メインヒロインが固過ぎてサブヒロインがちょろいという風潮ですね、あると思います
「すまない!! 思わず力が入ってしまって」
沢木なんとかさんは俺の元へと必死になって謝りながら駆け寄って来ました。どうせ謝るんだったらもうポリバケツ持ってきた段階の所から謝罪して欲しいですけどね。
「いや、俺は大丈夫です。それより上杉さんは?」
立ち上がって上杉さんの近くに駆け寄ると石を受け止めている左手から血が微かに滲んでいました。
「大丈夫っすか!?」
「……大丈夫」
そっけなく言われましたが、俺は思わず心配になり上杉さんの左手を掴んだんです。そしたらその瞬間、なんともストレンジな、実にストレンジな驚くべき反応を上杉さんが取ったのです。
「ひゃう!?」
───ザ・ワールド。時は止まる
俺も含め心配して駆け寄ってきた沢木なんとかさんでさえ固まっています。あの常に無表情で幼少期を虎の穴で過ごしたんじゃないかと言われている上杉さんが顔を真っ赤にして『ひゃう!?』ですよ?
例えるならですね、綾波がですよ?
『あなたはあたしが守るっていうwwwwwwwwwだから死なないって言うwwwwwwプェwwwwプェwwww』
的な。もっと言うなら長門がですよ?
「べ、別にあんたのために情報操作した訳じゃないんだから!! か、勘違いしないでよね!?」
みたいな。こんなこと言っちゃうぐらいの衝撃があった訳ですよ。
しばらくは固まってました。みんなアストロンでしたね。
その後、無表情のまま顔面を真っ赤にした上杉さんは鞄を両手で抱え、
「……風邪ひいた」
と言い訳がましく言いながらそそくさと帰って行きました。
「随分と柳に好かれたものだな」
二人で遠くなる柳さんの後ろ姿を眺めていると横にいる沢木なんとかさんが呆れているようなトーンの口調で呟きました。
恐るべし、古田パンの手作りカツサンド……。
またしばらくした後、俺と沢木さんは各々自分の黒鞄を手にしました。辺りもすっかり夕焼けこやけな訳です。
「さて、私たちも帰るとしようか」
「じゃあ俺こっちなんで」
「私もそっちだ」
「…………」
会話が保たないですね、この人だったら多分。あっちの方向に帰ろうかな。
只今夕焼けこやけな帰り道です。辺りにはチラホラ同じ制服の奴らも見かけたりします。そんでみんな一様に俺たちにもの珍しそうな視線を送ってくる訳です。
あの野郎……もう神村結衣から乗り換えやがったか。
そんな風に思われているのでしょうか。だとしたらそれは大きな勘違いです。
いくら容姿が端正とは言え、99マイルのジャイロボール投げられる女の子なんてこっちから願い下げでありますわ。普通に殺されかけたし。
まぁ……可愛いんですけどね。
俺は少し離れて横にいる沢木なんとかさんの顔をこっそり盗み見してみました。
西日に照らされたその顔は、可愛らしいっていうより凛々しくて。多分あの4人の中だったら一番俺の好みだったりします。顔だけですけどね。
きっとこの子がセガールの遺伝子を引き継いでいなかったとしたら、俺は惚れてたかもです。いや、結衣も捨てがたいな……ってあっ! そう言えば俺振られてたな。
「なんだ? 私の顔に何かついているのか?」
「いや、なんでもないっす!」
急にこちらに向き直った沢木なんとかさんに俺は片手を振って、笑顔を作ってみせました。
「そうか」
またしても沈黙であります。
…………。
なんかあれです。沈黙が続くと何か喋らないといけない気がします。アニメの特典映像についてくる声優のオーディオコメンタリーでの沈黙ほど気まずいものはないって言いますしね。だから俺は何気なく聞いてみたんです。
「沢木さんって彼氏とかいないんすか?」
「彼氏? いない、そんなもの」
沢木なんとかさんは俺の顔をチラっと見ると、その綺麗な形の眉をキリっと吊り上げそっぽを向きました。
「そんだけ可愛けりゃ、一人や二人はいるかと思ったんですが」
沢木なんとかさんは何も言いません。ただなんか表情を暗くさせています。なんかブラクラでも踏んじゃったのでしょうか?
