ベストカップルの誕生である
「ふぅあああああ……」
まだ半分しか起きていない頭を無理やり起こして、髪をクシャクシャしながら俺はベッドから立ち上がりました。だるいなぁ……。カーテンの隙間から差し込む暴力的な朝日……また日が昇ってしまったか。
「祐亜!! 飯だ!!」
一階から荒々しい姉貴の声がします。俺は制服に着替えてから下に向かうことにしました。
着ていたジャージを脱ぎ捨てて夏服に袖を通して、爽やかでトロピカールな香水を軽くふって階段を下ります。
食卓に向かうと、姉貴がたまごやきをつまんでました。そして俺を見るなり、椅子から立ち上がり怖い顔しながらこちらに近づいてきました。
「おいっ下僕コラ? 姉貴が呼んだらコンマ一秒で来いや? 待たせてんじゃねぇよ、ああん!?」
箸をくわえて近づいてきて、胸倉を掴んでくるのは俺の双子の姉の杏華です。
俺より数分腹から出てくるのが遅かっただけで、この有り様です。
御覧の通り名前に似つかわしくない凶暴な性格を持っておりまして。しかしむかつくことに人望だけはやたらありまして、先月の生徒会選挙を勝ち上がり生徒会長にのし上がりやがりました。世も末です。
「今日はオヤジも母さんもいないんだから、あたしの特製朝飯だ。感謝しろ、跪け、そして死ね」
キングオブにでも出てきそうな台詞を述べた後、姉貴は椅子に座り直し牛乳を飲みながら朝のニュースを見ています。
くそ、俺がこいつより早く母さんからひりだされていなかったら主従関係は逆転していただろうに!!
俺は恨めしく思いながらも、姉貴の作ってくれた朝飯に箸をのばします。
「ところで祐亜? お前すっかり有名人なのな」
「姉貴程じゃねぇよ……」
茶碗片手に姉貴に言葉を返すと、姉貴はくすぐったそうに笑いました。
「あははは! あたしの前ではジミーペイジでさえその影が薄くなるかんな! ほらえっーと誰だっけ? あのタメの神村結衣?、すげぇー美人な。あの子と付き合ってんだろ?」
ジミーペイジを引き合いに出すのは俺と同じ音楽好きの姉貴らしい所であります。しかし……事実がだいぶ湾曲されて伝えられているようですな。
「……そんなんじゃないっす」
俺が麦茶で喉を潤していると、姉貴は嬉しそうに笑いながら体を前のめりにして俺の肩をガシガシ叩きはじめました。
「はっはっはっは!! やっぱしな! お姉ちゃんは最初からちゃぁああーーんとわかってたよ? お前みたいなチンカスで薄顔でチャラ男で甲斐性なしなクズ人間がこの街一番の美人と付き合うなんてな!! ありえねぇ! あははは!」
肉親をここまでズタボロに言いますかね、普通……。
「ふははははは!! 我が弟の夢物語も聞けたし、あたしももう学校行くか。お姉ちゃんが先に行ってさみしいか? さみしいだろうな! お前の昨日のオカズを発表したら一緒に行ってやるぞ?」
そんなもん発表してどうするんですか……。てかそれを聞いてどんな会話しながら学校に行けばいいんですか?ってね。
「……早く行っちゃって下さい」
俺はテーブルに突っ伏してしまいました。朝からこんなテンションの高い奴とからみたくないです。姉貴は俺の髪の毛を片手で豪快にワシャワシャした後、玄関に向かいました。
今日は昨日のせいでなんかどっと疲れてしまいました……少し寝てから学校に行きましょうか。スタイリッシュ遅刻宣言。
リビングのソファーで横になり惰眠を貪ろうとした所、玄関から俺を呼ぶ姉貴の声が家中に響きました。
「祐亜ーッ!! 可愛いお客さんが来てんぞ!! 待たせるなよ! もし待たせたらケツの穴から手突っ込んで小腸を引きずり出すからな」
物騒な姉貴の叫びを耳にし、俺は重い体を起こして玄関に向かいました。
「どちらさんっすかー?」
寝癖のままの髪に半目しか開いていない、フォウ・ムラサメのキャラぐらい危ない状態で来賓に会いに行くと、そこには少したれ目で今ではおしとやから溢れるボブショートの可愛らしいお嬢さんがひっそりとおられました。そして俺に気づくとペコリと挨拶をする訳です。
「おはようございます。樋口恋です。徳永さんのお迎えにあがりました」
…………。
思考が上手く働かないです……えっと……これは?
「急げ、時間がないぞ! 朝のSHRに間に合わなくなる!」
ゴーゴンに睨まれたかのように固まる俺です。それとなんのこっちゃか分かってないままニコニコ笑ってる樋口さんの後ろの扉が勢いよく開かれました。そこにいたのは神村結衣に匹敵すほどの美貌の持ち主の沢木なんとかさん。
俺の朝の穏やかな日常がツインバスターライフルで粉々にされていくような錯覚に襲われ、その場に倒れこみそうになりました
頭が重ーいです。
なんでこんなに体がだるいのに、俺はこんな真面目な時間に学校に行っているのでしょうか。
左側にはニコニコしている癒し系の女の子。右側には寡黙な女の子。なんだこのウハウハシチュエーション?
