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50 3年生秋 迎撃準備1

秋も深まり、最近、めっきり寒くなった。

世界の破滅が着々と進んでいるのだけれど、どうしていいかというと困るところだ。

鍛錬に明け暮れる毎日である。

今日はうっかり興が乗ってしまって、やりすぎてしまった。

おかげでとても眠い。今日の授業は寝る寸前だった。

一番前で寝るわけにはいかないが、もう本当に眠かった。。

あくびをかみ殺していると、隣のトーマスから声をかけられた。

「この後、用事ある?」

「特にないけど」

「クリストファー様が、リリーナを連れて来てほしいって」

なんだろう。クリス様は研究生的な扱いで学園に出入りしているが、卒業しているので最近は特に絡むこともない。

指定された生徒会室には、役員のエミリアとエドワードと、何故かジェシカもいた。

「クリス様、何の用だって?」

エミリアに聞くと、ふるふると首を振った。

「お兄様からの呼び出しですけど、お兄様もよくわからないみたいなんです」

それは。

ドアが開いて、アルとクリス様、キャンベリック先生とハーヴィルが現れた。

フィリップ以外の攻略対象が勢ぞろいで、なんだか感慨深いな。

ちらっとジェシカを見ると、ジェシカは私以上に感動しているようだった。

さすが全スチルを集めた女。

「個別に話すのも手間だから集まってもらったんだけど。実はあとちょっとで世界が破滅するらしいんだ」

アルが言った。

その切り出し方はどうなんだろう。

みんな、ジェシカとハーヴィルと先生以外ということだけど、呆然としているじゃないか。


アルは非常に簡単に要旨をまとめていた。

私とジェシカが女神の天啓を受けて、異世界から転生してきたこと。

その目的はもうすぐ現れる邪竜を倒して、世界を破滅から救うこと。

女神の指示で、キーポイントとなる人物と仲良くなって、協力を得ようとしていること。

最後のは、ちょっと言われたくなかったかなあ。

私がその為に仲良くなったのかと思われるのはつらい。

確かに、目的があって近づいたのはその通りなんだけど。

隣のトーマスを見たけど、熱心に聞いているばかりで、これという反応はうかがい知れない。

「それは、どのくらい信憑性があることなんだろうか」

クリス様が言う。

「根拠とか証拠という話であれば、全くないね」

ジェシカが右手を上げた。

「2人が別々に同じことを言ってるのは証拠になりませんか?」

「君たち2人のたくらみであるか、片方が洗脳的な影響を受けている可能性もあるからね」

まあ、それはその通りだ。

なので、私も誰にも言わなかった。とうてい信じられるような話ではないから。

邪竜が出たら、強引に戦わせても大丈夫だろうという程度で。

そもそも、この世界って大きい魔物が出たら、そのへんにいる戦える人は全員駆り出されるレベルでの総力戦になる。

邪竜なんて総動員中の総動員だ。

「まあ、戯言だと思うのであれば、退出してくれて構わないよ」

誰も出て行かなかった。

ああ。みんな手伝ってくれるんだ。ちょっと、涙が出そう。

アルが説明を続ける。。

「しかし、リリーナたちの話とは別に、今、魔術師団で行っている封印の魔法に問題があることも判明している」

キャンベリック先生が立ちあがって、黒板に魔法陣の書かれた紙を貼った。

「今使われている魔法陣だが、部分的に解明が出来ていなかった」

「それが、解明できたんだよね」

ハーヴィルが自慢げに言う。

なるほど。

今日はその報告会なのか。

さすが、国のエリートなので、封印の魔法陣には一部不明なところがあるという事実はみんな知っていた。

現代日本で言えば、数学の解明されていない定理のようなものか。

解明したらものすごく懸賞金がもらえたりするやつ。

「あれが解明したんだ」

トーマスが感心したように叫んだ。

「すごいことだよ」

率直な賞賛にハーヴィルがとても嬉しそうにしている。

先生の顔色は悪い。せっかく解明できたのに。

「良かったですよね?」

先生に言うと先生は首を振った。

「良くはない。メアリーの魔法陣は、やはり呪いの魔法陣だったんだ」

呪いとはまた言葉が強い。

「まあ、これまでのやり方が間違っていたことは確かだけどさあ。言ってもしょうがないじゃん」

ハーヴィルが言う。

どちらもメアリーの魔法陣を研究しているのだから、一緒にやったほうが効果があがるのではないかということで

共同で研究をしていたのだ。

そっかー。

私がフィリップを落とそうとして失敗している間にも2人は頑張って研究していたのだ。

なんだかどうもすみません。

それで、先に、メアリーの残した研究のほうがわかったのだそうで。

結果、メアリーが研究していた魔法陣は2枚あることがわかった。

「メアリーは天才だよ」

ハーヴィルが絶賛する。

今から1000年前、魔法の天才だったメアリーは、魔物がどうやって出現するかに興味を持っていた。

そして、この世界ではない魔物の世界から来るのではないかと推測し、この世界に魔物の世界を開く魔法陣と、

それを塞いでこの世界を護る魔法陣を作った。

本来、2枚あってこそ効果があるものだったようだ。

