いつかの思い出
焚き火が、パチパチと小気味よく弾けていた。
セコ―ル・ランガースのとある森の中。討伐任務を終えたアドマイヤの面々は、森の一角に野営地を設け、簡素ながら温かな食事をとり、作戦の振り返りと明日からの活動方針を立てた後、順々に眠りに就いていった。空には雲がかかり、月の姿はまだ見えない。
今はセナが見張りの番で、焚き火のそばに腰を下ろしていた。ふいに、寝袋からララが起き上がり、焚き火の方へ歩み寄ってくる。
「さむ~。寒くて寝れないよ~。近くで暖まらせて~」
「もう冬も近いからね。そんな薄着じゃ寒いのは当然だよ」
「だってこの格好が一番動きやすいんだもん…でも寒いのは嫌だし、次はもうちょっと着込んでくるよ」
そんな何気ない会話のやりとりにも、ふたりの間に育まれた信頼が滲む。
「そうだ、そういえばララに聞きたいことがあったんだ」
「なになにー」
セナがふと思い出したように問いかける。
「前に俺をスカウトしてくれた時、なんで俺を?ってララに尋ねたら、『自分も昔、同じ経験をした』って言ってただろ?あれ、どういうことだったのかなって」
「あぁー、あれね。話してなかったっけ?」
ララは微笑むと、焚き火の炎に手をかざしながら語り始める。
「私ね、訓練学校を卒業したあと、すぐにゴージャスに冒険者登録に行ったの。セナと同じ壮大な夢を引っ提げてね。それはもう、ワクワクしながらね」
そう語るララの瞳は、夢見る幼子のように輝いていた。
「けれど、現実は厳しかったの。同じ日に訪れた冒険者志望者6人の中で、私の魔力量は最も低く、おまけに身体も華奢。そのうえ測定された魔力色は『赤』。身体強化系の魔力だった。女の身で華奢で、魔法職でもなく、ヒーラーでもないやつに冒険者は向いていない。そう言われて、誰にも声をかけてもらえなかったんだ」
ぽつりと告げられた言葉に、焚き火の炎が揺れる。
「そんな私に声をかけてくれたのが、アドマイヤの皆だったの。……といっても、最初に声をかけてくれたのはリーラだったんだけどね。私の背中を見てて、放っておけなかったんだって」
ララは小さく微笑みながら、少し遠くを見つめる。
「そのときリーラが言ってくれたの。『体格とか性別とか。そんなもので人の可能性は決まらない。君がそれを証明してあげて』って。……それが、すごく嬉しくて、その場で泣いちゃったのを今でも覚えてる」
そう話すララの目尻には涙が滲み、焚き火の灯りでキラキラと淡い光を放っていた。
「最初はどこか遠慮があったけど、それでも時間を重ねるうちに皆の暖かい心に触れて、自分の存在が受け入れられていることに気づいたわ。そこからは、私も少しずつ変われた気がしてね。自信も、強さも、仲間と一緒に手に入れることが出来たの」
その後、ララは3ヶ月の育成プログラムで、身体強化の才能を開花させ、凄まじい才能をみせた。次第に見た目からは想像がつかない力を出す女剣士がいると評判になった。この時期から、『見た目で実力は計れない』というのが常識になり始めた。
話を聞いていたセナは、柔らかく目を細める。
「アドマイヤって、昔から暖かい心を持った人達なんだね。なんだか、俺まで嬉しくなっちゃうよ」
「最初、セナをスカウトしたときも、ちょっとだけあの頃の自分を重ねてたのかも」
ララが少しだけ視線を落とす。
「ごめんね、同情もあったの。でも、それ以上にセナの中にある光を見た気がしたの。だから放っておけなかった。きっとこの人は私達の光になってくれるってね」
「買い被りすぎだよ。でも…ありがとう、嬉しいよ」
「だからさ、私がピンチのときは、颯爽と助けに来てよねっ!」
親指を立てるララに、セナが吹き出す。
「ぷふっ。ララがピンチになる姿が想像できないんだけども」
「なによー!女の子を守るのが男の子の役目でしょー!」
そう言って、ふたりは焚き火の前で笑い合った。
そのとき、空の雲がすうっと流れ、月の光がふたりを照らし始める。
「あっ…」
セナの視線がララを捉えたまま、微かに揺れる。
「どうしたの?」
「いや……月の下で見るララが、いつもより、ずっと綺麗に見えたから……」
ぽつりとこぼれたその一言が、焚き火の音さえ一瞬止めてしまったかのような静寂を連れてきた。
ララが返す間もなく、セナは慌てた様子で立ち上がる。
「…トイレっ!!」
そのまま、森の奥へ逃げるように姿を消すセナ。ララは意味もなく焚き火の中の炭を、木の枝でそっとつつきながらつぶやく。
「バカ……」
そう言ったララの頬は赤く染まっている。原因は焚き火の灯りか、それとも…。
最後まで「融合魔術士は異世界の常識をぶっ壊す」をご覧頂き、本当にありがとうございました。
この話はこれで完結となりますが、今後はセナの融合魔術士としての今後を描いた話を、改稿を交えながら投稿していきます。
そちらも読んでいただければ幸いです。
ありがとうございました。




