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23_坑道の守護者

 ホッとしたのも束の間、斜め後ろから物凄く低い唸り声が聞こえてきた。なんつーの、地の底から這い上がってくるようなっていうか、なんていうか。

 一発でヤバいって分かるような、音。

「……なぁ、何かすんごいデカいのが居るんだけど」

 ちらっと顔を音のした方に向けて、すぐ元に戻した。どう考えても魔物だろって雰囲気のデッカイ奴が居る。

 狼みたいな顔がしわくちゃになる程しかめられてて、口から炎みたいなのがもわもわ出てて。あれ絶対触ったらヤバいやつだ。

「フェルドウルフの成獣だ」

 ビビる俺とは対照的に、エルは何でもない顔でこっちを見る。

 いや、めちゃくちゃ怖いじゃん……ふわふわの天使もああなると思うと時の流れの残酷さを感じる。

 そんなことを思いながら手元の天使を見ると、嬉しそうにきゃうきゃう鳴いていた。

「あ……もしかしてあれってコイツの親なのかな」

「そのようだな」

「ううぅ、寂しいけどお別れかー。元気でな……」

 そっと天使を抱き上げて、恐る恐る牙を剥いてる親らしきウルフの方に向き直った。

 やば、顔つきもだけど目が血走ってる。寄ったら即食われそう。エルが普通にしてるって事はこれが通常運転なんだろうか。だとしても威圧感がだいぶヤバい。

 あれは親の子供を返せ的な必死の形相なんだと言い聞かせつつ、じりじり寄っていった。何とか腕をめいっぱい伸ばして天使を顔の前に持っていく。


 ……。


 …………。


 ………………。

 

「……………………なぁ。受け取ってくんないんだけど」

 腕が天使の重みと恐怖でぷるぷるしてるんだけど。早く受け取って欲しいんだけど。

「罠ではないかと警戒されているようだ」

 めちゃくちゃ強そうなのに警戒心強すぎだろぉぉぉぉ――――ッッッ!!

 何も罠張ってないし天使も本物だし何なら今すぐにでも漏らしそうなくらいビビり散らかしてるのに! そんな小心者オタクに警戒しないで! 何もしないから!!

「も、元魔王のエルと話してどうにかなんないの」

「そいつはこの地下鉱山のヌシのようなものだ。魔王が使役する魔物のように、魔王だからと言うことを聞く訳ではない。戦って服従させれば別だがな」

 まじかよ頼むよ魔王様ァァァァ――――!

「子供返すのに親怪我させたら意味ないじゃん……何もしないよ俺、ちゃんとコイツ連れて帰ってやってくれよぉ」

「そもそも、野生動物は人間の匂いがつくと群れに戻れない事が多い」

「ぅげっ、俺のやらかしってこと!? 飴あげたのまずかった!?」

 可愛さあまりに触りまくったり飴あげたりしたせいで親元に帰れないとか悲しすぎる。これどうしたらいいんだよ。俺が責任もって飼うしかないのか。

 ……それはそれでちょっと心惹かれるけど。

「あ」

 そんな事を思ったせいか、親ウルフが引ったくるみたいにして天使を奪っていった。地面にちょんと下ろして、親がぺろぺろと毛繕いするみたいに子供の全身を舐めている。

 あの念の入れようは絶対バイ菌扱いされてるな、俺。

 

「とりあえず分かってくれた、のかな」

「そのようだな」

 よかったと息をつく。

 もうあっちも俺を睨んではないみたいだ。よかった。よかった、本当に。あれと戦うとか言われたら俺一人で力尽きてそう。

 後は無事に親ウルフが子供連れて退場してくれれば……えっちょっと、何で天使がこっち戻ってくんの。

「あっこら、俺はここでバイバイだよ」

 わふわふ言いながら、舞い戻った天使は俺のズボンの裾を引っ張る。思わず撫でようと手が伸びたけど、後ろの親ウルフが低く唸る声で勢い良く引っ込んだ。触った瞬間噛みつかれそうな圧を感じる。

 だけど天使はじ、と俺を見る。うるうるした目でじっと。

「うぐ……そ、そんな目で見つめられても……俺は皆と街に帰るからダメだって」

 じぃぃっと、うるうるした目が俺を見る。アニメだったら絶対周りにキラキラエフェクト飛びまくってる。威力がえぐい。可愛すぎる。

 だけどそのBGMは地響きみたいな唸り声っていう地獄絵図だ。しかもちょっとずつ近付いてきてる。やばい。このままだと誘拐犯認定で抹殺される。

「とっ、父さんか母さんか分かんないけど、お前を待ってるだろ。ほら、行きなって」

 慌てて親ウルフの方に方向転換させて、ぽんぽんと背中を軽く叩く。しばらく振り向いてこっちを見てたけど、きゅうん、と甘えるみたいな声でひと鳴きして親元へ戻っていった。

