんなで今僕は風になっちゃってます。後ろの柳は俺にぴったりと体をくっつけていて、背中越しからなんだかリアルな体温が伝わって来てドッキドキですね。そのうち自転車は人通りの少ない交差点に差し掛かりました。




「柳? この道どっちに行けばいいっすか?」




「右に左折」




ガッツか、おのれは……。




「右ですか? 左ですか?」




「上」




飛べと!? わたくしめにママチャリで空を飛べと!?




「柳……ボケはいらないんでどっちに行けばいいか教えて下さいよ」




すると柳は俺の背中に頭をくっつけたままでボソリと言いました。





「このままでいい」





それだと俺が駄目なんですよぉおおおおおおおお!!!! なんとかさんにメッタ刺しにされて殺されちゃうんですよぉおおおおおおおお!!!!










柳は何故だかこんな感じで目的地をはぐらかしまくって、さっきから同じ所をなんだかグルグル回ってます。




「柳……マジでどこに行きたいんすか?」




「このまま真っ直ぐ」




自分の背中にぴったりと体をつけたまま柳は言いました。というか汗かいてないか凄い心配です……てか、柳の小ぶりな胸がガンガン当たってるんですが。




「徳永サイコォオオオオオオ!!!!」




先程までの遠回りさせられていたイライラもどこかに飛んでいってしまい、俺はこのなんだか言い知れぬ胸の高揚感を叫ぶことによって解消しました。




ひたすら10分ぐらいこぎ続けましたでしょうか。柳は後ろからとある一角を指差しました。




「あそこ、私の行き着け」




人通りの多いの街路の途中、煌びやか電飾が施されでかでかとした看板を掲げた大きな店がありました。





看板には藤岡弘、が書いたような力強い赤い文字でこう書いてありました。




『ブレードブレーバー』




なんとも攻撃的、且つ聞いたことのあるような店名ですな……。取り敢えず店の駐車場にママチャリ試作二号機を止め、俺と柳はブレードブレーバーへと入店しました。




「うぇれぇあああああしゃああああせぇぇぇぇぇ!!!! ぬぅめぇぇぇぇさまぁあああああごれぇてぇぇええんんんでぇぇぇぇいいいいいいす!!!!」




「ふわぁあああああいいいいい!!!!よるぅおおおこんでぇぇぇぇえええええ!!!!」




最早嫌がらせじゃないかと思うぐらいの店員の雄叫びに迎えられ、そのまま席へと案内されました。あいつらあれで会話通じてるんですかね……。




店内は割と広い作りで、カウンター席から、ファミレスみたいな席、座敷席まであって結構繁盛してるみたいです。




「ご注文がお決まりになりましたらこちらのブゥオタァアアンをおしてくだせぇえええええいいいいいいいいいいい!!!!」




最初の調子で最後までやれよ……。店員の雄叫びを聞きながら、俺と柳は向かい合うように席へとつきました。



只今の時刻は11:25。予想以上にかかりましたね……でもまだ大丈夫ですか。




「柳……いつもここに来るんすか?」




店員の雄叫びが木霊するブレードブレーバ。俺は向いの席で念入りにお手拭きで手を擦る柳に話しかけました。




「結衣たちとよく来る」




こんな試合3日前の甲子園球児的なテンションの店員がひしめく店に、あんな美少女達が来るなんて……理解に苦しみます。




「そんな美味いんすか? ここ」




「食べればわかる。祐亜、選んで」




柳はその大きな瑠璃水晶みたいな瞳で俺を見つめながらメニューを差し出してきました。どれどれとそれに視線を向けます。結構バラエティー豊富ですな、麺類、丼物、洋風なものからメキシカン、デザートも。ほうほう、やりますな。値段もお手頃です。




「じゃあ、この冷やし中華キリノスペシャルで。柳は?」




「オムライスタマちゃんスペシャル」




メニュー名が謎ですが、取り敢えず注文も決まったことなのでテーブルについてあるピンポーンってなるやつ(これなんて言うんですか?)を押しました。




「ご注文はお決まりでしょうか?」




おっ、堀北似の可愛い店員さんが注文を取りに来ましたよ。なんか普通のテンションでホッとしました。




「えっと、これとこれをお願いします」




なんかキリノスペシャルとかなんとか言うのは恥ずかしかったんで、俺は愛想良く笑みを浮かべながらメニューを指差しました。すると堀北似の可愛らしい店員さんは笑顔で頷きました。



「ありがとぅぅぅござぁあああああすすす!!!! エゥオォォダァアアアアアへぇいりめぇぅうううううすすすう!!!!」




おぅ!?




