その時歴史が動いたんですね、わかりますよ
只今昼休みです。
昨日は上杉さんや沢木なんとかさんやらの少し違った一面を見れた、ちょっと得した1日でした。
実は今、結衣と二人でパソコン室にいるんです。キャスターのついた椅子を俺の横に移動させて座る、ララに新垣結衣を足してハルヒで割ったような美貌の持ち主は極めて真剣な顔でモニターをのぞき込んでいます。涼宮・結衣・デビルークですね。
こんな美人さんと二人きり。本当なら発狂乱舞する場面なのでしょうが、軽く鬱です。
よくなんかラブコメの主人公がですよ、
『普通の日常戻ってこーい』
とかなんとか、自分の置かれた羨ましい状況を棚に上げてなんかこんな事言ってるじゃないですか?
あれ、正直うざいじゃないですか?
お前女の子に囲まれてドタバタな日常過ごすのと、普通ぅーに過ごして、普通ぅーにまぁ適当に彼女が出来て、普通ぅーに卒業するのとどっちが楽しいかなんて言ったらですよ、もう前者に決まってるじゃないですかと。
だからですね、俺はですよ? もし自分がそんなシチュに置かれたらですね、もう心行くまで楽しもうと。いくら世間で叩かれようが俺は、誠になろうと。もう最終回は沢木なんとかさんにマウントポジション取られて惨殺されて、結衣に首を切り取られて二人でヨットで放浪しても構わない。それぐらいのテンションでいようと思い続けてたんですよ。
けどですね、正直俺は今自分の置かれたシチュを楽しめない訳ですよ。
なんでなんて聞かないで下さいよ……。
「祐亜、ここのツッコミとボケのテンポをよく見てほしいの。すごくない……この寸分互いない間……惚れ惚れするわ!」
只今、漫才のDVDをコマ送りのヘビーローテで見せられています。こんな視点でお笑いなんて見たくないですよ……。
くそ、何故だ!! 何故ラブコメに漫才が入ってくるのですか!! 普通だったら何故か超美人の神村結衣が特に理由もなく俺のこと好きになって、俺がそれを迷惑がるって言うのが王道じゃないですか?
なんでメインヒロインが全く俺自身に興味を示してねぇんだぁよぉー!!
「ちょっと祐亜、しっかり見てよ!」
「あっ、はい」
それから昼休みいっぱいDVD観賞は続きまして、やっと結衣から解放されて只今教室の机でぐったりしている次第です。あーもう吐きそう。スローモーションのなんでやねんを何回見たことか……。
「なんで貴重な昼休みに漫才をヘビーローテしてみないといけないんすか」
「まぁ、いいじゃんか。神村と同じ時間を共有できるなんてな。それよりお前5限目体育祭の選手決めだぞ……この意味わかるな?」
はっ!! そうでした! 今日は来る2週間後の体育祭の選手決めの日でした。
そして我が校の生徒たちの隠れメインイベント……男女自由参加型二人三脚に出場するかしないかを決める日でもあります。
この二人三脚に出場するか否かでリア充かどうか判断される……この学校におけるポジションを決める上で大事なイベントなのであります。
つまり、可愛い女の子と出場すればそいつは……。
「他の男子とは格の違う天下に轟く武士……そうですな?」
祐一が俺の肩に手をおいてニヤリと笑いました。
「左様」
フフフ……去年は二人ともこのイベントに参加はできずに苦汁を嘗めさせられたものですが……今年は違う。
今回、我々には絶対的な勝算がある。
祐一には恋人が、そして私には……戦国一の美女とあだ名されたお市、いや神村結衣という相方が!!
まだ恋仲ではないが、結衣と一緒に二人三脚をするということだけで私は他を超越した存在になる……。
そして私は新世界の神になる!!
