私と婚約者のデートに、婚約者の幼馴染みがついて来ます。最初はやめて欲しいと思っていたのですが…(番外編2:幼馴染み視点)
「私と婚約者のデートに、婚約者の幼馴染みがついて来ます。最初はやめて欲しいと思っていたのですが…」の番外編です。幼馴染み視点の話になります。本編を見ていない方は、先に見ていただいた方が分かりやすいと思います。本文下の広告の下にリンクを用意してありますので、宜しければどうぞ!
私はミリオーレ、伯爵家の令嬢よ。私には幼馴染みのレオナルドがいるわ。レオナルドは伯爵家の人間で、私は『レオ』と愛称で呼んでいるの(彼も私の事は『ミオ』と呼んでいる)。私達は物心付いた頃からの付き合いで、私はレオの事が大好き…いえ、愛しているわ! レオも私の前では、他の誰かと居る時よりも笑顔でいるから、レオも私の事が好きなのだと当然のように思っていた。私達はいずれ結婚して、最期まで側にいるのだと思っていたの。
…だからある日、レオに好きな人が出来たと言われた時は何かの勘違いだと思ったし、その後、婚約者になったのだと事後報告を受けた時は本当に驚いたの……頭が真っ白になって、そして、ただ…ただ許せない、そう思ったの―――。
◇◆◇
「もう、レオは何時もそうなんだから!」
「はははっ、ミオには敵わないよ。」
今現在、私とレオはレストランに居る…レオの婚約者の邪魔な女もいるけれど。
邪魔な女の名前はアイネ、私と同じ伯爵家の令嬢よ。レオから好きになった人がいると言われた時から知っていた。見た目はともかく、あまり喋らない、つまらない女。そんな女が、どうしてレオの婚約者に選ばれたのか本当に理解できない。
ある日、レオが“アイネに好かれるにはどうしたら良いか”と私に相談してきたわ。私は怒りを必死に抑えながら考えて、“アイネに嫉妬させて、レオの事を好きになるようにすれば良い”と提案したの。その為に、私を必ず二人のデートに連れて行くように言ったわ。
レオは昔から一人で考える事が苦手で、私はずっと相談に乗ってきた。そうよ、レオには私が必要なのよ! アイネではなくてね…。
私とレオは、私のした提案の通りにアイネに構わないようにした。
勿論、私のした提案は、レオとアイネの仲を応援する為じゃない……邪魔をする為、アイネに嫌がらせをする為にした事だったわ。
アイネは、初めの頃は何度か話しかけようとしていたけれど、適当に相槌をうったり、聞こえないふりをしてやったら何も言わなくなったわ。今は全く話さずに、つまらなそうに、無表情で私達と過ごしている。
除け者にされて、居心地悪そうにしているアイネを見ていると、とても気分が良くなったの! もっと惨めにさせてやりたい。私の方が、アイネよりもレオに相応しいのに邪魔をするアイネが悪いの。私からレオを奪おうとしたのだから、当然の報いだと思ったわ。
「レオ、これ美味しいわよ! 食べさせてあげる!!」
私はレオに、私の肉をフォークに挿して、食べさせてあげようと差し出した。こんな事をするのは初めてで、少し照れてしまったわ。でも差し出した後すぐに、レオに拒否されてしまったらどうしようかと不安にもなった…。
でもレオは、アイネを少しだけ見てから、差し出したフォークに齧りついてくれたの!
「…うん、確かに美味しいね!!」
「ね、そうでしょう!」
微笑むレオを見て、私は歓喜に包まれた。レオが、アイネではなく私を選んでくれた! 振り向いてくれたと思ったの! そして、アイネを見ると…アイネは呆然とした顔をして私達を見ていた。
いい気味だわ、私の勝ちよ、ざまあみろ!! そう思って、笑ってやったの。
「…ミリオーレさん。少しいいですか?」
その時、喜びに満ち溢れる私に、アイネが話しかけてきた。
「今、私を見て笑いましたよね? どういうつもりですか。」
「へっ?」
突然のアイネの言葉に、私は固まってしまった。けれど、何とか返す言葉を考えたわ。
「ど、どういうつもりって……ただ楽しくて笑っていただけですよ!」
「“楽しい”? どんな風に楽しければあのような笑顔になるのですか?」
「え、ちょっと、アイネ!? どうしたんだい?」
「ミリオーレさんは、このような笑顔をしていたのですよ?」
アイネはそう言うと、口元を吊り上げて、ニヤリッとした、意地悪な笑顔を作った……私の真似をしているの!?