堀北似の可愛らしい店員は何か絶叫しながら、厨房へと消えていきました。




なんだこの店……店名関係なさすぎだろ……。




そんなことを去ってゆく堀北似の店員の背中を眺めながら思っておりますと、柳がお冷やをチビチビ飲みながら俺へと視線を送ってきていることに気づきました。




「どうしたっすか?」




すると柳はその、お母さんに『赤ちゃんってどうやってできるのー?』って聞いちゃう小学校低学年ぐらいの純情可憐な瞳で、俺に尋ねて来ました。




「祐亜はデートしたことある?」




「デート?」




「うん」




柳は俺を見つめながら、その小さな口の中でお冷やの氷を転がしてます。




デートっすか……まぁ大して女の子と付き合ったこともないし、葵と二人きりで遊んだことをデートと言うのならデートなのだろうし、結衣と二人きりでファミレスでご飯食ったことも捉えようによっちゃデートなんだろうし、沢木なんとかさんと放課後雑貨屋に二人きりで行ったことも考えようによっちゃデートなのだろうし……まぁ、面倒くさいです。




「多分ないっすよ」




俺はおどけた顔でそう言いました。当たり障りのない返答しといた方がいいっすね。すると、柳はしばらく俺を見つめた後俯いて何か言いました。




「じゃあ……祐亜も初めてのデート」




「はっ? ネオ・グランゾンがどうかしました?」




「なんでもない」




顔を上げた柳の表情は、なんだか笑っているように見えました。柳も笑えるんですね……意外。てか、普通に可愛くてひったまげました。




「こちらのご注文のしなでぇぇぇいいいす!!!!」




柳の笑顔に和んでいると、図体の立派な男の店員2人が料理を運んできました。




いやぁ、普通に美味しそうですね。俺の頼んだ冷やし中華は野菜でちゃんと彩り鮮やかで。柳のオムライスもふんわりとした卵に美味しそうなソースがかけられています。見ただけでも美味しそうです。




ただ一つだけ文句言っていいですかね?





「柳、何このサイズ?」




「キリノスペシャルは超特盛り。祐亜、チャレンジャー」



以前冷やし中華というものを見たことがある。直径20cm程度の皿に盛られたそれ……。




しかし今私の目の前にある冷やし中華は、それのざっと5倍ッッッ!! こんなの教本の挿し絵でしか見たことない……ギャル曽根特務の管轄ですよ。






あれ、おかしいな?キリノの要素が見あたらない……。




これはどう手を付けたら……。




明らかに10人前、いや、それ以上のウェイトを誇ってますよ、これは。一人バイキング!!




「こいつを残してやりたいんですが、構いませんね!?」




すると、たまちゃんサイズの少し小さめなオムライスを幸せそうな顔して食べてる柳はさらっと言いました。




「男の子が残したら料金が元の10倍になる。女の子が残したら、店長に謝れば大丈夫」




くっそ……野郎には異常に厳しい店ですな。10倍って7000円になっちゃいます。これは痛すぎます、今月の小遣いが塵と消えらむってやつです。




「祐亜……行きます!」




俺は深呼吸してから目を瞑り、精神統一をしてからこの化け物冷やし中華に取り掛かりました。やってやるぜ!!









30分が経過しました。




なんですかこの質量?つつきまくってますが半分も減りません。




「胃袋……完全に沈黙」




圧倒的冷やし中華の前に俺の胃袋は完全に機能停止、予備電源も動きません。




動けよ!! 今動かなかったら7000円ぼったくられちゃうんだ!! 動いてくれよ!!





………。




果たして胃袋のシンクロ率が400%を越えてくる訳もなく、もう満腹感と絶望感に襲われて途方にくれていました。




すると、とっくに自分のオムライスを食べ終わってさっきから心配そうに俺のことを見ていた柳が立ち上がりました。



「……げふっ……どうしました?」



柳は何も言わずに向かいの席から俺の横の席に移動して、ちょこんと座りました。そしておもむろに箸を手にとり、顔をキリっとさせて少しばかり力強い声で言いました。




「私も食べる!」




柳……なんといじらしい。

























「祐亜……私……もう……ダメ」




どれぐらい二人で頑張って食べたでしょうか? 俺の横の席に移動してまで頑張ってくれていた柳はついにバタンと俺の膝元に向かって倒れ込んで来ました。




「やな……ぎ……だい……じょうぶ……うぷ……ですか?」




最早喋ることさえ命懸けであります。柳は完全にグロッキーです。俺の膝元で意識を失った柳は返事も出来ず、目を瞑って息絶えてます。




しかし、柳の協力もあり馬鹿みたいにあった冷やし中華キリノスペシャルは残す所一人前弱となりました。




ここまで来たら最早気合いしかありません。

俺は目の前の冷やし中華を睨み付け、ラストスパートに取りかかりました。




「エキゾチックマニューバァアアアア!!!!」















結局店を出たのは2時半。食い過ぎのために意識を失った柳を背中に背負い、俺はブレードブレーバを後にしました。二度と来ません。



試作二号機はここに停留させておきましょう。とてもじゃないですが自転車なんて漕げやしません。




「……生きてますか?」




「ぅむぅ……」




ダメっぽいですね。仕方ない、このまま俺ん家まで運ぶしかありません。普通に歩けば30分もかからないでしょう。




そう思って俺はゆっくりと歩き始めました。



その時でした。

歩いていた俺は、いきなり左の足首をガシッと誰かに掴まれました。




「なっ!?」



柳を背負っていたのでなんとか転倒を避けまいと俺は踏ん張りました。そんでもって俺は視線を自分の足首へと移します。




「あぅ……ベヌジェクト星人との交信に失敗しましたぁー助けてくださいですぅ」



電波な女の子が俺の足をがっしりと掴んでました。


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