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小説の方が幸せだった

カランカラン

いつでも貴方を待ち続ける どんなことがあろうとも私は貴方を待っている そして貴方を取り戻す

 おおがみ……?狼じゃないの?

 神、それなら考えてることやこの空間もある程度説明がつく……のか?いやでも、さすがに情報がなさすぎる。


「ふふっ、いろいろ考えてるようですね。来たばかりと比べるとずいぶん元の思考能力も回復したようですし良かった、良かった」


 元の思考能力……?僕の考える力が弱かったのはこの空間のせいじゃないのか?


「あー……確か…そうですね〜、一つ目の話をし、そのまま貴方が眠った後に術をかけさせていただきました。最初はただ目に入ったものを説明し、記憶にしまっていただけだったのにちゃんと思考できるようになって。おかげさまで二話目から薄く術をかける羽目になったのですが……まぁ成長したと思って嬉しかったですがね」


 この人なんかやばいな……

 いや、神様だったし柱って言ったほうがいいのかな?


 「うむ……この状況でもそんなことを考えるとは…………もしかしたら術必要なかったですかね」


 なんか馬鹿にされた気がする


「まぁ、そこもあのことがきっかけでそうなったかもしれませんし、そう考えると少しやるせない気持ちになりますね……おや?、普段なら人の子相手にこんな事考えないんですが……なんでまたこんな事を考えてるのでしょうか?」


 あんなこと?俺なんかしたっけな?それとも僕が忘れてるだけか……

 いや、なんか流されちゃってたが僕の目的はなんだ。そう帰ることなんだ。店主は帰れないって言ってたけど頑張れば帰れるはずなんだ……


「うむ!希望を持つことは大変良いことなんですがそれは無謀なんですよね。そもそも貴方ご自身のお名前覚えていらっしゃいますか?」


 うちの名前?そんなの忘れるわけないじゃ……あれっ?なんだっけ、あれ?えっ待ってくれ。どうなっているんだ……?

 そっそうだ!これもこの場所の、店主の術なんだろ。なぁそうなんだよな?


「申し訳ありません。それは私には治せません。それに私がかけたのは少し気分を高揚させ、思考能力を少なくするものでございます。少なくともこの術で記憶を無くすといった効果はないです」


 えあっ……じゃあ僕に名前の記憶がないのは元からってことなのか…?

 いやまて自分、記憶がないからってなんだ。記憶ならまた取り戻せばいい。店主の術でないならばこのまま帰っても問題ないんだろ。

 正直この店主と戦うことにならなかったのはありがたい。


「ふはっ、希望を持つの大変結構。ですがこのような言葉を聞いたことはありませんか?“人生は小説よりも奇なり”と。おやっ…?ふははっ、貴方自身の存在も不安定になってますよ。まぁ無理もない。急にこんなことを言われたのならそれはそうなりますよね」


 店主は何を言ってるんだ……うちはおかしくなんてない。そうだ俺は普通だ。俺はだいじょ……?今、僕なんて言った……俺……?いやそんな訳はない。だってうちの一人称は…………なんだ……自分は一体何なんだ。


「ふははっはは、全く貴方は愚かだ。だがそんなところが愛おしい。さぁさぁこんな話は置いときましていつまでもここにいましょうよ!ここでいつまでも私の遊び相手になりませんか?退屈にはさせません」


 いつの間にか部屋がゆらゆらと動き足元が揺れている。そして体の周りに狼の尻尾が巻き付いていた。そのまま僕は

 いいや……いいや、違う、違う!俺は僕だ一人称がなんだって言うんだ。うちは他の誰でもない。そうだ、僕のこの考え、この気持ちは俺のものだ!惑わされるな!

 不安定?大いに結構。自分は僕のまま生きてやる。絶対に還ってやる!


「………………思ったより貴方は強いようだ。まぁ、その気持ちに免じて一旦はこの場所を戻しましょうかね。」


 パチンッ

 そんな小気味よい音が流れたと思ったらいつの間にか部屋がもとに戻っていた。

 おっ…周りにあった尻尾も無くなってる。少し安心した。


「そんなに尻尾嫌でしたか……まぁ、そろそろ話に参りましょう」


 こんな状況でも怪奇話か……いいや、もう惑わされない。もうこのまま還って「こちらに来なさい」や…………っえっ…?体が動かねぇ。


「まったく私が神だということお忘れですか?まぁ焦らずにね?この話だけ聞いてもらえればあとは好きにしていいので。これだけでも聞いていってくださいよ」


 すぅ…ははっ、これはさすがに無理だ。だが、どんな話が来ようとも絶対に還る気持ちを忘れてたまるか。


「うむ、わかってくれて何よりです。それでは参ります。えー、今回の実話はある女子中学生のお話です。」


 実話……?なんでまた急に?


「その子はとても良い子でしてね。いつでも誰かのために動き、そして優しい子でした。そんな子だったからでしょう。友達も多く楽しく過ごしておりました。その子にはとても大事な親友と呼ばれる存在がおりました。その子と親友はいつも一緒でした。ですがある時何かが変でした。もちろん話しかければ話してくれるのですが、言葉では言い表せないのです。その子は気のせいかと思いそのまま過ごしておりました。そして次の日、そのまた次の日、一週間経ってもおかしいのです」


 なんだ、なんだ……なんなんだ…嫌だ。なんか嫌だ。でもなんでなんだ?


「言葉では言い表せない。そんな不快感が彼女を襲います。もちろん面と向かって悪口を言われたわけでも、陰口を叩かれた訳でもない。それでも何か違う。まるで自分が、消えているような感覚。」

「ここで普通の小説なら本当は自分は死んでいたといった展開になったのでしょう。だがこれは現実。ふふっ、もしかしたらそちらの方が貴方にとって幸せだったのかもしれませんね?失礼、話を続けます」


 嫌だ…嫌だ……嫌だ…………続けないでくれ。なんなんだ?うちは一体?

 いや、違う。還るんだ…還る、還る、カエる、カエルンダ


「いつしか彼女の周りには誰もいなかった。理由もなくただただ元から友達ではなかったかのように。だがその子は学校に行き続けた。明日なら何か変わってる。明日が駄目なら明後日なら、明後日なら何か変わっている、と何か陰口を言われている……そんな気がしても口を隠しあくびをすれば気にしないふりができる。」


 いやだ、イヤだ、イヤダ……還るんだ…還る、還る、還るんだろうが…


「そんな暮らしをしていたからでしょう。いつしか思考能力は消え…味だってしなくなった。そして今、この場所をさ迷っている。もうお気づきでしょう。これは貴方の記憶。貴方が全ての記憶、自分の顔、性別、性格さえ消え去るほどの強烈な思い出」

「貴方は還りたい、そうおっしゃっていましたね?ですがもう、貴方の還るべき居場所はどこにもないのです」

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