45 3年生夏 王道ルートへ?1
「やっぱり、フィリップルート周りませんか?」
夏。学園に入って3回目の夏だ。
季節があと2つ巡ると、世界の危機がやってくる。
相変わらずレベルアップをはかったり、魔法陣の謎に挑戦(ハーヴィルとキャンベリック先生が!)しているが
なんとなく憂鬱になる日は格段に増えた。
そんな私をジェシカは日々励ましてくれている。
提案されたのは、基本の『基』ともいえる内容だった。
フィリップ王太子殿下。
乙女チックRPG『星の導き』略してホシミチのメインヒーローである彼は、割とテンプレの王子様だ。
金髪碧眼で細マッチョのザ・王子様!みたいな外見に、優しく知的な性格で、剣も使うし魔法も得意な文武両道。
幼い頃はやんちゃな性格だったが、優秀な兄を流行病で無くしており、常に比較されているのではないかと感じ
完璧な王子と言われるようになった今でも、必要以上に実績を上げることにこだわっている。
その心は孤独で、腹心のエドワードや婚約者のエミリアにも心を開いていない。
成績でヒロインに負けたことに悔しさを感じ、ライバル心を持って競い合うが
「貴方は貴方。人と比べたりしなくても、そこにいるだけで特別な存在なの」と言うヒロインの優しさに惹かれていく。
これを押さえておけばいい、みたいな基本キャラだが、そこが面白みがないとかで、あえてフィリップを外すプレイヤーもいる。
しかし、私は別にあえて外したわけではない。
本当に、ただ単純に好かれてないのだ。
好感度が全然上がっていない状態ということだ。
「ゲームの知識をフル活用して好感度を上げるのが重要なんじゃないでしょうか」
フィリップ王太子殿下。
「なんで、好かれてないかねえ」
「ヒロインの優しさにぐっとくるんでしたよね」
ジェシカが何事か言いかけて口をつぐみ、ちらりと私を見た。
なにか?私が優しくないとでも?
「私も違うけどさあ、フィリップだって違うじゃん」
「そうですね。実物があんな感じで、ちょっと驚きました」
ジェシカも同意してくれる。
「ただ、見た目はそのまんまじゃないですか。口を開かなければ、すごい王子様顔です」
そうなのだ。
入学の時は子供っぽいなと思っていたのだが、3年生になって素敵な感じに成長した。
好みのイケメンではあるのだが。
周囲がみんなイケメンなので、フィリップがすごくいいってならないのも事実なのだ。
それに、ゲームとは違い、実際に付き合うなら人間性が良いのが一番だ。
前世で二股掛けられてフラれた女が言うのだから間違いない。
誠実でないと。
とはいえ、フィリップの人間性にそこまで詳しくないのも事実だ。
取り巻きを連れてちゃらちゃら遊んでいて、文武両道の部分がイマイチだなと思われるだけで。
「努力するのがキツかったんじゃないですかね」
ジェシカが言った。
「だって、やんちゃな子供が完璧な王子になるまでって大変じゃないですか。
嫌だなあって、ちょっとサボってたら、無理ですよね」
その気持ちはとてもわかる。
私だって、努力なんかしたくない。
レベルが上がりやすいというチートを持っていてさえ、コツコツ努力するのは厳しかった。
弱いと死ぬとわかっていたから、頑張ったのだ。
フィリップが目標にしている兄はもう故人だ。
極端な話、努力をして完璧な王子にならなくても、自動的に王になれるし、それを批判できるものは少ない。
ちょっとした心の弱さが、今のだらけたフィリップを作っているのかもしれない。
「叱咤激励で目覚めたりするかな」
「優しさじゃないですか」
ジェシカが訂正した。
「天真爛漫なヒロインの優しさ。おおらかさ。寛容さ」
自分で自分を追い込んでしまう生真面目なフィリップを救う優しさ。設定ではそうなのだが。
それでいきなり頑張ったりするものだろうか。
私にそれらが欠けているから、そう考えているわけじゃない。
だって、よく考えたら、遊んでいるとはいえ、殿下も取り巻き達も、そこそこ成績はキープしている。
テリーと親しく(?)なって知ったのだが、取り巻き連中も殿下の取り巻きでいられるように結構努力しているようだ。
成績が落ちて2組になったら、取り巻きでいられなくなる可能性も出てくるので。
攻略対象達を基準に考えるからおかしいのであって、
ここが超エリート校だと考えて、その上位半分にいなくてはならないと考えたら、大変な努力が必要とされるのだ。
殿下だけは下駄を履かせてもらっているのではと疑っていたが、テリーに言わせるとそうでもないらしい。
難しい問題もきちんと解けているようだ。
そう考えると、謎の多い男だな。
「性格自体は、ゲームと近い部分もあるんじゃないでしょうか」
「そうかな」
「孤独なところが」
そうかな。常にいろいろ引き連れているような気がしますけど?
