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56 3年生冬 竜との戦い2

邪竜に立ち向かうのが先だ。早く表に出なくては。

っていうか、走っている間に建物がガンガン揺れているんだけど。

屋外に出た瞬間に爆風のような風に飛ばされた。

外に出ると、エドワードたちが竜を攻撃していた。

向こうは飛ぶので、トーマスたちが連携して魔法で地上に引っ張るようしているようだ。

それで暴れた竜の体が不安定に揺れているのだ。

魔法が使える騎士は魔力で王宮のてっぺんくらいまでなら跳躍できるので、割といい感じに競り合っている。

意外といけてる?

そんなことはなかった。

暴れる竜に人数が足りていない。

今、耐えきれなくなって吹っ飛んだのはロブだ。

いかん。

ロブを誰かが支えるのを確認してから飛び上がる。

「リリーナ」

エドワードが剣を渡してきた。

おおう、これが勇者の剣か。

大振りでとても重いよ。これって私が持つものなのかしら。

私の細腕で剣と盾と魔法陣を同時に持っては動けないよ。

リリーナの愉快な仲間たちが持ってくれてもよくない?

しかし、さすがに聖剣だ。

がつりといい音を立てて竜のうろこに突き刺さった。

瞬間。凄まじい魔力があふれて、私も、エドワードも、魔法で支えていた生徒たちも一気に吹っ飛ばされた。

落ちる、と思った時に、誰かが私を抱えてくれた。

学園の制服を着た見知らぬ男子生徒。

見知らぬ、ことはない。見覚えのある後輩だ。

「2年の…」

「そうです。前に馬術を教えて貰いました」

ああ、そうそう。生徒会選挙の時に人気取りをしてたんだっけ。

おかげで私は2年生の間では評判がいいのだ。

こんな命の瀬戸際で助けてもらえるほどの恩義ではないけど。

でも、みんなが支えてくれている。

「リリーナ、こっちだ」

向こうから大声で叫んだのはハーヴィルだった。

エドワードに剣を渡し、建物の影に向かう。

ハーヴィルは魔法師団、魔術師の塔に、魔法陣を取りにいっていたはずだ。

しかし、何処にもある様子がない。

隣に、エミリアとトーマスの姿があった。

「まずいことになった」

「何が?」

「魔法陣が無い」

なんだって???

「魔法陣は魔法師団で用意してくれたんじゃなかったっけ」

「あったのは通常の、星祭りの儀式で使うやつだけだ」

何故、そんなことに。

「先生が裏切ったんだよ。あいつ、どっかに雲隠れしやがった」

「そんなあ」

ちょっと本気でびっくりした。

何故、そんなことに。

先生は協力してくれてたと思ったのに。

「わたくしたちの配慮が足りませんでした。先生に任せきりにしてしまいました」

エミリアが言う。

「キャンベリック侯爵夫人は王妃殿下の実の姉です。本来敵方です」

敵という単語を使った。

全く持ってそのとおりだけど、飛びながら火を噴く邪竜なんてものが出現してるというのに

非力な人間同士で争っててどうするよ。

しかし、責任は私にある。

「ごめんね。私が悪い」

私が先生を信用していたから、みんなも引っ張られてしまったのだ。

女神の預言者であるリリーナが大丈夫だと思っていたから、先生は信頼に足る人間だと思われたのだ。

これは私の偏見というか、先生という職業の人は生徒を裏切らないみたいな妄信があった。

そうだよ、何の根拠もないよ。

あれだけ現代日本で教職者の不祥事が報道されていたというのに。

自分の先生は大丈夫だと思っていたなんて。

でも、先生は攻略対象だ。攻略対象が悪い人なわけがない。というのも思い込みか。

そこまで考えて、私は愕然とした。

先生は攻略対象だった。

そして、私は先生を攻略していない。

まさかとは思うけど、本来は敵陣営のキャラで、仲良くなってないから、味方になってくれなかった?

