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魔力測定

 森の戦いの余韻は、しばらくの間、俺の中で燻っていた。ラッシュルボアの最後の瞬間、あの恐怖の感情がどうしても頭から離れなかった。しかしそれ以降、野外授業では魔物の襲撃という異常事態は発生せず、次第に燻っていた感情は頭の片隅へとしまわれていった。

 そして月日は流れ、俺たちは卒業の日を迎えた。長かった訓練学校生活も、ついに終わりを迎える。退屈だった低学年、憧れ続けた高学年の実技訓練、そして初めての魔物との戦い。思い返せば、さまざまな思い出が詰まった3年間だった。名残惜しさはあるが、同時に新たな旅立ちへの期待が膨らむ。そして卒業式とは、すなわち“魔力量測定の儀”を意味していた。

 訓練学校の講堂に、卒業生全員が集まる。壇上には、バレーボールほどの大きさの魔力量測定水晶が鎮座していた。水晶の内部には5つのひし形の模様が浮かんでいる。測定者が手を触れることで魔力量を感知し、その強さに応じて模様が発光する仕組みだ。

 1つ点灯:魔力量1~99

 2つ点灯:魔力量100~299

 3つ点灯:魔力量300~499

 4つ点灯:魔力量500~899

 5つ点灯:魔力量900以上

 冒険者や騎士といった危険な職業に就くためには、魔力量300以上という基準が設けられている。つまり、最低でも3つの模様を光らせる必要がある。それができなければ、この場で夢を諦めなければならない者も出てくる。

 当然、緊張しないわけがなかった。

 俺は今まで全力で鍛錬を重ねてきた。結局、魔術系統スキルを習得することはできなかったが、それでも、自分が扱える他2つのスキルを徹底的に伸ばし、魔力量を上げてきた。しかし確証はない。魔力量というものは、ただの努力だけで決まるものではない。才能や素質といった、どうしようもない壁が立ちはだかることもある。

 そして、測定が始まった。

 卒業生一人ひとりが壇上へと進み、水晶に手を触れる。水晶が淡く光を帯び、ゆっくりとひし形の模様が浮かび上がる。最初の数人は2つ点灯が続いた。そして3つ目が光らず、肩を落とす生徒たちの姿がちらほらと見え始める。すでに涙を滲ませている者もいた。

(……やはり、厳しいな)

 そんな中、リオンの番が回ってきた。彼が水晶に手を当てると、一瞬で光が走る。ひし形の模様が次々に浮かび上がりそして、4つ目の模様が燦然と輝いた。

 「「「おおー!」」」

 「……やっぱりな」

 会場がざわめく。リオンはすでに学年最強の一人と目されていたが、こうして公式に魔力量が証明されると、その実力が誰の目にも明らかになった。

(…やっぱりリオンはすげーな)

 悔しさがこみ上げる。しかし同時に、誇らしくもあった。

 リオンなら、この結果を出して当然だ。

 そして、ついに俺の番が回ってきた。壇上に上がり、静かに水晶に手を当てる。冷たい感触が手のひらに広がった瞬間、水晶がぼんやりと光を帯びる。

 1つ目の模様が光る。

 次に、2つ目。

(ここまでは当然……)

 3つ目の模様が、ゆっくりと点灯する。

 光は、そこで止まった。

 3つ目。つまり、魔力量は300以上。

 冒険者としての最低条件はクリアした。安堵と歓喜が入り混じる中、同時に悔しさがあった。

 リオンのように4つ目は光らなかった。それが、俺とリオンの決定的な差だ。

 「セナ、おめでとう!そうでなきゃな!」

 壇上を降りると、リオンやノア、マリー、カイルが迎えてくれた。俺と同じく、彼らも3つの模様を光らせ、冒険者資格を得ていた。

 「ありがとう。皆もおめでとう」

 「俺たち、全員合格だね!」

 「ふふ、やっとスタートラインに立てたって感じね」

 肩を叩き合い、喜びを分かち合う。

 だが、その中で俺はひとり、拳を握りしめた。

(このままじゃ、リオンには届かない)

 しかし、冒険者になる条件をクリアした今、この先はもう訓練学校という枠ではなく、本物の冒険が始まる。本番はこれから。強くなるためなら努力は惜しまない。すぐにリオンと並び立てるようになってやる。


 訓練学校卒業後、俺とリオン、カイル、マリーはベルルーシャ村に帰省し、3年振りの家族団欒の時間を1ヶ月間楽しんだ。そして俺たち4人は、冒険者という夢を叶えるために、冒険者ギルド支部のある【ゴージャス】の街に旅立った。今度はいつ村に帰れるか分からないが、一端の冒険者となって村の皆に冒険譚を語りに戻ると誓った。


 村を旅立って一週間でゴージャスに辿り着いた。

「……着いたな!冒険者の街に!」

 リオンが興奮を全開に呟いた。

 目の前に広がるのは、冒険者たちが集う活気あふれる街。門の前では屈強な鎧を纏った騎士たちが見張りについており、通行人を厳しくチェックしている。ベルルーシャ村のプレートと入国税を支払い、俺たちはすんなりと街の中へと足を踏み入れることができた。

「すごいわね……!」

 マリーが思わず感嘆の声を漏らす。俺もその気持ちはよくわかる。街の中を歩けば、目につくのは冒険者たち。巨大な大剣や戦斧を背負った者、フルプレートを纏った者、それはどこを守っているんですか?と言いたいほど軽装の者まで、その姿は多種多様だ。ジャビスの街にも冒険者はいたが、ここまで密度が高い場所はなかった。

