悪役令嬢レジ打ちバイト
うちには悪役令嬢がいる。
今は、動画配信の録画をしている。
肌色かかった金髪の縦ロール、エメラルドグリーンの瞳で釣り目の令嬢が赤紫のドレスを着て箸で牛丼を食べているだけの動画だ。
「今日は、お牛丼を食べますわ。お箸を使います。ううんまああああああいですわ!
私の祖国、キルダー帝国にはございませんでしたわ!日本食美味しいですわ!!」
こんな動画が百万再生ぐらいするそうだ。
「フフフフ、今月は100万円超えるかしら。和樹様、イオランに行きましょう」
「はい、マリアンネお姉さん」
「ウフ」
マリアンネお姉さんは、俺の姉さんの代わりに来た。
ある日の朝、俺の実の姉さんの部屋のベッドで寝ていたそうだ。
そう言えば、実の姉、緑は学校にも行かず1日中、乙女ゲームをしていた。
それでゲームに転生をしたらしい。
理屈は分からない。
マリアンネ姉さんとイオランに行く途中、警察に職務質問をされた。
「パスポートプリーズ!」
だから、俺が町内会長さんの書いてくれたこの町内に住んでいる証明書を見せる。
「君の姉か?随分、派手・・目立つな」
「ええ、悪役令嬢ですから」
イオラン行きのバスに乗り。
乗客にチラチラ見られている。
マリアンネお姉さんはドレスだ。座ると3人くらい場所を取る。
だから、俺も立つ。何か悪い気がするからだ。
イオランについた。
「エスコートして下さいませ」
「無理です」
「人混み怖いですわ・・」
「分かったよ。手をつなごう」
ケーキコーナーを熱心に見ている。
「先に、買いたい物を買ったら、ケーキ傷むよ」
「まあ、そうですわ」
婦人服コーナーに行って、下着類を買う。
さすがに、俺は入らない。
外で待ち。
次は紅茶を買う。
「和樹様、町内会長様にお礼を買いたいわ。どのお酒が良いかしら」
「根木さんは焼酎が好きだったよ」
「まあ、じゃあ、大きいの買いたいですわ・・」
とチラと見る。
「もちろん、持つよ」
「まあ!紳士ですわね」
パアと顔が明るくなって、手を胸の前で組む。まるで乙女だ。いや、乙女ゲームだったな。
しかし、売ってくれなかった。
俺は16歳、マリアンネ姉さんは17歳だ。
「しょぼんですわ」
「じゃあ、か・・」
母さんにお願いしたらと言おうとしてやめた。
実の姉の緑は、親父と母さんと仲が悪かった。
その感情を引き継いでいるようだ。
次は日用品雑貨、100円均一だ。
少し、見て
廊下に張り紙が貼ってあるコーナーがあった。
「まあ、求人票ね。少し、見ておくわ」
「マリアンネお姉さん。配信で稼いでいるのじゃない?」
「でも、外人の日本食賛美は供給過多ですわ。飽きられるのも早いですわ。それに、職業が動画配信者もあれですわ。趣味でやりますわ」
・・・・・・
家に帰った。
母さんは驚く。
「まあ、一緒にお出かけしたの。マリアンネ、最近、部屋から出てきて・・・」
「お母様、お世話になっております」
「食事、部屋の前に置いておくから・・」
「え、あの・・・」
緑姉さんは、高校をやめた。
原因は俺のようだ。
家の近くに私立高校がある。進学校、正確には進学校に生まれかかわろうとしている。
制服もブレザーでお洒落だ。
偏差値は60あれば受かると思う。
姉さんは落ちた。公立高校に通う。
しかし、2年後、俺は受かってしまった。
父さん。母さんは喜んだ。
「まあ、和樹、4年制大学行く?理系がいいかしらね」
「どちらでも良いだろう。しかし、このご時世、文系なら、法律とか稼げる学部を今から見据えておくのだ」
「あら、公務員もいいわね」
姉は疎外感を感じたらしく。部屋にこもるようになった。
ゲームをしているらしい。
・・・・・・