しかし、世界を護る魔法陣のほうのみが、星祭に魔物を防ぐ魔法陣として採用された。

これは、魔法陣を盗んだヘンリーが内容を理解しないまま結果だけに飛びついたせいではないかと思われる。

「でも、護るほうだけでも効果はあるんだよね?」

だったら、追い返すことができなくても退治してしまえばよくないか。

「それが、セットで使うことが前提だったから、こちらに来て退治もされなかった魔物が魔法陣のなかに捕らわれているようなんだ」

なんだか理解しがたいことを言われた気がする。

「捕らわれてるって?」

「こちらの世界にも魔物の世界でもない狭間にいるということだ」

よくわからない。害がなければいいんじゃないの。

「足りない魔法陣で封印魔法を何度もかけなおしたせいで、限界が来ている。魔物の量が増えて、溢れて出てくるんだよ」

えええ?

邪竜以外も出てくるの?

あんまり数が多かったらすごく被害が出ちゃうんじゃないかしら。

「まさに世界の終りだよ」

先生が言った。

う~ん。まあ、そうなんだけど。

手に負えないほど敵が強いとちょっと困ってしまうよね。

「でも。魔法陣は手に入ったよ。後はやっつけるだけじゃん」

ものすごく雑にハーヴィルがまとめた。

前向きだな。本当に、こいつだけは性格が変わってよかったと思う。

エドワードが挙手をして発言を求めた。

「前に父から、サラマンダーが出た時に、付近一帯が壊滅したと聞いたことがあるんですが」

「400年くらい前だったかに、そうなったと聞いている」

アルが答えた。

「邪竜ってそのクラスの魔物が出るってことですよね。王都付近が壊滅するくらいの。

 それって、学生の僕らが何とか出来たりするものなんですか?」

みんなが顔を見合わせる。

「そんな、5人や6人でなんとかなるわけがない」

なりませんかね。

「僕は、さっきの話は、非常に寓話的というか、例え話みたいなものだと思っている」

アルが答えた。

「リリーナが攻略するとされる人物は象徴である、と」

「象徴…」

トーマスが呟く。

「それは、僕は平民であって商人なので、その層からの協力を取り付ける。

 エドワードは騎士たちの、クリストファー様は貴族たちの、それぞれの協力を、みたいなお話ですか」

「そう思ったよ。数人で対応できるようなことではないからね」

「ああ、なるほど。それで王太子殿下は王族として皆を取りまとめる政治的な役割を担うわけですか」

トーマスとアルとクリス様が議論している。

エドワードは押し黙って聞いていて、ハーヴィルはちょっと飽きていた。

「そうなると、先生が魔術師をまとめるということなのでしょうか」

トーマスの問いに、アルとクリス様が頷いた。

「そうなるだろうな。お父上にお話ししていただいてもいいでしょうか」

クリス様のお願いに、先生は曖昧に頷いた。

「頑固な人だから、信じるかどうかはわからないがね」

そこを何とかするのがあなたの手腕ですけど。

「お父上に頼んでほしい」

アルも頷く。王太子の威力。

先生が何だかとても嫌な顔をした。

前にも思ったけど、先生はお父さんと仲が悪いのかな。

それも、ヒロインが救わないと駄目な攻略対象の攻略ポイントだったのかしら。

あとちょっとなのにイベントを詰め込みたくないとか言ってたら駄目かな。駄目だな。ジェシカには怒られそうだ。

各自、まずは情報収集から始めることにして、今日のところはお開きになった。

「それにしても、リリーナって不思議だなって思ってたけど、こんな秘密があったとは思わなかった」

終わったあと、生徒会室を片付けながらトーマスが言った。

「信じるの?」

「まあ、どっちでもいいからね。邪竜が来ても来なくても」

さっきはものすごく熱心に会議に参加していたくせに。

「生徒会に入れてクリストファー様の知己を得られたのは幸運だったけど、王太子様までとはね」

どちらにしても得があるということらしい。

「私が攻略してたの、怒らないの?」

「してないだろう」

即座に否定された。

「フィリップ殿下は失敗してるし、エドワードだって、たまたま上手くいっただけだしさあ」

そして自分は全然攻略されていませんという。

そのとおりですけどー。

椅子を片付けているときに、ジェシカに話しかけられた。

「私は魔術師をまとめるのはハーヴィルの役割なのではないかと思うのですよね」

「ええ?なんで?」

「ゲームではそうだったので」

ジェシカの返答は簡潔だ。

そういえば、ゲームのハーヴィルは2年生の時点で、将来を嘱望されて、魔術師団の団長に目をかけられていた。

エドワードが騎士団に練習に行っているように、ハーヴィルも魔術師たちと交流を持っていたはずだ。

リアルなハーヴィルがやる気が無くてダラダラしているだけで。

でも、ゲームの設定としてはそうだった。

「実際、今、ハーヴィルは魔法師団と交流がないんだから、その役割は先生にお願いするしかないのでは」

「そうなんですけどね」

ジェシカはため息をついた。

「ゲームとずれてる部分が目に付くと、つい責任を感じてしまって」

「それは私もそうだよ」

時々とても不安になる。でも、やるしかないのだ。

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