Prologue【記憶喪失】
私は気が付いた時には、自分自身の身体が浮いている感覚に包まれていた。何故、その感覚に包まれているのだろうと目を開けると、私の視界はゆっくりと流れている風景だった。流れている視界に入る景色は、天井や手摺り、階段。そして、階段の一番上には、制服を着ている一人の女子生徒。距離が離れていることから、私は階段から落ちている事を理解する。階段から落ちながらも、女子生徒の顔を記憶に残せないものかと焦点を合わせる。それが、私の物語の最後の鍵になる。私が、階段に落ちている理由は、事件に関わってしまった事が原因。
私は、学校内で起きている転落事故に関して、事件ではないのかと思い調査を始めていた。屋上や階段での転落事故は三件目となり、違和感を持った事がきっかけ。現場の状況を手に入れて、不審な点を上げていくと、事件の可能性が浮上した。僅かな情報を元に探偵のように調べを進めて行くと、被害者達の共通点を発見した。その共通点を元に、聞き込みや調査の深掘りをして行くと真相に辿り着くための一つの仮説が立った。もう一度現場を巡り、校内を歩いていた所に誰かから背中を押されて、驚き振り返るもバランスを崩し、現在の浮遊感を味わっている現状に繋がった。
私は、最期になるかもしれないと思いつつも、無事身が助かった事を考えて突き落とした犯人の顔をこの目に焼き付けようと目に集中する。私の仮説と犯人が一致する事も助かった時に、捕まえる為の鍵となる。もし最期になるのなら、自分が突き止めた物語に終止符を打ちたい。
流れる景色の中、犯人の顔がはっきり映る。その犯人は、悲しむでも、驚くでもなく、狂ったような笑顔を浮かべている。私の突き止めた物語は、私にとって悲しい物語で終止符が打たれる。
「犯人は、やはり貴女だったのね」
私は改めて真実というものは残酷で、悲しいものだと改めて思う。今回の物語は私にとって、悲しい物語で私の視界は涙で歪むのを感じる。私は、涙を溢さないように目を閉じる。私の仮説は、本当は間違いだったと証明するためにもう一度現場を見て整理をしたかったと思いながら、衝撃を待つ。
私の頭の中でスッと何かが消える。
目を開くと僕は、階段から落ちている状況に驚く。何故落ちているのだろうと落ちている中、原因を探ると階段の上に立つ女子制服を着た人間が立っている事に気が付く。その女生徒は、狂ったような笑みを浮かべている事から、僕はこの人間に突き落とされたのだと理解する。
何故、僕は突き落とされたのだろう。僕は、この女生徒に何かしてしまったのだろうか。思い出そうとするも、何も覚えていない。この状況になっている理由も、階段の上に立っている女生徒の名前も、今いる場所も、自分の名前も、何も覚えていない。
僕は、誰で何者なのだろう。
頭の中の記憶を巡るも何もわからず、自身の身体に強い衝撃が走り、意識を手放した。
目が覚めると真っ白な天井が写り、身体を起こそうとすると痛みが走る。白いベッドに寝かされ、独特な薬品の匂いがする事から、病院の病室にいる事を把握する。僕の記憶は、何もない。自分の名前もわからない。これが、記憶喪失ということなのだろうと理解する。
これから如何しようかと言う思いを抱きながら、窓の外の景色を眺める。




