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29_王都

 寝台馬車が王都に着いて、よろよろと地面に降り立った。

 連日ほとんど部屋に引きこもってたせいで元々貧弱な足が余計に弱った気がする。自業自得だけど。

 王都は簡単に言うなら、ロンドンとパリを足して二で割ったみたいな景色だ。時計塔みたいなのとエッフェル塔みたいなのが広場に仲良く並んでる。好きなとこ取って混ぜました感が凄い。

 ていうかここまで似せて大丈夫か。怒られなかったんだろうか、ゲームの方。

 そしてどこからともなく花の香りがする空気に、遠目にはお城と馬鹿デカイ教会みたいなのが見える。あれは城が小さいのか教会が巨大すぎるのか、どっちなんだろう。

「職人の街より建物の圧迫感がすげぇ」

「それなー。職人の街は屋根が低い作業ヤードがあるけど、王都は縦も横も容赦なく詰まってるよね」

「「大都会って感じ」」

 ……出てきた感想がサナと全く同じで、別方向のオタクとはいえ同郷かつ同族の因果を感じずには居られなかった。

 

 圧迫感とか詰まってるとか話しながらお上りさん丸出しでキョロキョロしてたせいか、周りの目がちょっと気になる。まるで遠巻きに監視されてるみたいな、何だか嫌な感じの視線だ。

 違和感に首を傾げてると、目の前で走り回ってた小さな子がボテッとすっ転んでしまった。むくりと起き上がってぷるぷる震えてる。

 頑張って声を抑えてるみたいだったけど、結局火がついたみたいに泣き出してしまった。

「立てるか」

 気が付いたらエルがしゃがんで声をかけていた。助け起こしたりはせずに、手を差し出して転んだ子が手を取るのを待っている。じっとその手を見ていた子が恐る恐る手を伸ばした。

 と、思ったらその手は横から延びてきた大人の手にかっさらわれていく。

 起き上がりかけていた体を抱え上げて、守るように抱きしめた大人はエルをギッと睨んで無言で走り去っていった。

「……なにあれ。あれ親? 何なんだよあの態度」

 エルはそりゃ全身真っ黒で不審者みたいに浮いてるけど。でもエルからあの子に触ったりしてない。転んでる子に声かけて、立ち上がって手を取るのを待ってただけだ。

 なのに、あんな態度はあんまりじゃないのか。

 

「仕方がない」

「何で!」

 涼しい顔してるエルに思わず噛みつくと、レティがまぁまぁと割って入ってきた。

「王都は教会や神殿の総本山、大神殿のお膝元ですの。黒を嫌う風潮は特に顕著なのです」

 そういえばそんな話聞いた気がする。神殿の人は夜が怖いんだっけ。

 だけど今のは酷くないか。泣いてた子供に手を差しのべてただけなのに、まるでエルが泣かした犯人みたいな態度で睨むのは失礼じゃないのか。

「黒い目と髪がそんなにダメなのかよ……そんなの日本なら当たり前だし山ほど居るのにっ」

 さっきの光景が何回も頭の中で再生されて、ムカムカが止まらない。討伐隊の僧侶に言われた時よりずっとずっと腹が立つ。

「子を持つ動物の親は攻撃的になる。人間も同じ様なものなのだろう」

 気にするなと頭を撫でられて、思わず俺もエルを睨んでしまった。さっきから何で俺が一人勝手に怒ってるみたいな感じになってんの。ちゃんと怒らないといけないのはエルなのに。

 だけど。

「お前が腹を立ててくれたのなら、それでいい」

 そんなことを言われたら、文句のもの字も言えなくなってしまった。


 街の中を歩けば歩くほど、周りの視線はちくちくと俺達を刺すように増えていく。ひそひそと囁くような音も物凄く気分が悪い。

「……思ったよりも殺気だっているな。城で万一があっては事だ、私一人で出向こう」

 ぽつりとそう言ったエルに、時間が一瞬止まる。

「ちょっと、殺気だっていると己で言ったばかりではないですか。正気ですの?」

「城に居るのは精鋭兵だけではない。勇者も居る。万一があっては敵うレベルではない」

 そう言ってサナに職人の街の書簡を寄越せと手を差し出した。だけどエル推しヤバ腐女子の顔を見るに、その耳には少しも内容が入ってなかったんじゃなかろうか。

「ゆうしゃ!? 王様だけじゃなくて勇者様が居るんですかムッハー!!」

 勇者って単語に、珍しく空気を読んでたせいか余計に勢い良く限界を振り切ったらしい。物凄く荒い鼻息混じりにエルの手を握りしめる。一瞬でドン引きした顔に変わったエルは、信じられない早さでサナの手から己の手を脱出させていた。