「ちょ、ちょっとやめて下さい! そ、そんな顔してません!! アイネの勘違いです。」
「そ、そうだよアイネ。ミオがそんな…嫌な笑顔をする筈がないよ。」
私は焦りながらも否定したわ。事実であろうが何だろうが、証拠なんてないのだから慌てる必要なんてない。けれど、笑った事をその場で指摘して、相手の顔を真似するだなんて…ましてや、今まで何も言わずに、大人しかったアイネがそんな事をしてくるとは思わなくて、不意打ちを食らった気分だったわ。
「レオナルドには言った事がありますが、ミリオーレさん。もう、私とレオナルドがデート中に来ないで下さい。今のやり取りも…流石に度が過ぎてます。レオナルドとお話がしたいのでしたら、私が居ない別の日に予定を立てて下さい。レオナルド、貴方にも言ってますよ。」
さらにアイネは私を驚かせてきた。アイネがレオに、“デートに私を連れて来ないで欲しい”と言った事は、レオから聞いていたから知っていたわ。でも、私に直接…ましてやレオもいる前で、堂々と話してくるとは思わなかった…。予想外の出来事が重なり、私は何も言えなくなったの。
「…ごめんね、アイネ。僕達を見て不安になってしまったんだね。でも、僕とミオにとっては特別でも何でもない行為なんだ、幼い頃はよくやっていたし。だから気にしないでね。ミオと二人きりにならないから、安心して。」
「も、もう、アイネったら心狭すぎますよ! そうそう、食べさせ合う事なんて私達は今までも何回もあったんですから!!」
アイネの態度に戸惑っていると、レオの言葉が耳に入った。“特別でも何でも無い”、そう言われてショックだったわ…。何だか、レオにとって私は特別ではないと言われてるみたいで…。それでも、私はレオの嘘に合わせて笑ったわ…。
「ほら、食事が冷めてしまうよ。食べようよ。」
レオはそう言って食事を再開し始めた。とても機嫌が良さそう笑顔で…何だか胸がモヤモヤする。ついさっきまで、最高の気分だったのに…。
気にしないように意識して、私も食事を再開した。けれど、何か視線を感じて手を止めたの。
「…!?、あの、どうかしたのアイネ?」
顔を上げると、斜め前にいるアイネが、何故か私をじっと見ていた。
「…別に、どうぞお気になさらず。」
「“お気になさらず”って……」
「…ほら、いつものように私の事など気にせずにレオナルドとお話しになって下さい。」
アイネは無表情で、何を思っているのか分からない……気味が悪い。何故かとてつもなく嫌な予感がしてきたの。
「ちょ、ちょっとアイネ。どうしたんだい?」
レオがアイネに声を掛けても、アイネはレオに視線を移さない。私から視線を逸らさない…。じーっと、ただ、私を見ている…っ、一体何なのよ!!?
「じ、じーっと見つめるのやめて下さい! た、食べにくいではないですか!!」
意味が分からない、気味が悪い、嫌だ……私はとにかくやめて欲しくて、アイネを怒ったわ。でも、アイネは聞いてないかのように微動だにしなかったの。
「気にしないで下さい、どうぞ、続けて下さい。」
「ちょっと、だからやめて欲しいと言ってるでしょ!」
「アイネ、ミオが嫌がっているよ。一体どうしたんだい? とにかく、やめるんだ。ほら、僕の方を見て。」
…本当に何なのよ! もう、訳が分からない! いい加減にして欲しいと思ったわ。「やめて」と言っているのに、どういう神経をしてるのよっ!?
「ですから、気にしないで下さいよ。」
「アイネ! 今話をしているのは僕だよ、ちゃんと僕を見てくれ。」
「嫉妬ですか?」
私は机の上を思い切り叩いて、怒鳴ってしまおうかと思ったわ。でもその前に、レオが私の為にアイネを注意してくれた。これでようやくアイネがやめてくれるかと思ったのに…そんなレオを黙らせるように、温度を感じさせないアイネの声が響いた。
「私がレオナルドではなく、ミリオーレさんばかりを見ているから嫉妬したのですか? 大丈夫ですよ、私とミリオーレさんとの間に何かある訳ではありませんから、気にしないで下さい。」
…信じられなかった。アイネは、私からレオを奪おうとする邪魔な女。つまらなくて、いつも癇に障る社交辞令な笑顔を浮かべているだけの女。
「…それに、“嫌がっているからやめろ”と言われましても困ります。だって私が2人に、デート中にミリオーレさんに来ないようにして欲しいとお願いをしても聞いてくれませんでしたよね? “気にするな”と。ならば、私もやめるつもりはありませんし、私の事は気にしないで下さい。」
大人しくて、何も言い返さない、やられっぱなしの女。そうだった筈のに…こんな異様な方法でやり返して来るだなんてっ…! 何故、私は何も言い返せないの? 何故、私は今圧倒されているの? 何故、私はアイネなんかに怯えているの?
