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【番外編】公爵令息クリストファー様の憂鬱11

生徒会選挙の結果が出た。

フィリップは規約違反によって立候補の資格を失った。

まさか、フィリップが生徒会長にならないなんて。

あまりの出来事にクリストファーは寮の談話室にソフィアを呼び出した。

魔法学園の寮は基本的に異性は立ち入ってはならないことになっている。

しかし、クリストファーとエミリアのように家族で会ったり、家族連絡係の侍従や侍女、メイドなどの使用人は許可される。

ソフィアを男子寮に呼ぶのは嫌だったが、急を要した。

エミリアから聞いていた限りでは、フィリップを落とすという話はなかった。

少し反省をしてほしいという程度の話だったはずだ。

その辺りの確認をしなくてはならない。

「君は言わないとは思うのだが」

リリーナたちは団結力があって口が堅い。フィリップの側だと思われたら、何もしゃべってはもらえない。

しかし、侍女と言うのは時に存在感のないもので、見聞きをしているものなのだ。

ただ、良い侍女も口が堅い。

「わたくしを雇ってくださったのはクリストファー様ですわ。恩義があります」

ソフィアはいたずらっぽく笑った。

「では聞くが、なぜあのようなことになった?」

「リリーナ様のしたことではないです」

ソフィアは断言した。

「国立劇場のプラチナチケットでしょう?入手できる人はそんなにいません」

「トーマスなら可能じゃないか」

リリーナの側近と言ってもいいだろう。クレイン商会の代表を親に持つトーマスは金で何とかなることなら何とでもできる。

「皆さま、そこまで手が回っておられませんでしたよ。お忙しくて」

見たままだ。クリストファーも同じように見ていた。

リリーナたちは頑張ってはいたが、やはり王の息子と言う看板は強く苦戦していた。

それでも、正攻法で戦おうとしていた。

「推測で良ければ」

「どうぞ」

「わたくしはグレーデン様だと思います」

クリストファーは椅子から落ちそうなほど驚いた。実際の彼は、少し足を浮かせたに留まったが。

アルフォンスが仕組んだというのはクリストファーも同意見だが、ソフィアがそう推測したのは予想外だった。

ソフィアはアルフォンスとはそんなに付き合いがないはずで、何故気づいたかがわからない。

「なぜ、そう思う」

「チケットもそうですが、知識が必要でしょう。それに…見かけたことがあって」

「何を」

「選挙関係の資料をご覧になっているのをです」

学生の時に準備室の整理をしていたこともあって、ソフィアは政治学の教授に良くして貰っているのだそうだ。たまに交友があるという。

その付き合いで規約を調べているところを目撃したそうだ。

「お見掛けしたときは、なにかの勉強かと思っておりましたが、腑に落ちたと申しますか」

種明かしをされれば簡単だった。

クリストファーも腑に落ちた。

「辺境伯の御子息だからできるのでしょうね」

「なにが」

「フィリップ殿下を敵に回すのを躊躇わない。不敬だと罪に問われるかもしれないのに」

「いくらなんでもそんなことで罪になったりしないよ」

今回の件はフィリップの落ち度だ。

それを他人の責任には出来ないし、するはずもない。

「そうでしょうか」

ソフィアがまっすぐにクリストファーを見た。

「わたくしたちは不公平な世界で生きています。自分のせいでは無いことで責められることは少なくありません」

身分の高くないものが、不当に罰せられるのはないことではない。

そもそも、そういった身分差が、今の学園の状況を生み出している。

わたくしたち。

その中に公爵令息であるクリストファーは入らない。

ソフィアには、フィリップの横暴に反感を持ち戦おうとするリリーナたちが、勇敢に見えているのかもしれない。

しかし、ソフィアは知らない。

アルフォンスがフィリップを陥れるのは理由があってしていることだ。

決して、慢心すると足をすくわれるのだと今のうちに思い知るべきであるなどどいう忠告のような話ではない。

彼が身分を明かしてさえいれば、単なる派閥争いだ。

リリーナはアルフォンスの派閥で、トーマスや平民たちは自分たちに良くしてくれる方の味方なのだろう。

エミリアとエドワードは個人的にリリーナと親しくしているが、家としてはフィリップの派閥だ。

クリストファー自身は、表向きはフィリップの派閥ということになっている。

クリストファーが親しくしているアルフレッド・グレーデンがアルフォンスだと知るものは多くない。

そして、親しいそぶりを見せているのも、宰相である父公爵に指示されて動向を見張っているのだと

いうことになっている。

公爵もクリストファーも、勝った方に着くだけなのに。

昔、アルフォンスが言っていた通り、敵方はアルフォンスを甘く見ている。

「困ったなあ」

口に出たのは本音で、独り言だった。

しかし、そこにはソフィアがいて、不思議そうにクリストファーを見つめている。

「フィリップ殿下の評判が下がると、私の監督不行き届きということになるんだよ」

説明して、そのあまりのくだらなさに辟易する。

