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16_職人の街

 何となく気まずい空気のまま、組んだ冒険者の隊列は近くにあるっていう職人の街に到着した。

 かかったのは馬車で揺られてた時間とちょっとくらいだと思う。依頼の現場は元居た街より結構遠かったんだ。

 入口近くの地図には北側に大きな山と、そこから扇状に街が広がっている様子が描かれていた。

 建物も見てきた街とは全然違って、大きい建物に少し小さいけど細長い建物が連結されたようなものが建っていて。今までは見るからにファンタジーな木の家とか石造りの家って感じだったのに。この街のは石造りなのにちょっとビルみたいな雰囲気だ。何だかSFっぽい。


 ギルドは街の真ん中に建っている、ひときわビルっぽい大きな建物だった。

 酒場の横にある入口から繋がる廊下を奥へ抜けると、ホテルのロビーみたいに綺麗なフロアが広がってて。

「すっげ……掲示板がこんなに」

 依頼が張り出される掲示板がざっと見ても五台くらいは並んでいる。壁にもデカいのが一枚あるから六台か。始まりの村は壁にくっついた板一枚だったし、元居た街だって二台だったのに。

「職人の街は職人への依頼も届くから、ギルド全体で案件数が多いんだよ」

 後ろから声がかかってちょっとビックリした。思わず立ち止まってしまったから入口を塞いでたっぽい。

 すいませんと謝りながら避けると、声の主は軽く会釈をして入っていく。でっかい荷物をキャリーみたいなやつで引いているお爺さんだ。

「ああ、これかい。納品用の荷物だよ。武器を作るための加工素材さ」

 俺の視線に気づいたお爺さんは、ほほっと笑いながら荷物が見えるようにカートを動かした。

「えっと、じゃあ、お爺さんは」

「素材職人といってね。持ち込まれた素材を加工して、武具や道具を作るための材料を作る職人だよ」

 という事はクラフターってことか! アイテム量産とか特殊スキル付きや上級の武器を作る時に重宝するやつだ!

「す、すげぇ……!」

「我々からすれば魔物と戦う冒険者の方がよっぽど凄いと思うがね」

 とても魔物相手に戦う気にはなれんからなぁとお爺さんは笑う。


 この街は職人の街って呼ばれるくらいに、クラフターって呼ばれる職人が多く工房を構えてるらしい。

 クラフターは作ったものを武器屋や道具屋に卸したり、お爺さんみたいにギルドからの依頼を受けて納品したりする。検品で品質が良ければ高く買い取って貰えるし、逆に悪ければ買い叩かれるんだそうだ。

 街の職人組合がやってるマイスター制度ってのに合格すれば自分の店が開業出来て、検品も省略されるらしい。でも毎年免許更新はあるし品質を落とせば途中で資格がはく奪されるとかで人数は少ないとか。職人の世界はなかなか厳しい。だから良いものが出来るんだな。

 この街についてざっくり聞き終わると、ふと会話が途切れた。ギルドのフロアに溢れてる冒険者一行を見渡したお爺さんは少し首を傾げる。

「しかし凄い数の冒険者だね。どこの街から来なすったんだい」

「あ、えと……丘の上の街から」

「おや、丘の街かい。では道を塞いでいた魔物は討伐されたのか。ありがとうねぇ」

 あいつらが邪魔で食料の買い付けに行くのにも困っていたんだと、邪魔者を倒してくれてありがとうと、お爺さん職人は笑った。


 あの魔物の群れは住んでたであろう場所から必死で逃げてきた奴らだけど、そんな事情をこの人は知らない。 

 エルみたいに魔物の言葉が分かる人がもっと居れば一緒に居られたのかな、なんて。あの魔物達のあんまりな言われようにちょっと無謀な事を考えてしまった。 

「魔物と戦って疲れたんじゃないかね。じじいの話を聞いてくれたお礼も兼ねて、甘いものをあげよう」

「え、あ……ありがとうございます」

 手の平にころんと置かれたのは、オレンジ色の包み紙にくるまれた丸いもの。飴かな、かすかに甘い匂いがする。べっこう飴みたいな感じか。

「数が無いから、こっそり食べるんだよ」

 そう言いながらぱちんとウインクして、お爺さんはキャリーを引いて行ってしまった。 

 おじいさんを見送ると、入れ替わるみたいにしてエルとレティが奥から戻ってくる。だけどちょっと浮かない表情だ。

「討伐隊の完了手続きは済みましたわ。ただ……」

「ただ?」

「王都への道が土砂崩れで埋まっているそうだ」

「えっ……えぇモガッ」

 思わず叫びそうになる口をエルの手が塞いだ。何すんだよと抗議を込めてジタバタするけど、また説教を食らう気かと溜息がてらに言われて首をぶんぶん横に振った。

 あっぶね……丘の街みたいに説教食らう所だった。


 

