バケモノ店とバケモノ
貴方はこの先どう進む 貴方がどの道行こうとも ここは貴方を受け入れる ここは誰かの居場所でありたい
「これにてある中学生の物語を終わります。ご清聴ありがとうございました」
「ははっ、やっぱりこうなるのですね。だがもう逃さないためにはこれしか……ふははっ、ただの人の子風情にここまで執着するとは……私も焼きが回りましたね。おや失敬、机に突っ伏していると体が痛くなりますよ。大丈夫ですかね?」
…………ぁ……ぇ…………う…………あぇ……う…………
「……やはりもう駄目ですね。まぁこの子は一度壊れてここに来ましたし、その後ある程度回復したので一度記憶を消せばもとに戻りますかね。はぁ……貴方は気付いていませんでしたが……貴方失語症になっていたんですよ。そしてそれに気づいてもいない、どれだけ会話をせず過ごしていたのか……もう過ぎたことですよね。さぁ、私と一緒に参りましょう」
…………かぁ……え……う…………か……え……ぅ……か……え……る………………かえ……る……かえる……還る、還ってやる、
「えっ……何か声が?っまさか!」
還ってやるんだ。勝手に俺の記憶を消す……な!まだ壊れないぞ……
「なあっ!!なん……で……?なぜ?壊れない?あんなに渇望した還る理由を無くし、なぜまだ心があるんだ!還って復讐でもしようとでも言うのか!!」
復讐……?はっ!そんな物に興味はねぇな……
「だったらなぜ?!まだ生きているんだ!」
そんなの決まってる。面白いからだよ。
「面白い……?そんなもののためにあんな地獄に還るのか!?あんな、、自分が分からなくなり消えていくような場所にか!」
あぁ!俺はもうすぐ高校だ。そこまで行ったらあいつらからは離れられる。もとより俺には興味が無かった連中さ。今我慢すれば必ず事態は好転する。
そして高校に上がればまた新たな出会いがある。そんなの面白いに決まってるだろ?
ここにいると退屈しない?笑わせるな。現実のほうがよっぽどクソだが退屈はしねぇよ!
「ふっ……ふははっ…………ふははっははっは!貴方は愚かだな思っていましたが……それどころではない!ただのバケモノのようだ!こんな奴見たことは無い!性格が分からなくなり再構築したと思ったら根本的なところ、つまり楽観的なところは何も変わっていないようですね。ふふっ……いいでしょう!貴方は還します!そちらの方が退屈しないでしょうね!」
おい、店主……お前も俺と変わらないだろ。
「おや?まぁ、そうですね〜確かに私も貴方から見ればバケモノではありますがただの人の子と変わらないは失礼ではないですか?まったくこの子はどうなっているんだ」
はぁ?そんなことはどうでもいい。お前なぜ俺を助けた?なぜただの人の子の面倒をみたんだ?お前は高貴な存在で神だ。なぜ人助けなんてした。
「……?それはただの暇つぶしです。貴方かなんて関係ない。誰でも良かったんですがたまたま貴方が目に止まりました」
いいや、お前は絶対に何か自分ですら気づいていない理由がある。お前、俺と自分の境遇でも重ねてんのか?
「おい、今なんとおっしゃいました?お前と私が同じ、そう聞こえましたが気の所為ですかね?」
あぁ、そう言ったのさ。お前は俺とそっくりだ。
「笑わせるな!矮小なる人の子と我が同じ?舞い上がるのも大概にしろ!このまま絞め殺しても構わんのだぞ」
ぐっ……おいおい、この尻尾もどこかにやってくれねぇか?きつくてたまらんよ。
まぁいい、さっき誰かさんのせいで今までの記憶が戻ったのでな。今だからこそ分かるがお前言ってただろ『自分が分からなくなり消えていくような』ってさ。
あぁ、今思えばまったくそのとおりだよ。だからこそ不思議だ。なぜそこまで俺の気持ちが分かる?俺の記憶でも読んだか?
