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57 2年後

あれから2年が過ぎた。

魔物の世界とこの世界をつなぐ裂け目を封じた後、魔物たちはすっかり鳴りを潜めた。

しかし、被害は大きく、今も復興作業が続いている。

かつての魔法学園の同級生たちは、卒業し、国の中核を担う若者たちとして、それぞれが活躍の場を広げている。

私はずっと、療養所で被害にあった人々の治療や街の復興作業にあたっていた。

なかなかの激務だ。

私は『雷の聖女リリーナ』で、一緒に治療をしていたエミリアが『癒しの天使エミリア』と

若干の差があることには目をつぶる。

王妃はあの時、魔物に襲われて亡くなったことになっている。

また王妃を亡くした国王はその痛手から立ち直れず、療養生活を送っている。

このたび、王太子アルフォンスの結婚に伴い、退位して田舎で暮らすということだ。

アルが結婚して跡取りが生まれたら、フィリップは臣籍に下る。

エミリアがどうするかはわからない。

フィリップと仲良くしているようだが、婚約までには至っておらず、エドワードともいい感じだ。

と、いうか、明るく積極的になったエミリアは本当にモテモテなのだ。

どこへ行っても好感度抜群のあの女から、彼氏を奪ってやろうと思っていたのだが、無謀だったかもしれない。

今となってはもうどうでもいいことだけど。

「リリーナ」

控室のドアが開いた。

「アル。どうしたの?」

「時間が空いたから。綺麗に仕上がってるかなって」

この世界には式の前に花婿が花嫁を見るのは縁起が悪いという迷信はないようだ。

大聖堂の裏にある花嫁の控にも気軽に入ってくることが出来る。

「とても綺麗だ」

「そうでしょうとも」

一世一代のおめかしをしているのだ。

邪竜が出て、普段通りの王室の伝統に則ることは出来なくなった。

御用達のデザイナーも仕立て屋もいつも通りの対応はできないし、いつも通りにする金も時間もない。

そもそも普通なら、王の結婚式が何も決まってない状態から2年くらいで行われたりはしない。

今回はすべてイレギュラーということで、何もかも私の好きにさせてもらった。

と、いいつつ、私は特に希望がなかったので、私の女友達の皆様の好きになったということだ。

最高級の絹でつくられたドレスはウエストから裾にかけてフレアーで広がったいわゆるプリンセスライン。

スカート部分は白地に白の刺繍が繊細な模様を描いている。もちろんソフィア様の手によるものだ。

ヴェールや小物のレースはナタリーたちが編んでくれた。

アルのマントの刺繍もソフィア様。

あれは本来は私がやるべきことらしかったが、自分の仕事を優先した。

せっかく習ったので、ちょっと手際を見せたいと思ったのだが、獅子をあしらった紋章は面倒だったし。

ジュエリーの類はトーマスの実家から借りた。借り物なんてという意見もあったが、民衆に生活の補助を出した王室に、そんなものを買いそろえる資金はなかった。

王家には金がないというのに、トーマスの実家はますます儲けている。

襲来の時に人々を避難させて、その後、炊き出しなどを行ったのが評価されたのだ。

ついでに、男爵位も購入したらしい。

そんなもの購入できるのかという話もあるが、購入できる。

正確には、国難に際し、国の為に貢献した平民に、その功績をもって爵位を叙するということだ。

これはアルが大盤振る舞いした。

魔物で焦土と化した領地も多く、税収も期待できない中で、金策を講じる必要があったのだ。

知恵を授けたのは私だ。

昔のヨーロッパでそういうことがあったと読んだことがあったので提案したが、細かいところを覚えていなかったので

まちがってたらごめんなさい案件だが、やってしまったものはしょうがない。

金額によって男爵だったり準男爵だったりする。

さすがにちょっと現金だなとは思うが、それくらい大変な状況なのだよ。

その辺もようやく一段落したので、めでたく結婚式となった、というのが表向きの話で。

王様を名実ともにさっさと隠居させたいというのが正しいところか。

アルは私以上に忙しくて、ずっと疲れた顔をしていたが、今日はさすがに小綺麗に仕上がっていた。

花嫁の様子を見に来るくらいの余裕もあるらしい。

もっとも、これから式をして、馬車に乗ってパレードをして、お披露目の舞踏会が行われるので、疲れていては始まらない。

私もコンディションを整えて、軽食も用意してある。

やるべきことをきちんとこなす女なのだ。

段取りを確認している私を見てアルが控えめに笑っていた。

「君はいつもマイペースだよね」

「そうかなあ」

「その割にいつも予定とか段取りとかに頭を悩ませているし」

それはそう。むしろそっちのほうが私の本来の性格なんだってば。

女神さまだって、そういう私の性格を見込んで、適任だと選んだのだと思っているんだけど。

他に選ばれるポイントがあるかと言ったら、心当たりもないもので。

そして実際、私はずっと世界を救うために、いろいろなことを段取りよくこなす人生を送ってきたわけだし。私が行きあたりばったりだったら、今頃みんな墓の下だよ。

実際、イベントをこなせず魔法陣がなかった時はどうなることかと思ったよ。

今、思い出してもムカつく。あのキャンベリックの駄目教師。

更迭してやったからいいけど。

ふと、アルがポケットから何かを取り出した。

ピンク色のリボン?

「迷信だけど、花嫁さんは、なにか古いものを身に着けるといいらしいよ」

へえ。言われると、ちょっと生地がへたっているような。

そういえば、日本にも、なにか青いものを身に着けたらいいとか、小銭を靴に入れておくとか、その手のおまじないがあった気がする。

ドレスの端に、そっとリボンをつける。

「何か、見たことあるリボン」

「だって、君のだもの」

私のリボン。なんだそれ、と思って思い出した。

初めて会った星祭りでリボンを失くさないといけなくて、わざと緩く結んでいた。薔薇色のリボン。さっきピンクだと思ったけど、10年分色褪せている薔薇色のリボン。

ゲームだとフィリップがずっと持ってるはずだったんだけど。

そうか。アルが持ってたのか。

そりゃそうだ。

「リリーナが僕の前に現れて、女神の御使いだと言った時、僕は女神に選ばれた気がした」

アルが私の手を取った。

「母を亡くして後ろ盾もない王子でも、女神は見ていてくれたのだと」

「そ、それは」

「でも、フィリップだったんだよね。女神が選んだのは」

そうなんだよね。

ゲームの王子様はフィリップだった。

「だから。僕を選んでくれたのは、女神じゃなくて、君だ。リリーナ」

そうなる、かな?

手違いだけど、そうしたのは私だ。偶然だけど。それは確かに私のしたことではあった。

「だから、責任をとってよ。一緒に幸せになろう」

「もちろんさー」

だって、王妃様になるのが私のご褒美だもの。

これからの人生はボーナスステージ。幸せになるだけ。

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

割と長いこと書き溜めていたのですが、アップしたらあっという間ですね。

実はこの話は、学園でリリーナ以外の人がカップルになっていくはずでした。

ナタリーとアンナでトーマスを取り合ったり、フィリップとエドワードでエミリアを取り合ったり。

なので、設定上の大元のゲームに出ない女子生徒が大勢いたのです。

群像が書けなくて、リリーナ以外の部分を上手く入れることが出来ませんでした。

ちょっと残念なので、少しだけサイドストーリーを追加で書く予定です。

もし興味があれば6月くらいにご覧いただけたら嬉しいです。

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