その時、教室の扉が開きました。そこから入ってきたのは祐一の彼女である樋口さんと、そしてその絶世の美貌を常時暴力的にふりまいている神村結衣。
教室が俄かにどよめきたちます。そして結衣に向かっていた視線が自然と俺に集まります。
駄目だ!! まだ笑うな、こらえろ。し、しかし……。
神村結衣が俺に近づいてくるまで恐らく20秒、それまでは射殺される可能性がある。15秒……15秒になったら勝利を宣言しよう。くははは……皆さんこの学校で一番のリア充はこちらですよ……ふふふ!
ゆっくりと神村結衣がこちらに向かって歩いてきます。そして男子をキュン死させるような笑みを浮かべて手を振りながら、こう元気よく言いました。
「陸上部の高原くーん、一緒に二人三脚でよー?」
ドンガラガッシャーン!!
あたしは死んだ。
ざわざわ……ざわざわ……ざわざわ
莫迦な……。
「ぼ、僕ですか!?」
急に名前を呼ばれた高原くんはかなり挙動不審な様子で結衣を見つめながら立ち上がりました。
「うん、そうだよ?」
小悪魔的な笑みを振りまきながら結衣が高原くんの席に向かっていきます。
「祐亜と一緒に出てコンビ仲を深めるのもいいかなぁーって思ったけどやっぱ出るなら勝ちたいじゃん? それに今回は何か優勝商品も出るらしいし」
だからね、と結衣は言って高原くんの両手を取り、なお且つ上目づかいで子猫のような甘い声を出しました。
「一緒に、出よ?」
ズギヤァアアアアアアアアンンンン!!!!
――──上目づかいなくして、口説きのカタルシスはありえねぇ。
化粧や色仕掛けなど、私以外の人間がやっていればいい
私以外の全ての女が。
エステだの美肌だのコスメだの……。
セブンティーンだのフンワリモテカワアイサレガールだの秋のマストアイテムだの
そんなもの落とすという行為を物質に例えた場合、不純物に過ぎない。
そう言わんばかりの結衣の圧倒的破壊力ッッ!!
「これが……神村………結衣ッッッッ!!」
俺は愚かでした……。神村結衣という女においては我々男性諸子などは所詮、
替え肉ッッ!!
「是非喜んで」
そうとも気付かず結衣の色気に当てられた高原くんはすっかり骨抜きにされ、強く結衣の手を握り返したのでした。
「祐一さん……恋たちも一緒に出ましょう?」
「恋さん……あなたとならエデンの園の果てまでもお供致しますよ」
人の気も知れず馬鹿なカップルがに手を取り合って見つめ合い、ほわほわーんってなってます。
死ねばいいのに。
「それじゃあ、高原くん後でね? あっ、祐亜もバイバーイ! 恋行こ?」
結衣はいつもの無邪気な笑顔でチラッと俺を見つめて手を振った後、身を翻して教室から出て行きました。
「はい。それじゃあ、祐一さん。恋はここでおいとまさせて頂きます」
そういって樋口さんはそのトローンとした目を、さらにトローンとさせて祐一を愛おしいそうに眺めた後教室を後にしていきました。
パタン
「ククク……」
樋口さんが去ったのを見計らい祐一が俺の方へ不気味な笑みを浮かべながら近寄ってきます。
「この学校……いや、この街の、いや!! 全国の高校を見渡しても屈指の美少女の心を射止めたお前はいわば戦国の世を治めた徳川家康、そして俺はさしずめ貴様から偏狭の地へ飛ばされた外様大名の島津氏と言った所……」
「しかし今ッッッ!!!!…………徳永の世は滅びた!! 島津の手によってだ!!」
はっ……これはまさか!?
「そうだ……」
───明治維新ッッッッ!!!!
列強の接近ッッ!! 幕府の著しい衰退ッッ!! 雄藩の台頭ッッ!! 社会の価値観の変化ッッ!! 重なりあったそれぞれの要素が複雑に作用し合い、腐敗しきった幕府を大政奉還させ日本社会を近代化させるに至った、それが……。
明 治 維 新! ! !