「和樹様!お弁当お忘れですわ!」
ある日、学校にマリアンネ姉さんが弁当を届けに来た。
皆は、
「うわ、美人!」
「何、太田君のお姉さんモデル?すごいわ」
騒ぐ。騒ぐ。
「では、皆様、和樹をよろしくお願いしますわ!」
「「「はい!」」」
俺は一躍時の人だ。
「いいな。美人の姉ちゃん。スゲー、縦ロール?名古屋巻きか?」
「あのドレス、どこで売っているのよ」
しかし、女子が一人、佐々木梓、学級委員長が俺に耳元でささやく。
「・・・放課後、聖女神社に来て・・」
「うん」
ショートカット、キリッとした美人だ。
聖女神社の神主の娘でもある。
放課後、部屋に通された。
開口一番。
「貴方の本当のお姉さん。緑さん。乙女ゲームに転生したでしょう」
「え、分かるの?」
何でも、転生すると認識阻害の法がかかり。緑姉さんは日本人顔でゲームの中で遊んでいるようだ。
「このゲームのジャケット見て・・」
「うわ。緑姉さん・・・日本人顔、いや、高木〇―さん」
アニメのイケメン、美女の中に混じっている。
ピンク髪はヒロインだ。
「緑姉さん死ぬわよ・・・これ、ガチで悪役令嬢が助かるルートないのよ。良くて、首つり。悪くて・・・火あぶりよ」
「まさか、そんな。でも、ネット小説では上手くやっているよね。悪役令嬢」
「反魂の法よ・・・詳しく分からないわ。そうなって欲しい気持が小説になっているだけ・・よ。惨い殺され方をした悪役令嬢を生き延びさせたいみたいだわね。
私も、数百回やったけど、悪役令嬢が助かる道はないの」
「それじゃ、緑姉さん死ぬの?」
「ええ、でも、助かる方法はあるわ。マリアンネさんですよね。寝ている間にこのお札を額に貼れば、朝には、入れ替わるわ・・」
「分かった」
部屋を出ると、ドアの前に、神主さんか?佐々木の親父さんがいた。
「ゴホン!」
「初めまして、クラスメイトの太田和樹です」
「うむ・・お構いもなく」
どうやら、監視されていたようだ。
姉さんが助かると言う事は、マリアンネさんが死ぬこと?
いや、ゲームの中だから死に続ける事か・・・・
俺は夜中、こっそり、マリアンネ姉さんの部屋に入った。目の毒だ。下着は干されている。・・・寝ている。俺の中学の時のジャージを部屋着にしていやがる。
「・・・グスン、グスン、アスターテ殿下、マックス、ゾルゲ・・・私は何もしておりませんわ・・・グスン、グスン」
寝言だ。そう言えば、ゲームの最後、断罪されるのだっけ・・・・
ヒロインの攻略対象の名を言っている。
もしかして、断罪が近いのか・・・
☆次の日。
俺は母さんにお願いした。
「マリアンネ姉さんも、一緒に食事取ろうよ」
「え、でも、また、暴れでもしたら」
「しないよ」
緑姉さんが暴れた記憶が残っている。
「暴れたら、俺が取り押さえるよ」
マリアンネ姉さんを呼んだ。
父さんと、母さんは無言だ。
マリアンネ姉さんは納豆を食べている。
意を決して、両親に話しかけた。
「あの、お父様、お母様、私、バイトをしたいです!ですから、あの許可をお願いしますわ!」
「・・・うむ、まあ、いいだろう」
マリアンネ姉さんは、この世界で一歩踏み出す決意をしたようだ。
とりあえずイオランでレジ打ちしている。
緑姉さんは、まだ、ゲームの中にいるようだ。
イオランに姉さんを見に行った。
「和樹様!バイト終わったら、炒飯食べましょう!」
「はい、姉さん」
「コラ、マリアンネさん。私語は厳禁よ」
「はいですわ!」
俺は緑姉さんを・・・見殺しのしたのか?
深い業を背負っている。
いつの間にか、マリアンネ姉さんから、姉さん呼びになっていた自分に気がついた。
最後までお読み頂き有難うございました。