42 3年生春 魔法使い出現5
王立魔術院が魔術師団になったのは、今から400年くらい前のことである。
そのころ、大きな地震があったとかで、王宮を始めとした古い建物が大きく崩壊したらしい。
それで、時の国王が都市計画を作り直して、現在の王都のようになったのだという。
この人はたいそう優れた王で、その時に、国の組織編成も見直して、現在のような形になった。
それまでは魔術師は今ほど組織だった活動はしていなかったのだそうだ。
王立魔術院もチームとしてではなく、優秀な魔術師が集まって、個々に活動していたということだ。
そういう経緯なので、古い資料はあまり残っていない。
キャンベリック先生が持っていた本も、昔のことをまとめた近年の本なのだそうだ。
それでも300年は超えているというからすごい昔だ。
なので、そのころの元の資料はほとんどなかった。
先生がメアリーの呪いを気にしつつも、何もできなかったのもその辺に原因があるらしい。
打つ手がないし、この話がゲームの黄金の魔法陣と関係があるかどうかはわからない。
しょうがないので、棚上げすることにして、ジェシカにそれを報告した。
放課後、植物園で薬草の世話をしているというので、アルと一緒に差し入れを持って行った。
ゲームではハーヴィルルートのヒロインの出没場所だったが、私は全然行っていない。
ハーヴィルの恋人である人物のいる場所なら、ジェシカがいるほうが納まりがいいのであろう。
差し入れはクッキー。
これも別に手作りではなく、エミリアからお裾分けしていただいたやつだ。
よく考えたらヒロインっぽいこと、全然していないな。
だが、イケメンを落とす女の子らしい振る舞いと、世界を救うのを両立させるのは難しくないかな。
しかも、世界を救う方は、聖なる癒しの力とかじゃなく、武力だよ、武力。
3年生になった私は、今でも鍛錬を怠らず、どんどん強くなっている。
ジェシカは一通り聞いた後、ものすごく頑張って記憶を引き出そうとしていた。
「だって、私、筋金入りのホシミチヲタだったんですよ」
「でも、それもう17年以上前の記憶だし」
「攻略本だってすごく読みこんだんです。なにかヒントになるようなことがあったかも」
なかったよ。
だって、ホシミチには女性がほとんど出てこなかったもの。イケメンばっかりだったよ。
でも、もし出番があったら、メアリーはさぞ美しかったに違いない。
モブまでイケメンの世界なので。
「なに笑ってるんですか」
「いや、メアリーは美女だっただろうなって思って」
「お芝居の女優さんは美人でしたけど、本物はどうでしょうか。彼氏に振られてるんですよ」
横恋慕していた男も、研究がすごいとか知性を褒めていたけど美貌は褒めていなかったとジェシカは指摘する。
確かにそうだ。よく読みこんでいるなあ。
私とジェシカがワイワイ話し合っている間、アルは黙って考え込んでいた。
「どうしたの?」
「いや、メアリーの預言について考えていた」
「1000年後に邪竜が出て、世界が滅ぶってやつ?」
アルが頷く。
まあ、何処の世界にもそういう大予言的なものはある。現代日本にもあった。
そして、該当の年に何もなければ、解釈が違っていたのだ、実は○○年だ、みたいな後付けが出てくる。
ただ、今回に限り、私は予言側だ。
何故なら、私自身もその邪竜を退治するという役割を持たされているので。
「メアリーは未来予知が出来たのかな」
「さあ」
それは知らない。
したんだから、出来たんじゃないの。
「今の魔術だと、未来予知はできないんだよね。それが1000年前にできていたらすごくないかい?」
「すごいね」
「完成していたら、どこかにその資料があってしかるべきかと」
メアリーは死んだが、研究は恋人に奪われたという。そうしたら、その恋人名義で世に出回っているのではないか。
それがないのは何故なのか。
「じゃあさ、予知だけ魔法じゃなく超能力だったとか」
「そんな都合のいいことがあるわけないだろう」
それはわからないよ。
私は自分が女神様によって転生した存在なので、どんな超常現象も受け入れちゃうのだ。
