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5 オープニングは星祭りの夜4

ゲーム開始までは毎日更新します。

僕を助けて。

冗談かと思ったけど、アルは真顔で、とてもそんな感じじゃなかった。

「私、お金は持ってないよ」

世の中の困りごとの8割はお金があれば解決する。

難病とか人の気持ちとか、どうしようもないことが残りの2割。

8割に分類される事柄で解決しないというのは、解決に必要なだけのお金がないことが多い。

アルは少し考え込んだ。

「僕はお金を持ってないけど、当てがないではない」

「そうなんだ」

親が持っているとかかな。

まあ、持っている人がいるというなら、有効に使えばいい。

「だったら話してみてよ」

40歳+8歳の知恵で解決するかもしれない。

一応、異世界の知識という、なかなかの叡智を持ってるのだ。

「僕の母はかなり前に死んでて、父は別の女性と再婚してるたんだけど、家の居心地が悪い」

思ったよりヘビーだった。

「いじめられてるの?」

「いや、とても気を遣われている」

それは良かった。いや、よくないのか。

「弟と妹がいるんだけど、僕だけ特別扱いで、高いお菓子をもらったりする」

それは。

「僕がいたずらしても元気でいいって褒めるのに、弟が同じ事をすると怒られる」

それは。

「みんなでいても、僕だけ家族じゃないみたいだ」

それは。

ものすごく疎外感を感じる状況であることは理解した。

きっと悪意はないのだ。

ものすごく気を遣われているだけで。

ああ、アルは最初から言っていた。とても気を遣われている、と。

いじめられたりするよりは、よほどマシなんだろうけど、

マシだからと言って、つらくないというわけではないのだろう。

「それなのに、無理やり仲良くしようとするのが嫌だ」

そうでしょうとも。

「でも、食事は一緒に取ることになっていて、なんだか食が進まない。お腹が痛い気がする」

アルはため息をついた。

「もしかして、それで痩せてるの?」

まじまじとアルを観察する。

痩せてるとは思ったけど、そんな不健康なことで痩せていたとは。

「いや、もともと胃腸が弱いんだよ。まあ確かに、気鬱もあってあんまり食べられないのかもね」

食べられないのかもねじゃないよ。そんなこと言ってる場合じゃない!

そんな気鬱で物が食べられないなんて。こんな子供が。

「使用人も同じような気の遣いかたをして、それもすごく嫌だ」

それにしても、こういう場合はどうしたらいいのか。

心を開いて仲良くしたら、そのうち馴染んでくるよとか言う適当なことを言うことはできない。

そうじゃないこともあると知っているので。

そもそも、私と同じくらいの年齢で弟と妹がいるということは、もっと幼いころから継母と暮らしているということではないだろうか。

それで馴染んでいないとは。普通はそんな物心つかない時から一緒なら、本当の親子みたいになったりするんじゃないのかな。実の母の記憶だって、そんなにないだろうし。

っていうか、それ、継母のほうだって居心地悪いんじゃないの?と荒んだ日本のアラフォー女性は思ったりする。

義理の息子とわかりあいたい、仲良くしたいと本気で思っていたとしても、夫と自分の子供たちとだけのほうが気楽なのは気楽だろう。

子供は意外に空気を読む。

この、いかにも賢そうなアルが疎外感を感じるというなら、そうなんだろうと思う。

そして、アルは仲良くしたいわけではなく、そっとしておいてほしいようだ。

しかし、こういう時ってどうしたらいいの?

とりあえず距離を取る?

習い事をして家にいる時間を減らしたりとか?

