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山で作るちょっとした料理

作者: 砂上楼閣

「よし、やるか」


俺はボックスから取り出した調理器具を並べて一人呟いた。


ここは電波もろくに届かない山の中。


と言ってもある程度拓かれてるし、少し下れば道も舗装されてるくらいの場所だ。


野生動物もたまに鹿が来る程度。


熊は……たぶん、いない。


猪は出るらしいが。


仕事でよく来る現場の一つで、電波がないのを除けば割と自由にできるいい場所だった。


トイレは近くに仮設のものがあるし、水はポリタンクに汲んで来てる。


拓かれていて近くには燃えるものがないから、カセットコンロで料理するのは問題ない。


光源がほとんどないから日が落ちると、運が良ければ満点の星空も望める。


曇っててもまぁ遠くに街の光が見えて、それなりに綺麗だ。


資材置き場の横にある仮眠用のプレハブ小屋からも離れてるし、ちょっとしたキャンプ気分を味わえる。


……さすがにキャンプ場じゃないから焚き火とかはダメだけどな。


俺は地面を足裏で軽く慣らして平らにして、折りたたみ式の椅子を展開して置く。


目の前に置いたボックスがテーブル代わりだ。


その上にガスコンロを置き、ガス管をセットして点火した。


今日は風がないから段ボールとかで風除けを作らなくても良さそうだ。


娯楽も少ない山の中で、唯一と言っていい楽しみ。


それが俺にとっての料理の時間。


山では娯楽は用意したものしかない。


2、3日程度ならどうとでもなる。


けれどその期間が半月ともなると空いた時間は適当に駄弁るか、寝るかしかやることがなくなる。


電波が無ければ動画でもダウンロードしていくしか携帯の使い道もない。


本は嵩張るからあんまり持っていけない。


結局数日もすればやることもなくなる。


自然と料理をするようになった。


少しでも美味しいものを食べるために、簡単レシピなんかも事前に調べて、日持ちする物は事前に買っておく。


アウトドア飯ってほどじゃない。


最初はお湯を沸かしてカップ麺とか、フリーズドライの味噌汁を作るとこから始まった。


そこにちょっと具材を足したり、調味料を加えたり。


段々とチャーハンや鍋、アヒージョなんかを作ってみたり。


そういうのでいいんだよ、そういうので。


ほんの一手間。


数分でできる簡単料理。


それだけで満足感が段違いだ。


さて、今回作るもの。


シンプルレシピの中でも特に簡単なものの一つ。


餅だ。




カセットコンロに点火し、フライパンを置く。


今回は1人分だけ作れればいいから、コンパクトなフライパン。


しっかりフライパンを熱したら油を少しだけ入れる。


ごま油かオリーブオイルかは気分で。


別に好みの油でいいし、餅だし無くたっていい。


はりつかないよう注意はいるが。


油が変われば風味は思いの外変わるからな。


匂いは大事だ。


作ってる時も、食べる時も。


視覚の次に嗅覚が刺激される。


美味そうな匂いがすれば自然と腹も減るし、食べる時により美味くなる。


油をフライパンの表面に薄く広げ、そこに角切りの餅を3個。


まぁ食べる分だけ。


ただ焼くんじゃなくて、表面だけ揚げる。


ーーージュウゥゥゥ…


餅が、というか米の焼ける匂いって個人的に好きなんだよな。


表面に軽く焦げ目がついたらひっくり返す。


中まで熱が通るまで何度か繰り返し、そこで表面に何滴か醤油を垂らしてみる。


ーーージュウゥゥゥ!


餅の表面で醤油が焼ける音、そして匂い。


……最高だ。


カセットコンロの火を消して、餅は余熱に当てておく。


紙皿を取り出してその上に海苔をおいた。


このままでも十分だろう。


焼いた餅に海苔を巻いて、醤油をつけて食べるだけで普通に美味い。


が、今回はそこに一手間、というか一つ加える。


何かって?


今回は……スライスチーズを用意してみた。


海苔の上に、スライスチーズを置く。


そのままだと海苔をはみ出るので、半分にちぎって並べてやると海苔の大きさに丁度いいくらいだ。


海苔にスライスチーズを、そしてその上に焼きたての(揚げたての)餅を乗せて巻いていく。


少し待てば海苔とお餅の間に挟まれたチーズが、餅の熱で柔らかくなって少し溶け出した。


……エクセレント!


すでに醤油の香りで唾液が込み上げてる。


皿を持ち、完成した餅を口に運ぶ。


その味だが…


……美味い!


まぁ想像は超えて来ないが、ただ焼いた餅を食べるより数段美味い。


ロケーションも加わって、満足感もある。


これでまた明日も頑張れそうだ。


山で作るちょっとした簡単料理。


人によっては凝る人もいるだろうが、俺にはこれくらいがちょうどいい。


何事もほどほど。


自分に合う程度にぼちぼちと、だ。


興味があれば、是非とも作って食べてみてほしい。


ちょっとした活力になれは幸いだ。

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― 新着の感想 ―
非常に美味しそうでした。 山と餅、あまり縁がなさそうな組み合わせに見えてしまうのですが、 こういった組み合わせもあるのだな、と感じました。
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