重罪人
「この世で、1番重い罪って何だと思う?」
「……なんだ突然。いや、いい。私は勉強に集中したい」
「勉強に付き合ってやってるんだから、話しぐらい付き合えよ」
俺は持っていたペンを、学校机の反対側に座っている千夏に向け抗議をする。
「付き合ってくれるのは感謝してるが……はぁ、分かった。秋人の好きにしろ」
「そうこなくちゃな。で、千夏はどう思う?」
千夏は数学のワークから目を離し、少し考えた後答える。
「やっぱり、殺人だろ」
「まぁ、普通そう考えるよな」
千夏は根本的に話をする気は無いのか、質問に答えるとすぐに視線下に向け、ペンを動かしていた。
これじゃ、まるで俺が1人で話してるみたいじゃないか。
「確かに殺人は重罪だよな。事によっちゃ死刑だ」
「そうだな」
千夏はワークから目を逸らさず、返して来た。
「でもな、俺はもっと重い罪があると思うんだ」
「……その、重い罪ってのは何だ?」
千夏はペンを一瞬だけ止め、またペンを動かす。
「それはな……相手に期待させる事だ」
「……」
俺は千夏の返しを待つ。
「……」
「…………」
「……」
「千夏?」
「うん?どうした」
「いや……なんか、感想を……」
少し悲しくなって来たぞ……。
「いや、想像以上に話の内容がショボくなりそうだったからつい、な」
「い、いや!千夏もそう思わないか!?」
「まず、期待をさせるどこが罪なんだ?」
俺は待ってましたと言わんばかりに、期待させる罪について語り始める。
「いいか?まず、殺人ってのは基本的に自分の意思で行う事だ」
「まぁ、故意じゃなければ事故だしな」
「そう!で、期待させるってのは……基本的に無意識だ」
「うーん……そうなのか?」
「あぁ、そうだ」
とうとう、千夏もこの話しに興味を持ったのか、ペンを置き俺の話しに集中してくれてるようだ。
「無意識で相手に期待をさせる。下手をすれば、相手を傷付ける事になる」
「それの、どこが殺人より重いんだ?」
「問題は、無意識なのか故意なのかだ」
俺は、自分の持ち得る知識を持って千夏に期待をさせる事によって起きる罪について語った。
「──だから、期待させるってのは罪なんだ」
「……なるほど」
俺は一息つき、千夏に聞く。
「理解出来たか?」
「私か?いや、全く意味が分からなかった」
「……だと思ったよ」
途中から、俺の言葉が千夏の右耳から左耳へと出て行くのが見えたからな。
「さてと……私はもう帰るな」
「勉強はもういいのか?」
「秋人が話してる間に、終わらせた」
千夏はさっさと荷物を片付け、教室を出て行こうとしてしまった。
「あぁ、そうだ」
「どうした」
俺も帰るために荷物を片付けていると、千夏が教室の入り口付近で振り返り声をかけて来た。
「私、秋人に自虐癖があるなんて知らなかった」
「うん?何の話しだ?」
自虐癖だど?
俺にはそんな性癖はないが。
「自覚なし、か……はぁ」
「何で溜息つくんだよ!」
「知らぬが仏だ」
全くもって意味が分からないんだが……。
「って、もうこんな時間か……」
「そうだな。千夏、遅くなると危ないから早く帰れよー」
「大抵の男になら、勝てる自信はあるがな」
そう残し、千夏は教室から出て行ってしまった。
「自虐癖ねぇ……」
俺は1人呟きながら、帰り支度を終わらす。
「そうだ、秋人」
「まだ帰ってなかったのかよ……」
声のした方を向くと、教室の入り口から顔だけ出している千夏がいた。
「秋人に新しいあだ名を考えた」
「いや、頼んでないけど」
いきなりだな。
「また、明日な……重罪人!」
「……はっ!?誰が何だって!」
急いで廊下に出ると、千夏がちょうど階段を下りる後ろ姿が見えた。
「なんで、あだ名が重罪人なんだよ──」
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