54 3年生冬 直前3
騎士団の詰め所にいると聞いたので行ってみたら、エドワードはものすごく暗かった。
陰気なキャラのハーヴィルは陽キャだが、エドワードは真面目で一本気なゲームそのまま。
おまえは期待を裏切らないな。
詰め所には何故かフィリップもいた。仲良しだ。
「何か用か」
何故かフィリップに質された。おまえも客だろう。
「様子を見に来ただけだよ」
「ごらんのとおりだ」
恐ろしいことに騎士団はすっかすかだった。
それぞれが各地に応援に出ているらしい。
「鯨どうなったの?サラマンダーはどうなった?」
「鯨は退治されたよ。サラマンダーのほうは山に隠れたみたいで、父上がコルド山脈に出発した」
騎士団長が直々にお出ましか。そりゃそうか。
それほどのおおごとだ。
「騎士団長が出たっきりなら、他の仕事はどうしているの」
色々なところで応援要請が出ていたら、その振り分けをしないといけない。
「王がやることになっている」
フィリップが嫌そうに答えた。
なるほど。副官とかではなく、上司になる国王がするのか。知らなかった。
私が感心していると、エドワードがそっと身振りで何かを伝えようとしてきた。
「どうかした?」
声をかけると、手で禁止のジェスチャーをされる。
「おまえは無神経だな」
「何がよ」
「王が、やることに、なっている」
フィリップが繰り返した。
なるほど、やることになっている。が、やっているとは言っていない。
「父上は意見が異なる人の主張を調整するのが苦手だ」
へえ。会ったこともないので知らなかった。
それにしても、偉い人というか政治家のお仕事って色々な利害関係を調整するものではなかったか。
この世界では身分が絶対なので、国王はそれでもやっていけるものなのだな。興味深い。
「どうせおまえは、そんな無能を上に据えるなとか、不敬なことを考えているのだろう」
いや、そこまでは考えていませんよ。思ったけど。
でもまあ、上の方で揉めていそうなのは察知しましたとも。
「じゃあ、いろいろ止まっているの」
「兄上がやってる」
兄上。一周回った。こいつの兄上。
「アルがやってるんだ」
「おまえはとても気安く呼ぶが、王太子殿下が、だ」
「じゃあ、大丈夫よね」
「まあな」
なんだろう、この弟は。ツンデレか。
「大丈夫じゃないんだよね」
と言ったのは、本人だった。
「最近、言うこと聞かない人が増えて」
「なんで?」
「本当に邪竜が出そうだからじゃないかな」
意味が分からない。
が、さっくり言うと、王妃様は邪竜が来ないと思っていて、対策するアルの邪魔をしなかったらしいのだ。出なかった時に責任追及して、王太子をフィリップにするために。
しかし、出そうなので、足を引っ張ることにしたらしい。
「それっておかしくない?」
邪竜が出て、対策が間に合わなかったら、みんな死んじゃうんだよ。
フィリップだって、誰もいない廃墟で王様になってどうするんだと。
「フィリップが真っ先に死ぬなあ。根がいい子だから」
アルが言う。
そうだね。あんな、偉そうにした嫌な奴っぽく振る舞ってて、実は本当にちょこっと嫌な奴だったりもするんだけど、魔物が出たときに隠れるほど卑怯なやつではない。普通にそのへんの子供とか守って死にそう。
「でも、なんとかするけどね」
「できることがあったら言ってね」
「もちろん、リリーナには君にしかできないことをお願いするよ」
そうだね。私は世界の救世主だもの。
でも、アルが頼んだ私にしかできないことは犯罪だった。
王家の宝物庫から聖なる盾を盗んでこないといけないらしい。
「どうしても許可が降りなくて」
騎士団長はいい人なので、いざという時に国宝である勇者の剣を使わせてくれることは了承されたらしい。
エドワードが持ってくることになっている。
魔法陣のほうは魔術師団で作成されていて、キャンベリック先生の担当だ。
しかし、盾が。王室に秘蔵されていて、存在すらも明かされていなかった聖なる盾。
存在しているところまでは確認出来たが、アルでも実物は見れていないそうで。
「なので、竜が出て混乱しているところで、宝物庫を壊して持ってくるしかないという結論に至った」
そうですか。
「僕がやろうとは思う。しかし、僕が無理だった時に、信用できる人にしか頼めなくて」
「犯罪だしね」
「世界が滅ぶ時に、そういう細かいことはいいんじゃないかな」
アルはなかなか思い切りが良い。
まあ、王家の宝物庫だからな。自分のものだと思えば平気なのかな。
こうして、剣、盾、魔法陣の目途はついたのだった。