 夕食がてらギルドと同じ建物の食堂へ場所を移して、これからの事について話し合う事にした。

 賑やかなレストランフロアの端らへんに陣取って、料理が来るのを待つ。夕食時だからか周りは酒飲んでる人が多い。

「大雨で山肌が崩れて道が寸断されているそうです。討伐隊に参加していた一部の冒険者はそのまま復旧工事の依頼を受るようですわ」

「あれは王都への道で唯一馬車が通れる街道だからねぇ。大慌てで復旧工事の大量募集をかけてるんだよ」

 急に話に入っていたのは近くで飲んでたおじさんだ。

 冒険者にしては町人感が強いなって思ってたら街の自警団員だった。自警団のシフトが空いてる時に復旧工事に参加してるらしい。なるほど体格はガッシリだ。

「他の道がありますの?」

「古い道筋があるが。国内一を誇る標高の山越えか、砂漠地帯越えかの二択だな」

 ちょっと期待をもって聞いてたけど、これはダメそうだ。山も砂漠も条件が厳しすぎる。どのルートも俺が途中で死にそう。

「あまり現実的ではないな」

「踏破より復旧の方が早そうですわね……」

「そういうことだよ」

 二人も揃ってため息をつく。こればっかりは全員で完全に意見一致ぽい。


 おかわりで届いたデカいジョッキの葡萄酒をぐいっと飲んで、おじさんは続ける。

「移動も出来ないし、報酬の実入りもいいからね。体力作業の多い復旧工事は、受ける冒険者達が多いのさ」

 聞いてると結構人力工事みたいだ。ブルドーザーとかパワーショベルとかは無いのか。浮かぶランプ作れるなら重機くらい作れそうだけど、元の世界みたいな需要はないのかな。

「討伐隊以外にも冒険者が沢山居たのは、そういう事でしたのね」

 そんなこんなしている間に俺達の方にも料理が届いて、思わず話から意識が逸れた。

 焼いた肉のステーキに、少し固めのパンとカラフルな葉っぱが混ざったサラダ。遅れてフルーツの盛り合わせが出てきてテーブルの真ん中にドンと鎮座する。

 この街は果物が沢山採れるらしくて、一緒に出てくる無料の飲み物は豪華にフルーツの生搾りジュース。一番安い肉料理のはずなのにフルーツのせいでめちゃくちゃ豪華だ。特産地最高。

「しっかし、お前らだと黒い兄ちゃんしか復旧工事参加は無理そうだな!」

 地味に失礼な事を言いながらぐいっとジョッキの酒を空にして、おっさんは大声で笑った。


 その大声のせいなのか少し遠くで何か話し込んでた一団がこっちを見た。何かボソボソと話して、手前側に居た奴がこっちに近付いてくる。

「ね、ねぇねぇねぇ! 君達冒険者なの!?」

 やって来たのは明るい茶色の髪が肩くらいで切り揃えられてて、袖のないツナギみたいな服を着てる女の子だった。パッと見は日本に居そうな色なのに、紫の目で一気にファンタジー感が増してる。キミツナ世界、すぐファンタジーぶっ込んでくる。

 妙に前のめりな様子と、向こうの冒険者っぽい一団がゴメンって仕草をしてるのが不穏でしかない。

 そのせいかエルもレティもリアクションらしいリアクションをしない。反応する時はめちゃくちゃ素早いくせに、こういう時だけ近寄りがたいオーラ出してやがる。

「僧侶君が居るってことは冒険者パーティだよね!?」

「え。えっ、と、うん……一応」

 なるほど、街に来る途中で聞いてた限り僧侶は一人じゃ出歩かない。二人がダンマリしててもこっちに来る訳だ。

「ダンジョン探索の依頼したいんだけど!」

「おいこら。そういうのはギルドに依頼出さねぇか」

 ばぁんと勢いよくテーブルに身を乗り出してきてちょっとビビった。酒飲みのおじさんが見かねて止めに入ってくれるけど、鼻息荒い女の子は全然聞いてる気配がない。

 

 拗ねた顔でぷくっと頬を膨らませるのはちょっと可愛いけど、何か……気配というかオーラみたいなやつが。どうにも猪みたいな勢いが伝わってきて可愛さを相殺している。

「出してるよ! でも皆見向きもしないからこうして声かけてるの!!」

「どうせまた変な依頼なんだろ」

「変じゃないもん! 鉱山の探索だもん!」

 猪みたいな勢いの女の子は酒飲みなおっさんの知り合いらしい。おっさんが一応宥めようとしてくれてるみたいだけど、全然止まる気配がない。ある意味すげぇ。

 今まで見てた女の子がレティとかメアリさんみたいなタイプだったから、雰囲気違いすぎて余計にインパクトが強く見える。

「土砂崩れで壊れた防衛システムや機械を修理したいの。その材料を集めるお手伝いをして欲しいんだ!」

 思いっきり身を乗り出しながらキラキラした目で熱弁してくる。圧が凄い。ゴリゴリ押してくる圧が凄い。

 助けてこわい……頼むから誰か助けてくれぇ……!



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