 そういや勇者ってサナがカップリング妄想してたエルの相手の一人なんだっけ。王様との妄想もしてたっていうし、今更だけどホント無節操だな……。

「ちょっとサナ、黙ってくださいな」

「王様に書簡渡す使命もありますし!? しかも勇者様までワンチャン見れるなら絶対行く! 行く行く行モガッ」

 大興奮が止まらないらしいサナの大声に、見かねたらしいレティが手で口を塞ぐ。しばらくモゴモゴ言ってたけど、魔法も使って押さえつけてるっぽい手は振り払えないらしい。

 しばらくすると諦めたのかシュンと大人しくなった。

「……貴方……本当に底抜けの変人ですわね」

「えっそう? そう言われると照れるー!」

 褒めていませんわとゲンナリした声でため息をついたレティに、サナはけらけらと笑った。

「俺も行く。黒は警戒されるんだろ、エルだけで行ったら普通に断られそうじゃん」

「だが」

「行く。戦闘になるかもしれないなら薬草要るだろ」

 家族水入らずで話したいかもしれないけど、前世のエルを倒した奴が居るなら一人で行かせられない。何か言おうとしてたみたいだけど、一度開けた口をゆっくりと閉じて。

「………………分かった」

 少し困ったような顔で頷いた。


 

 受付でバトる気満々でお城に行ったけど、サナの持ってきた書類のおかげかアッサリと許可が下りて中に通された。高い天井の続く大回廊を通って、巨大な金属のドアの前に案内される。

「この先を真っ直ぐ進み、大階段をお上り下さい。上った先ではこの許可証を入口の衛兵へご提示願います」

 淡々とした説明の最後に渡されたのは、キラキラした装飾がびっしり書かれた透明なカードだった。凄く綺麗だけど、何だろう。ちょっと持ってるとぞわぞわするな……。

 重苦しい音で開いた扉を通って、調度品で飾られた一本道を歩いていく。

「解錠魔法、閉鎖魔法、阻害魔法に……これは拘束魔法ですかしら。王城の中だというのに物々しい紋様を刻んだアイテムですわね」

 廊下を歩きながらカードを鑑定してたレティは少し驚いた様子で呟いた。持ってると違和感がすると伝えると、念のために見せてくれと言われて渡してたんだけど。

「それってどういう……?」

「王に危害を与える可能性があるとみなされているのではないかしら。何か仕掛けられないか警戒した方が良いですわね」

 それを聞いて思わず、昨日エルに言ったことを後悔した。

 サナがすぐエルドグラウンだって分かったくらいだし、エルは前世と姿が変わってないんだと思う。

 お城の人は誰かしらエルドグラウンの顔を知ってそうなものなのに、そんな代物を渡してきたってことは……エルが帰りたいって思ってもお城に帰れるのかは、正直怪しい。

 なのに、帰りたかったら気にせず帰ってくれなんて、さすがに無神経だったかもしれない。


 皆無言で廊下を歩いていた。見えてきた上の階へ続く巨大な階段を、あちこちに居る衛兵に監視されながら上がっていく。

 エルもレティも、心なしかぴりぴりした様子で周りの様子をうかがってる。サナはウインドウで敵のシンボルが見えるって言ってたから、それで見てるのかな。

 階段を上がりきると、今度は金色の縁取りがされた金属の扉が見えてきた。手前に居る衛兵に入口で預かったカードを渡すと、刻まれた紋様の中の一つが金色に浮かび上がって扉が開いていく。

「この先は我らが王の座す謁見の間でございます。くれぐれも失礼のなきよう」

 ガコンと大きな音がして完全に開いた扉からは大きな広間が見える。

 

 ゆっくりと足を進めながらちらりと見たエルの顔は、どこか緊張してるように見えて。思わずエルの手を握ってぎゅうっと力を込めた。

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