 通りには武器屋や防具屋、宿屋や飲食店が軒を連ね、各店からは鍛冶の音や商人の呼び込みの声が響いている。俺たちの胸は、否が応でも高鳴る。その全てが、新たな世界に踏み出す俺達の期待を煽った。

「とにかく、ギルドに向かおうぜ」

 リオンの言葉に頷き、俺たちは街の中心部へ向かって歩き出した。しばらく進むと、ひときわ目を引く大きな二階建ての木造建物が目に入る。

『冒険者ギルド・ゴージャス支部』

 威圧感すら感じる重厚な扉。その上には、鉄製の看板が掲げられていた。

「ここが……冒険者ギルドかぁ!」

 俺は拳を握りしめ、ゆっくりと扉に手をかけた。

 ギルドの扉を押し開くと、そこには俺たちの想像を超える光景が広がっていた。

 天井まで吹き抜けの広々とした空間。木造の梁が堂々と張り巡らされ、壁際には掲示板があり、そこには無数の依頼書がところ狭しと貼られている。奥には長いカウンターがあり、3人の受付嬢たちが忙しそうに冒険者たちの対応をしている。カウンターの両サイドには階段があり、2階は酒場兼、宿泊施設になっているようだった。

「……思ってたより、でかいね」

 カイルが感嘆の声を漏らす。

 俺たちは周囲を見渡しながら、奥の受付カウンターへ向かった。並んでいるのは、経験豊富な冒険者たちばかり。彼らの鋭い視線が俺たちに向けられる。

「おい、新人か?」

 スキンヘッドで筋骨隆々のいかつい壮年の男が、依頼書を片手に話しかけてきた。

「ええ。これから冒険者登録をするんです」

 俺が答えると、男は鼻を鳴らした。

「ほう、どこから来たんだ?」

「ジャビスの訓練学校を卒業してきました」

「ほう?……それは期待できるな」

 男はそう言い残し、2階の酒場へ上がっていった。

 いきなり、いかつい冒険者に話しかけられ、若干動揺した俺たちは、仕切り直して、受付の女性の前に立った。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

「あの、俺達4人の冒険者登録を行いたいのですが…」

 俺が代表して受付のお姉さんに事情を話す。なぜか俺を列の先頭に追いやった3人には、後でしっかり話し合いを設けるとしよう。

「冒険者登録ですね、承知しました。登録には魔力量の測定と、魔力色の測定が必須となりますので、ご了承下さい。測定は10分後にこのカウンターで行いますので、こちらの登録用紙に必要事項を記入してお待ち下さい」

 (登録時に魔力量と魔力色の測定が必須なのか?てっきり卒業時に測定したから、もうしなくて良いと思ってたけど。確かに基準を越えた、という証拠はないもんな…)

 俺たち4人それぞれが、手のひらサイズの用紙を受け取り、氏名、年齢、出身地、を記入していく。

「皆さん、タイミングが良かったですね!」

 そういって、受付のお姉さんが笑顔で話しかけてきた。

(タイミング?なんのことだ?)

 疑問が浮かび、筆が止まる。

「なんかのイベントでもあるんですか?」 

「あっ、いえ!違うんです!ギルドでは、魔力量測定と魔力色の測定は1日1回、決められた時間にしか行わないんです。この街の冒険者であれば、時間を把握していますが、別の街から来た人は基本的に知らないので、測定時間の10分前に来られた皆さんは、タイミングが良いなと思いまして!中には、測定時間に間に合わなくて、別日に再度来てもらう方もいらっしゃいます」

 なるほど、それに関して俺を含め4人とも知らなかったな。

「てっきり、常に登録が行えるものだと思ってました」

「実は、新人冒険者の冒険者登録は、この場にいる冒険者たちが、新人を見極める場でもあるんです」

「……見極める?」

「はい。魔力量や魔力色を確認することで、優秀な新人を自身のパーティーにスカウトする冒険者が多いのです。この時期は、各地の訓練学校を卒業したばかりの新人が大勢登録に来ますからね。そのため、一日一回、全員が集まる時間を設けることで、ギルド内の冒険者が新人の実力を見極め、パーティーに勧誘できる仕組みになっているんです」

なるほど。だから、周囲の冒険者たちの視線が鋭かったのか。

「優秀な新人は、すぐにパーティーへと引き抜かれることも珍しくありませんよ!特にジャビスの訓練学校を卒業した方たちは、優秀な方が多いんです!」

 (ちょっとお姉さん、なにげにプレッシャーかけているんですけど?やめてくれない?)

 登録用紙を提出し、ギルドのエントランスにある腰掛けに座って、4人で談笑をしていると、

「それでは、新規冒険者の魔力量及び魔力色測定を開始します。測定される方は、カウンターまでお越しください」

 先ほど受付をしてくれたお姉さんが、ギルド内に響き渡る大きな声で、俺たちを呼んだ。

 カウンターに赴くと、そこには訓練学校で使われていた測定水晶とは別物の水晶が置かれていた。長さ1メートルほどの円柱形の水晶が縦に置かれていた。表面には10単位ごとに目盛りが刻まれており、より精密な数値が測定可能となっている。

「こちらの水晶は、訓練学校のものよりも高精度で、正確な魔力量を測定できます」

 冒険者登録を行うには、より精密に魔力量を測定する必要があるみたいだ。

 受付のお姉さんから説明を受けていると、いつの間にか、人だかりができていた。やはり、新人がどの程度の実力か把握したいのだろう。臨むところだ。俺達の実力を見せつけてやる。


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