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52 3年生冬 直前1

「話がある」

フィリップに呼び出されたのは、日本で言う12月、霜の月が半分すぎた頃だった。

邪竜が出てくるのは冬の終わり、星祭りの頃だから、あと2月ちょっとと言ったところか。

みんな鍛錬に励んでいて、私ものんびり呼び出されている場合でもないのだが。

それに、この寒いのに屋外に呼び出すとか、どうにかしてくれ。

相変わらず気の利かない男だ。

「兄貴が変なことを言いだしたのは、おまえのせいだろう」

もう、学校では、世界の破滅について、知らない生徒はいないと言っていい。

信じているかどうかは不明だが、そういう仮定に基づいて、私たちが活動しているのは知れ渡っている。

これって、昔の日本で例えたら、ノストラダムスの大予言で、本当に世界が消滅すると思って

自殺をした宗教団体みたいに思われているのかな。

そう言うことがあったと聞いたときは、昔の人って、そういうデマとかに対する知識がなかったのかなと

疑問に思っていたけど、自分がそういう怪しげなものを吹聴する立場になっているのも皮肉なものだ。

「兄貴、廃嫡されるかもしれない」

「え?まさか」

反射的に言ったが、確かにそう言うこともあるかもだ。

本気で頭がおかしいもの。

アルは騎士団を中心に大人も動かすつもりだから、当然王様の耳にも入ったんだろうけど。

そういうことを一切考えなかった自分に腹が立った。

「兄貴が自分で言った」

騎士団や魔術師団を動かすのだから、邪竜が出てこなかった場合は当然責任を取ると言い切ったらしい。

「おまえのせいだ。うちのババアはすっかりその気だ」

ババアというのは王妃様か。

フィリップを王様にしたくてしょうがない、そのくせ我が子を愛してるかもわからないような母親。

吐き捨てるように言うのを見て、ふと気づく。

「もしかして、殿下が成績悪いのってそのせいですか?」

アルの母親はアルを産んで亡くなった。

その後、後妻として王妃になったフィリップの母親は、自分の息子を王太子にしようと、アルを暗殺しようとしていたこともある。

だが、今、アルは王太子で、フィリップは出来の悪い次男だ。

母親が自分を王太子にしたがっているから、わざと成績も剣もイマイチな第二王子を演じていたのだろうか。

見上げると、耳が真っ赤になっていた。

うわー。母親がアルを殺そうとしたという負い目があるのはしょうがないとして。

もしかして、すごいブラコンじゃないの。

ちょっとそれどうなの、ってなったけど、今はそういう問題を追及している場合じゃない。


早速アルを呼び出す。

かくかくしかじかなことを聞いたのだがと。

「そうだよ」

アルはあっさり認めた。

「なんでそんなことを」

「その方が効率がいいから」

さっぱりわからないよ。

「こんな信憑性のない話で普通に備えてくれって言ったって無理だよね。

でも、失敗したら僕が王太子にならないということなら、王妃殿下は張り切るだろうね。

ことを大きくすればするほど、僕のメンツが潰れるから。

本来反対する王妃派も協力してくれるから、とてもはかどるよ」

それはそうだけど。

「でも」

私のせいでアルの未来を閉ざしてしまうのは違う。

「いいんだよ。もともと、王様になりたいわけじゃなかったし」

「嘘」

「嘘じゃないよ。君が…王妃になると言ったから、王様になることにしたんだし」

「僕はずっと身体が弱くて。長生きしないかもしれないと思ってた。でも、君と会った。

 神様から遣わされて王妃になる君が僕と出会ったということは、僕は女神に選ばれたのだと思った」

それは違う。

「うん、違ったんだね」

アルは笑った。

「でも、あの頃、それが僕の支えだった。神様に選ばれたのだということが」

アルが健康になると、王妃様は露骨に彼を邪険にするようになったそうだ。

それでアルも悟った。

王妃がアルに優しかったのは、彼が病弱で、フィリップの脅威にはならないと侮っていたからだったのだと。

そして、私はそれより酷いことを知っている。

王妃はアルを殺すつもりだった。毒を盛ってじわじわと弱らせていた。

だからこそ、アルが死んだ時に、怪しまれることのないように、彼を可愛がっているフリをしていたのだ。

だが、それは失敗した。

アルは王宮を出て、手が届かなくなった。そして、王妃はアルを疎んじているのを隠さなくなった。

貴族社会へ自分の立場を表明し、派閥の力でフィリップを王にしようとし続けていた。

暗殺こそ成功しなかったものの、なかなかに酷い嫌がらせもされていた。

「まあ、いいんだ。意地悪もしたし」

アルは笑った。

「したの?」

アルが。意地悪を。とても意外なんだけど。

「フィリップの足を引っ張ったんだよね」

フィリップは元々とても努力家だった。

兄を目標にして、コツコツと学問、剣術、魔術と励んでいた。

アルはフィリップの取り巻きに信頼する部下を置いて、フィリップを楽しいことに誘って遊ばせた。

人は誘惑に弱い。フィリップは楽をするようになった。

エドワードやエミリアの様子を見て、再び努力するようになったのは最近のことだ。