「どうだ……地に堕ちた気分は? フフフ……言葉もないか。所詮貴様は神村結衣にとって捨て駒に過ぎなかったということだ」
「ククク……」
「……何がおかしい?」
甘い……甘すぎるぞ、島津殿!! この私の牙が、それほどのことで折れることがあらんや!!(いや、折れることはない)
「島津よ……驕りは勝利の足元を突き崩すぞ」
「驕りだと? 貴様自分の立場が理解できているのか? お前は神村結衣に捨てられたんだぞ」
「フフフ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!」
絶叫にも似た笑いが教室を満たす、とくながのなく頃に状態です。
「この私が神村結衣に捨てられただと!? フハハハハハハ!! 浅薄……浅薄ッッッッ!!!! 手は既に打ってあるのだよ。あの掴みどころのない女御だけのことを私が考えているとでも?」
「そ、それは一体どういう意味だ?」
ドドドドドドドドドドドドド
「地に堕ちた、か。驕りが過ぎるぞ島津……誰も最初から天になど立っていない」
ガラガラ
その時、羅生門(普通に教室の扉)が開く音が室内に悠然と響き渡りました。
「なっ……まさか!? こんなことが!!」
島津氏はそこに立っていた人物を見て驚嘆しています。
「しかし、その耐え難い空白の座も今日終わる。今日からは……」
私 が 天 に 立 つ ! !
「徳永……少しいいか?」
腰までなびく艶やかな黒髪、キリっした形のよい眉、凛としていながらもどこか少女の可愛らしさを残す顔立ち、制服の下からも主張してくるその豊満な胸、形容しがたい優美な曲線を描くボディーライン、天から差し込む光とも見まがう白光としたその美脚。
曰わく神村結衣を天照大神と称するなら、彼女は大天使ガブリエル。
――──その少女の名は沢木亜弥。
ククク……これが主人公の力だッッッッ!!
主人公補正を侮るなよ? おん?
正とは違うのだよ!! 正とは!!
いくらラブコメらしくないラブコメだって言ってもな、お約束パターンってのがあるんだよ?
いくら路線を外れていこうが、いずれラブコメらしいパターンへと戻ってくる。
祐一が俺と沢木なんとかさんを交互に見合わせながら、その顔にありありと恐怖にも畏怖にも似た表情を浮かべさせています。
「こ、これではまるで……」
ニヤリ
その通りだよ……祐一。これはラブコメにおける……。
価 格 の 自 動 調 節 作 用ッッッッ!!
彼のアダムスミスはそれを、その著『国富論』において『やるらの見えざる手』と述べたことは余りにも有名であります。
「何を見つめ合ってニヤニヤしているんだ? 徳永早くこっちに来てくれ」
「あっ、すいません」
俺と祐一を腕組みしながら不思議そうな、どことなく怒ったような顔をして見つめていましたので、俺は急いで教室を後にしました。
「沢木さん、今日はどうしたんですか?」
俺が扉を閉め答えが分かり切っている質問をすると、沢木さんはいきなり俺の手を掴んでグイグイとどこかに向かって歩き始めました。
「おわっ!?」
「ここは少し場所が悪い。ちょっとこっちまで来てくれ」
一般の主人公ですとここで、
『わっ!? バカやろう!! みんな見てんだろうが!! 逃げねぇから手離せって!!』
と言うのがテンプレなのでしょうが。
ふん。俺はそんな甘ちゃんチェリーボーイとは違うのですよ。
「うわぁー沢木さん、外してくださいよー(棒読み)」
廊下ごしに各クラスの男子が、学年屈指の美少女に腕を引かれてどこかに連れていかれている俺の姿を見ています。
俺は慌てふためいた表情を見せながら内心ではほくそ笑み、各クラスの男子の連中に蔑みの視線を送ります。
フハハハハハハ!!!! どうだぁ?
こ れ が リ ア 充 な ん だ よ?
真 似 し て ご ら ん ?