「……私は女の子らしくないからな」
急に蚊のような声で沢木なんとかさんは何か呟きました。
「えっ? キャスバルレム・ダイクンがどうかしましたか?」
俺が聞き返すと、急に沢木なんとかさんは歩みを止めその場に立ち止まりました。えっ……なになに?怖いんだけど。
「私の周りの男たちは最初はみな私に言い寄ってくる。しかし私と幾何か過ごすとみな離れていくのだ……私が女の子らしくないと言って」
悲嘆にくれる麗しき少女みたいな表情を浮かべ、沢木なんとかさんは辛そうな声を絞り出しています。
まぁ、確かにいくら容姿が大暮維人タッチばりの美人さんでも中身が板垣恵介タッチだったらねぇ……。
「女の子らしいとは一体なんだ? 男の前で淫らな態度を取り、弱さを見せることが女の子らしいということなのか!?」
沢木なんとかさんは胸倉は掴んで俺に言い寄って来ました。いや、なんというか既にそういう行為が女の子らしくないと言いますか……というか返答次第では田島陽子に怒られそうなデリケートな質問に俺が答えられる訳ありません。だから俺は核心をついてみることにしました。
「沢木さんは女の子らしくなりたいんですか?」
俺がそう言うと沢木なんとかさんははっとした表情になって、胸倉から手を離しました。
「いや……別にそういう訳ではないのだ……。ただ私は……」
沢木なんとかさんはそれだけいうと沈鬱な表情をされて黙りこくってしまいました。なんとコロコロコロコロと……忙しい方でありますな。
夕日に照らされながらさてどうしたものかと考えていると近くにここらの学生諸氏がよく利用する雑貨屋が目に入りました。
ほう……あれはなんか使えそうですな。
「沢木さん、こっち来てください!」
「むっ!? うわ? どこに行くのだ徳永!!」
俺は沢木なんとかさんの手を掴んで雑貨店に向かいました。いつもなら学生諸氏で賑わう洒落たお店なんですが、今日はたまたま人もおらず俺にとっては好都合な感じです。
「なんだ……なにか買うと言うなら一人で買えばいいだろ」
「違うっすよ。沢木さんにプレゼントっす」
すると沢木なんとかさんは急にあたふたし始めました。
「なんだ!! 買収する気か貴様! 私はそんなことで手込めにされるような安い女ではない!」
あぁ……ガミガミうるさいな。
俺は適当にスルーして近くにあった黒色のヘアバンというかカチューシャーというかリボンと言うか、そんな的なものを手に取り沢木なんとかさんの頭にポンと乗せました。
うわぁ……やっぱりCLA○NA○の智代みたぁーい。
「な、なんの真似だ?」
沢木さんは状況が読み込めないのか、鳩がツインバスターライフル喰らったみたいな顔をしてます。
「こんなんでも大分女の子っぽくなりますよ、沢木さん可愛いっすから!」
「ば、莫迦ものめ!! 私は別に女の子らしくなどなりたい訳では……」
顔を真っ赤にしてまくしたてる沢木さんは、それはそれは年相応の女の子って感じでした。表面上はね。
「別に男全員の前で女の子らしく振る舞う必要はないですしみんなに好かれる必要なんてないですよ? それに女の子らしいってことは沢木さんらしいってことじゃなくなりますからね。でももし好きな男がこれから出来たならそいつの前だけでは沢木さんの弱さを、女の子っぽい所見せちゃってもいいんじゃないんですか?」
俺がまぁ、沢木なんとかさんへの印象を少しでもアップさせるために少しくさい台詞を言うと沢木なんとかさんは妙に納得をしたような顔をした後、自分の頭に乗せられたなんか黒いカチューシャーかヘアバンかリボンかよくわかんない奴を不思議そうに触りました。
「その話と、これは一体何の関連が?」
それはただ俺がCL○NNA○の智代が好きだから、沢木さんに付けさせてみたいという思春期の青い衝動から来たものです。
「むむむ……やっぱりこれは私には似合っていないのではないか?」
すっかり日の落ちた暗い夜道を二人で歩いてます。沢木なんとかさんは俺があげたカチューシャーかなんだか(以下略)をしきりに触っています。
「いやぁー沢木さん、ダンチに可愛いっすよ。まぁ、少なくとも沢木さんはそういうのつけるだけで一気に可愛くなる女の子ってことです! 女の子らしくないなんてとんでもないですよ?」
俺はもうよく暗くて見えなかったんですが、先ほどの沢木なんとかさんの姿を思い浮かべてこんなことを口にしちゃいました。
「むむむ……口から出任せを言うな」
うーん、隙のない方だな。これは確かに男も寄り付きづらいっすねぇ……。
それからしばらくは二人とも黙って夜道を歩きました。耳に入ってくるのは行き交う車の騒音だけで、少し物寂しいです。
しばらく歩くと、十字路に差し掛かりました。そこで沢木なんとかさんは俺の一歩前に出ました。
「私はあっちだから、ここまでだな」
「そっすか、それじゃあまた明日。あっ、明日は手加減お願いしますよぉ?」
俺は沢木なんとかさんに微笑みかけた後、その場を去ろうとしました。
すると、いきなり沢木なんとかさんが俺の腕を掴んできました。
「むむむ……あのだな? 徳永……」
今沢木なんとかさんがどんな顔をしているのかは伺い知ることはできませんが、自分の方はびっくりな訳です。なんでって掴んでる力が花山薫級の握力だったらまだ分かるんですが、握ってる力があまりにもか弱い力、女の子みたいな感じなんで不気味なんですよ。
「ど、どうしたんすか!?」
俺はちょっと声をうわずらせてしまいながら聞き返します。その時、通り過ぎていく車のライトが俺たちを照らしていきました。
そこに照らしだされた沢木なんとかさんの顔は、俺の知ってるあの怒ってるみたいな顔じゃなくて少し頬を赤らめている普通の女の子みたいなそれで……。
「今日はあれだ! あの……あっ……ありがとう」
彼女はそう言った後すぐに暗がりの中に走って消えていってしまいました。
……正ならおっきしてますね、これは。