「ほら、ミリオーレさん。気にせずに食事を続けて下さい。」
「っ……、ア、アイネこそ、食べてないじゃない。」
冷や汗を感じながらも、私がそう言うと、アイネの視線は私から自分の料理に移動した。やっと…やっと開放されたと思って安心したわ。でも、ほんの数秒料理を見つめると、アイネは再び私を見た。無表情のまま、私を見たまま、カチャカチャと食器の擦れあう音を響かせながら、器用にナイフとフォークを使って食事を始めて…
「!? っひぃぃ…。」
「アイネっ!?」
可怪しい、あり得ない、異常としか言えなかった。怖い…私の中にはアイネに対する恐怖しか無かった。そんな私を見ながら、アイネはとても嬉しそうに笑ったわ…私にとってその笑顔は、ただ不気味でしか無かった―――。
◇◆◇
…こんな筈じゃなかったのに。
忘れたくても忘れられない、あのレストランの出来事から数日後、レオが私の家にやってきたわ。昨日は確か、レオと…アイネのデートの日だった。でも、もう私はアイネに会いたくなくて…邪魔をする気力なんてなかった。レオと相談して、今後私はついて行かないと決めたわ。
それなのに、レオは今後もデートについて来るように言ってきたから、信じられなかった…。
「い、嫌よ。もう私は行かないわ!」
私は首を横に振りながら必死に拒否したわ。アイネの視線を、笑顔を思い出してしまうだけで、身震いして、足が竦んでしまう…。
「…僕だって嫌だよ。でも、アイネの願いなんだ。」
何時も素敵な笑顔で話をするレオが、一切笑わない。声も何かを我慢しているように沈んでいると感じるわ。でも、それよりも“私にデートについて来て欲しい”とアイネが言っていると知って、その事で頭が一杯になったの。
…絶対に嫌よ、もうアイネなんかと関わりたくないっ!! ……そうだわ! レオに、もうアイネと関わらないように婚約破棄して貰えば良いんだわ!! 私がアイネにされた事も分かっているもの、私の為にも破棄してくれるわ!!
「ね、ねぇレオ! 今のアイネは何だか可怪しいし、怖いわ。レオも見たでしょ、私の事をずっと見てきて…。あ、あのさ、もうアイネとの婚約を破棄しちゃった方が良いと思うわ。だって…「巫山戯ないでくれっ!!」」
私の言葉は最後まで言う事が出来ず、途中でレオに遮られてしまった。レオの怒鳴り声が響き、私は固まってしまった。
「ミオ、君は僕の想いを応援する筈だったよな? なのに何故こんな事になったんだよ、アイネはもう僕の事なんか何とも思っていない、嫉妬すらしていない、アイネが今関心を持っているのはミオ、お前だよ! どういうつもりなんだっ!!! どうしてこんなっ…………お前なんかを信用した僕が馬鹿だった。」
レオは息を荒くして、私を鋭い目つきで睨みつけてくる。レオが…あのレオが、私を怒鳴っている。私に敵意を、憎悪を向けている…胸が引き裂かれるほどの恐怖と、悲しみが襲ってくる。なんで、なんでこんな事になったの? …目の前が滲んできて、私は涙を流していた。レオは最後の言葉を吐き捨てるように言うと、暫く私を睨みつけて、そのまま私に背を向けて部屋を出て行ってしまった…。
まっ、待って、レオ、違うの、私は…私はただ、レオが好きなだけでっ…!
口に出せない言葉は、心の中で響く…。私は今混乱しているはずなのに、何故か冷静になっていたわ。そうよ、分かっていた筈なのよ。婚約者同士の、レオとアイネのデートについて行くなんて非常識だという事を。その上、アイネに嫌がらせをするなんて、最低だわ。嫌がらせを続けて、アイネがもし婚約破棄を望んでも、レオは嫌がるに決まっているのに…。さらにこの事が社交界で広まれば、私とレオの評判が下がり、お互いの伯爵家の品格を落とすというのに…。
アイネが私とレオの邪魔をした、アイネが私からレオを奪った、アイネさえいなければっ…! 私は怒りを抑えきれなくて、感情的に身を任せたまま行動した。その結果…私はレオからの信頼を失い、幼馴染みとしての絆も失ってしまった…。
◇◆◇
…どうして、なんで来たの?
