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07_まずは見た目から

 村に帰り着いてギルドに入ると、思ったより人が居なかった。食堂で飲み食いしてる村人もいそうなもんだけど。どうやら俺が見てた食堂の客はほとんど冒険者だったらしい。

 一人カウンターで何か書いてたメアリさんが、ドアについてるベルが鳴る音に反応して顔を上げた。

「あ、コータ君おかえりなさ……あら、お見かけしない顔ね?」

 少し目を丸くした彼女は少し首を傾げる。冒険者だと思って連れてきたけど違ったっぽい。じゃあ何なんだコイツ。不審者か?

「狼の森でコレを拾ったので届けに来た」

「だからアイテム扱いすんな!」

 村に入れて大丈夫だったんだろうかと思い始めた瞬間、首根っこ掴まれて猫みたいな状態でカウンターまで連れてこられた。じたばた暴れても全然効いてない。腕力の差を見せつけられてムカつく。

 

「狼の森……? コ ー タ 君 ?」


 メアリさんの方から物凄く低い声が聞こえてきて全身がビシッと固まる。恐る恐る視線を向けた先にあったのは、いつものメアリさんの顔じゃなかった。

「……ひょえ……えと、あの、その」

 真顔。メアリさんは真顔だった。

 それだけなのに、笑顔が消えた顔から怒りのオーラがしひしひと押し寄せてくる。同一人物とは思えないくらいに厳しい目つきで睨まれて、背筋がピンとなるどころか反り返りそうだ。

「私、散々言ったわよね。狼の森には行かないようにって。君のお耳は飾りなのかな」

「す、すみません……」

「自ら踏み込んだというよりは、同じ場所で狩りをしていて迷いウルフに追い込まれたようだが」

 黒い不審者のセリフで、ぴたりとこの場の時間が止まった。

 

 ひょっとしたら、コイツなりにフォローをしようとしてくれたのかもしれない。

 全ッッ然フォローになってねぇけどな。むしろメアリさんからの忠告を二重に破ってるってバレちまったからな!

 予想どおり怒気が割増になってしまった受付のお姉様は、は――っと地獄から響いてくる様なため息を吐く。

「コータ君。言いたい事は分かるわね」

「はい……注意事項ガン無視してすみませんでした……」

 低く圧が増した声に押しつぶされそうになりながら、何とか謝罪の言葉を喉から絞り出した。



 十分ぐらい怒りの厳重注意を受けた後、メアリさんの顔がみるみる元に戻っていく。ビフォーアフターが違いすぎて手品みたいだ。

「遅くなりましたが、うちの新人を助けて頂いてありがとうございます。この子は少し抜けていて」

「そうだろうな」

「秒で肯定しやがってクッソォ……」

 一ミリも悩まずに頷きやがった。むかつく。ちょっと自覚があるから余計にむかつく。

「抜けているコレとパーティを組むことになった。私はギルドに所属していないのだが、何か必要な手続きはあるだろうか」

 また首根っこを掴んで、しかもちょっと持ち上げながら指さしてくる。向こうの方が背が高いから俺の足はつま先立ちだ。

 むかつく。足長いのを見せつけやがって。むかつくむかつくむかつく!!

 ジタバタ暴れて手から離れると、今度はぐりぐりと頭をかき回してくる。今度は動物扱いかよ。


 無言でバトルを繰り広げる俺達にふふって笑いながら、メアリさんはカウンターのノートに何か書いている。

「特に手続きは必要ありませんわ。ただ……ギルド所属の冒険者と組んだ場合でも、所属者限定斡旋の依頼は変わらず受けられません。その点はご了承下さいね」

「承知した」

 待ってくれ何か専門用語みたいなのが出てきた。なのにコイツはしれっと頷いてる。

 本当に分かってんのかよちゃんと。表情に出てないだけでハテナマークがぐるぐるしてんじゃねーの。

「あ、あの……所属……あっせん?」

「ギルドに正式登録した冒険者限定で斡旋される依頼の事よ。無所属の冒険者と一緒だと受けられなくるわ」

「は、はぁ……色々あるんすね」

 なるほど、身内かそうじゃないかでも仕事が変わってくるのか。体力ゲージとか見えるゲームの世界なのに、そういう所だけやたら現実寄りだ。

 

「……本当にいいのね?」

 じっとメアリさんが俺を見る。

 そう真剣な顔で確認とられると、ちょっと怖くなってくるんだけど……。

「ええと、まぁ……はい。回復覚えられたのコイツのお陰だし、助けられたし、もう少し遠出したいし……」

 悔しいけど、俺一人だったら今頃ウルフの腹の中だっただろうし。回復魔法覚えるのも何日かかったかわからないし。お礼に金品要求したりするような人でなしではなさそうだし。

 元の世界で俺がどうなってるのか分からないけど、帰れるならちゃんと帰りたい。だから早くレベルを上げて、あちこち旅をしたい。

 ……コイツの行動、いちいちムカつくけど。

 

 もごもごと答えるとメアリさんは、そう、と小さく呟いた。

「このギルドの冒険者は殆どこの村の人達だものね。流れの方と組む方が旅はしやすいかもしれないわ」

「え、あの人達みんな元は村人Aだったんすか」

 あのちょっとガラの悪いムキムキマッチョ軍団が、鍬とか鎌とか持って畑でニコニコしてる姿はちょっと想像出来ない。鉱山とかの方がまだ似合いそうだ。

 何かがツボに入ったのか、メアリさんは少し吹き出した。くすくす笑いながらノートを閉じると、椅子に座って頬杖をつく。

「ふふ、そうよ。この村のギルドは元々自警団が大きくなったものなの」

 メアリさんいわく、ウルフの森が近いから自営するための自警団が昔からあったらしい。

 その内ギルドの窓口が出来て、魔法使いとか職人みたいな人達も越してきた。そのお陰で村の警戒線や村の中からの攻撃設備が充実したんだとか。

 始まりの村、なかなか成り立ちが物々しいな。

 そうだ、とメアリさんが突然キラキラした笑顔で立ち上がった。

「治癒魔法を覚えたことだし、せっかくだから僧侶の衣装をプレゼントするわね」

「えっ? いや、それ俺だとただのコスプレだからご遠慮し……もう居ねぇ……」

 あっという間に姿を消した受付のお姉さんは、あっという間に荷物を持って戻ってきた。

 

 問答無用で上から服を被せられて、帽子を乗せられる。

 やけに鮮やかな青い服にはデカデカと右の端が尖った十字が書かれていた。帽子には飾りがついててシャラシャラ揺れる。ちょっと落ち着かない。

「こっ、これ大丈夫なんすか。俺は野良なんすよね? 神殿とかで修行した人に怒られたりとかは……」

「そんなの照会しなきゃ分からないわよ」

 その物言いはバレたら怒られるやーつ……。

「分かりやすさは大事なのよ。何かあった時に職業が分かりにくかったら、助ける時の優先順位から外れてしまうから」

「……ナルホド」

 確かに何の職か分からなかったら判断に迷うな……例えば魔法使いの見習い的なのと勘違いされたら魔法攻撃が出来ると思われる訳だし。

 ズバリ僧侶!って感じの見た目に恥ずかしさが凄いけど、文句の言いようがなくなってしまった。 


 落ち着かない俺と、馬子にも衣装だなと呟く黒い剣士。始まった小突き合いの第二ラウンドを見守っていたメアリさんが、あ!と急に声を上げた。

「そういえば自己紹介がまだでしたわね。私はギルド受付員のメアリと申します。お名前を伺っても?」


 …………そうだった。

 俺、パーティ組むのにコイツの名前知らねぇや。

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