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俺の本名は悠太ゆうただ。

じゃあ、りつはどこからって?

俺の、好きな子から。

"莉都りと"それがその子の名前で。

漢字ではりつとも読めるから、俺の活動名はりつになった。

可愛く「ゆーた」って呼んでくれるのが大好きだった。

「ゆーた。りとね、アイドルが好きなの。このひと。かっこよくてね、りとのタイプなの。」

 柔らかく、ふわふわ喋る莉都がたまらなく愛おしかったはずなのに、その言葉で一気に落ち込んだのを覚えている。確か、十歳の頃だ。

大きくなってもふわふわと、特にゆ"う"たの伸ばしても言えるとこなんて、必ず伸ばすし。とにかく幼さが抜けなかった。だから、俺が守らなくちゃ、とも勝手に思っていた。

「アイドルってね、スーパーヒーローみたいな感じでね、守ってくれるの。」

 当時の俺にはアイドルがかっこいいとかわけわからないと思っていたし、よくわからなかったけど、でもなぜか興味を持ってしまった。


昔から莉都のことが大好きで、でもその気持ちはずっと隠していた。

「ゆーた。あのね、今日ね、がっこでね。」

 と話す姿は可愛くてでもたくさん勉強はできた。

最初は恋とか何もわからなくて、でもやっぱり感情は恋愛感情だった。

「りと、お前前見て歩けよ。」

「えー?だって人と話すときは目を見て話さなきゃいけないでしょー?」

「そうだけど、歩いてるときは前を見ないと転ぶぞ、、、って」

「い、ったぁ、、、。ゆ〜た〜(泣)」

 なんて、泣き顔で。すがりつくような眼差しは、俺にしか向けることはなかった。11歳になった頃の話である。

そして、俺の12歳の誕生日なんかは

「ゆーた、たんじょーびおめーとー!」

 って満面の笑みで言ってきて誕生日プレゼントに莉都自作のハンカチをくれた。

莉都は絶対手放したくないって、そう思っていたのに。

10歳の頃あっけなくアイドルに取られてしまった。

悔しくて、でもなぜかやる気に満ちていた。

莉都を取り返してやるって、そんな気持ち。

今考えたらちっちゃな恋だったし、可愛い莉都に惚れて埋もれて、周りが見えていなかっただけだと思うんだけど周りが見えていなくて、幸せだった。

莉都だけに一生懸命で、友だちと遊ぶより莉都を優先していたし、何でもかんでも莉都、莉都。

そんなに莉都に一生懸命だったから、アイドルにだって嫉妬してしまったんだと思う。


歌い手に興味を持ったのは莉都のおかげで莉都がいたから。

「ナニコレ、イラスト?」

 莉都のスマホのホーム画面に向かって俺が言った言葉。

「うん。推しの、ゆらくん。」

「ヘェ。」

「アイドルなの。」

「え?いるの?現実に?アニメキャラとかそうゆーのじゃないの?」

「うん。ゆらくんねー、かっこよくてぇー、特に歌ってるときとか!ウタイテっていうんだよ。」

 莉都が幸せそうに語る、"ウタイテ"がなんなのかわからなくて頭の中で勝手にカタカナに変換される。

「歌う、に手って書いて歌い手。まぁ、歌手の漢字の間に"い"を入れた感じかな。」

「ふぅん。」

 と言った俺はちょっとニヤニヤしていたと思う。

俺はもともと歌がうまいと思っていたし、顔もイケメンと言うほどではなかったけど割とモテたほうだ。絶対になれると思った、莉都のいう、歌い手に。そして、俺が莉都を魅了して、今のゆらくん、とかなんとかいうやつよりも好きにさせてやる、当時の俺の願望は、そんな感じだった。

「ゆーた。これ見て。」

 いつの日か、莉都が持ってきた用紙に俺は目を奪われた。

「"アイドルオーディション”?」

「そー。歌い手になるためのオーディション。男子だけだから、ゆーた、どーかなーって。」

 莉都がちょっと気恥ずかしそうに言う。

その時の用紙がユメミライの応募用紙だった。

期日は無限にあるわけではない。全国の中学生以上の人に応募して2年後から始動する歌い手グループ。2年のうちの、3ヶ月で書類審査。6ヶ月で面談。3ヶ月で選考。で一年。残りの一年は仮グループを決めてみたり、選考された30人ほどのメンバーで実際にあって決めたりする。

なんて、当時の俺には怖くて、でもやるしかないと、思っていた。

その時からこっそり応募用紙を書いて、応募して結果を待つ間、ただひたすら練習した。

いろいろな人と話す。ダンスや歌。

合唱部に見学に行って声の出し方を教えてもらったし、1ヶ月くらいは合唱部にいさせてもらった。

さらに家の近くでやっているダンス教室に通い、ダンスを習った。

当時の俺にとっては苦痛で仕方ない毎日だった。

部活に入ったら莉都とは一緒に帰れないし、遅くに終わった部活の後、ダンス教室を一時間くらいやって、帰ってきて、テストの点を莉都と戦っているから必死に勉強して、寝るのは日付が変わる、本当に少し前で。

でも、その時の目標は歌い手になることだったから苦痛で仕方ない毎日も、寝る少し前に歌い手の歌を聞いて、少しでも目標に近づくために、ひたすら頑張っていた。

そんな多忙な日々の中、支えてくれたのは莉都と、歌い手のゆぅなって人だった。

その人はキラキラしてて、莉都のいう歌い手って救いの存在って言ったら大袈裟に聞こえるかもしれないけど、本当にそんな感じだった。

「莉都、俺、歌い手になってみせる。」

 そう宣言した時莉都は

「ゆーたならなれるよ。大丈夫。」

 と優しく笑ってくれた。

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