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02_始まりの村

 草原の近くには小さな村があった。

 入口から村の中央への道沿いには小麦畑。道の先、中央広場には赤い屋根の小さな風車。その周りには木で出来た小屋がぽつぽつと立っている、テレビで見かけるのどかな西洋の田舎って感じ。


「ようこそ、始まりの村へ」

 声をかけてきた入口の村人に軽く会釈をして門をくぐる。

 道案内を買って出てくれたモブ氏の後ろできょろきょろ周りを見回しながら、アトラクションか何かじゃないかなって自分の考えを否定した。

「完っ全に体験版……」

 流れがプレイしてたゲームの体験版に完全一致。モブ氏の見た目も公式サイトで見た立ち絵そのものだし、顔はグラフィックまんまだし。入口の村人Aのセリフとかもうゲームのお約束だし。

「そういえば、お前の名前は?」

 さすがモブ氏、見事なチュートリアル台詞。ここはキャラメイクした主人公の名前を決めるウインドウが出る場面だ。今は出てないけど。

 どうしようかな。完全な異世界ネームにするか、本名でいくか……って思ったけど、異世界ネーム呼ばれても反応出来ない気がするから却下だ。


 と、いうことで。

 

「えーと、康太(こうた)です」

「こた……?」

「コータ、です」

 素直に本名答えたらきょとんとした顔で見つめられて、心の中でどわっと冷や汗をかいた。

 日本人の名前は言いにくいのかな。やっぱり異世界ネームにした方がよかったかな。ボブとか。

「コータ、か。よし、コータだな。俺はボブだ」

 ……あぶね、うっかり異世界ネームでモブ氏とお揃いになるとこだった。



 モブ氏改めボブ氏に案内されながら村の中を歩いていく。中央の風車から右に曲がって、見えてきたのはレンガで出来た立派な建物。木で出来た他の建物と違いすぎて浮いてる。

 これも見覚えある。ゲームの主人公が頻繁に出入りする事になる拠点だ。

「ここがギルドだ。ジョブカードは持ってるか?」

「じょぶかーど?」

 あれっ、何か独自設定入ってきたぞ。

 何か持ってんのかなって服のポケットを漁ろうとするけど、よく考えたら服が着てたのと違う。あちこち叩いてみてもポケットが無い。ウエストポーチみたいなやつが腰についてるだけだ。

 一応開けてみるけど……さっき貰った薬草が入ってるだけ。

 ていうか無意識でインベントリ使ってたな。俺の適応力、凄すぎ。

「……無いみたいっす」

「まずはジョブカードからか」

 ボブ氏は頷きながらそう呟いて、建物の扉を開いた。

 

 足を踏み入れた建物の中はちょっと豪華な食堂みたいな雰囲気だった。

 だけどお客は見るからに冒険者風のムキムキマッチョとか、魔法使いそのものな帽子被ってるひょろ長いメガネとか。RPGやってます!って感じの人達ばっかりだ。

「あらボブ、また人を拾ってきたの?」

 男女比が99:1くらいの空間に、明らかな大人のお姉さんの声が聞こえた。

 カウンターの向こうに立っていたのはやっぱりお姉さん。ゆるいウエーブのかかった茶髪に柔らかく目尻の下がった目。おっとりした雰囲気のザ・美女だ。

 このギルド男女比の理由この人だろ。絶対このお姉さん目当てだろ。

 周りが明らかにデレデレしてるのにボブ氏は全然態度が変わらない。さすがモブ代表のボブ氏、役割に忠実だ。

「まぁそう言うなメアリ。こんな子供なのに訳アリのようだ。ジョブカードもないらしいし」

「まぁ……奴隷商あたりから逃げてきたのかしら」

 二人が結構デカい声で話してるから、ギルドの視線がカウンターに集まってくる。気まずい。物凄く気まずい。

 しかも奴隷とか逃げるとか穏やかじゃない単語が混じってる。記憶喪失って話してたはずなのに、いつの間にか脱走犯にされつつある。どうしてこうなった。


 何だか難しそうな顔をしてるメアリさんに、ボブ氏は片手を上げながらパチンとウインクする。

「このまま放っておく訳にもいかないし、ひとまず仕事を与えてやってくれないか」

「……そうね。ジョブカードがないなら、まず簡単な筆記テストをしましょうか」

「え。て、テスト……?」

 せっかく受験終わったのにまだテストすんの。何の罰ゲームなんだ。

 予想外すぎる展開で固まる俺に、メアリさんはにこりと微笑む。

「大丈夫よ、お願いする仕事の方向性を決めるためのものだから。成績によって斡旋できるお仕事の数が変わってくる程度よ」

 ……いや、そこ大事な所なんじゃなかろうか。

 つまり頭のいい奴ほど依頼される仕事が増えるってやつだろ。結構シビアだ。こんな所まで現実世界に似なくていいのに。


 筆記テストは読み書きと計算と長文の読解だった。驚いたのは明らかに見た事ない文字なのにちゃんと読めること。英語ですらヒーヒー言いながらやってた俺が、全く見知らぬ文字をスラスラ読んでサラサラ書けてしまう。

 ……これはもうダメだ。

 他に解釈しようがなくなってしまった。異世界転生ほぼ確定だ。あとは夢オチに一縷の望みをかけるしかない。

 テストの後は職業適性を見るとかいって、怪しげな道具に手を突っ込まされた。箱の中で何かに手を掴まれたような気がするけど、もうそれは何だったかとか考えないようにする。

 皆同じ事するって言ってたし。

 魔法アイテムだって話だったからそんなもんなんだろ。そうだって言ってくれ。

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