最終的にはアルフォンスに着くと決めているが、学園を卒業するまではことを荒立てないのもクリストファーの役目なのだ。

フィリップはもう17歳だ。

自分のことは自分で何とかしてくれ。

「それは…大変ですね」

クリストファーがあまりにも困って見えたのか、ソフィアが小さく笑った。

大変なのだ。

偉い人にいろいろ言われて。

それは公爵令息でも同じことで。

「大丈夫です」

ふいに、声が近くて聞こえた。

ソフィアがすぐ近くでクリストファーを見ている。

「クリストファー様はいつも頑張っておられますもの。わかる人はわかっております。公爵様もエミリア様も。わたくしも」

その、わたくし、が一番うれしいと言ってはいけないだろうか。


生徒会選挙からほどなくして、クリストファーは魔法学園を卒業した。

しかし、彼の役目は相変わらず『アルフォンスを監視すること』だ。

学園に残って政治を学ぶアルフォンスに付き合って、クリストファーも研究者として学園に出入りしている。寮にいなくていいのが気楽だ。

それに、2年経って、クリストファーもようやくコツをつかんだ。

アルフォンスの動向を探るには、リリーナを見張っているほうが手っ取り早い。

リリーナの動きはエミリアとソフィアを通じて筒抜けだ。

最近のリリーナは編入生や新しく来た魔法教師と仲良くしているらしい。

なんだか昔の都市伝説的なことに興味があるようだ。

フィリップとの関係は悪いままだが、もうお互いに近づかないという域に達しているので、表立った揉め事はない。

同じ学年で全く関係しないというのも難しいのだが、フィリップの取り巻きだった男爵令息が生徒会に入っており、なにかと調整しているようだ。どこにもそういう役回りになる人間はいる。

リリーナが新しい交友を深めている間に、アルフォンスは騎士団長とよく会っているようだ。

意図を教えてもらったのは夏の終わりごろだった。

「君、頭がおかしくなったのか」

最初に出てきたのは無礼にもほどのあるセリフだった。

だってそうだろう。

後、半年もたたないうちに、邪竜が現れて世界が滅びの危機に瀕するなんて。

「リリーナが言ったんだよ」

「リリーナが」

「君がどう思ってるかは知らないが、『女神の御使い』というのはそのままの意味だ。彼女は未来を予言する」

まさかそんな。

「僕は少し前から準備している。騎士団長に会っていたのもその為だ、君にも手伝ってほしいんだけど」

「誰が手伝うか、そんな馬鹿げたことに」

しかし、手伝わざるを得ないのだ。

それがクリストファーの運命なのだ。

聞けば聞くほどリリーナの話は荒唐無稽だと言わざるを得ない。

だが、調査の結果、封印の魔法にほころびが増え、魔物の出没が増えているのは事実だった。

騎士団は討伐とともに見回りを強化しているらしい。

クリストファーも地方の行政官たちに連絡して状況を確認している。最新の報告では事態の悪化が記されていた。

それを見たアルフォンスが言った。

「そろそろ公表する頃合いだと思う。リリーナ達を集めてくれないか」

「リリーナも?」

アルフォンスは頷いた。

このところ、国の上層部といろいろやっていたのはリリーナには秘密だったらしい。

それは意外だった。もっと通じ合っているのかと思っていたのだが。

「彼女は思い立ったら突っ走ってしまうところがあるので。調整とかあんまり考えないんだよね」

「そうなんだ」

それは意外でもなかった。見たままだ。

「一番最初に僕に根回しの大切さを説いたのは彼女だったのに」

何かわからないが一人で笑っている。

「まあ、そろそろ皆で取り掛かるべき時だよ。会議の時は、君も、適宜発言してくれたまえ」

「私に何を言えと」

「みんな驚いて質問とか出ないだろう。適切に話が進むように相槌を打てということだな」

それはやらせではないのか。まったくもって要求が多い。

リリーナの仲間たちは、皆、落ち着いていた。

あらかじめ知っていながら参加していたクリストファーのほうが落ち着かなかったくらいだ。

慣れているということなのか。

思えば、王太子アルフォンスの運命の乙女リリーナは不思議な少女だ。

アルフォンスから『女神の御使い』だと聞いていたが、実際に会った彼女はごく普通の令嬢だった。

普通だというには能力値が高いが、中身はそんなに人間離れしていないように見えていた。

しかし、出会って2年たって思うのには、言動よりも考えていることのほうがおかしい。

その中身が言動に出て、おかしいとわかるだけのことなのだ。

彼女は王家を敬わない。魔法学園や騎士団といった立派な組織に所属している者も年長者も男性も無条件では敬わない。

彼女が敬意を示すのは、自分が認めた人物だけだ。

皆が長年作り上げたルールに歯向かうのを悪いことだと思わない。

女神の御使いというのは人間社会と外れているということなのか。

戦って勝ったら敬う、みたいな野生の獣と同じなのか。

まったくもって。

それゆえに。

クリストファーは彼女が『女神の御使い』であることを信じられる。

神様に定められた救世主は人間社会の細かい約束事など気にすることはないのだろうから。

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