51 3年生秋 迎撃準備2
なんだかよくわからないことになったと思ったのはしばらく経ってからだった。
生徒会室に集まったみんなに、他の生徒達への伝達も頼んだのだ。
私たちがいきなり発表しても疑われるだけだが、仲良しの友達から聞けば、みんな聞く耳の一つも持つのではないかと思ったので。
それが、おかしな伝言ゲームになっていた。
なんだか、お祭りみたいになってるんですけど?
体育祭とか学園祭みたいな。
みんなで準備して邪竜の攻撃を食い止めようぜ!的な。
もちろんここは国のエリートが集う魔法学園で、生徒は皆、ある程度の魔法が使えるので、その戦闘力は騎士団の一大隊にも及ぶわけだが。
しかも、街ではとんでもないことになっているらしい。
『救国の聖女リリーナ』
これは、今、庶民の間で人気のお芝居である。
女神から世界を救うという使命を受けて、異世界から舞い降りた聖女リリーナ。
生贄として邪竜に喰われる運命だったが王子と恋に落ち、王子は彼女を助けようとする。
リリーナは人の力では邪竜を防ぐことはできないと、王子に別れを告げて、一人、邪竜に退治する。
しかし、愛の力で邪竜は去り、世界は救われるのであった。
って、何コレ?
「ポイントはそこじゃないんだよねえ」
手配したトーマスは言った。
「竜に襲われた時に、庶民が逃げるじゃん。あれが、リハーサルなんだよね」
「なんの」
「もし、邪竜が来た時に、逃げる準備が出来てないと、被害が甚大になるからね」
作中で、それぞれが身一つで逃げるシーンがあり、そのあとで避難する場所や家族同士で連絡を取り合う方法が示されているのだ。
「見たことがあるだけでも心の準備が違うだろう」
それはそうかもしれないが。
「だって、事前に竜が来るから準備してって、誰も信じないよ」
だけどさあ。
「話題の作品を見ることで知識を得られることが大事なんだ」
そうかなあ。
主演の女優の似姿の入ったパンフレットにも、いざという時の避難方法が書かれている。
他の火災や豪雨時の避難キャンペーンと連動しているという名目だ。
それにしても、なんで異世界から来たリリーナなの。
恥ずかしいよ、もう。
いざ、邪竜が出現した時に連想されることが大事だからと押し切られたけど。
脚本は、メアリーの舞台の脚本家だ。
本当にあのオッサンは才能あふれる脚本家らしく、この舞台も大人気らしい。
兄も見て、騎士団でも人気だと教えてくれた。大爆笑、らしい。酷い。
主演女優は去年、メアリー役で人気になった美人女優だった。
本物よりずっと綺麗だと言ったテリーは拳でぶっとばした。魔法で無かっただけ良いと思え。私は肉体は華奢寄りの少女なのだ。
しかし、テリーは興行主とのコネを活かして、この舞台の手配のほとんどをやったのだとトーマスが言っていた。
トーマスは家に頼んで金と依頼を通しただけらしい。
それでも、トーマスの手柄にしているのだから、テリーはアピールが下手だ。
本当に、何処に行っても面倒な作業を押し付けられてしまうのではないかと心配になるよ。
エドワードや男子生徒たちは剣や魔法の訓練に明け暮れている。
いつもと一緒かと思われるが、邪竜という仮想敵がいることで、ゲーム的な楽しさが生まれているらしい。
いや、そういうことじゃないんですけど。
数少ない女生徒達にはやることがないとつまらなそうな顔をされた。
いくら魔法学園で魔法が使える生徒ばかりとは言え、まだ魔術師でもない女生徒が魔物と戦うというのはさすがに選択肢になく
アルも戦力に数えていない。
私もアンナやナタリーが戦えるとは思わない。
「私たちも何かしたいんですよ」
本当に知るかよ!そんなこと。
「応援しましょう」
ジェシカが提案した。
「異世界ではおそろいの鉢巻きとかつくるんですよ」
「ハチマキ?どういうものですか」
「スカーフみたいなもので、同じものをみんなで身に着けるのです」
「素敵。刺繍を入れたりするのですか」
ナタリーが食いついた。
やーめーてー。
ナタリーは手芸が好きだから、本気で鉢巻きを作られてしまう。
「横断幕とか作るのもいいですよね」
「なに、それ」
「校舎の屋上からつるすんです」
ジェシカの説明を皆は理解したのだろうか。
スポーツに力を入れている私立高校なんかで、校舎に「柔道部〇〇〇〇 インターハイ3位」みたいに飾ってある奴なのだが
私の認識であれば、あれって横断幕ではないような。
横断幕って、スポーツの大会で観客席に飾られているようなのじゃないのか。
ていうか、どっちでもいいか。
本当に体育祭じゃないんだからさあ。
「私、体育祭に出たことないから、ちょっと作ってみたかったんですよね」
前世のジェシカは病弱で、学校も満足に通えていなかったらしい。
皆で鉢巻きを作るなどもしたことがなかったそうで、そりゃあやりたいに違いない。
そう思うと止めるのもためらわれるよ。
しかしね。
「私の名前を入れるのは絶対、駄目だからね」
それだけは言っておかなくては。
いざというときに『リリーナ、頑張れ!』みたいな垂れ幕があったら恥ずかしいよ。
「リリーナ様のお名前を入れずしてどうしろと」
「なんかいい感じの紋章とかあるでしょうよ」
私が言うと、ナタリーが真顔で頷いた。あれ。真面目に検討されている。
そういうんじゃないんだけどなあ。
「作るなら、もうちょっと役に立つものにしてよ」
「具体的にはどんなものでしょう」
「魔法陣の予備とか?1枚しかなくて、駄目になったら困るじゃん」
「あー、リリーナ様、変なところで心配性ですもんね。皿とか必ず予備を用意してらっしゃるの」
横からアンナが突っ込みを入れた。
余計なお世話だ。
「わかりました。ソフィア様に相談してみます」
「それは止めてよ」
さすがにソフィア様にまで迷惑をかけるのはいかがなものか。
そんな感じのことがいたるところで行われていた。
「なんだかおかしいことになってると思うのよ」
私が言うとアルは笑っていた。
「いいんじゃないかな」
「いいかな?」
「うん。だって、本当に邪竜が来たら、みんな死んじゃうかもしれないんだよ。それまでの時間を楽しく過ごすことには意義があると思う」
いきなり重いな。
極端から極端かよ。
もううう。やっぱりここは私がなんとかするしかない。
私がみんな助けるしか。