日本だったら、学校に逃げ場があるが、この世界だとずっと家にいることが多い。

リリーナの記憶によると、子供はずっと家にいてお母さんに読み書きを教えてもらったりお手伝いとかをしている。貴族の家だと親が教える代わりに家庭教師をつけたりもする。

下町で暮らしているので、昼間は近所の子供と遊んだりするが、貴族のぼっちゃんだとまず無理だろう。

貴族の子供がふらふらしていて誘拐されないほど治安がいい世界ではない。

「いっそのこと、ふらっと家を出て冒険者になりたいと思ったりする」

ああ、それで。

将来は冒険者という選択肢が出てくるのか。

「それは無理でしょ」

ここは現代日本とは違う。こんな子供が家出なんかしたら、転落の道まっしぐらだよ。

その時、天啓が閃いた。

もしや、これは何かの伏線ではないのだろうか。ゲーム的な。

だって、私は、盗賊とは会っていない。

家出したアルは闇組織の一員になって、10年後のゲームに盗賊として参加したりする展開か。

もしくは暗殺者とか反政府組織とか。

普通に魔物に襲われる系のファンタジーだから、人間までもが敵に回るような複雑な要素はいらないんだけどな。

それに、闇組織で頭角を現すというのはカッコいい気がしなくもないが、目の前の少年がこれからチャレンジするとなったら、大人として止めざるを得ない。

それに、そういう男として10年後に出てきたとして、そういう職業の人の好感度を上げてプロポーズとか、まったくもってされたくない。

なので、そちらのフラグは折ってもいい。

「家を出るとしても、もっと穏便に家を出るのを考えるべきだよ」

「穏便に」

「みんなに悪意はなくてもあんまりいい状況じゃないのお父さんだって気づいてるよ。やり方次第でなんとかなるよ」

「具体的には?」

そんな突っ込んで来られても。

「死んだお母さんのお祖父さんの家とか」

「そっちは頼れないんだよね。外国の人だったから。会ったこともないし」

おや。それはなかなか。

つまり、アルにはこういう時に助けてくれる大人がいないわけか。

日本だったらな~。必殺、学校の先生がいるんだけど。

「騎士学校の幼年学校って13歳からだっけ」

うちの兄が通っているが、そこが一番最年少の寄宿制学校な気がする。

なんちゃってヨーロッパみたいな世界だけど、平民は学がなくても平気みたいな時代設定のようで、学校はそこまで充実していないのだ。

「剣を使うなら、先生の家に住み込みで弟子入りするとか?」

アルが真剣に考えだした。

「もしくは静養?アルはちょっと痩せすぎだよ。いいもの食べてるみたいなのに」

お高いお菓子をもらっててこんなに痩せてるなんて、ありえなくない?

どう見ても坊ちゃんだし、別荘とかもあるかもしれない。

その場合、空気のいいところに療養とかも理由として使えそうだ。

ただなあ。

「やっぱ、ちゃんとした大人から話してもらわないとどうしようもないんだよね」

子供がどうこう言ってなんとかなる問題でもないし。

「でも、継母さんだって、同じ家にいないほうが気楽だろうし、持っていきかたじゃないのかなあ」

まずは、誰か信頼できる人に相談することから。

いじめられているわけじゃないから、ものすごく理解されにくいとは思うんだけど。

「わかってくれる人はきっといると思うし、信頼できる人に相談して根回ししてさあ」

「ネマワシって何?」

あ~、日本の会社組織の用語は通じないか。でも、どこの世界でもやってることは同じなはずだ。

私が根回しについて説明したら、アルはすぐに飲み込んだようだった。

しばらく考え込んでいたけど、最終的に結論が出たようだ。

「君は、信じてくれるんだね」

そりゃあ、疑う必要もないからね。

「さすが、世界の救世主だ。僕のお嫁さんにならない?」

さらりと言われた。

「僕、結婚するなら、賢い人がいいと思っていたんだよね」

そうですか。8歳にしていきなりのプロポーズ。

モテモテ人生の幕開けだろうか。

しかし、ここでプロポーズを受けたら、不特定多数に愛をささやかれるモテモテ人生は終わってしまうよね。

「ごめんね。まだそういうことを考える年齢ではないと思うの」

「年齢の問題?」

「だって、これから素敵な人と出会うかもしれないじゃない」

「そうだけど、上手くいくかはわからないよね」

アルは真顔で首をひねった。

ええ。それは失礼だよ。

こう見えてモテモテ人生が約束されているのだよ。

「実はね、私、将来的に、魔法学園に行って王子様と結婚して王妃様になる予定なんだよ」

どういう反応が返って来るか気になったので言ってみた。

さすがに、アルも驚いたようだ。

「魔法学園?王妃?君が?」

王立魔法学園。強い魔力を持っていれば平民でも行けるが、超エリート校だ。

平民の子供がそんなことを言ったら、馬鹿なことをと一笑に付される。

でも、私はそこに行く。そして、さっきフラグを立てた王子と恋をして王妃になるのだ。

「そうだよ。女神さまと約束したもの。それが、世界を救うご褒美なのよ」

あ。言っちゃった。

さすがにご褒美目当てで世界を救うというのは、ちょっと外聞が悪いと思っていたのに。

私は意外とうっかりさんなのだ。

私の言葉に、さすがに引いたのか、ちょっと困ったような顔をした。

きっと救世主という話を信じてなかったんだろうな。

「本気なの?」

「もちろん。女神さまがそう言ったもの。信じてもらえないかもだけど、10年後に確認してね」

「どうやって」

「上手くいけば、結婚式のパレードで答え合わせが出来るんじゃないかしら」

彼は難しい顔をして、とても何か言いたそうにしていた。

おそらくは、君には無理だよ的なことを言いたいのかな。

まあ、常識的にはそうなるよね。でも、なるんだけど。

まあ女神様のお告げで救世主になりますって、荒唐無稽すぎるし、理解されるとは思わないけど。

でも、アルは結局何も言わなくて、代わりに信じたふりをしてくれた。

「じゃあ、魔法学園で会おうよ。もし、本当に会えたら、僕、君が王妃様になるように協力するね」

「約束ね」

アルは私の左手を取って、手の甲にキスした。

指切りがない世界の忠誠の約束。

あらまあ。ものすごく乙女ゲームっぽくないかしら。

こうして、私の素敵人生は幕を開けたのだった。

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