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【番外編】公爵令息クリストファー様の憂鬱12

女神の御使いであるリリーナは、次の新年が明けた冬に世界に危機が訪れると予言した。

最初は何を言っているのかと不審に思っていたが、今は信じる。

本当に、邪竜が降臨し、世に魔物があふれて、世界は破滅の危機を迎えるかもしれないと。

それはもちろん好ましいことではないし、防げるものなら防がないとならないが、避けられない運命であるなら対処しなくてはならない。

もし現実となるのなら。

クリストファー自身は、国を守り、民を守る為に戦うだろう。

おとなしやかに見える妹エミリアもあれで芯は強いし、何よりも強い魔力を持っている。リリーナやクラスメイト達と共に戦うはずだ。

ソフィアはどうするだろうか。

真面目で責任感の強い彼女のことだ。きっとエミリアに付き従うだろう。

ソフィアの魔法学園を卒業した身なので、そこそこの魔法は使える。だが、そこまで強力ではないし、剣術など、身を守るすべも身に着けてはいない。

どこかに避難したほうがいいのではないか。

クリストファーの予想通り、ソフィアは避難をしないと言った。

「どこが安全かはわからないのでしょう?」

だったら王都にいても変わらないというのがソフィアの意見だ。

「でも、竜が出るのはここだというよ」

リリーナが見た竜が学園の上空に現れるらしい。

それならば、田舎のほうに逃げておけばいいのではないだろうか。

「エミリア様は残られますよね。わたくしも微力ながら御力添えをしたいと思います」

そういったソフィアの瞳に迷いはなかった。

わかっていたが、不安は残った。ソフィアはそれを察知したらしい。

「でも。心配してくださってありがとうございます」

笑ってくれる。

気を遣わせてしまったようだ。

しかし、クリストファーは彼女のそういうところも好きだった。

これから忙しくなって、ゆっくり話せる機会はもう持てないのかもしれない。

3年前、エミリアの侍女にならないかと誘った。

間に合ったと思った。でも、ちっとも間に合っていなかった。

親しくしてくれるとは思う。けれども、それは侍女としての職分を侵すほどのことではないし、お互いに踏み込まない。

それでいいのか。クリストファーは自分自身に問いかけた。

あの時に並ぶ、決断すべき時ではないのか。

「本当に竜が来て、我々が退けることが出来たら。アルフォンス殿下が王位を継がれると思う」

それはもう確定事項だ。

国王はまだ引退するほどの年齢ではないが、政治にあまり興味がなく熱意もない。

王妃の派閥の意向が通ることが多くて、クリストファーの父も今の状況をあまりよくは思っていない。

いくら準備していても、実際に竜が出たら莫大な被害が出ることだろう。

アルフォンスはすでに立て直しのことも考えていて、速やかに実権を握るつもりでいる。

被害からの復興が一段落したら、実際に王位につく。王妃側に付け入る隙を与えないように。

「エミリアは王妃にならない」

「リリーナ様がなられますものね」

親しい者の間ではもうそれも予想の範囲内だ。

「王宮に入らないなら、侍女の身分も問われない」

ソフィアが黙る。

「君は有能な侍女だが、嫁ぎ先に何人も侍女を連れていけるかどうかもわからない」

誰か1人となると、エミリアはやはりシアラを選ぶだろう。

「もしかして、わたくしがお役御免になるから、先に辞めて避難しろ、とおっしゃるので」

それはしないと首を振る。

「そうではなくて。いや、君に侍女を辞めてほしいのはそうなんだけど」

なんといえばいいのだろう。

「アルフォンス殿下は今回のことが終わったら、私にご褒美をくれるらしいよ」

そう。アルフォンスが国王になったら、クリストファーに地位をくれる。

そうすればもう、父の意向をうかがう必要はない。

「そうしたら。君に、公爵夫人になってほしい」

クリストファーは視線を落とした。ソフィアの顔を見ることが出来ない。

公爵夫人だ。喜んでくれるとばかり思っていたが、拙速すぎたかもしれないと今更思った。

アルフォンスが言っていたではないか。口説くのが先だと。

雇い主が侍女を口説くなんて論外だとはねつけたが、付き合うよりも先にプロポーズをしたのと同じではないか。

ソフィアは何も言わない。

恐る恐る顔を上げると、恥ずかしそうに頬を染めていた。

目が合うと困ったように笑った。

「驚きました」

「突然すぎたかな」

「そうでもなかったんですけど」

ソフィアがはにかむ。

「前々からお気持ちは推察してはいたのです」

前々からっていつだろうか。

「3年前。正直に言うと、進路についてお話ししたとき、愛人にならないかという申し出をされるかと思っていたのです」

「まさか」

「そうですね。侍女のお仕事をいただきました」

顔から火が出そうだ。

そんなあからさまに示していたのだろうか。

アントニーが露骨にほのめかしてきたのは、クリストファーの気持ちに気付いていたからだったかと思ったことはあったが

まさか本人にバレていたなんて。

「でも。女性を囲うにはお金もかかりますし。時期を見ているのかなと思いました」

ソフィアは更に驚くことを言った。

「雇い主が侍女と不適切な関係になることもあるので、そういうことなのかと」