沈黙が支配しています。なんだこの宇宙要塞ア・バオア・クー的雰囲気は……。
どんな雰囲気だよ!?
っとセルフ突っ込みを入れて置いて、俺は左側のホワホワした女の子に喋りかけてみます。なぜなら右側の女の子は喋りかけたら殺されそうな雰囲気が出ているからです。
「あの……どうしてわざわざお迎えなんかに来てくれたんすか?」
俺が申し訳なさそうに尋ねると樋口さんはナイチンゲールもびっくりな優しい微笑みを浮かべました。
「はい、以前のような事が起こらないようにと念のための警護です。祐亜さんに絡んできそうな人はこれからもたくさんいるでしょうから」
なんという柔らかい物言いなんでしょうか……我が家のタイラントにも見習って欲しいものです。
「結衣さんに関わってしまう男性の方は皆様同じ苦労をなさりますので、過去の例を踏まえての恋たちの独断専攻です。恋たちがいればもう安心ですよ?」
そう言って樋口さんは目の前で両手を合わせて微笑みました。過去に何があったんだろう?
女の子に守られる男子高校生ってのもどうよ? と思いますが正直あんな連中とは一人でやり合っても勝てる気がしないですから頼りになるっちゃなるんですが……やっぱなんだか複雑な心境です。
苦笑いを樋口さんに向けて浮かべると、反対側から沢木なんとかさんの凜とした声がします。
「言っておくが、いつまでもお前のお守りをするのは御免だ。自分の身は自分で守れるぐらいにはなってもらうからな。それが結衣の相方になるということだ」
強くならないといけないのは分かってますが、その理由が相方になるからです
か……恋人ならまだそりゃやる気も出ますがね。相方ですよ? ボケ担当ですよ?
ドガ! ズゴ! バキッ!
『ぐっあ!? つ、強い!! て、てめぇは神村のなんなんだよ?』
『あん? 俺はな……あいつにとってかけがえのない………ボケ担当だコラ! 文句あんのか? 毎日突っ込んでもらってんぞ!?』
だっ……ださすぎる。
鬱になった所で目の前に見慣れた校舎の野郎が視界に入ってきました。
昇降口に向かい、下駄箱で上履きに履き替え二年の教室がある二階へと向かいます。その間も俺はニコニコしている樋口さんと他愛のない会話を。沢木さんは横で終始怒ってるみたいな表情を浮かべてらっしゃいました。
「それじゃあ、恋は6組なのでここでおいとまさせて頂きます」
そう言って樋口さんは俺に向けて、ペコリとお辞儀をしました。
結局樋口さんは俺の教室の前までついて来てくれたのです。なかなか心配症の方ですな。あの沢木なんとかさんは速攻でどこかに行ってしまったと言うのに。
「あっ祐亜! 昨日雷電が素っ裸になった後さ急に大佐がいますぐゲームの電源を切るんだって言うから切ったんだけどさ、それで良かったのか?」
朝っぱから懐かしいネタを振りながら俺に近づいてくるのは祐一です。今更2かよって言うね……。もう5が出るぞ、5がよ。
「徳永さんのお友達ですか?」
首を傾げながら樋口さんが聞いてきます。祐一の姿は俺に重なって見えないようです。
「えっ、あっ……まぁ友達なんでしょうね。俺としては不服ですが」
「あら? 祐亜その娘だ…………………っっ!!」
俺の隣に立ち、樋口さんを見た祐一が絶句しました。完全に固まってます。こいつの周りだけ時が止められてます。アイオーンの仕業か!?
「おーい、祐一! もしもーし?」
目の前で手を振ってみるのですが、全く反応がありません。これはあれかヒトメボレloverってやつか。
ふん、ばかめ。お前のような男を樋口さんみたいな可愛い女の子が相手する訳ねぇだろ……身の程を知れよ万年モブ野郎。
「樋口さん、すいません。こいつちょっと頭おか……」
樋口さんの方を向き直って軽く謝ろうとした時、俺は言葉を失いました。
樋口さんが祐一を見つめたまま固まっているのです。まるで、生で福山雅治を見た我が家のおかんのような目をして。
お前もかい!!!!
何この超展開?
時を止められていた祐一が、一歩樋口さんの方に歩みよりました。そして樋口さんの手を取ります。
「名前も知らぬあなたにこんなことを聞くのは失礼かもしれません。ただ、私はあなたの中に宇宙を見ました。付き合ってください」
は……!?
「ふつつか者ですが……」
頬を赤らめる樋口さん。
なんじゃそりゃあああああああ!!!!




