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43 3年生春 魔法使い出現5

「それで、メアリーの故郷に行くんだ?」

馬車の中でアルが聞いてきた。

私とアルとジェシカでお出かけ中。

アルは今から向かう湖水地方の地図を調べてくれている。

グローブナーの日記から、メアリーの出身地が判ったのだ。

「行ってどうするの?メアリーは身寄りがなくて、単身、王都に出てきたんだよね」

そしてそのまま死んだ。

メアリーにつながるものが残っているとは思わない、が。

なにか手掛かりがないかとグローブナーの日記を読んでいる時に、ふと気分転換で湖水地方の旅行用のパンフレットを見たのだ。

そして、既視感を感じたのだ。

実を言えば、私は自分について、ものすごく記憶力がいいと感じたことはない。

もちろん、勉強は得意だし、魔法理論の丸暗記もできる。

しかし、それは、女神のチート補正が効いているような気がしてならないのだ。

他のことに関しては普通に人並みだ。

友達のアクセサリーや学食のメニューなど、すぐ忘れてしまう。

ということは。

覚えているということ自体が、何らかのヒントではあるまいか。

それで、ジェシカに声をかけたら、アルまでついてきたのだ。

「多分ですけど。2年生の校外学習に行った場所ではないかと思います」

ジェシカは1年生なので、まだ校外学習には行っていない。

ゲームでは、ということだ。

「2年の初夏くらいですかね。湖面がキラキラと輝いて、たいそう美しいところだったと思います」

記憶がないな。

「私、校外学習に行ったっけ?」

「リリーナ様が休んだかどうかは知りませんが。盛り上がるところですよ」

まあ、学生がみんなで湖畔に行くとなったら、それは楽しかろう。

「水辺の魔物とか出たはずです」

「それって楽しいの?」

「好感度を稼ぐポイントではありました」

なるほど。

「去年は校外学習は中止になったんだよ」

アルが口を挟んだ。

「そうなの?」

どおりで記憶がないはずだ。

「君のクラスの男子生徒が大怪我して学内が揉めていただろう。普通はあの時期に計画と準備をするんだよね。

でも、問題が拗れてもいけないという学校側の判断で中止になった」

「エドワードが謝っていい感じに終わったじゃない」

みんなの前で謝罪したことで、わかりやすく解決した形になったと思う。

「フィリップ殿下側が負けたのにいい感じなわけがないだろう」

生徒には知らされなかったが、先生たちの間ではかなり揉めていたらしい。

騎士団長の意見もあって、表面上は抑え込んだが、あまり穏便にはすまなかったということだ。

そして、しばらくはとてもギスギスしていた。

それで、皆が平等に協力しながら学ぶという建前の校外学習はなくなったのだ。

「君が悪いわけではないけど、無関係でもないよね」

私のせいか。みんな、すまない。

って。そんなこと微塵も考えてないよ。

だって、あれは絶対テリーが悪いよね。

私がもめ事を起こしたわけではないことは強く主張したい。

ジェシカが何事か考え込んでいる。

「そういうことであれば、本当に何か発見があるかもしれません」

「何の話?」

「ゲームは女神のくれたヒントなんですよね?