ジェシカもきっと同じだろう。
しかし、ジェシカは首を振った。
「本当に未来がわかったら、付き合ってる男が二股かけてるくらいわかりそうかなって」
自分が死んだ事故も回避できたのではないかと言う。
それはそうだが。
「僕はずっと考えていたんだけど。メアリーが正しいということはないのだろうか」
正しいって何がだろう。
「魔法陣は間違いだ、と言ったんだろう」
そうらしいけど。
「今、星祭りで使っている魔法陣にミスがあって、メアリーだけがそれに気が付いたという話だよ」
私とジェシカは顔を見合わせた。
私たちはゲームの中で、星祭りを控えた冬晴れの日に、空が避けて竜が出てくる映像を見ていた。
そして、主人公が黄金の魔法陣を使って竜を封じるのも知っていた。
何故、気付かなかったのだろう。
今、使っている魔法陣では封じられないからこそ、黄金の魔法陣が必要なのだと。
これは、とてもしっかり考えないといけない問題のようだ。
「黄金の魔法陣って、どこで出てきたんだっただろう」
なにか特別なことをした覚えがないのだ。
ゲームで戦ってたら自動的に出てきたくらいの出方だったと思う。
しかし、現実では、準備していないものが出てくることはない。
ましてや魔法陣なんて、誰かが実物を書かないと出てこないのだ。
「それっぽい伏線あったっけ?」
ジェシカはぶんぶんと首を振った。いつもの令嬢っぽいジェシカはもっと上品なのに、こういう時は勢いが強い。
「ハーヴィルやキャンベリック先生は持ってたんですよね」
「どこで入手したのかしら」
「魔術師団の建物のどこかだと思うのですが」
ジェシカが言うには、勇者の剣は騎士団の塔の一番上に置かれているらしい。
入団式とか、式典の時には出してこられるほど有名なものなのだそうだ。
聖者の盾は王家の地下にあるらしい。
こちらは秘密にされているらしく、あるという話すら聞いたことが無い。
「それも、調べておいた方がいいかもしれないですね」
「でも、フィリップは知ってるかしら」
「そうですね。原作とかなり違うのですか?」
「うーん。どうかなあ」
ズレが判るほど親しくないのだ。
エドワードみたいに、違っていると思っていても、実はそうでもなかったみたいなこともあるし。
ハーヴィルは原作と大きくずれていて、設定どおりの才能は持っているものの、ゲームと同じ経験や知識はないらしい。
フィリップもゲームとは違っている。
彼らの共通点は、私やジェシカといった異世界の人間と会っているということだ。
学園に入るまで会ったことのなかったトーマスは、ほぼゲームと同じような性格と能力を有している。
おそらくキャンベリック先生もそうなのではないか。
「狙い目は先生のほうかもしれないなあ」
私が宣言するとジェシカも頷いた。
アルはキャンベリック先生に魔法陣が間違っている可能性を指摘したのだそうだ。
先生はとてもご立腹で、アルは出禁をくらったらしい。
「なんでまあ、そんなストレートに言っちゃうかなあ」
「それくらい重要なことだと考えている」
そうなんだけど。
アルは大きめの紙を開いた。
「これ、今の魔法陣。ハーヴィルに解析させて」
先生が持っていたのと同じ複雑な文様の魔法陣だ。
「どこから持ってきたの。先生は怒ってたんじゃないの」
「この魔法陣は公開されているよ。市井の魔術師も研究しているからね」
なるほど。
「まあ、頑張って解析してみよう」
やっぱり見るのか。でもなあ。私は理論派じゃないのだよ。
魔法だって出力が大きいだけで、そんなに精緻に扱ってないし。
実はリリーナはいろいろなことをまんべんなくできるが、個々の能力は攻略対象たちのほうが突出しているのだ。
と、思って気付いた。
こういうことをさせるためにハーヴィルがいるんじゃん。
陽気なマザコンに変貌したハーヴィルだが、魔法の天才で、研究熱心なのは変わりなかった。
謎の魔法陣を見ると目を輝かせた。
パズルを解くような喜びがあるらしい。
私にはよくわからないし出来そうにもないので、別のことをしようと思う。