「あぁ、そうだ。私はお前の記憶を読んだ、ただそれだけだ」
だがそれにしてもおかしいだろ。俺は学校生活でそんなことを思ったことはない。俺はただ明日になれば変わっている、そう生活していた。今思い返すとただただ怖いやつだよな。
だが今はその性格に感謝する。なぁ、店主は今まで鏡に閉じ込められていたんだろ?
「違う……違う……違う」
何十年、いや何百年閉じ込められていたかは知らねぇが……自分が消えていくような感覚は神でも人でも変わらないようだな!
「やめろ……やめろ、もうやめてくれ……!」
ははっ…図星のようだな、おいおい神様よ。尻尾も緩くなってるぞ。
俺はもう還る。まぁもう二度と会うことはないだろうけどな。神様なんだから自分のケツは自分で拭けよ。ただの人の子に慰められる方がメンタルにくんだろ
「…………おや?失敬、二度と会うことはない?貴方はもう私の信徒ですよ?」
……は?いやまて、いやなんで?。というよりさっきまで取り乱してただろ。切り替え速度鬼かよ
「鬼とは失敬な、私は神ですよ。そう、私は腐っても神。少し取り乱しましたが……人にできて私にできないことなんてないですよ」
突っ込むところそこかよ……
「ふふっ、それを貴方に言われるとはね。さて話を戻しますが、貴方、二話目を話す前に手遊びしたではありませんか。あれですよ」
はっ?いやまぁした覚えはあるが……?おい!店主!あれは願掛けって言ったじゃないか?!
「えぇ、願掛けですよ。私に対しての」
おっ前……騙したな?!
「騙すなんて心外な?!貴方、言いましたよね?『別に構わない』と。ですので結ばせていただきました。それにほとんど効果が無いというのは事実です。私自身封印されてましたし……ですが、まぁ、神の目の前でやられるとそれはねぇ…」
だから騙してんじゃないか!!はぁ……なんかな……しんみりした空気がどっかいったぞ。まぁいい……約束通り還してくれるんだろ?
「もちろん。神は約束を破りません。それに貴方は還したほうが面白いのは事実ですし。ささ、扉までお送りいたします。」
はぁ……ちゃんと還してはくれるようだな。
くそが俺が信徒になっても意味はねぇと思うがなんでまた……
「そうそう、それは貴方と私の言うなれば心のパスとでも言っておきましょうか。貴方が望むのであればすぐさまここに来ます。そしたら次は一緒に参りましょうね?」
ははっ、さみしいなら素直に言えばいいのに。もう二度とここには行かねぇよ。
そうだな……今度は俺から直接店主のもとに行ってやるよ。そして恨み言の一つや二つ吐いてやる。首洗って待ってろ。
「ふふっ…貴方も素直ではないですね」
もう還るぞ。また会う日までそのツラ見せんな
「えぇ…では気を付けて転ばぬようにお帰りください。私は此処から動けませんので、せめてここ以外で転んでくださいね?」
あぁ?分かってるよ……意外に楽しかったぞ
ガサッガサ
「うぅ…あぅ……あ?頭いてぇ……?うおっ?俺、今まで何してたってけな?いや、布団の上だし寝てただけだな…?にしても喉ガラガラじゃねぇか。洗面所行くか……」
うあっ、隈すげぇ…悪夢でも見たか?でも覚えてないんだよな。いやまぁ夢なんてそんなもんだな。
「……?おい…?なんだこの跡は?」
俺が見たのは首元の入れ墨のようなでかい爪痕だった
「ふふっ…ははっは、私がただで還すとお思いで?それは餞別です。またいつか出会える日までは残しておきましょう」
これにて「バケモノ店のお客様」の話を終わります。ご清聴ありがとうございました。
それでは改めまして猫烏兼大神でございます。皆様お楽しみいただけたでしょうか?何度もあちらとこちらの行ったり来たりを繰り返させて申し訳ない……しかも最後は二話分一気に読んでしまい疲れてしまったでしょう……
これにて怪奇屋は一旦閉店でございます。ここまで見てくださった皆様、真にありがとうございました。
さぁお送りいたします。足元にお気をつけて転ばぬようにお帰りください。それでは
カランカラン