 それで湖畔に校外学習に行ったということは、何か意味があるかもしれません」

「そう、そうなの」

それが私の言いたかったことなの。

決して、ちまちま魔法陣の解析をするのが性に合わないとかそういうことじゃないの。

「私はこの世界が大好きなので、聖地巡礼のつもりでいましたが、手掛かりを探さなければなりませんね」

ジェシカが力強く頷いた。

そうよ、ジェシカ。そのヲタクならではの記憶力を活かしてちょうだい。


というわけで湖畔の村に来た。

麗らかな春の日差しが水面に降り注ぎ、新緑が揺れている。シーズン的にはとてもいい頃合いだ。

「こんな素敵なところにも、魔物がでるのよねえ」

ゲームの中で退治しながらレベルアップしていくのでしょうがないことだが、

魔術師の結界に守られていながら、結構な割合で出ている気がする。

「魔法陣による結界はどうしても均一にはなりにくいらしいよ」

「それは習ったよ」

こう見えても成績トップなのだ。魔法理論くらい覚えている。

基本的に魔力は不安定なものだ。

攻撃魔法で火の玉を降らせるとして、大きい火の玉1個と、それと同じ総量の火の玉5個では後者の方が難しい。

そして、その5個を均等にするのはとても困難なのだ。

私はもちろん、均等に作るような力があれば、更に大きい火の玉1個を作る方に全振りである。

「なので、どうしても護りの薄いところが出てきてしまうんだよね」

アルは何か熱心にメモを取っていた。

「何してるの?」

覗き込むと、国の簡易な地図っぽい絵が描いてあって、ちょこちょこ書き込みがしてある。

「魔物が国境付近に出ることについて」

そういう研究をしているらしい。

この国で、魔物が出やすいところを研究して、防備に役立てたいという。

南西部の一部だけが海に面していて、西側から北にかけては山だ。東側が隣国と面しているが、間に大きな森がある。

「王都にはあまり出ないんだ」

「さっきの話じゃないけど、そのへんは護りの術が強いから?」

星祭りに行われる護りの術は、王都の魔術師の塔の真上から、全国隅々まで広がっていく。

端の方になればなるほど、効力が薄くなるのも仕方のない事ではないかと思われている。

「でも、単純に距離じゃないから」

「山や森、主に緑の多いところから出るよね」

国境に近いド田舎のヴェルデガン伯爵領なんて、ものすごく出る。

緑豊かで風光明媚なところなんだけど。

王都でも、王家の森のようなところで出た実績があるらしい。

「植物のある所に出るのかしら」

「王立研究所でもずっと調べているんだよね」

アルは今年卒業したけど学校に残っていて、そういう研究をしているのだそうだ。

「星祭りの魔法陣が解明出来たらいいんだけど」

あー。それは。

「ハーヴィルかキャンベリック先生が頑張ってくれるんじゃないの?」

とりあえず、私は守備範囲外なので。

ぶらぶらしていると、古びた礼拝堂が目に入った。

「あれ、行ってみようかしら」」

「風情はありますが、さすがにベタ過ぎではないですかね」

「いいじゃないですか。聞くだけ聞いたら」

何のあてもないんだから。

私とジェシカのやり取りに、アルが向こうを向いて笑っている。

「なによ」

「いや、君たちは面白いなと思って」

もう笑っているのを隠そうともしない。

「リリーナは、口では自分は事前準備を怠らない慎重派だって主張する割に、いざとなったら行き当たりばったりだよね」

それはしかたないと思ってほしい。

出来ることは準備するけど、出来ないことのほうが多いんだよ。

「私は、それこそがリリーナ様が選ばれた所以だと思うのですが」

お。ジェシカがかばってくれる。

「とりあえず前向きじゃないですか。世界に大きなピンチが訪れた時ってそういう人が必要なのかなって」

「そうかもしれないね」

アルも同意するが、それはちょっぴり反対したい。

私も意外とくよくよしてるのだよ。

でも、まあ、今、くよくよしててもしょうがないので、礼拝堂の横の畑で土いじりをしている老人に声をかける。

「少しおうかがいしたいのですが、このあたりで、なにか魔法陣についての伝承的なものはありませんか」

「魔法陣ねえ」

老人が考え込む。

「メアリーの魔法陣という話があるがなあ」

きっとそれです。

私ったら、本当に、世界を救う乙女なので、引きが強いのです。

老人に紹介されて、農家の家に案内される。

農家と言っても、そのへんの領主館のような建物だ。

下手をしたら、うちより豪華かもしれない。

ヴェルデガン伯爵家は所領に魔物が多く出るので、備えにお金がかかって割と貧乏なのだ。

農家の主はエイデンと名乗った。

「我が家に伝わる魔法陣の件ですか」

まったくもう。

でも、まあ1年以内に邪竜が来るので、のんびりしている暇はなく、さっそく魔法陣を見せてもらう。

そんな貴重なものを初対面の子供に見せてくれるのかと思ったのだけれど

誰にでも見せているらしい。

「封印が解けたことがないんですよ」

魔法陣は羊皮紙に書かれたもので、魔法で封印されていると伝わっている。

そんなに大きくない木箱に入っていて、中身はわからない。

卒業証書などを貰う時の筒くらいのサイズのものが四角になった感じの箱で普通に上下で開きそうな見た目だが

封印により、その木箱自体を開けることが出来ない。

これを残したのはメアリーの幼馴染で、メアリーの遺志により、封印を解ける術師には誰でも渡していいということだった。

にもかかわらず、1000年もの間、誰一人として封印を解くことができず。

また、持ち去られたこともあったが、いつの間にか戻ってきているのだそうだ。

なにそれ、怖い。人形の呪い的なものなの。

でもまあ、魔法の世界なので、魔法陣が戻ってくるくらい、どうってことはないのだろう。

「開けられそうかい?」

「正直、1000年も封印を解けないものでもない感じなんだけどなあ」

そこまで難しそうなものではない気がする。

凝っていると言っても、あくまでも1000年前の技術というか。

今の方が格段に魔術が進んでいるので。

「まあ、訪ねてくる魔術師もおらんかったよ」

そこまで難易度は高くないが、魔術を使えない人間に開けられるほどではない。

要は誰もそこまで本気で開けようとしなかったということだろう。

「御伽噺みたいなもんだな」

「それでよく1000年も保管されてましたね」

「預ける時にメアリーは他にも魔法陣をくれて、ご先祖はそれですごく儲かったらしい」

「へえ。何を貰ったかとかはわかりますか?」

資料を引っ張り出して貰ったら、当時の生活に役立つものがいくつかあって、

キャンベリックが発明したと言われているものとほとんど被っていた。

キャンベリックが発表したのはメアリーの死後なので、時期的にメアリーの研究だと考えていいだろう。

「やっぱりヘンリーはメアリーの研究を盗んでいたんだな」

「そうみたい」

昔は特許を申請したりとかなかったから、同時期に別の地域で同じものが使用されていても問題にならなかったのだろう。

ここは王都から離れているから、知られてなかった可能性もある。

私は木箱をひっ繰り返してみた。

開くかな。

いけそうな気がするが。もろそうでもある。

「うーん。壊したら怖いし、もうちょっと詳しく見たいなあ」

ジェシカならわかってくれるだろうか。プラスチックの留め金を外そうとしたらパキっと割れちゃいそうな感じ。

「持って帰って調べたらええがよ」

エイデンが言う。

木箱ごと持って行っていいということだった。

「それは…いいのですか?」

「いやあ、だって。あんたらに開けられんかったら戻ってくるだけだ」

確かにその通りだ。持ち主にその力がないと判断されたら、またここに戻ってくるのだろう。

と、いうわけでお宝をGETだ。

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