47 3年生夏 王道ルートへ?3
とりあえず、エドワードに聞いてみる。
私のことをフィリップに言わなかったエドワードは、フィリップのことでも口が堅かった。
真面目な男だ。
信頼がおけるとはこのことかと思うものの、もうちょっと融通を効かせてもいいのではないか。
次はエミリア。
エミリアはフィリップが剣を使えること自体を知らなかった。
「でも、おかしいとは思っていたのですよね」
小首をかしげる。
「殿下はとても努力家で、勉強もコツコツなさってたんです。なのに結果が出ないなあって」
王族で、いい教師もついているのに不思議だと思っていたらしい。
「なんで、わざとそんなことを」
「妃殿下への反発ではないでしょうか」
妃殿下というのは王妃殿下、フィリップの母親ということか。
「元々、公爵家のご令嬢で、一番の王妃候補だったのです」
ずっと非公式に婚約者のような扱いをされていたが、当時は外交的が問題もあって
フィリップの父親は結局、他国の王女と結婚したのだそうだ。
しかし、王妃は王子を産んだ後、産後の肥立ちが良くなくて、すぐに亡くなったのだという。
それで、今の王妃がすぐ王妃になったものの、心中は納得しがたかったのだろう。
当時の王室は兄王子を担ぐ一派と王妃の実家の公爵家で派閥争いのようなものがあり、とてもギスギスしていたらしい。
年齢のさほど変わらない兄弟であれば、才覚の勝るほうが王太子になることも多いからだ。
「やはり国内基盤の強い方が有利ですから」
エミリアの祖父はやや王妃派だったらしい。
さすが公爵令嬢。
そういう内部の詳しいこともご存じなのね。
「でも、子供の頃のフィリップ殿下は、とてもお兄様をお慕いなさっておられましたわ」
懐かしそうに微笑む。
「ただ、妃殿下はお兄様より優れていてほしかったのですね」
とても厳しく教育をした。誰からも、文句なく王太子と認められるようにと。
なるほど。そのへんはゲームと同じか。
異母兄が亡くなった後も、フィリップはまだその呪縛から離れられずにいるのか。
何かヒントになるかと、お助けジェシカにも訊いてみる。
「まあ、リリーナ様は、ヒロイン女王陛下エンドをプレイなさってないのですね」
お助けジェシカに話したら、とんでもないことを言われた。
なんだそれ。見たことも聞いたこともないよ。
さすが、全スチルをGETしたという筋金入りのホシミチヲタだ。
「邪竜を退治した後で、リリーナ様が誰ともくっつかずに女王になるエンドがあるんですよね」
「そうなの?」
「基本は、フィリップエンドの派生なんですが」
他の攻略対象との間では起こらず、フィリップと結婚しない場合があるらしい。
「そこで、殿下が、お兄様と前の王妃様を殺したのは、殿下のお母上の王妃様だと暴露するんです」
「はい?」
「そのまま、自分が王になる資格はないと、出家しちゃうんですね」
だからと言って、王家と縁もゆかりもない伯爵令嬢が女王になるの?無茶すぎない?
「殿下がその事実をご存知かはわからないのですが、ゲームで知っていたということは
現実でも、知る機会があったかもしれません。殿下はそんなお母様に反発して無能を装っているのかも」
それで荒れてるのだとしても、それはゲーム開始前に片づけてほしいものだ。
「でも、それさあ、本人知らなかったら、言ったら怖いことになるよね」
「証拠が挙がらなければ、不敬罪ですね」
ナチュラルに言わないでよ。
ただ、公式設定があったということは、ほぼ事実と考えていい。
と、いうことは、王妃様ってすごい怖い人じゃない。
フィリップとハッピーエンドの場合、その怖い人が義理の母だというとても怖いことになるんだけど。
知らないからいいってものでもないわよね?