「周囲に取り巻きはいますが、彼らとも一線引いている感じがするんですよね」
ちょっと考えてみる。
そうかもしれない。
取り巻き連中と一緒にはいるけれど、彼らはいつでも切り捨てられる存在のように思える。
ノリが違うとエドワードを遠ざけたように。選挙の時にテリーを置いていったように。
「考えてもみなかったな」
ぱっと見だけで判断してしまったのは、私のミスかもしれない。
真のフィリップはゲームのように孤独を抱えていて、ヒロインに優しくされたら心を開いたのかもしれない。
しかしなあ。内面を知るきっかけはなかったよ。
どこが悪かったのだろう。
「ちゃんと星祭りで会って、入学式にも裏庭で会ったよ」
星祭りでの好感度はそんなに悪くはなかったと思った。でもまあ、そんなに感動の再会ではなかった気がする。
さっくり説明するとジェシカが唸った。
「星祭りで声をかけたのが駄目だったのかも」
「かけなくてどうするのよ」
「そりゃあ、話しかけられ待ちです」
「どう違うの」
「リリーナ様は伊弉諾尊のお話をご存知ですか?」
ナニ?イザナギノミコトって?
急に言われたが日本の神話だそうだ。言われたらうっすら記憶があった。
日本を作った夫婦の神様の男の方。妻が先に死んで、夫が黄泉の国に助けに行くも果たせない話だったか。
「そこじゃなくて、国土を作ったお話のほうですね」
ジェシカの説明によると、奥さんから掛け声をかけると上手くいかなくて、旦那さんから掛け声をかけると成功したらしい。
「なので、順番が大事なのでは」
意味がわからない。どっちから声をかけてもいいじゃない。
それに、あの時、王子たちは迷子だった。
必死で我慢していたが泣きそうな顔をしていた。精神年齢には大人だったリリーナとしてはほうっておけない。
「そこですよ」
ジェシカがこぶしを握る。
「2人は迷子で心細かった。でも、同世代の女の子が同じく迷子で、守ってあげなきゃって助けることで
自分を奮い立たせることができたのではないでしょうか」
そういうものかなあ。
「だって最初はライバルだけど、後はずっと、ヒロインが困った時に助けてくれるんですよね」
ジェシカが畳みかける。
「守ってあげたいってすごいモチベじゃないですかね」
ああ。またか。
なんとなく嫌な予感がした。予感ではないか。前世の記憶のフラッシュバックだ。
『君は強い人だから1人でも大丈夫だよ。彼女は僕が守ってあげないと』
これか。これの再来か。
非モテの呪いがここにもあるのか。
「どうします?今から守ってもらいますか?」
できるかなあ、それ。
「ためらわれるお気持ちもわかりますけど」
「そう?」
わかってくれる?
「現実のリリーナ様にはアルフレッド様がいらっしゃるから」
おおう。そう来るか。
直球だ。
そうなんだよねえ。
結婚するはずのフィリップにガツンと行けないのは、フィリップの人間性もさることながら、
他にちょっと気になる男性がいるからに他ならない。
アルは見た目も好みだし、頭もよくてよく気が付いて、何より私のことを助けてくれる。
助けてくれる男がいい、だなんて、とても打算的だけれども。
でもさあ、他の人はものすごく押して押してお願いしないと助けてくれないのよ。
っていうか、トータルで私が助けてる方が多くない?
ジェシカは無条件で助けてくれるし、ジェシカのお願いを断り切れないハーヴィルは助けてくれるけどさあ。
アルは普段はあまり干渉しないようだけど、困ったときは気付いて相談に乗ってくれる。
話していると、自分の気持ちが整理されて、進む方向がわかるのだ。
まあ、私がとっちらかりすぎという話もあるけど。
「素敵なかたですよねえ」
ジェシカがふふふと笑う。
「立ち居振る舞いも騎士らしいのにどこか優美で」
そうなのだ。
私は優美な王子様っぽい男が好きなのだ。
ゲームのフィリップとかクリス様とか。
実際に会うとフィリップはなんだか嫌な奴だし、クリス様は本当に優美で麗しいが、ちょっと優柔不断な一面があって頼りない。
その点、アルは満点だ。
本物の王子様よりよほど王子様っぽい。
素敵だ。
問題があるとすれば、向こうが私のことを好きなのかが疑問だということくらい。
扱い的に、妹みたいに思われているのではないかと。
それに、アルは意外と私の言う『邪竜が来る予言』を信じている。
世界を救うのが最優先ではないだろうか。
いや、いや、私もそうなんですけど。イケメンにモテモテも大事だけど世界を救うのが先だよね。




