夏の夜空と祭りの熱 【月夜譚No.366】
久し振りに外出をしたら、近所で縁日をやっていた。賑やかな祭囃子と人の声、夜に映えた提灯の灯りに日が暮れようと衰えない熱気。
すぐ脇を浴衣を着た子ども達が駆け抜けていって、彼は驚くと同時にその無邪気な様子に笑みを零した。
そういえば、毎年この日には地元の神社で祭りをやっていた。子どもの頃はよく遊びに行っていたというのに、大人になってからは忙しさに存在すらも忘れかけていた。
折角だからと、屋台が並ぶ参道へサンダルの足を向ける。香ばしいソースの香りが鼻を擽り、それが欲しいと腹が鳴る。どうにも我慢ができなくて、近くにあった焼きそばを買って道端で頬張った。
きっとこれと同じものを家で食べても、特別美味しいとは感じないのだろう。しかし今はこの空気感が味覚に作用して、今まで食べたどんな焼きそばよりも美味しいと思う。
今年から独立して自宅での仕事が主になり、数日家を出ないことも多くなった。仕事上の通話はするものの、実家が近くにありながら家族にも連絡するのは稀で、誰かと他愛無い話をする機会もめっきり減ってしまった。
けれどこうやって、普段とは違う空気を感じるのも悪くはない。偶には用事がなくとも散歩くらいはしようかと思いながら、祭りの空気を吸い込む夏の夜空をそっと見上げた。




