9 ついにきた魔法学園2
ゲーム開始したけど、説明が多いのでしばらくは毎日更新かも。
パキっと足元の小枝が割れる音がした。
向こうから2人ほど背の高い男性がやってくる。
「エミー」
今回は誰かわかりました。ゲームそのままのクリス様。
一人目はエミリア様の兄、公爵令息のクリストファー様で、彼は妹に優しく声をかけた。私などいないかのように。
ああクリス様、クリス様。とても麗しい。
こちらも王子様のごとく美しいんだけど、どちらかというと中世的な美貌と言うか、はんなりしているというか。
もう。
お目にかかれて光栄です。眼中になさそうだけど。
おかしいな。私も美少女に育ったはずなんだけど。
「お兄様」
わかりやすくエミリアがクリス様に寄って行く。とても美しい兄妹だ。眼福とはこのことか。と、数分前から何度も思った感想を抱く。
「もう行かないと遅刻してしまうよ。殿下がたも」
クリス様の声は冷えていた。
ゲームの声優さんはものすごく甘い声が売りの人だった気がしたのだが。
クリス様はとても怒っていらっしゃるようだ。
おそらくは妹がしくしく泣いてるので、元凶っぽい殿下がたにだろうけど。
喧嘩してたのと関係あるのかないのか不明だけど、部外者としてものすごく居心地悪いよ。
そして、私のクリス様との出会いイベントは駄目になっているのだろうか。
上級生のクリス様とは、もうちょっと後で出会うことになっているんだけど。
でも、目に入っていないようだから、次に会った時に「はじめまして、美しいひと」みたいな展開になるのかな。
「殿下がたは遅れていってもいいだろう。むしろ他の生徒が並び終わってから入場したほうが混乱が少ない」
そう言いながらクリス様の後ろから出てきた人も見たことがあった。
星祭りの日に。
アル。
これはまた小奇麗に成長したな。
昔、見た時は、変装していたのもあって小汚い子供だったのに。
でも、成長後を見ても、やっぱりゲームでは見たことがない。
隠しキャラなのかもしれないけど、少なくとも私がプレイしたルートでは出てこなかった。
彼だけ、ちゃんと私を見た。
「君は、そろそろ行かないと。僕が送るよ」
「私は1人で行けます」
「送る」
有無を言わさず手を取られた。
正直、ちょっとびっくりした。
いくら平等を謳う学園内でも、初対面の女性の手を取るというのはかなりぶしつけな行為なので。
「僕のこと覚えているかな」
他の人たちから少し離れてから、そう声をかけられた。
「アル」
「正解。覚えててくれて嬉しいな」
いやいや。別人かと思いましたよ。
ものすごく痩せてて肌も荒れてたのに。
身長もすごく伸びてて、とても同じ年には見えないくらいだ。
それはフィリップ殿下やエドワードと比べてもそう。むしろクリス様と同じくらいに見える。
いや、年上なのか。
勝手に同じくらいだと思っただけで、実際に年齢を聞いたわけではなかった。
思えば、会った時も振る舞いは大人っぽかった。
「前に会った時は同じ年齢くらいかと思っていたけど、もしかして年上だった?」
アルは頷いた。
「年齢は3つ上だよ。遅れて入ったから2年生だけど」
「そうなんだ」
それ自体は珍しいことでもない。この学校は難関のエリート校なので、浪人して入る生徒も多いのだ。
「わざと調整したんだよね」
何故に??
「約束しただろう?もし会えたら、君を王妃にするって」
そう言われれば、そんなこともあったか。
「名簿に名前がなかったから、やっぱり入学してこないのかと思ったんだけど」
「ああ、名字が変わったの。今はリリーナ・ヴェルデガン」
アルが理解したように頷いた。
「ヴェルデガン伯は、御子息を亡くされて甥御を跡継ぎにしたと聞いているが」
「そうそう。それがうちの父なのよ」
いきさつをさっくり喋る。
話していると、ふと、自分がとても緊張していたことに気が付いた。
魔法学園の初日だし、出会いイベントもこなさないといけないし、誰も知らないところで1人というので気を張りすぎていた。
「ところで、今更ですけど、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「アルフレッド・グレーデン」
パパッと頭の中の貴族名鑑をめくる。
グレーデン辺境伯のご子息だろうか。領地は割と近所のはずだけど、該当年齢の子供がいたかどうか定かでない。
ものすごい名家だから、分家かもしれない。
「それで、昔言ってたことは本当なの?国が滅びるとか」
「それはそうだよ。邪竜が出てきて一面焼け野原。みんな滅びるわけではないかもだけど」
真顔で答える。
子供の戯言だと思っていたのかもしれないけど、そうじゃないんだなあ。
「じゃあ、そっちも助けないといけないね」
面白そうにアルは笑った。
おやまあ。
やっぱり執事キャラだったのかしら。
イケメンのお助け人。さすが女神様。サービスが効いている。
入学式の行われる講堂に近づくと、もう入場列が終わりかけていたところだった。
「親御さんは?」
「うちは遠方だから来ておりません」
学園に入ること自体がものすごい栄誉なので、親が来ている家もある。
生徒一人につき2人までOKだが勿論来られない親も多いので、全体としては保護者はそんなに多くない。
「じゃあ代わりに見守ろうかな」
アルがふにゃっと笑う。
「大丈夫です。大人への第一歩ですよ」
そのまま別れて列に並んだけど、本当はちょっと嬉しい。
家族は遠方で、王都の下町には幼馴染たちも住んでいるけど、彼らは学園には縁遠い。
昔、ちょっと話しただけの人でも、仲良しの人がいるというのはいいものだ。