事件File【記憶喪失の少女】
神無月玲は目を覚ました。しかし、医師からは記憶喪失と聞かされた。原因は不明でとされている。頭を強く打ち付けた事が原因と考えられているが、脳に特に異常はない。記憶に関しては、広い範囲の記憶の消失が認められているが、物の名前や使い方など、一般的な記憶は正常に残っていた。日常生活に支障はないそうだが、不便な生活を送る事には変わりない。
何かしらのショックが原因で記憶を失っているのではないかと言うのが、心療内科の医師は話していた。これにより警察が事件の解決への道は遠くなった事であろう。
記憶を失うと言う事は、とても恐ろしい事だと思っている。記憶を失った事はないが、記憶を失った人の話は、何度か聞いた事がある。自分自身が何者なのか分からない恐怖と周りには知らない人々が自分の知り合いだと言う恐怖。そして、誰を信じていいのか、頼っていいのか分からない孤独感。知らない世界に飛ばされてしまった物語の主人公のような展開が待っている。
私は、少しでも記憶を思い出すきっかけを作れないかと思っている。事件早期解決もそうだけれど、普通の日常生活に戻してあげたいと考えている。私の知っている神無月玲が記憶を失ってもなお、存在しているのであればきっと自分自身で解決する事であろう。
もし、そうであるならば、私がするべき事は情報提供しかない。私は、ペンを手に取る。
私は、記者としてできる限り情報を集めて、彼に伝える。彼に伝えれば、彼女に伝わる。直接的に関わる事ができないのがもどかしく感じる。それでも、私にできる事は限られている。
また皆と楽しく過ごす彼女の姿を見る事ができると願う。私は、真っ直ぐ物事を見る事ができる彼女をとても尊敬している。一度しか会った事は無いけれど、彼女に惹かれるのに時間は関係なかった。
私が彼女を想う事には、惹かれた以外の理由がある。それは、私の大切な妹を救ってくれた小さな探偵さんという命の恩人だからだ。彼女は、覚えてくれているのだろうか。
私は、その恩を返したい。しかし、私には何もない。私が犯人を見つけ出せる能力を持っていたら、彼女を救えたかもしれないと何度思った事だろうか。早く事件を解決したい。犯人を捕まえたい。
—私は犯人を一生許さない。
—そして、彼女の記憶の回復を強く願う。
私は、この事件の担当を外されてとしても、追い続ける。それが私の神無月玲にできる最大の恩返しだと思う。そして、数字ばかり見ているマスコミを近寄らせない。
—どうか、貴女の力になれますように。




