成長
俺がアドマイヤに加わってから、1年半の月日が流れた。今思い返すと様々なことがあった。育成プログラムでミランダ教官にしごかれていた頃から時は流れ、俺はAランク冒険者にまで登り詰め、いつの間にかギルドの中でも注目される存在となっていた。
俺の戦い方は、少し風変わりだ。テイムスキルを持たずに魔物を従え、かつロングソードで剣士としての立ち回りもこなす。俺だけの、俺にしかできない戦い方だ。その唯一無二の戦い方で、俺はDランクからAランクまで、前人未到の最速昇格記録を更新した。
その要因の一部に、俺の従魔が2体に増えたことが関係している。新たに加わったのは、ホーンウルフという名の狼型魔物だ。名は『クロール』。全身を覆う分厚い灰毛、まっすぐ前に伸びる一本の巨大な角。その凶悪な姿に違わず、戦闘では驚異的な機動性と殺傷力を誇るランク2の魔物。
もともとクロールは、俺のAランク昇格試験で討伐目標だった魔物だ。最初は敵意剥き出しで、ファルの時のように指示は通らず戦闘となったが、激しい攻防を繰り広げていく中で、俺の能力による心からの語りかけに、やがてクロールは応えてくれた。リンクが成功したのだ。
“リンク”
。俺は、魔物と“心を通わせる”この感覚を、そう呼んでいる。リンクが成立すると、魔物は俺に畏敬の念を抱くようだ。それは、支配とは異なる。強制ではなく、選び取られた主従関係。クロールは今、俺の指示に命を懸けて応えてくれる、大切な仲間だ。ファルとクロールが俺と連携することで戦略が豊富となり、驚異的なスピードで昇格できたのだ。
昇格したと言っても、俺はクエストや昇格試験で一度も魔物を殺していない。殺したくなかった。理由は分からない。ただ、俺の根底にあるなにかが、魔物を殺すことを拒絶している。恐らく、俺の能力が魔物と意思を共有し、“共に在る力”だからだと思う。ただ、殺さないということが障害になるときもある。クエストの中には、達成条件に討伐魔物の証が必要な場合がある。その場合は、リンクした後、角や牙、爪などの一部を持ち帰る。もちろん、ユリウスの治癒魔術で角などを再生させることも忘れない。俺が帰った後に人間を襲われては困るので、毎回、『人間を襲うことを禁ずる』指示を出している。俺と一度リンクが繋がると、離れたとしてもリンクは繋がったまま、俺に対する畏敬の念は消えないため、指示を忘れないみたいだ。しかも、リンクが繋がっているだけでは俺の魔力は減少しない。魔力を使うのは、リンクを繋げるとき、指示を出すときだ。中には、ファルやクロールみたいに、何か特別な繋がりを感じた魔物は従魔にしている。
そんな感じで、俺の能力で魔物の脅威を無くし、クエストや昇格試験を達成してきた。まぁ、この抜け道もギルドマスターにアドバイスをもらったんだけど。あの人には、本当に感謝しかない。
このリンクという能力を深く掘り下げる中で、俺はさらに新たな力を見出した。
『従魔強化』――自らの魔力を従魔に分け与え、肉体能力・反応速度など、あらゆる能力を底上げするスキル。与える魔力量によって強化の度合いが変わる、まさに支援の要と呼べる技。
『スキル付与』――俺自身が使えるスキルの一部を、従魔に一時的に付与することができるのだ。
「支配」ではなく「共鳴」。俺の能力は、そんな信念のもとに育まれてきた。
そうして成長した俺の魔力量は、再測定の結果、「測定不能」という結果が出た。ダーガレスの測定水晶の上限は999。それを超えたということだ。訓練学校時代では考えられない上昇率。いつからだろう、俺の魔力がここまで跳ね上がるようになったのは。思い返せば、魔物と本格的にリンクし、意思を通わせるようになってからかもしれない。自分の能力の仕組みはまだよく分からない。しかし、ひとつ確かなのは、この力にはまだ誰も知らない可能性があるということだ。
実は、俺だけではなく、アドマイヤとしても変化があった。俺から半年遅れて、新たなメンバーが加入した。リオン、俺の親友だ。もともとリオンは、別のAランク冒険者パーティーにスカウトされていた。加入条件としてリオンが提示したのは、必ず上位大陸を目指すこと。俺と同じだ。目標はただひとつ、神獣ボルテシアに会うこと。その条件を飲んだパーティーにリオンは加わった。だが、その約束は偽りだった。半年が過ぎても、パーティーは迷宮の10階層までしか攻略しようとせず、それ以上に進もうとしない。最初こそリオンは、自分の実力不足だと思い込み、懸命に鍛練を積んでいた。しかし、ある日、ギルドの酒場でリオン以外のパーティーメンバーが、酒を飲みながら話しているのを偶然耳にしてしまった。
「リオンのやつ、そろそろ気づくんじゃねぇか?俺たちが迷宮なんて本気で攻略する気、ねぇってことに」
「もし問い詰められても『焦るな、まだお前の実力が足りてねぇ』って言えば済むだろ。あいつは夢物語を信じてるバカだからよ、簡単に騙されるだろ」
「まったくだ。神獣?上位大陸?そんな夢追いバカは、アドマイヤの奴らだけで十分だっつーの。こっちは現実路線で稼げりゃそれでいいんだよ」
「くれぐれもばれるなよ。あいつの力は本物だ。あいつがいれば、俺たちは楽して稼げるんだからな!」
その瞬間、リオンの中で何かが音を立てて崩れた。これまで訓練学校でも、夢を笑われたことはあった。だが、 俺が我慢していたからリオンも耐えてきた。しかし、 自分の夢だけじゃない。親友とその仲間の夢や信念までもが、無惨に踏みにじられた。気づけば、拳が振るわれていた。リオンは初めて、怒りを表にした。 そしてその怒りは、次々とパーティーメンバーを床に沈めるまで止まらなかった。それほどの力を、すでに彼は持っていたのだ。
それからしばらく、リオンは鍛練をやめ、落ち込んでいた。 そんな彼と再会したのは、ギルドがあるメイン通りの街道だった。
「……セナ?」
「おう。久しぶりだな、リオン」
この時、リオンと会ったのは半年ぶりだった。あんなにも覇気の無いリオンは初めてだった。久々に会う親友同士、お互いのことを色々と話した。俺はリオンの現状を聞き、いてもたってもいられずにララ達に相談しに行った。
「その子、うちに連れておいで」
ララは、そう優しく笑っただけだった。
同じ夢を持つ仲間であること。 俺の、大切な親友であること。 それだけで、迎え入れる理由としては十分だったようだ。こうしてリオンは、正式にアドマイヤの一員となった。
リオンの加入によって、アドマイヤの戦力は、まさにダーガレス最強と呼ぶにふさわしいものとなった。昔の俺は、リオンに対して劣等感を抱いていた。 しかし、今俺の中にあるのは劣等感ではなく、親友としての誇りだけだ。そう思えるようになれたのも、仲間たちに支えられ、自分を必要としてくれる人たちに出会えたからこそだ。
俺とリオンがAランクに昇格したことで、ついにアドマイヤのメンバー全員がAランクに到達した。これは、ひとつの節目だった。俺たちが所属するこのパーティーが、真に“昇る”準備を整えた瞬間だ。