そんなあ。やってないイベントまで責任持てないよ。

アルがどこからか羊皮紙を抱えて戻ってきた。

「どうしたの、それ」

「魔法陣を書く」

「今から?」

「いつからでも。ないものは用意しないといけない」

確かに、その通りですとも。

「だったらハーヴィルに書かせなさいよ」

それが適材適所というものだ。

指摘するとアルは恥ずかしそうに頭をかいた。

「その通りだね。僕も慌てていた」

「俺が書くの?リリーナのほうが良くない?」

ハーヴィルと私で、魔法陣の押し付け合いが始まる。

こんな精密なもの、竜が差し迫っている状況で落ち着いて書けるわけがないだろうが。

この建物の横で暴れているのに。

「いや。魔法陣は2枚いるんだよね。何人かで手分けして書くほうが良くないか」

アルは冷静になった。

連れてくるから、魔法陣を書くのが得意な奴を指名しろという。

「ここにいるメンツがいいんだろうけど、女の子のほうが良くない?」

剣や攻撃魔法が使えない生徒達は地下に避難しているはずだ。ジェシカやアンナ、ナタリーたち。

でも、彼女たちが魔法が不得意なわけではない。そういった武力を持たない生徒に手伝ってもらう方が良くないか。

「じゃあ、地下室か」

「大丈夫です」

私たちが建物の影から出ようとしたときに、ジェシカが走り出てきた。

屋外に出てくるなんて危険な。ジェシカは典型的な剣も攻撃も苦手なお嬢様なのに。

「今、みんなが用意しています」

なにを?と聞こうとした時だった。

校舎の屋上から、横断幕がかけられた。

魔法陣の大きく入った幕が。

「あれは」

「みんなで作っていたんです。せっかく応援に幕を作るなら役に立つものがいいねって」

そういえば、そんな話もしてたっけ。

「リリーナ様が言ってたじゃないですか。もし、魔術師の塔が攻撃されて、魔法陣が使えなかったら、予備があったらいいって」

女子生徒たちが集まっていたあれか。

ハチマキとか手巾とか。

ソフィア様やナタリーたちが作った逸品だ。

そして、その中でも一番の大物が、屋上から吊るされている。

魔術用の羊皮紙でこそないが、分厚い布に刺繍で精巧に作られた魔法陣が。

いける。

あれならいける。

「ハーヴィル、片方、発動させてよ」

さすがに世界の救世主たるリリーナでも、あのサイズを一人では支えきれない。

「みんなで協力しましょう」

エミリアが進み出た。

「1年生の校舎側のをハーヴィル様、トーマス様、あとお兄様を連れてきます」

なにかを飛ばしていたのが魔法の伝言だろう。

「手前のほうをリリーナ様とわたくしで。エドと殿下は防御をお願いできますか?」

「もちろん」

「いや、兄上はリリーナたちの側に入ったほうがいい」

割って入ったのはフィリップだった。

「フィリップ」

あんた、なんでここに、王妃様はどうなったの、なんで協力してくれるの。

聞きたいことがいっぱいで、わたわたしてしまう。

じろりと睨まれた。

「ごたごたしている場合じゃないだろ」

そのとおりです。


エドに剣、フィリップに盾を渡して送り出した。

竜はロブやハンス達が足止めしてくれている。

魔法陣にそっと魔力を流すとキラキラと輝きだした。

いける。

発動と同時に、他では見られない金色の光が浮かび上がって。

ハーヴィル達の魔法陣も同じように金色の光に包まれている。

その瞬間。校舎に穴が開いた。

なにか物理的なものではなく、ハーヴィル側の魔法陣、その形そのままの円形にくっきりと空間が広がっている。

その向こうは暗闇だ。

近くにいた小さい魔物が引き込まれるように入っていった。

あれが、本来の魔物の世界なのか。

私の側の魔法陣から放射線状にいくつもの光の矢が伸びていく。

地表をたどるようにどんどん伸びて。

自分の魔力が地球を包むように伸びていき、何本もの筋が地表を覆う。

それがそのまま一周して戻ってくるその時に、何匹もの魔物が金の矢とともに戻ってきて、ハーヴィルの側の魔法陣に引き込まれていく。

その間にも空中で何かが光っている。

あれはエド?勇者の剣が光っているの?

まだも空中にとどまる竜をエドやフィリップ達が食い止めている。

ふいに、隣にジェシカがやってきた。

「替わります」

「え?」

「フィリップ殿下たちが頑張っていますが、邪竜が手ごわいです。ここは私たちが」

よく見ると、ジェシカ以外にも地下室にいた女の子たちがやってきていた。

ソフィア様の顔も見える。

「魔力はそこまで強くないけど、人数がいれば何とかなると思って」

「私たちのことはリリーナ様が守ってくれるでしょう?」

皆が口々に言う。

「わたくし、なんとしてでも、この魔法陣を維持しますわ」

エミリアが頷いた。

「行こう」

アルが剣を渡してきた。

行くぜ。

竜はところどころに傷を負いながらも、まだ元気いっぱいだった。

しかし、ここでひるんでなるものか。

私が世界の救世主、リリーナだ。

魂の雷をくらえ。

魔法で雷を降らせると竜がひるんで方角を変えた。

やることはわかっている。

追いつめて、魔法陣の向こうへ追いやるのだ。殺す必要はない。

竜が火を噴く。

フィリップが盾で防ぐ。

なるほど、さすがに聖なる盾で、他の防具では防げないものが防げるのか。

エドワードが勇者の剣を渡してきた。

どうでもいいが、ここの男どもは当然のように私に剣を渡してくるなあ。

それが私のお仕事ですけど。

やけになって振ると、竜が私についてきた。

え?これでいいの?

半信半疑のまま誘導して、魔物の世界へ帰してやる。

竜が暗闇の中に消えていこうとしたとき、私まで引き込まれるように身体が宙に浮いた。

「リリーナ」

アルが私の手首を握る。

ギリギリのところで踏みとどまった。

「みんな、近づきすぎないで!」

しかし、みんな、私よりも近くにはいないのだった。

なんだかなあ。不満が積もるが、それは、そんな悠長なことを考えている余裕が出たということだ。

そうして、魔物は少しずつ、魔物の世界へ帰っていった。

最終的にハーヴィルとエミリアが魔法陣を維持して、少しずつ、少しずつ絞って行った。

あたりがすっかり暗くなって、最後に西の空から現れたのは傷だらけのサラマンダーだった。

おまえ、あれか。騎士団長たちが討伐にいったあれか。

「国境から戻ってきたんだったら、もう閉めてもいいかな」

「そうだね。大方は帰ったみたいだ」

ハーヴィルが魔物の世界に通じる魔法陣を閉める。

2つの魔法陣が角度を変え、引き合うように近づいていった。

描かれた布自体は校舎につるされたままなので、輝きだけが溶けるように重なっていく。

ゆっくりゆっくりと引き合って、そのままぴったりと重なった。名残のように金の光が空を飛んだ。

ああ、塞がれたのだ。

星祭りの魔法陣のように魔力の光が空を舞っている。

綺麗。

星が降るように魔力の光が空を染める。

見てるだけなら綺麗だけどさあ、魔力の使い過ぎでもうフラフラだよ。

でも。

私はやった。

己の使命を果たしたのだ。

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