手詰まりになったら、本人に当たるしかない。
性分には合わないがコソコソと付け回してみた。
何日かしたら、エドワードには気づかれたようだが、そこで何も言わない男なのはもうわかっている。
今日は、放課後に2人で訓練場だ。
なるほど、エドワードと一緒に剣を練習しているのだな。
1人でやるより手合わせをした方が上達もするというものだ。
エドワードは当然、本当の腕前を知っていただろうに、本当に口が堅い。
不意に、エドワードが寄ってきた。
「殿下のご不興をかっておられますので、控えたほうが」
「気が付いたんだ」
「あれで、気付かないと思うほうがどうかしてる」
まあ、わざとだからね。
声をかけると無礼になるから、向こうから気にしてもらわないと。
「せっかく、かっこいいとこ見せてもらおうと思ったのに」
エドワードが困った顔をした。
こいつはフィリップの言うことを聞かないといけない立場だが、私の言うことも無下にできないのだ。
「わかった。見たいならば見せてやろう」
遠くからお声がかかった。
「おまえが相手をするというならいい」
エドワードに剣を貸すように指示する。
相手というのは剣の相手か。
「女性相手にですか?」
「おまえを女性と思っていない」
すらりと立った姿には隙がなかった。
これは、強い。
私は自分より強い人とは対戦しないことにしているのに。
そもそも非力な女性だし、戦わないと困る時だけやってるだけで、剣が好きとかじゃないんだよ。
しかし、今が千載一遇のチャンスだということはわかっている。
試験で一番をとった時に言われたはずの「なかなかやるな」を言われ損ねたので、今、いいところを見せて、同じセリフを引き出さねばなるまい。
でもまあ、怪我をするのも嫌なので、こっそり魔法かけちゃおうかな。
「防御魔法かけちゃってもいいですか?」
一応聞く。
こっそりはバレそうだし、バレたらろくなことにならない。
「練習だから、斬るつもりはないが、好きにすればいい」
では、ちゃちゃっとかけさせてもらおう。
髪を縛って上着を脱ぐ。
お色気で目は眩んだりしないかなと期待したけど、そこまで立派な胸は持っていない。
ゲームが全年齢なので、キャラデザ的には華奢で可愛いに全振りなのだ。
しかし、あの手のデザインって本当にリアルじゃないな。
剣を使うには筋肉が必要だし手も荒れる。外で練習すると日にも焼けるし、美貌と両立するのは難しい。
それで打ち合うんだから、ハンデが必要だよね。
文句を言っててもしょうがないので頑張るけどさ。
いざ。
最初は軽く打ち合う。
しなやかに軽く見えながら、ずっしりと重い。流すように受けないと腕が保たないか。
緩やかに流して下から斬るようにしたら、軽く躱された。
体さばきも優れている。
右手が上がっていたところに斬りこむと、反射的に鋭い斬りこみがあった。
ギリギリ躱したと思ったが髪がざっくり切れていた。
「あ」
驚いたのは、私ではなくフィリップのほうだった。
呆然と立ちすくむ。
斬られた分だけ下に落ちたので、緩くなったリボンも落ちる。
「すまなかった」
謝られて戸惑う。剣を取ればそういうこともある。勝負というのはそういうものだ。
防御魔法をかけていたから、身体が傷ついたら跳ね返せたけど、髪には適用されないらしい。
知らなかったから勉強になったな。
「気にしないで。髪は伸びるわ」
そう言うと、わかりやすく固まった。
「帰る」
フィリップはそそくさと立ち去った。
なんだあれ。自分が傷ついたような顔をして。
エドワードが困ってきょろきょろしていたので、手でフィリップを追うように合図する。
髪が散らばった床は自分で掃除した。
チャンスを逃したなと思ったのは掃除が終わった後だった。
動揺しているところに付けこめばよかったのに、とっさの判断が遅かった。
それにしても、この頭をどうしたものだろう。
人目をはばかるので、ハーヴィルの大好きな温室に避難して、アルに連絡した。
ジェシカがいればジェシカでもよかったのだが、誰かにこの頭を何とかしてもらわないと困る。
「どうしたの、こんな時間にめずらし…」
現れたアルが、絶句した。
さすがにインパクトがあったか。
首のところで、左側がざっくりいっている。
現代日本感覚だと、そこで揃えても長めのボブくらいなので、特に問題はないのだけれど
この世界だと衝撃かもしれない。
「ちょっとさあ、失敗しちゃった」
へらっと笑って見せたけど、なんか空気が凍ったままだ。
「どうしたの、それ」
あからさまに厳しい声で言われた。
「剣の練習してて、うっかり油断したんだよね」
「誰にやられたの」
それは、言わないほうがよさそうな気がする。
えへへと笑ったが、ごまかされてくれないようだ。
そんなに驚くと思わなかった。
他の人だとすごい騒ぎになるだろうから、アルにお願いしようと思ったのに。
用意してきた鋏を取り出す。温室にあった薔薇とかの剪定用のやつだけど。
「揃えてほしいんだよね。後ろは自分で切れないし」
「まさか。この長さで」
そんなに驚くことか。
しかし、よく考えたら男性なので、そういうことには疎いかもしれない。
やっぱりジェシカ、もしくはナタリーかアンナのほうが良かったかも。
ジェシカなら、前世日本人だからショートにも抵抗ないだろうし。
困った時に、何も考えずにアルを呼ぶのは、我ながらどうにかしないとだよ。
「無理ならいいよ。ジェシカに頼むし」
「いや、大丈夫」
アルが頭を抱えながら鋏を手に取った。
「後ろは切らずに、左右を合わせて、おしゃれ風に切ればなんとか」
そうですか。
「適当でもいいよ。そのうち伸びるよ」
そういうと、呆然とされた。さっきのフィリップと同じ顔だ。まったく、男というやつは。
平民の女性ならショートカットもいるんだけどなあ。
この世界ではカツラを作るための髪が売れるのだ。
ナイロン繊維の美しいカツラはまだまだ完成されていない。
なので、アルアルなのだが、よく考えたら、それも、すごく悲しい出来事として扱われていた。
でもねえ。本当に髪は伸びるんだよ。
顔に傷がついたとか、そういう取り返しのつかないことでもないので。
まあアルにお任せだ。
結果、顔の横だけちょっと短くして、後ろは流すという髪型になった。
左右が揃っていると、そこまでおかしくもない。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「それで、何がどうしてこうなったのかは教えてくれないのかな?」
「ごめんね」
そのうちなんとかなったら話す。
フィリップは王太子様なので私も慎重なのだ。
関係が悪化して、友達が王室に睨まれるようなことになったらちょっと困る。
あれ?もう睨まれてる?