「生徒会役員になるのも邪魔したしね」

あれは…まあ邪魔か。

「だからイーブン。むしろ、君がいる分、悪いことをした。でも、負けるつもりはないんだ」

君が好きだから。

声にならない囁きに体温が上がった。

「来るんでしょ、邪竜」

「うん」

「じゃあ、いいじゃないか。僕はリリーナを信じるよ」

泣きそう。

アルはずっと一人で頑張ってきた。これから先は、ずっと彼の努力が報いられる人生であってほしい。

と、思ったら、涙があふれていたようで。

抱きしめられて頭を撫でられた。

「泣かない、泣かない」

「泣いてないもん」

そう言ったけど、離してはもらえなかった。

「リリーナはさあ、邪竜が来たらやっつけて、世界を救って王妃になるんだよね」

「そうだよ」

「もしもだよ。もしもの話なんだけど」

なんだか普段と違う声だった。

「邪竜が来なかったら、僕と一緒に外国に行こうよ。王様にならないのに国に残ったらフィリップの邪魔になるから、好きなことを職業にするのもいいかと思っているんだよね」

アルは嘘つきだ。

王様になる為に頑張ってたのに。

いつも、そうやって、私を楽にしてくれる。

「何がしたいの?」

「わからないなあ。とりあえずはいろいろ見て回りたいかな」

諸国漫遊か。それはなんというか楽しそうだ。

「リリーナがいたら頼りになるから。強い魔物がきたら護ってくれる?」

「うん」

「じゃあ約束」

小指を絡める約束を教えたのは私だった。


うっきうきで翌朝、教室に行ったら、まだ、あまり生徒が登校していなくて、フィリップがぼんやりしているところだった。

他の生徒が周囲にいないということは、私が話しかけてもいいということだ。

身分がどうとか言ってたらどうにもならんと判断した。

アルの話をした。うっきうきで。

「と、言うわけで、あなたのお兄様はとてもとても素敵な人だとお知らせするわ」

「そんなお知らせいるかよ」

フィリップが気に病んでいるかもと思って、報告してあげたのに、とても冷たくあしらわれた。

「実の弟なのに素晴らしさに気が付いていないのかなって」

「知ってるよ、兄貴がすごい人間だということは。欠点は女の趣味だけだ」

あらまあ。それはどういう意味かしら。

「私のことを義姉上と呼んでくれてもいいのよ」

「浮かれてるな」

まあ、多少浮かれるのは許してほしい。

「なので、殿下も我々に協力してよ」

「なんでそうなるんだよ」

「人手はあったほうが良いじゃないよ。猫の手も借りたいのよ」

言いながら、この世界でこの諺は通用するのかと思ったが、意味は通じたようだった。

「どうしてもと乞われたなら協力しないでもなかったが、そんなどうでもよく誘われても」

「うわー、ちっちゃいなあ」

この期に及んでメンツかよ。

「みんなやってるのにぃ。クラス一丸となって協力しようよ」

「文化祭みたいに言うな」

フィリップが参加したら、取り巻きの皆さんも参加するので、とても助かるのだが。

「殿下。私からもお願いしますわ」

近づいてきたエミリアが頭を下げた。

私がフィリップと話しているのを目撃した生徒が、エミリアに知らせたらしい。

喧嘩になったら止めてほしいという意図でのことだったらしいが。

人聞きが悪いな。

「どんなことが起きるかわかりません。殿下の力が必要なのです」

まっすぐにフィリップを見つめる。綺麗な緑の瞳がこぼれそうにキラキラして。

「私たちを助けていただけませんか?」

ああ、可愛い。

守ってあげたい。

これか、これが私に足りないのか。勝手に相手が守ってあげたい気持ちになってしまう可愛さか。

「エミリアは偉いね。エミリアに冷たく当たる、ちっちゃい男なのに」

からかうと、ふるふると首を振った。

「殿下は本当は優しい方です。冷たくするのは私の為なのですわ」

そうでしょう?というように首をかしげる。

「殿下が私に優しくすると、王妃様がすぐ婚約させようとするのです」

エミリアが説明してくれる。

そういえば、そんな話があった。

元々、クリス様とエミリアの父である宰相は、長男のクリス様を王太子のアルにつけ、エミリアをフィリップと親しくさせて上手くバランスを取っていた。

王妃はエミリアをフィリップの婚約者として、もっとはっきりとして後ろ盾にしたかったようだ。

しかし、宰相は王妃の思惑を知りつつも、婚約はさせなかった。

「お父様は、情勢を見極めてから、私を王太子殿下に嫁がせたいと思うようになったのですね」

なるほど。フィリップがフラフラしていたせいで、貴族たちの間ではそういう雰囲気になっていたのか。

「でも、王太子殿下はリリーナ様をご所望なので」

「ご所望」

そうなんだけど、そうなんだけど、なんかニュアンス違う…

「なので、私とフィリップ様も自由になっていいと思います」

おおう。

そこに着地するのか。

エミリアは落ち着いていて、フィリップのほうがおたおたしている。

肚が座ってるというのはこういうことか。

すごく可愛いのに。表面上は男を立てながらも、手の平で転がすタイプか。

私はそうっと席を立った。

これ以上いてもお邪魔だ。

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