その翌日、何の気力もなく、ただ部屋に引きこもって過ごしていた私のところに、アイネがやって来た。アイネが来た途端、背筋に冷たい何かが走ったようにゾッとしたわ。アイネはそんな私を見ながら、嬉しそうに微笑む…。
微笑んだまま、アイネは私に、今後もデートについて来るように言ってきた。…アイネは、私に嫌がらせの仕返しをしようとしているのだと思ったわ。
「っ…い、今まで、ごめんない。もう、私は行きません。」
私は、アイネから逃げたくて、レオにもどんな顔をして会えばいいのか分からなくて、謝罪する事しか出来なかった。
アイネ、貴女はレオを手に入れたわ。でも、私はレオを失ったわ。貴女は私に勝った……もう罰は下ったんだから良いでしょう!? 謝ったのだから許してよっ!!
「どうしたんですか、ミリオーレさん? 何を謝っているのか分かりませんが、今後もデートに来て下さいね。」
私の叫びは届かない……アイネは逃そうとしてくれない。アイネは楽しそうだわ…今まで見てきた中で、レオといる時よりも楽しそうだわ。
「ミリオーレさんが私達のデートに来ないのならば、私はレオナルドと婚約破棄したいと私の両親、レオナルドの両親、そしてミリオーレさんの両親に言います。そして、ミリオーレさんがレオナルドと私のデートを邪魔する為に割り込んできた、と噂を広めますがよろしいですか?」
アイネは世間話でもするような気軽さで、私を脅迫してきた…私と、私の家の品位が脅かされた…。なにより、レオを失ったと思いつつ、これ以上レオに嫌われたくないッ! そう思ったの。
私に、選択肢なんてなくて、ただ頷く事しか出来なかった……。
「アイネ、食事を終えたら向こう側にある店に行ってみないかい?」
「ええ、構いませんよ。」
「…あっ、今向こうを通った馬車は、あのメデリア公爵家の馬車じゃないかな?」
「そうですか。」
「……。」
レオは必死にアイネに話しかけるけれど、アイネは返事をするだけで、私から目線を外さない…。私はアイネの顔を見るのが怖くて、アイネが視界に入らないように目線を逸らすと、アイネの隣にいるレオと目が合った。
レオは、ギロリッと効果音がつきそうな目で私を睨みつけると、すぐにアイネの方を向いて切なそうな、苦しそうな顔をした。私はレオに睨みつけられたショックでビクッ、と震えてしまう……。
そんな私を見て、アイネが微笑んだような気がした。
私は、私を邪魔だと憎んでいる男と、私が側にいる事を望む女のデートについて行っている……他人、なのだと思う。
私は、敵意と悪意に恐怖しながら、何もする事が出来ずに怯えながら過ごすしかなかった―――。
幼馴染みのミリオーレ視点でした。
番外編を待ってくださっていた皆様、遅くなってしまいすみませんでした。
ミリオーレの口調、感情…結構難しくて中々…(-_-;) 予想していた物と違うと思った方もいるかも知れません。場合によっては書き直す事も考えております 笑
ミリオーレは悪女です。しかし、愛する男に見向きもされなかった悲劇のヒロインともいえますね。ミリオーレが自主的に動いたとはいえ、レオナルドに利用されたとも言えます。ですが、何もかもアイネというヒロインのせいにして、意図的に傷付けて楽しみました。
クズ男のレオナルドも身勝手ですが、ミリオーレの好意に気付いていませんでした。ミリオーレの好意を知っていたら、流石にアイネとの仲を相談しなかった…筈です。(レオナルドならあり得るかもしれませんが) アイネを傷付ける事が目的ではなく、アイネに振り向いて欲しかっただけなので、悪意はありませんでした。
その結果、最後にミリオーレはアイネから悪意を返されます。ミリオーレがアイネを傷付けて楽しんだように。レオナルドはアイネに振り向いて貰えず、ミリオーレを虐める為に利用できる存在としか思われなくなりました。悪意すら返されなかった、と言えるかもしれません。好きの反対は無関心、というやつですね。
これでこのシリーズは終了です。誤字脱字報告、感想、いいね、ブックマーク、評価、本当にありがとうございました!! とても嬉しくて励みになりました!