繋がり
俺はすかさず、ファルとクロールとのリンクを強め、『従魔強化』、『スキル付与《身体強化》』を施す。すると、2体の従魔の体が淡い光を放ち強化とスキル付与が完了する。
強化されたファルが羽ばたくたび、空気は鋭く裂け、目にも留まらぬ速度で上空を旋回する。螺旋を描きながらワイドハイタラスを撹乱するように、鋭く強化された羽根を雨のように放った。一本一本が針のごとく鋭く、乱射される羽根は狙いすましたかのように敵の視界と神経をかき乱していく。
地上ではクロールが一際鋭い気迫を放ちながら、地を蹴って疾駆した。旋風のような動きで、地を螺旋に抉りながら加速。雄々しい一本角を煌めかせ、脚の関節部を狙って凶猛な突進を仕掛ける。その連携に迷いはない。セナの精緻な指示と従魔たちとの信頼が、完璧な戦術として形となって現れていた。
だがしかし。
迷宮の最奥に巣くう覇者は、並の攻撃では動じない。ワイドハイタラスはファルの射撃を、最初こそ煩わしい羽虫が飛び回っている程度と無視していたが、羽音と刃の雨が次第に鬱陶しさを増したのか、口器を広げて鋭い蜘糸を射出する。太く、鋭く、粘性を帯びた糸は、ファルが回避を強いるには十分すぎた。ファルはその回避に専念せざるを得ず、攻撃どころか近づくことすらできなくなる。
一方のクロールも、最大の弱点と思われる関節部を狙って渾身の角撃を放つが、甲高い音が響くだけで、角は一切貫通しない。ワイドハイタラスの関節は、脆いどころか異常なほどの密度を誇る甲殻に覆われており、突破口を与えない。
同時に俺とリオン、ララもクロールに続く形で右側面へと回り込み、残る三本の脚に連携して攻撃を加えた。魔力を目一杯注ぎ込んだ、身体強化による最大馬力を剣筋に調和させ斬り込む。だが、鋭く振り抜いた剣はそのすべてが硬質な甲殻に阻まれ、浅い傷をつけるのが精一杯だった。
とりわけ、パーティーの中で最も高い筋力と剣術を誇るララの一撃ですら、装甲の奥には届かない。剣が震えるほどの衝撃だけが手に残り、返って体力を削られていくようだった。
このままでは持たない。最大火力を担うリーラの魔術も、いまは魔力の回復待ちで戦線に復帰できない。
(……打てる手が、ない)
俺たち全員の脳裏に、同じ思考が過った。ファルの羽も、クロールの角も、俺たちの剣さえも、この迷宮の主の甲殻には通用しない。そう突きつけられた現実が、全員の焦りと不安を増幅させていった。
ワイドハイタラスの動きは鈍重で、攻撃を躱しやすいが、そのうち俺たちの魔力も体力も尽きるだろう。そうなったら…。不吉な予感が、俺たちの背筋を冷たく撫でていた。
その上、あろうことか後方の巣穴から、すでに撃破したはずのワイドタラスが、這い出すように再び現れ始めた。一体、二体……そして、その奥には終わりが見えない。
(……まさか、あれが無限に湧くというのか……!?)
「いよいよやばいぞ……」
リオンの呟きが、胸の奥を貫いた。その一言が、決定的だった。誰もが言葉にしなかった“死”の二文字が、場の空気に染みわたり、仲間達の顔色から希望が消えていくのが分かった。
(どうする……どうする?……俺に、何ができる……!?)
頭の中で幾多の戦略を構築しては破棄、構築しては破棄を繰り返す。結果、すべてが通らないという結論にしか至らなかった。今のままでは、力が、届かない。
そんな絶望の渦中でふと、あの時の感覚が蘇る。初めて自分の魔力を認識したあの瞬間。魂の深奥に存在する、あの“透明な湖”。純水のように澄み渡り、光を包み込むような穏やかさを湛えた場所。俺の根源。
気づけば、俺は再び、意識をその湖の奥へと沈めていた。深く深くその湖が見えるまで。そして再び湖に訪れる。相も変わらず、広大に広がる美しく澄みわたった湖だ。しかし、そこに変化があった。
湖から、まばゆい輝きを放つ二筋の光の線がこちらへと伸びていた。それはロープのように太く、星屑を編み込んだかのようなきらめきを放ち、どこか温かい。
(これは……ファルと、クロール……?)
触れるまでもなく、心が理解していた。この線は、従魔たちとの魂の繋がり。心を通わせてきた時間が、絆という名の“光”として、この場所に形を持って存在しているのだと。
そのうちの一本に俺は手を伸ばす。
指先が触れると、あたたかな感情が溢れるように押し寄せる。家族と過ごした日々のような、心を満たす静かな幸福が胸の奥に広がっていく。
俺はその線を強く掴みながら、心の中で強く願った。
(俺と共に在ってくれ)