そんな不道徳なことはしない。

呆然として言葉もない。

「わたくしが思っていたより誠実な方だと思うようになって」

そのうち、アルフォンスが王太子だとわかって、リリーナが王妃になるかもしれないと思ったのだそうだ。

「王太子様がいらっしゃるなら、フィリップ殿下とエミリア様のご結婚もないかもしれないでしょう」

兄が国王になると、普通は弟は臣下に下るが、仲の良い兄弟ならともかく、アルフォンスとフィリップだと揉め事の種になる。

フィリップが他国に婿入りしたりすることもあるかもしれないとソフィアは考えたらしい。

「そうしたら、エミリア様が婿を取って公爵家を継ぐことも可能と思いまして」

ソフィアが頬を染めた。

「そうしたら、どこか小さな子爵家でもいただいて、結婚してくれるのかなって思っていました」

まさか公爵夫人なんて。

びっくりしたと言う。

「でも、そういう真面目な方でしたね。そういうところ…とても好ましいと思います」

それは、結婚してもいいということなのだろうか。

YESかNOで言えばYESだろう。

何もかもが、今報われたのだ。

もう死んでもいい。というのは冗談にならない。これから世界が滅びの危機に瀕して、クリストファーに命の危機が訪れるかもしれないのだから。


竜は来た。

リリーナは竜を撃退した。

まさに救世主。

クリストファーは他の人々とともにその雄姿を目撃した。

しかし、リリーナの活躍はあれど、竜だけでなく魔物も数多く出たために、かなりの被害がでてしまった。

王妃も魔物のせいで命を落とした。

その場に居合わせたアルフォンス王太子と、最後を看取ったフィリップ王子は『王妃は民を誘導しようと外に出た、立派な最期だった』と、その死を悼んだ。

王妃を失った国王は失意のため体調を崩し、療養生活をしている。

最近ようやく小康状態となり、王位をアルフォンスに譲って田舎に移り住む準備が進んでいるという。


クリストファーは春から官位を得て王宮で働くことになっている。

ソフィアはまだエミリアの侍女を務めている。卒業までは勤め上げるのが責任と言うものらしい。

それはそれとして、最近とてもモテているようだ。

父には了解を得たが、クリストファーとソフィアとのことを発表するのは、エミリアが魔法学園を卒業してからと決めている。

なので、何も知らない男性たちが、彼女に結婚を申し込んできているのだ。

それを知らせてきたのは妹のエミリアだった。

卒業が近いので、ちょくちょく自宅に帰ってきているのだ。

今日も竜のせいで家が壊れた人々の避難所への慰問の帰りに立ち寄ったのだそうだ。

「ソフィアったら、お花やお手紙をいただいていますの。シアラが言ってました」

それは、シアラに確認しないといけない。

「シアラを問い詰めないでくださいね。聞くなら本人に」

「聞きにくいだろう」

「どうかしら?ソフィアはどう思う?」

本人がいた。

「皆さま、下心があるのですよ」

ソフィアは優雅に微笑んだ。

「下心」

「リリーナ様がわたくしのことを姉のようだと慕ってくださるので」

アルフォンスは王になり、リリーナは王妃になる。それはもう確定事項だ。

なので、リリーナの知己に取り入るのは正しい。

そのなかでも身分もそんなに高くなく、近づきやすいソフィアに目を付けるのはいい判断だ。

必要があればクリストファーでもそうするかもしれない。

「お断りしたかい?」

「先約があると申し上げました」

それは良かった。

全く、油断も隙もない。

しかし、こんなことなら、さっさと発表してすぐに結婚してしまったほうがいいのではないだろうか。

卒業してからとか悠長なことを言っていたら、また、なにかトラブルが起きそうな気がする。

アルフォンスもリリーナもやることが自由過ぎるのだから。

無意識のうちに考え込んでしまっていたらしい。

エミリアが呆れたように肩をすくめる。

「お兄様ったら、また難しいお顔をなさって。ニコニコしてないとソフィア様に嫌われますよ」

「いいのですよ。クリストファー様は」

ソフィアは落ち着いている。

「知り合った頃もいつもそうでしたから」

クリストファーは驚いた。

彼女の前では緊張していたと自覚があるが、そんな風に見えていたなんて。

その頃を思い出したのか、懐かしそうに笑う。

「憂いのあるところが大人っぽく見えて素敵でしたよ」

ソフィアの言葉に、それだけで舞い上がってしまう。

顔には出ないが、嬉しくてしかたない。

素敵。素敵か。彼女がそう言うなら。

だったらずっと憂鬱に見えていてもいい。

読んでいただきありがとうございました。

ひとまず番外編も、これで終わりです。

本当は、リリーナが3年生になってからいきなり出てきたハーヴィルとジェシカの予定でした。

『お助けジェシカの冒険』は、普通のご令嬢であるジェシカがちっとも冒険しなかったので頓挫しました。本編の3年生のところに入る予定だったので、そこそこ書いてはいたのですが。

よく考えたら、魔法学園に入る前の話で、ジェシカとハーヴィル以外、本編の登場人物がだれ一人出てこない話なので、機会があれば、別の作品としてアップしたいと思います。

どこかで見かけたら、よろしくお願いいたします。

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