 なんだそれ、最後まで天使だな。

「……はー、まさかダンジョンであんな癒しを受けるとは」

 ちょっとだいぶ後半怖かったけど。

 ウルフの親子の後ろ姿を見送って、天使の余韻に浸りながら来た道を戻る。その先に待ち構えていたのは、睨むだけで人を殺せそうな表情のレティだった。何も言わずに一人でサナのお守り役にしてたのがまずかったっぽい。

 前門の激おこレティ、後門のフェルドウルフだ。

 さすが元悪役令嬢……仁王立ちが様になっていらっしゃる……。



 平謝りで何とかレティをなだめて、虹銀をひたすら採掘してたサナを引きずりながら先に進む。二つ下の階層に潜ると、ゴツゴツした岩が剥き出しの壁に囲まれてた景色が鉄骨で補強された岩壁に変わっていた。

「かなり人工的な構造物ですわね」

「ここが閉山になる直前の現場らしいよ。技術の進歩が垣間見えるよねー」

 二人の話を聞きながら歩いてると、急に床がバキっと音を立てる。

「うぁっ!? いっっっうぃぃぃ……ッ!」

 音が鳴った瞬間、板が一気に床の中から起き上がってきて見事に脛へクリティカルヒット。たまらず床にしゃがみ込んだ。

 いたい……ダメージは地味だけどめちゃくちゃ痛い……。

「あー気をつけてね、閉山間際は魔物や盗掘が増えてたらしくて、侵入者避けの仕掛けがいっぱいあるんだよ」

「も……もっと早く言って……ッうぅ〜」

「ごめんごめん。面倒だから解除しちゃうねー」

 そう笑いながら、サナは奥にあるデッカイ機械の前に立った。モニターみたいな黒い四角とキーボードみたいなボタンの並ぶ板がくっついてる。何かパソコンみたいだ。

 カタカタと何かを操作する音が聞こえ始めると、フロアのあちこちでカチンカチンと音がする。しかも結構な数。

「まさかあの音、全部罠ってこと……?」

「そ。執念感じるよね」

 執念というかもう怨念じゃないだろうか。罠解除の音が天井からも聞こえるんだけど。

「そういやさ、ここの防衛システムにロボットもあるみたいなんだよ」

「ロボット!? すげぇ!」

 ろぼっと?って不思議そうに呟く二人をよそに、俺のテンションはすぐに上がった。

 もう小さい頃ほど熱を上げてる訳じゃないけど、やっぱロボット好きなんだよな。美少女推しに走っても慣れ親しんだロボットは心の故郷なんだ。

「見たいー? 見た瞬間戦闘突入だけど」

 話しながらキーを打ってたサナがニンマリと笑う。冗談だと分かってても思いっきり首を左右に振った。

 想像するだけでもゾッとする。こんだけ罠張りまくってる人達の作ったロボットなんて絶対えげつない機能ついてるだろ。たぶんきっと俺の知ってるロボットじゃないだろ。

 

「あっ」

「えっ?」


 やべっとサナが呟くと同時に、フロア全体が振動し始めた。

 最初は小刻みに、だけど段々大きくなってきてるような……何か物凄く嫌な予感がする。

「ちょっと、何ですのこの音は。何をしでかしましたの」

「あー、えーっと、ね……」

 レティに睨まれながらもじもじと振り向いたサナは、たははと笑いながら両手を顔の前で合わせた。

「ごっめーん! ロボットのご登場でーす!!」

 こん、と会話に一瞬間が空く。

 何言ってるのかすぐには分からなかったから。


 

「「……サナァァァァァァァァ!!!!」」


 

 思考が追い付いた俺とレティの叫び声に合わせるように、奥へ進む通路であろうドアが轟音を立てて崩れ落ちた。

 ドアって何だっけ。あんな派手にぶっ壊されるもんだっけ。呆然と目の前の土煙を見つめてると、バラバラとドアだったものらしき瓦礫が落ちている中から地響きが近付いてきて。

 色んな武器を全身にくっつけた阿修羅像みたいなロボットが、のっそりと奥から姿を現した。


 ……やっぱえげつないのが出てきたじゃんか……。

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