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だいぶ経った頃。
第二審査合格の通知とともに第三審査の日程が送られてきた。
「第三審査」
その言葉は重かった。
莉都を笑顔にしたくて必死に頑張った第二面接の後も、第三審査のために頑張った。
ここで頑張れば、未来の歌い手だ。
「よし。」
気合を入れて会場に向かう。
今日から3日くらい、このメンバーで過ごす。その人数は少なかった。
ひとクラス分もないくらい、約20人が集まった会場はユメミライの事務所。寝泊まりできる小さな部屋も、みんなと話せる部屋と、作業部屋。スタッフさんが働く、本格的な事務所の場所。
俺は元気を売るんだから、、、元気に振る舞おう。
そう決めて、近くにいる人に話しかける。
「こんにちは!」
「あ、こ、こんにちは、、、。え、と?お名前は、、、?」
緊張気味のその子の顔に笑顔はない。逆に俺は笑顔で
「俺はりつです!君は?」
「あ、ゆなっていいます。りつくん、よろしくお願いします。」
しっかりとした口調でそう言ったゆな。
「ゆなって呼んでも大丈夫?」
「あ、はい!全然!嬉しいです。あ、僕は慣れないので敬語なんですけど、大丈夫ですか?」
「りょうかーい。仲良くしよー!歳、って、?」
「13です。」
「へー、俺は14です。」
「わぁ、一個上!ちなみに、僕は今年で14になるんですけど、りつくんは15の年ですか?」
「そう!ゆなって頼りになりそうだよね。」
「え?そうですか?」
「うん、なんか強いっていうか。最初は緊張してたけどさ、話したらしっかり者って感じ!」
「えへへ、嬉しいです。」
その時初めてみた、ゆなの笑顔。オーラがすごくて、笑うだけで周りが華やぐというか、そんな感じだった。
「ゆな、って、ここまで独学?」
「小さい頃、子役のレッスンをしてたことがあるんですけど、結局はどこにも受からず、終わった感じです。その後中学生になってから歌い手になろうと未来を決めたんです。」
「へぇ、、。俺はここまで独学でさ。ダンス教室とか、合唱部とかは行ったりしたんだけど、専門的なところはどこも、、、、。だから俺ってから元気っていうか。ただ元気いいだけで俺の笑顔は届けられるのかなって。」
「すごいですよ、りつくんは。最初僕に声をかけてくれた時、救世主みたいな感じでした、、!笑顔だったので、すごく嬉しかったですよ。すぐ緊張が解けたし、笑顔にもなれたので。それに、独学で、っていう行動力の凄さは人一倍だと思います。そんなところが認められたんじゃないですかね。でも、このオーディション、実はレベルが低くて。だから、、あんまり練習しない人とかでもここまで来たりするんですよね。」
「、、、、、そうなんだ。」
「、、、!ごめんなさい、りつくんってすっごい努力してたんです、よね?」
ゆなの申し訳なさそうな顔を見る僕の瞳が揺れる。
だんだん視界がぼやけていく。
いつの間にか、涙が出そうになっていて慌ててごしごしと目をこすった。
「大丈夫だよ!レベル低いとか関係ないし、俺が頑張ったからここまでこれたんだし、ね!」
笑顔を作って明るく言うとゆなは
「、、!そうですよね!僕も負けません。」
と明るく笑ってくれた。
僕は、もしかしたらゆなのことを元気にできたのかもしれない。
次の日も、審査は続いた。
「りつくん、おはようございます。」
「おはよ、ゆな。今日は誰か他の人にも声かけてみるか。」
「良いですね。そうしましょう。、、、って、あれは、、みうみ?」
ゆなが遠くを見てそう言った。
「みうみ、って知り合い?」
「あ、そうです。子役レッスン時代、同じところで、幼なじみで、中学も一緒で、、、。僕、このオーディションにみうみを誘ったから、、、。」
ゆなが不安そうに"みうみ"を見つめる。
「話しかけに行ってみようか?」
「え、いいんですか?行きたいです。」
ゆながびっくりしたように、でも嬉しそうにそういった。
"みうみくん"に近づきゆながつんっと背中を触る。
「、、、!え、、だれ、、って、ゆなじゃん!お互いここまで来たんだね!」
その、"みうみくん"がゆなを見て笑顔になる。
「俺、昨日は一人でさ〜。、、って、その人、誰?」
"みうみくん"が俺を見てそういった。
「あ、りつです。昨日ゆなと会って。」
「へぇ。俺、みうみって言います。え、と、昔からゆなと知り合いで、、、。とにかく、仲良くしてください!」
「よろしくお願いします。、、、タメ口でもいいですか?」
「あ、全然!俺もタメで行く〜!」
「じゃ。友達がいないみうみの友達探しでも行く?」
「うん!行きたい!」
「友達がいないってなんだよ!」
ゆなの笑顔と、みうみが怒る姿。
それを見ていると本当に仲良しなんだな、って伝わってくる。
そうしている間にスマホの一通の通知が来ていた。
「?なんだろ、、、今日のミッション?6人組を作れ、、、。って、まじか!でも3人はいるから、あと3人だねー。」
このとき俺達はこの6人組がまさか今のグループになるなんて思ってなかった。